Nulbarichが3月7日にニューアルバム「H.O.T」をリリースする。「H.O.T」はビクターエンタテインメント内の洋楽レーベルへの移籍後第1弾作品。音楽ナタリーではJQ(Vo)にインタビューを行い、飛躍の年となった2017年に得たさまざまな感情が表れたというアルバムや、メジャーデビューという地点に立った現在の思いについて語ってもらった。
取材・文 / 天野史彬 ロケ撮影 / マスダレンゾ
酸いも甘いも知った1年間が表れた「H.O.T」
──前回のインタビューで、JQさんは作品とは感情のメモ書きのようなものだとおっしゃっていましたよね(参照:Nulbarich「Long Long Time Ago」インタビュー|5つのキーワードから紐解く“正体不明のバンド”)。だとすると、今回のアルバム「H.O.T」に刻まれている感情とは、どのようなものだと言えますか?
2017年の集大成の気持ち、この先に向かうワクワク感……そういうものがミックスされたアルバムという感じがしています。何もわからず、ただまっすぐ前に向かっていく感情が1枚目の「Guess Who?」(2016年10月発売の1stアルバム)に刻まれていたとしたら、この1年間で、一緒にいてくれる仲間の大切さも知ったし、さらに大きな夢を見ることができるようにもなったし、同じくらい、そんなに甘くないなと現実を見た瞬間もあったし。本当に、酸いも甘いも知った1年間だったので。
──今作「H.O.T」は「Guess Who?」のように、1つの感情を表現しているアルバムではない?
そうですね。アルバムを作り始めたときに最初に思ったのは、1つのコンセプトに向かっていく均一化されたアルバムを作ると言うよりは、いい意味での幅の広さを1つのアルバムの中に落とし込みたいなということで。それは音楽性の面でもそうなんですけど。
──「H.O.T」は曲ごとに全然カラーが違って、音楽的な振り幅もすごく大きいですよね。
やっぱりそれは、去年1年間を通して四方八方からバラバラな感情を得てきたから。自分たちが次のフェーズに行くために必要なものがそろってきたなっていう実感もあります。
“洋楽っぽいもの”を作る日本人より、洋楽の中で目立てる日本人のほうが可能性がある
──今回はメジャーデビュー作ということになりますけど、JQさんにとってメジャーデビューとはどういった意味を持つことなんですか?
こんなことを言ったら怒られちゃうのかもしれないけど……メジャーがどうこうっていうのはそんなに気にしていないです(笑)。今はもう、絶対にメジャーがいいっていう時代でもないと思うし、僕ら自身、ここに向かって走ってきたわけでもない。ただ、息の合った仲間と手を組む、その相手がたまたまメジャーレーベルの人たちだったっていうだけですね。いつかは海を越えていきたいっていうビジョンも僕らの中にはあるんですけど、その野望も彼らは聞き流さなかったし。
──海外進出は、Nulbarichを始めた当初からビジョンとしてあるんですか?
うん、あります。たどり着けるかはわからないけど想像できる範疇の夢だと思うし、目標は大きいほうがいいかなって思うので。海外で活動して、逆輸入されて日本で認知されると言うよりは、日本でちゃんと地に足を付けたうえで、日本をレペゼンする形で海外に行きたい。世界で通用するポップスを作りたい。そのビジョンは、Nulbarichを始めた当初からありますね。
──「ポップス」という言葉が出ましたけど、JQさんにとってポップスとはどんな音楽のことを指しますか?
ポップスって、ジャンルではないと思うんですよ。むしろ「それぞれのジャンルの一番シェアを受けた人たちの集まり=ポップス」っていうイメージなんです。久保田利伸さんをR&Bと呼ぶ人もいれば、ポップスと呼ぶ人もいるだろうし、Dragon Ashさんをロックバンドと呼ぶ人もいれば、ポップスと呼ぶ人もいる。僕が捉えるポップスっていうのは、いろんな場所から出てきた人たちの中で一番すごい人たちがいる場所っていうイメージなんです。言わば、総合チャートですよね。
──なるほど。
なので、もし「ポップスって、どんな音楽ですか?」って聞かれたら、僕は「みんなに愛されている曲」って答えます。でも「みんなにウケそうな曲」は、ポップスではないと思う。現実的に愛されていないとポップスではないし、ポップスに関しては結果がすべてだと思うので。僕が自分たちの音楽をポップスと呼ぶのは、特定のジャンルのチャート上位を狙う、みたいな狭い意味じゃなくて、あくまで総合チャートを目指していますっていう意味ですね。
──Nulbarichが総合チャートに入るとき、何を代表しているんだと思います?
うーん……そう聞かれると難しいんですよね。僕らはR&Bでもヒップホップでもないし、ソウルでもファンクでもないし……そう考えると、いる場所がないから自分たちをポップスって言い張っているのかもしれない(笑)。
──「居場所がない」というのは、ポップスの1つの定義かもしれないですね。特定のジャンルをはみ出してしまうくらい強烈な自我があるからこそ、ポップスになり得ると言うか。「日本をレペゼンする」という話もありましたけど、日本人としてポップスを作っているんだという意識はJQさんの中には強くありますか?
そうですね。ずっと洋楽を聴いて育ってきているので「洋楽っぽいからいい」っていう変なステータスで日本の音楽を聴くことがないんですよ。だって「洋楽っぽい」だけで終わる音楽を聴くなら、洋楽を聴いたほうがいいじゃないですか。特に今はSpotifyのようなサブスクリプションサービスも浸透してきて、どこの国の音楽も自分の携帯で聴ける時代なんだから。
──そうですよね。
そう考えると“洋楽っぽいもの”を作る日本人より、洋楽の中で目立てる日本人のほうが可能性があると思うんです。“世界で流行っているポップスっぽいもの”を僕が作るんじゃなくて、日本人である自分が育ってきた環境やインプットしてきたものを出して、世界に通用するポップスを作らないといけない。それが、僕の目指す場所の1つなのかなっていう気がしています。曲の展開も、入ってくる音色も、歌詞の世界観も、僕が育ってきた文化が絶対に音に表れていると思うし。それは、海外の人が普段聴いている音楽とは全然違うと思うんですよね。
──確かにNulbarichのサウンドって、ソウルとかヒップホップとか、細かく言葉にすれば海外発祥の音楽に由来する部分が多いんですけど、じゃあ今、Nulbarichのようなバンドが世界にいるかと言えば、こんなバンド、そうそう海外にもいないんですよね。その独自性は「H.O.T」ですごく明確になった部分だと思います。
うん。海外と何が違うのかって、自分で言葉にするのは難しいんですけど、違うのは明らかだと思います。そこは意図するというよりは、自分自身をナチュラルに出していけばおのずと違ってくるものだと思う。
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何かを分かち合いたくて僕らは音楽を作っている
- Nulbarich「H.O.T」
- 2018年3月7日発売 / Victor Entertainment
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初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1331 -
通常盤 [CD]
3024円 / VICL-64955
- CD収録曲
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- H.O.T (Intro)
- It's Who We Are
- Almost There
- Zero Gravity
- Handcuffed
- In Your Pocket
- See You Later (Interlude)
- Supernova
- ain't on the map yet
- Follow Me
- Spellbound
- Construction (Interlude)
- Heart Like a Pool
- 初回限定盤付属ボーナスCD収録曲
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- It's Who We Are
- Lipstick
- Everybody knows
- Spread Butter On My Bread
- On and On
- Ordinary
- NEW ERA
- Follow Me
- Nulbarich(ナルバリッチ)
- シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売。2018年3月には、ビクターエンタテインメント内の洋楽レーベル移籍後第1弾作品としてニューアルバム「H.O.T」をリリースした。3月から4月にかけては、新木場STUDIO COASTでの2DAYS公演を含むワンマンツアーを行う。