岡田奈々 3rdアルバム「Unformel」インタビュー|穏やかな心でつづった全10曲 (2/2)

AKB48劇場に行った日の夜、ものすごい劣等感に襲われた

──そして、なんと言っても注目すべきは10曲目の「あなただけを求めてる」。こちらは初めて岡田さんが作曲を手がけたバラード曲になります。

まさか自分が作曲することになるとは……私自身が一番びっくりしています(笑)。ちゃんとした作曲のやり方がわからないものだから、スマホのボイスメモに歌を入れて、それをディレクターさんに送ってみたんです。ギターやピアノを弾きながらコード進行を考えるという方法ではなくて。

──マイケル・ジャクソンと同じ作曲法じゃないですか。

えっ、ホントですか!? その話を聞いたら、なんだか自分に自信が持てる(笑)。ちなみに作曲するときは歌詞も同時に浮かんでくるんです。ただ、曲ってアレンジによって印象がまったく変わってきますよね。この「あなただけを求めてる」は、自分の中ではここまで希望にあふれた温かい感じじゃなかったんですよ。むしろコンプレックスにさいなまれた人間の末路みたいなイメージでした。だけど編曲を担当してくださった鶴﨑輝一さんのおかげで希望を見出せるようなバラードに様変わりしたので、すごく感謝しています。

──そもそもなぜ作曲することに?

ある日AKB48劇場に行ったんですけど、ステージを観たその日の夜、ものすごい劣等感に襲われて……。自分もアイドルをやっていましたけど、やっぱりアイドルにしか出せないキラキラ感ってあるじゃないですか。今の私は本当に無価値な存在なんじゃないかと思えてきて。その劇場公演を観て落ち込んだ夜、突然、頭の中で音が降りてきたんです。それが「あなただけを求めてる」ですね。

──歌詞の中には、もがいている「僕」に対してキラキラ輝く「君」がいる。この「君」は現役AKB48メンバーということでしょうか?

そういうことですね。登場人物は最初「僕」と「君」で、サビから「あなた」が出てくる。この3人の関係が自分の中では重要なポイントなんです。細かい部分は実際に曲を聴いていただければと思うのですが、「君」に対してうらやましがっているだけじゃなくて、最終的には自分の歌を聴きたいと言ってくれる「あなた」……つまりファンの人がいるから自分は幸せなんだという結論になるんです。

岡田奈々

──なるほど。ファンに対する感謝の気持ちも含まれていると。

ええ。こういったお仕事をしている以上、「売れたい」「スターになりたい」という気持ちも大事だと思うんですけど、その前に大切な存在が目の前に少しでもいるのなら、まずはそのことに感謝しなくちゃいけないなって。

──岡田さんのように人前に立つ仕事をしていなくても、「他人は他人。自分は自分」と割り切れるかどうかは普遍的なテーマかもしれません。

他人と比べたところで、自分がその人になれるわけじゃないですから。そのことに気付けたことは私の中ですごく大きかった。だから、この「あなただけを求めてる」には今の岡田奈々の感情がすべて詰まっていると言っていい。もうこれ以上、伝えたいことはないくらいです。

結局は全部が感情全開みたいになる

──作詞は具体的にどのように進めているんですか?

基本は曲が先なんですよ。1stと2ndのときは普段からつけている自分の日記のようなメモを使いながら書いていたんですけど、今回はゼロから作業しました。デモ音源を聴いて、イメージを膨らませて、まずは箇条書きで何を伝えるか、どんな言葉を入れたいかをバーッと書いていく。そこからパズル方式で譜割りに当てはめていく感じですね。歌いながらうまくメロディに乗るか試しつつ作っていきます。

──作詞の際、意識することはありますか?

今回は暗くなりすぎないように注意しました。あとは私が書いている意味を持たせたいから、“岡田奈々らしさ”を要所要所で入れることですかね。

──岡田さんの歌詞って借りてきたような表現がないですよね。なんとなく歌詞として収まりがいいフレーズに逃げるのではなく、全部がむき出しの私小説というか。

実はそこ、スタッフさんによく注意されるんですよ。「感情全開で書くと、情報量も多くなるし、結局は伝えたいポイントがわからなくなる」って。「サビだけ感情をむき出しにして、ほかはもっとマイルドにしたほうがいいんじゃないか」とかアドバイスしていただくんですけど、どうしてもそれができない(笑)。何なんでしょうね。結局は全部が感情全開みたいになっちゃう。それでも今回は抑えたほうではあるんですけど。

──そこが作詞家・岡田奈々の特徴とも言えますよね。あと歌詞について気になったのは、一人称が「僕」であることが多い点です。

そこはなんと言っても秋元康先生の曲を10年間歌ってきたことが大きいです。歌詞を書くときに、どうしてもその影響が出ちゃう。自分としても「私」よりも「僕」のほうが歌いやすいですし。あと「私」だと女性らしさがあふれてくるから、そこでイメージが限定されちゃう気がするんですよ。

──世の中の大半のラブソングは女性目線で男性を思うか、その逆パターンになっていますよね。

でも実際の世の中はもっといろんな恋愛観があるし、性別を限定しないほうが多くの方に共感してもらえると思うんです。

岡田奈々
岡田奈々

アーティスト・岡田奈々を形作った音楽

──「Unformel」ではシンガーとしての成長も随所に感じられます。バラエティに富んだ楽曲を変幻自在な表現力で歌いきるところが見事だなと。それで気になったのが、岡田さんの音楽的バックボーンはどんなところにあるのかということなんですけど。

最初はアニソンでした。これは兄の影響が大きかったです。「ドラゴンボール」から始まって、「シャーマンキング」とかの(週刊少年)ジャンプ系が多かったかな。「明日のナージャ」とか「プリキュア」シリーズみたいな女の子が好きなアニメも観ていましたけど、基本は「友情・努力・勝利」の世界観にどっぷりで(笑)。それで中学に入ると、先ほども言ったようにボーカロイドにすごくハマったんです。一時期は本当にボカロしか聴かないくらい夢中でした。

──ボカロって音楽ジャンルとして非常に独特ですよね。

メロディやサウンドも特殊だとは思うんですけど、自分の中で一番響いたのは歌詞です。その頃はどれだけ病んだ歌詞が入っているかが私としては重要で。中学に入る前の小学生高学年くらいからネガティブな考え方は始まっていて、「私って本当に生きていていいのかな?」「自分みたいな人間にどんな価値があるの?」みたいなことに悩みながら生きている子供だったんです。

──人生に苦悩する小学生ですか。感受性が豊かなんでしょうね。

1stアルバムを作るにあたって自分で歌詞を書き始めたときも、とことん暗くしようと考えていました。ボカロは間違いなく自分の原点ですね。

──ただ一方でAKB48のオーディションを受けたくらいだから、キラキラしたアイドルの世界にも惹かれていたのでは?

実はそれも兄の影響なんです。私には兄が2人いるんですけど、1人はアニメ好きで、1人はアイドル好きなんですね。その影響で私もボーカロイドとAKB48の2本立てでハマっている感じでした。

──AKB48加入後は?

AKB48に入ってからは自分の活動が忙しくなって、誰か特定のアーティストを熱心に追うようなことは少なくなったんですよ。それでもやっぱりやなぎなぎさんや藤田麻衣子さんとかアニメ、ゲームの曲を歌われているシンガーの方はすごく好きでした。自分には出せないきれいな高い音域を歌う姿に憧れを持っていたんです。鈴木このみさんが「全日本アニソングランプリ」で優勝したときはすごく興奮したし、それで自分もAKB48のイベントでアニソンを歌うようになりました。

──アーティスト・岡田奈々を語るうえで、アニソンの影響は無視できないということですね。

アニソン以外からの影響と言うと、当時、AKB48の中でバンド系の音楽が流行っていたんですよ。みんなback numberさんの切ない恋愛ソングが大好きで、カラオケに行ったら絶対に誰かが歌っていました。

──それは意外です。

back numberさんは歌詞がめちゃくちゃいいじゃないですか。自分も歌詞が刺さるシンガーになりたいという思いが強いですし、back numberさんの「花束」を結婚式で流したいという意見が多いように、赤裸々な思いがつづられている曲が響く人って確実にいるんですよ。

──メッセージ性が強い歌詞ということですね。

はい。ほかにもAKB48時代はメンバーが好きだと言っていた楽曲をよく聴いていました。ヨルシカさん、YOASOBIさん、ずっと真夜中でいいのに。さんといった“夜行性”と呼ばれるアーティストが流行っていて。曲のキーが高かったり、リズムが速かったりするのが新しいなと思いました。私、意外に周りからの影響を受けやすいんです(笑)。

──今はお兄さんもメンバーも周りにいないから、インプットの面で大変じゃないですか?

本当に困っています(笑)。何を聴けばいいのかもわからなくて……。ファンの方も、オススメの音楽があったら教えていただきたいです。

──最後に、今後新たに挑戦したいことがあれば教えてください。

ダンスですね。もともと大好きな歌にしっかり取り組みたいということでソロ活動を始めたのに、歌だけに専念しているうちに、だんだんと歌が「好き」から「お仕事」みたいな感覚になってきたんですよ。それに対してどうしたものかと感じていたとき、周りの方から「だったら、苦手なことにあえて挑戦したほうがいいよ。より歌への愛が深まるから」とアドバイスされまして。それも一理あるなと思ったし、だったら自分にとって苦手なダンスとお芝居をがんばってみようかと考えたんです。

──ファンも岡田さんが歌いながら踊る姿を求めていると思います。

やっぱりそういう声は多いです。AKB48時代に好きになってくれた方がほとんどなので。「『根も葉もRumor』のときみたいに踊っているなぁちゃんが見たい」とよく言われます。

──AKB48時代は演技もやっていましたよね。

はい。ドラマやミュージカルに出させていただいていました。ソロになってからはなかなかできていなかったんですけど、ダンスやお芝居に限らず、これからはいろんなことにチャレンジしていきたいです!

岡田奈々

プロフィール

岡田奈々(オカダナナ)

1997年大阪府生まれ、神奈川県出身。2012年に行われたAKB48第14期生オーディションに合格。2017年から2022年までは姉妹グループのSTU48のメンバーとしても活動した。2021年9月発売のAKB48の58thシングル「根も葉もRumor」で表題曲のセンターを務め、2022年1月には「第4回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦」で優勝。2021年7月にエイベックス・アスナロ・カンパニーに移籍し、歌を中心とした朗読劇、ミュージカル、ソロコンサートなどの活動を本格的に開始した。2023年4月にAKB48を卒業し、同年11月に1stアルバム「Asymmetry」を発表。2024年11月に2ndアルバム「Contrust」、2025年11月に3rdアルバム「Unformel」をリリースした。