大橋彩香|大橋彩香はなぜ愛されるのか?水野良樹(いきものがかり)、DECO*27、e-ZUKA(GRANRODEO)との対談3本で徹底解明

大橋彩香×e-ZUKA(GRANRODEO)

お母さんもGRANRODEOのファンです

──大橋さんにとってe-ZUKAさんはランティスのレーベルメイトという関係でもありますが、e-ZUKAさんに対してどのような印象を持たれていましたか?

e-ZUKA 僕は席を外しましょうか?

大橋 いやいや、いてください(笑)。私は声優になる前からGRANRODEOさんの楽曲をたくさん聴いていたので、アーティストデビューしてからフェスでご一緒できたりしたこともすごくうれしくて。そのフェスでもトリを務めていらっしゃることが多いので、「カッコいいよね」ってお母さんとよく話してます。

左から大橋彩香、e-ZUKA(GRANRODEO)。

e-ZUKA 打ち合わせでも「お母さんもGRANRODEOのファンです」って言ってましたよね。やっぱり15年も活動してるとそうなってきますよ。大橋さんは、15年前は何歳?

大橋 11歳ですね。まだ鼻垂らしてた頃です。

e-ZUKA もうね、我々としてはそういう若い世代にGRANRODEOのことを広めてもらうしか、生きる道がないんですよ。

大橋 いやいや! 私としても、ずっとe-ZUKAさんに曲をお願いしたいと思っていたんですけど、なかなか踏み切れなくて。

e-ZUKA 気軽に言ってくれりゃいいのに(笑)。

大橋 「まだ早いんじゃないか」「e-ZUKAさんの曲を説得力を持って歌えないんじゃないか」といろいろ考えてしまっていたんですけど、今回のアルバム「WINGS」には「ここからさらに羽ばたいていく」というテーマがあったので、意を決して。もう、OKをいただけるまでドキドキでした。

e-ZUKA 基本的に、僕は断ることはそんなにありません。ただね、曲を作るのはやぶさかではないし、いい曲を作れる自信もあるんだけど、最近はなかなかできないんですよ。できないというか、やりたくない。

大橋 ええー!

e-ZUKA つらいところに入っていきたくないみたいな。打ち合わせの段階ではいい曲ができそうな気しかしないんですけど、いざ手を付けてみるとなかなか出口が見えなかったり。だから、2015年に森口博子さんとテレビアニメ「ワンパンマン」の特別エンディングテーマ「悲しみたちを抱きしめて」でご一緒させていただきましたけど、最近は人に頼まれることがあんまりなくて。なのでうれしかったですね。特に大橋さんみたいな若い人に頼まれると。

大橋彩香の二面性を表す「MASK」

e-ZUKA 大橋さんと打ち合わせをしたのって、何月でしたっけ?

大橋 3月末ぐらいですね。

左からe-ZUKA(GRANRODEO)、大橋彩香。

e-ZUKA そうか、緊急事態宣言が出る前で、でもみんなマスクはしてたんだよね。最初は「Can Do」とか「Punky Funky Love」みたいな明るくて元気な曲がいいという話だったんだけど、大橋さんに「どういう曲が好きなの?」と聞いたら「ROSE HIP-BULLET」とか「DARK SHAME」という答えが返ってきたから、元気でありつつ、やさぐれ感があるといいのかなって。歌詞もコロナ禍における恋愛とか、恋愛じゃなくても生き方みたいなのを念頭に置いて、「マスク」というキーワードもそのとき出てきたんだよね。僕はそのとき、自分の希望も込みで、CDが出る12月にはいくらなんでも収まってると思ったんだけど……いずれにせよ、その打ち合わせの時点で「もう、できたな」と。

大橋 (拍手しながら)わあー。

e-ZUKA で、さっきも言ったように、そこからなかなかできなかったんだけど(笑)。ほら、あのあと緊急事態宣言が出たから、この話もいったんペンディングになると勝手に思い込んでいたんですよ。そしたら大橋さんサイドから「進捗いかがでしょうか?」って。

──世の中は緊急事態でも、締め切りは普通にやってくるんですよね。

e-ZUKA そう、「すみません!」と思って(笑)。

大橋 今e-ZUKAさんがおっしゃった「マスク」というキーワードは、今の私にしっくりくるというか。やっぱりこういうお仕事をしているので、私には皆さんの目に触れている自分と、普段家でぐうたらしている自分という2つの側面があって。どっちも私だから、アーティスト活動をする中で徐々に裏の顔みたいなものも見せるようになってきているんですけど、その二面性を「マスク」と言うワードで表すことができるんじゃないかって。

楽曲提供ならセルフオマージュができる

──先ほどe-ZUKAさんは「なかなかできなかった」とおっしゃいましたが、この「MASK」の作曲はどのように?

e-ZUKA なかなかできなかったとはいえ、実は人様に提供する曲のほうが楽に作れる部分もありまして。つまりGRANRODEOの曲はもう100曲以上作っちゃってるんで、それに似た曲を作るわけにはいかないんです。だからけっこう悩むことが多いんですけど、楽曲提供の場合はセルフオマージュができるというか。しかも大橋さんはGRANRODEOが好きだとおっしゃってくれたから、例えばBメロのリフを「ROSE HIP-BULLET」っぽい感じにしたり、ギターソロで「Can Do」のフレーズを入れてみたりとか。

大橋 そう! そうなんですよ!

e-ZUKA そういうところに印を残したいというか、まあ意図せず勝手に出ちゃうこともあるんですけど。だから誰が作ったかすぐわかる(笑)。

左からe-ZUKA(GRANRODEO)、大橋彩香。

大橋 本当に、ギターがめちゃくちゃカッコよくて。もう、イントロから痺れるというか、デモの時点でものすごいインパクトがありました。

e-ZUKA 繰り返しになるけど、やっぱりGRANRODEOを好きと言ってくれるのであれば、ああいうハードロック然としたサウンドをガーンと打ち出したほうがいいかなと。あと、さっきはちょっと説明を端折っちゃったんだけど、実は「『Can Do』みたいな明るく前向きな感じで」と打ち合わせがまとまりかけたときに、大橋さんから「ちょっと陰があるような、ダークな感じも出したい」という希望をいただいたんですよ。

大橋 ごめんなさい! めっちゃ迷惑ですよね。

e-ZUKA いや、あのタイミングで言うということは、どうしても主張しておきたかったんだろうなと。だから今までの大橋さんの曲にはなかったような要素も盛り込んだというか、サビもただ明るいだけじゃなくて、ちょっと憂いがある感じにしました。

大橋 ありがとうございます。e-ZUKAさんもおっしゃったように、陰と陽が同居しているような、とても素敵な曲を作ってくださって。「ちゃんと歌いこなせるかな?」というプレッシャーも感じつつ、気合を入れてレコーディングに臨みました。

お父さん、私がんばるよ

──そのレコーディングはいかがでした?

大橋 だいたい本番の前にキーチェックがあるんですけど、そこでけっこう悩んだというか。いただいた楽曲のキーが普段よりもだいぶ低かったので、最初はキーを上げて、自分の得意な音域で歌おうかなとも思ったんです。でも「いや、低いキーにチャレンジするのもありだな」と。

──それ、めちゃくちゃいい判断だったと思います。

左からe-ZUKA(GRANRODEO)、大橋彩香。

大橋 本当ですか? 普段の大橋彩香は、めちゃくちゃ高いキーをがんばって歌っている曲が多いんですよ。でも今回はちょっとダウナーな感じで、気だるさみたいなニュアンスで歌ったので、自分としては新しい表現ができたかなと思います。あと、私は昔からお父さんに「彩香は低音が安定しない」とよく言われていたので、お父さんの顔が少しチラついたというか、「お父さん、私がんばるよ」みたいな気持ちで(笑)。

e-ZUKA 僕は曲を作るとき、メロディを打ち込んだりしないで自分で歌って作るので、だいたい自分のキーになっちゃうんですよ。GRANRODEOでも自分で作った状態から半音3つぐらい上げるんですけど、最近、僕もちょっと高い声が出るようになって2つぐらいで済むようになって。

大橋 最近高い声が出るようになったって、すごい(笑)。

e-ZUKA 大橋さんの曲も、僕が歌ったのをそのまま渡したので、たぶん半音3つ上げぐらいかなと思ったんですよ。でも、送られてきたキーチェックの音源を聴いたら1つ上げぐらいで、これだったら僕もがんばれば歌える(笑)。あとね、そのキーチェックの歌がすごくよくて。僕は大橋さんの曲を全部聴いたわけじゃないんですけど「これはきっと今までと違うものができる」と思ったし、楽器のレコーディングにも俄然やる気が出てきたんです。

大橋 うわー、うれしい!

e-ZUKA その楽器のレコーディングもキーチェックの素材を聴きながらやったんですけど、そしたらミュージシャンがみんな「めっちゃいい歌だね!」と喜んじゃって。特にドラムのSHiNくんなんか「大橋彩香」という名前を聞いただけで張り切っちゃって、「いつもより余計にペダル踏んじゃいました」みたいな(笑)。

大橋 ドラムもめっちゃドコドコドコドコしてて「うおー!」ってなりました。

どんな私でも好きになってほしい

──e-ZUKAさんは、大橋さんのレコーディングには立ち会われてはいない?

e-ZUKA 僕は基本的に、歌録りには行かないんです。例えば「サウンドプロデューサー」みたいな立場だったら歌のディレクションまでしたかもしれないけど、やっぱり歌録りは、歌う本人が一番やりやすい環境で、つまり普段から一緒にやっているディレクターに見てもらったほうがいいと思っていて。ただね、GRANRODEOの場合は歌録りに立ち会わないと、あいつ(KISHOW)がメロディをうろ覚えなので。

大橋 あはははは(笑)。

e-ZUKA 「そこメロディ違うよ」って言わないといけない。話が逸れたけど、今回、大橋さんの本チャンの歌を、僕はトラックダウンのときに初めて聴かせてもらったんです。もちろんそれも素晴らしくよかったんですけど、僕はキーチェックのテイクが忘れられなくて。プロデューサーさんに「これ、キーチェックのときの歌に差し替えちゃダメですか?」と言っちゃったぐらい。これは僕の勘ですけど、大橋さんはキーチェックで高いキーも低いキーもいろいろ試した結果、「まだ歌うの?」みたいな気分になってませんでした?

大橋 確かにいろんなキーを試しました。「まだ歌うの?」とまでは思っていなかったですけど(笑)。

e-ZUKA そのやさぐれた感じが、そのまま歌に乗ってるんですよ。あるいは、歌詞で歌われている感情が、歌で完璧に表現されている。それを、大橋さんのファンの人たちにも聴いてほしいと思っちゃったんですよね。今風の言葉だと「シェアしたい」っていうの?(笑) とにかく自分ばっかり聴いてて申し訳ないなって。だって、僕はアレンジしながら毎日聴いてたし、オケ録りが終わってからも車の中でずっと聴いてたから。

大橋 ええー!

e-ZUKA 本チャンではないがゆえの荒々しさというか、不完全なよさってあるじゃないですか。いや、大橋さんには申し訳ないと思っているんですよ。あのキーチェックからブラッシュアップさせて本チャンに臨んだはずので。

大橋 いやいやいや。でも、確かにどの曲でもキーチェックが一番リラックスして歌えるかもしれません。本番になると構えちゃって、力の抜き加減みたいなものもちょっと変わってきちゃうので。あと「MASK」に関しては、e-ZUKAさんの曲だから何パターンも入念にキーチェックしたという事情が実はあって。

e-ZUKA だからやっぱりやさぐれていたんでしょ?

大橋 いやいやいや! でも、無意識にちょっと滲み出ちゃってたのかな(笑)。

左から大橋彩香、e-ZUKA(GRANRODEO)。

e-ZUKA まあ「だったらe-ZUKAも歌録りに立ち会えよ」って話なんですけど、やっぱりキーチェックの歌も聴いてほしくて。なのでプロデューサーさんに無理を言って、キーチェックと本チャンの折衷案というか……。

大橋 そうなんです。実は「MASK」にはキーチェックの歌声も乗っているんですけど、そんなことをしたのは初めてなんですよ。だから本当に、キーチェックのときにフルサイズで録っておいてよかったなと。

e-ZUKA たぶん、大橋さんがキーチェックで今のキーを選択しなかったら、この雰囲気にはならなかった。なので入念にやってくださったというのにも感謝ですよ。しかもちゃんといい音で録ってくださって。Kanata Okajimaさんが作詞してくださった歌詞に「嫌いにならないでね」とあるように、こういうやさぐれた曲を歌っている大橋さんも好きになってほしいですね。

大橋 曲がいいから大丈夫です! そう、私は「見た事ナイ私になったって 嫌いにならないでね」という歌詞がめちゃくちゃ好きで。見た目とかが変わってしまったとしても、どんな私でも好きになってほしいです!

e-ZUKA(イイヅカ)
GRANRODEO
GRANRODEOのギタリストe-ZUKAこと飯塚昌明。1967年2月生まれ、新潟県出身。2005年にGRANRODEOが結成され、同年11月にテレビアニメ「IGPX」のオープニング主題歌「Go For It!」でデビューした。以来コンスタントにリリースを重ねる一方で、2010年には東京・日本武道館で結成5周年記念ライブを実施。その後も神奈川・横浜アリーナ、大阪・大阪城ホール、埼玉・さいたまスーパーアリーナなど、アリーナクラスでのワンマンライブを次々成功させ、「Animelo Summer Live」などの大型フェスではヘッドライナーを務める。2015年9月にはデビュー10周年記念ベストアルバム「DECADE OF GR」を発表。また10月には千葉・幕張メッセ 国際展示場1-3ホールにて結成10周年を記念した2DAYSライブイベント「GRANRODEO LIVE 2015 G10 ROCK☆SHOW」を開催した。結成15周年を迎えた2020年8月に初のトリビュートアルバム「GRANRODEO Tribute Album "RODEO FREAK"」を発表。9月にはアニメ「バキ」大擂台賽編のOPテーマを表題曲としたシングル「情熱は覚えている」、11月には15周年を記念したベスト盤「GRANRODEO Singles Collection "RODEO BEAT SHAKE"」をリリースした。2021年2月1日には自身の音楽活動30周年を記念したライブ「飯塚昌明 ANNIVERSARY LIVE "e-XPO 2020"」を行う。
大橋彩香