Nulbarich|みんなと一緒に ポップスという名の“総合チャート”へ

何かを分かち合いたくて僕らは音楽を作っている

──今作は1曲目にアルバム全体のイントロとなる曲があり、曲間には2曲のインタールードも入っていて、アルバム全体としての作品性の高さをすごく感じさせるなと思いました。JQさんの中で、今作1枚を通して描きたかった流れのようなものはあったんですか?

幅広い音楽性の曲を作ってしまったので、インタールードなしではまとめられなかったっていうのが単純な理由なんです(笑)。でもできあがってみると、今回のアルバムはライブの流れに似ているなって思うんです。イントロダクションがあって、一瞬で世界を変えられると思えるようなインパクトのある曲があって、最後はピースに向かっていくっていう。やっぱりライブでも作品でも、最後は「この時間を一緒に過ごせてよかった」って思ってもらいたいんですよね。なので入り口は広くありたいし、そこから蟻地獄のようにどんどん引き込んでいきたいし、最後はみんなで笑いたい。何かを分かち合いたくて僕らは音楽を作っているので、最後には残った人たちと一緒に笑うのがゴールじゃないといけないなって思います。

──今作を締めくくる「Heart Like a Pool」で聴き手と分かち合える感情って、JQさんにとってはどんなものだと思いますか?

この曲は、自分の心をプール付きの家に例えていて。もし自分の家にプールを作るとしたら、自分は一体どのくらいの広さで、どのくらいの深さで、どういうレイアウトにする?っていう。きっと1人で優雅に泳ぐ用のプールを作る人もいれば、みんなを呼んでパーティをする用のプールを作る人もいる。そこにはそれぞれのリスクがあって。1人用のプールを作った人は自分は優雅に泳げるけど、友達は呼べないから誰かと一緒には泳げない。でも狭いぶん掃除は楽ですよね。反対に、みんなを呼べる大きいプールを作ったら、水道代も高いし掃除も大変だけど、みんなと一緒に泳げる。そうやって自分の心をどういうふうに置くかで、人との関わり方も変わるよねっていうことを歌っているんです。

──JQさんご自身は、この曲の問いにどのように応えているんですか?

Nulbarich(撮影:木村篤史)

僕はできるだけたくさんの人と、できるだけ大きなプールを作って、みんなでパーティをしたいなって思います。僕には一緒に掃除してくれる仲間もいるし。もちろん、僕はこうだっていうだけで、それが正解なわけでもないんですよ。1人で優雅に泳ぐプールを作るのでも全然いいと思うんです。あとこの曲は、多くの人に聴いてもらいたいとは思ってなくて。

──なぜですか?

アルバムの最後にたどり着いた人に聴いてもらえればいいなって。だって、初対面でピースを振りかざされてもウザいじゃないですか。「初めまして! ラブ&ピース!」みたいなこと言われたら、僕だったら嫌なので(笑)。

──ははははは(笑)。

わかってくれそうな人にだけ言える本音、と言うか。僕らはそういう曲をアルバムの最後やライブの最後に置いてるんですよ。

ベタだけど、リスナーはかけがえのない存在

──「Heart Like a Pool」で自分の心と他者について歌っているということは、今作は全体を通して人とのつながりが大きなモチーフになっているとも言えますか?

そうですね。僕自身、人と話すのは苦手なんですけど、自分が発信する音楽によって世界が広がったし、それに救われてきた以上“つながる”っていうことをリスペクトし続けたいから。むしろそれがすべてだと思いますね。もちろん無理やりつながる必要はないけど、つながるときはちゃんとつながろうねっていう。

──大きな質問になってしまうんですけど、JQさんにとってリスナーとはどのような存在ですか?

うーん……聴いてくれているって言うよりは、歌わせてもらっている側なので。でもステージの上から見ていると「みんないい顔しているな」って思います。本当に、めちゃくちゃいい顔するんですよ。それは僕らからしか見えないものだから、フロアの後ろで見ているスタッフ、かわいそうだなって思いますもん。背中じゃわからないから。ライブ後に、スタッフに「今日、どうだった?」って聞かれても「あの顔、見てないんだよなあ」って思っちゃう。そこはお客さんと僕らにしか共有できない部分なんですよね。なので、リスナーがどういう存在かと聞かれれば、かけがえのない存在って言うしかないと言うか……超ベタっすね(笑)。

──でも、真実ですもんね。

うん。どちらが欠けても成り立たない。どちらかが欠けたら、そこに音がなくなってしまうから。

──JQさんはNulbarichで活動していくうえで、リスナーからの共感はほしいと思いますか?

JQ(Vo)

共感、か……例えば歌詞を書くときに、あえてみんなに響きそうなフレーズをチョイスしたり、わかりやすい言葉にすることはないですね。とは言え、あえて難しくしているつもりもないし。僕の歌詞は等身大ではあるけど、自己主張ではないんですよ。等身大とワガママって違うじゃないですか。僕の歌詞は「僕はこうだけど、君はどう思う?」とか、「僕だったらこう言うけど?」っていうものの集まりだと思うんです。

──なるほど。

だからハマらない人にはハマらないだろうし。でもアルバムの中の1曲でもいいし、曲の中の1フレーズだけでもいい、どこか1カ所でもハマったら、そこが僕とその人の共通点になるわけじゃないですか。「それが見つかってくれたらいいな」っていうぐらいなんですよね。ちょっとでも共有できたらすごい奇跡だと思う。別に聴いてくれる人は、僕がどういう思いで歌詞を書いたかなんて興味ないと思うので。

──でも、「この曲の歌詞はどういう意味なんですか?」とかファンの人に聞かれませんか? さっき僕も聞きましたけど(笑)。

ラジオとかでも聞かれることもあるんですけど……「うまく言葉で伝えられたら、その曲は書いてないな」って思います(笑)。

──ははは!(笑)

ラジオとかインタビューの限られた時間の中で僕の思いが全部伝わっちゃったら、音楽をやる意味がなくなっちゃうし。「伝えるのが苦手だからこそ音楽やってるのにな」って感じです……まあ、精一杯答えますよ(笑)。

──ありがとうございます(笑)。

まあ結局、僕の思っていることって、音楽にしたり、こうやってインタビューをしてもらって整理してもらわないと、成立しないんだなって思います。だからこそ僕は曲を作るし、インタビューを通して、僕の言葉を書いてくれる人がいる。ただ、インタビューって別の人のフィルターが通るので、どこかで曲がってしまう可能性があると思うんですよね。なので、その大元が曲がると余計グチャグチャになってしまう。だからこそ、言葉にするときはなるべく素直にまっすぐに、自分の思いを伝えることは意識していますね。

Nulbarich「H.O.T」
2018年3月7日発売 / Victor Entertainment
Nulbarich「H.O.T」初回限定盤

初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1331

Amazon.co.jp

Nulbarich「H.O.T」通常盤

通常盤 [CD]
3024円 / VICL-64955

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. H.O.T (Intro)
  2. It's Who We Are
  3. Almost There
  4. Zero Gravity
  5. Handcuffed
  6. In Your Pocket
  7. See You Later (Interlude)
  8. Supernova
  9. ain't on the map yet
  10. Follow Me
  11. Spellbound
  12. Construction (Interlude)
  13. Heart Like a Pool
初回限定盤付属ボーナスCD収録曲
  1. It's Who We Are
  2. Lipstick
  3. Everybody knows
  4. Spread Butter On My Bread
  5. On and On
  6. Ordinary
  7. NEW ERA
  8. Follow Me
Nulbarich(ナルバリッチ)
Nulbarich
シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売。2018年3月には、ビクターエンタテインメント内の洋楽レーベル移籍後第1弾作品としてニューアルバム「H.O.T」をリリースした。3月から4月にかけては、新木場STUDIO COASTでの2DAYS公演を含むワンマンツアーを行う。