大原ゆい子|星に名前を付けることと曲を書くことは似ている

憂鬱な雨を素敵なものに感じたい

──続く新録曲が7曲目の「からっぽになりたい」ですね。

これも新たに書き下ろした曲で。シングルの表題曲ではミドルテンポのシンプルな構成の楽曲がなかったんですけど、そういう曲も聴いてもらいたいし、ライブをやるうえでも必要だと思って作りました。

──「夢の途中で」と比較すると、「からっぽになりたい」は非常にさわやかでリラックスした雰囲気ですね。

「さわやか」と言ってもらえてよかった。あの、実はこの曲の歌詞がなかなか書けなくて、書き下ろし曲の中で最後にできあがったんです。だからスタッフさんもやきもきしていたらしく。で、ようやく送られてきたのが「からっぽになりたい」だったので「大原さん、大丈夫?」「作詞で追い詰められすぎちゃったんじゃない?」みたいな(笑)。

──ははは(笑)。僕はめちゃくちゃ共感しましたよ。「少しの間 何もかも忘れて リセットする」とか。

ですよね。特に締め切りに追われるような仕事をされている方なら余計に。そうやって1回(ちゃぶ台をひっくり返すような仕草で)ブワッとやりたくなる。そんな気持ちも込められていますね。

──平日にサボっている感もとてもいいなと。

大原ゆい子
大原ゆい子

実際に私、歌詞が書けなさすぎて、作詞をサボって鎌倉まで海を見に行ったんですよ。あ、いや、サボってないです(笑)。電車に揺られながら歌詞を書いたので。そしたらふと「私、空っぽになりたいな」と思ったので、そのまま言葉にしました。

──9曲目の「雨宿り」はしっとりとしたミディアムナンバーで、やはり「からっぽになりたい」とは対照的ですね。

これも書き下ろしで、メロディ自体はすでにあったのでずっと温めていた格好なんですけど、アルバムで歌いたいなと思って。だから、ようやく曲にできてとても満足しています。編曲はMANYOさんにお願いしたんですけど、アコーディオンやアイリッシュハープを生録りで入れていただいて、すごく情緒のある曲にしてくださいました。

──歌詞の冒頭の「しとしと霧雨が控えめに」というのが、嫌ですよね。降るならちゃんと降ってほしいというか、「今日、傘いるの?」みたいな。

そうそう。一番嫌な雨ですよね。でも、そういうときにこそ聴きたくなる曲にしたかったというか。私にとって雨は憂鬱の象徴でもあるんですけど、そうじゃなくて素敵なものに感じたい。あるいは雨を何かポジティブなものの合図として感じたい。そういう気持ちで歌詞を書きました。

──感傷的に聞こえる曲ではありますが、ボーカルは優しく語りかけるような感じですよね。

そうですね。自分の中では、こういう曲を歌うモードみたいなものがあって、ガッと集中して曲の世界に入り込んじゃうんです。なので、レコーディングのときに自分がどんな歌い方をしていたのか、正直わからないんです(笑)。

──続く「205号室」は、先ほど少しお話に出ましたが、ピアノ伴奏のみの静謐なバラードです。

「205号室」はデビュー前から歌っていた曲で、当時はピアノの弾き語りだったんですけど、このアルバムでは編曲の河内肇さんがすごく素敵なピアノを弾いてくださいました。私は弾き語りで歌っていたときの声色を忘れがちだったんですけど、この曲では昔のままの自分の声を再現するように歌っていますね。だから、もともとの自分の歌い方をしているという意味で、私の歌の原点かなとも思いますね。

──ということは、今回の収録曲の中では最も古い曲ですか?

ああ、そうだと思います。まだ10代のときに作った曲なので。なんか、当時の私は暗かったんだなって(笑)。

──「205号室」は、曲名も最高ですよね。

ありがとうございます。

──大原さんの歌詞って、ご自身の手の届く範囲のことを飾り気のない言葉で歌われているというか、歌詞の世界がミニマルな印象があるんです。

うんうん。

──「205号室」はマンションの1室ですから、20~30平米ぐらいの世界を歌われているわけですよね。

あはは(笑)。さっきもちょっと言ったんですけど、私は松任谷由実さんとか、あと小松未歩さんも大好きで。その理由の1つは、歌詞の中で描かれていることを頭の中で想像できるからなんです。だからこそ共感もしやすいんですよね。なので、私も何か大きなことを歌うというよりは、象徴的なモチーフなり枠組みなりを作って、その中で世界を広げたいという気持ちが強くて。たぶん、昔からそうだったんでしょうね。

──「205号室」も絵面が浮かんできます。これって、恋人がいなくなってしまった部屋ですよね?

あ、実はちょっと違くて、私の中にある本当のテーマは恋愛とは関係ないんです。でも、聴いてくださる方は恋愛的なものとして捉えてもらっていいし、むしろそう捉えるように仕向けて書いたところもあります。

──その「本当のテーマ」は……。

内緒です(笑)。

「うまるちゃん」に自分の思い出も重ねて

──12曲目のフォーキーな「変わらない宝物」はセルフカバーですね。もともとはテレビアニメ「干物妹!うまるちゃんR」のエンディングテーマ「うまるん体操」のカップリングとして、大原さんが提供された曲です。

大原ゆい子

はい。原曲は「うまるちゃん」に出演された声優さんたち(田中あいみ、影山灯、白石晴香、古川由利奈)が歌ってくださったんですけど、「アルバムを出すんだったらセルフカバーもしてみたい」とスタッフさんにお願いしまして。「うまるちゃん」に寄り添って、「4人の友情」をテーマにしっとりした曲を書いたんですけど、そこに自分自身の友達との思い出を重ねてもいます。

──ざっくり言うと、誰かと一緒に過ごした時間そのものが宝物、ということを歌われていると思いますが、その歌詞の内容は続く「月より綺麗だった」と共通するところがありますね。

あ、言われてみればそうですね。自分にとって大切な人のことを歌っているので。ただ、「月より綺麗だった」はライブ用に作っていただいた、上白石萌歌さん主演の短編映画「LIVE THE MOVIE ~月より綺麗だった~」の主題歌として書いた曲なので、そのストーリーに沿って歌詞を書いたんですよ。

──「月より綺麗だった」は、曲の始まりこそアコギの弾き語りですが、途中からバンドサウンドになっていく、パンチのある曲ですね。

ストリングスも入って、サビでバーン!みたいな。メロ自体はそこまでアガるわけではないんですけど、編曲の福富雅之さんがドラマチックに仕上げてくださいました。この曲は、ライブでは披露しているけど未収録だった曲で。そういう曲の場合、レコーディングでは「ライブではどういう歌い方をしてたっけな?」って思い返したりするんですけど、「月より綺麗だった」に関しては素直に歌った気がしますね。「映画と合わさって、こんなふうに聞こえたらいいな」と思いながら。