Nulbarich|みんなと一緒に ポップスという名の“総合チャート”へ

一番大事なのは、今、自分自身がどう思っているか?

──JQさんは歌詞を書くうえで、自分だからこそ出てくる言葉ってあると思いますか?

基本的に自分の歌詞は自分に言い聞かせている部分が多いので、自分の心をゆるめてくれたり、楽にしてくれるフレーズが多いですね。日本語で言うと「そのまま」とか「このまま」とか、そういうフレーズを僕はよく歌うと思うんですよ。「今のままでいいよ」「そのままでいいよ」っていうのは、自分自身や対象の誰かに向けて言いたい言葉だなっていうのはありますね。

──JQさんの歌詞は、肯定の力がすごく強いですよね。

せっかく歌と音楽に乗せて何かを発信するのであれば、ネガティブなものを発信したくないんです。ネガティブな曲も好きなんですけど、それを自分が歌ってフィットするかと言えばそうではなくて。かと言って「がんばろう!」って言うのも、自分っぽくないなと思うし。じゃあ何を言おうってなったら「そのままでいいよ」っていうことなのかなって。特に今回のアルバムでは全体を通して「今、この瞬間がずっと続けばいいのに」と言っているような気がします。1つの目標にたどり着くことがすべてではなくて、たどり着くまでの過程がすべてなんだっていう。

──それが去年から今にかけての、Nulbarichのモードでもあるということですよね?

Nulbarich(撮影:木村篤史)

そうですね。終わりを迎えないためにあえて遠回りをするっていう感覚が、今の僕たちには強いんだろうと思う。今の僕らは可能性を秘めていて、毎日「この先、こう行きたいな。ああ行きたいな」って、いろんな妄想をしながら生きている。どこかにたどり着くことよりもまず、そんな今が一番充実しているなって思うんです。もちろんそれを続けるには、夢を持ち続けないといけないし。

──ただ「今が一番いい」って言い切ることは、簡単なようですごく難しいですよね。特に「あの頃はよかった」という感情は、人を支配してしまいがちだと思います。

でも「今がいい」って言えなかったら、過去の自分に対しても失礼だし、いい未来も生まれないと思う。決して現状に満足しているわけじゃないんですよ。でも、モチベーションとして「今の自分がベストで、今ここにいるんだ」っていうことを受け入れることで、この先自分がどこに目標を立てられるのかが、ポジティブに判断できると思うんです。今を終わらせないために、次の夢を見つけられるわけだから。

──未来を見つめるためにも、大切なのは常に今ということですね。

そう。一番大事なのは、「今、自分自身がどう思っているか?」だと思います。

ファンの人たちと僕らは、お互いにピースでいられる関係でありたい

──Nulbarichのメンバー間のモードは現在どんな感じなのでしょう?

僕たちにとって、メンバー全員が人前に集まって表現する場ってライブしかなくて。なので、そこに込める思いは強くなってきていますね。やっぱりバンドメンバーと一緒にステージに立って見る景色は格別だし、そのぶん、感動も積み重なってきてる。ライブ中、「そこで!?」っていうタイミングで泣くやつもいるし(笑)、いい意味でがむしゃらと言うか、後悔も含めて感情が研ぎ澄まされてきていますね。

──Nulbarichの曲は、すべての曲が「6人編成のバンドでやっています!」という感じではないじゃないですか。曲ごとに自由なアプローチを試みている。だからこそ、それをバンドの音楽として許容できるバンド内の絆って、相当強いのかなって思うんです。

まあ大変な部分もありますけど、それぞれの役目がハッキリしているからこそリスペクトし合える。それこそ、こうやって僕だけが取材を受けて遅れてリハーサル現場に行くと、音作りはちゃんとやってくれているし……うちは、ちょっと会社っぽいかもしれないです。社長には社長のマインドがあって、部長には部長のマインドがあって、それぞれのベストのマインドセットがケミストリーを起こしている感じがします。適材適所、と言うか。

──それがうまく回るのは、すごくいい会社ですよね。

それか、家族に近いかもしれないです。お父さん、お母さん、子供、それぞれの役割があるっていう。お父さんみたいな次男って、嫌じゃないですか(笑)。子供には無邪気に学校に行ってほしいし。だからそれぞれのバランスで成り立っているっていう感じですね。会社より、家族の方が近いかも。

──Nulbarichが家族だとしたら、JQさんは大黒柱なんですか?

いや、全然違うな。意外と末っ子です(笑)。

──なるほど(笑)。今回、タイトルはなぜ「H.O.T」なんですか?

単純に「熱い」っていう意味もあるんですけど、「しっかりつかまっていて」っていう思いを込めた「Hang On Tight」の略でもあって。もっと先に進んでいく自分たちの思いと、「みんなと一緒に行きたいよね」っていう思いを集約して、このタイトルにしました。

──先ほど、JQさんは「ハマらない人にはハマらない」とおっしゃったじゃないですか。どれだけ「みんなと一緒に先に行きたい」と思っても、「必ず離れていく人や追いつけない人もいるんだ」という思いも、心の片隅にはあるものですか?

うーん……ちょっとでも何かを共有できたなら、それでハッピーなことだと思うし、それを誇りに思いたいです。それに、ネガティブに去っていく人たちだけじゃないと思うんですよ。僕らのライブで出会ったカップルが結婚して、2人の生活のために僕らのライブに来ることができなくなったとしても、それはすごくハッピーなことじゃないですか。それで次は子供を連れて3人でライブに来てくれたら、こんな幸せなことはないから。じゃあ僕らにできることは何かと言えば、次、彼らがライブに来てくれるまでやり続けること、今以上を目指して進み続けることなので。ファンの人たちと僕らは、お互いにピースでいられる関係でありたいですよね。

──今日お話して改めて思いましたけど、JQさんって音楽も言葉もすごくまっすぐだし、ポジティブだし、素直ですよね。ただ、そのまっすぐさやポジティブさって「そんなの綺麗事だろ」って、周りから笑われたり、不信感を抱かれる要因にもなりかねないものだと思うんですよ。そこに対する恐れはないですか?

いやあ、それを意識していたら音楽をやっていないですよ。音楽は何をやっても自由じゃないですか。世の中に中指を立ててもいいし、ポジティブなことを歌ってもいいし。ただ、もし誰かに「人生、そんなに甘くねえよ!」って言われたとしたら「わかってるよ」って思います。

──うん。

呑気なだけの人間が、この歌を歌っているわけがないだろって。僕だって、音楽だから裸になれているんだから。まあ表裏一体ですからね。いろんなことを思う人たちもいるとは思うんですけど、音楽は選挙じゃないから。票を集めたくてやっているわけじゃないんだよって思う。こっちはずっと手を広げていますから。

JQ(Vo)
Nulbarich「H.O.T」
2018年3月7日発売 / Victor Entertainment
Nulbarich「H.O.T」初回限定盤

初回限定盤 [CD2枚組]
3780円 / VIZL-1331

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Nulbarich「H.O.T」通常盤

通常盤 [CD]
3024円 / VICL-64955

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CD収録曲
  1. H.O.T (Intro)
  2. It's Who We Are
  3. Almost There
  4. Zero Gravity
  5. Handcuffed
  6. In Your Pocket
  7. See You Later (Interlude)
  8. Supernova
  9. ain't on the map yet
  10. Follow Me
  11. Spellbound
  12. Construction (Interlude)
  13. Heart Like a Pool
初回限定盤付属ボーナスCD収録曲
  1. It's Who We Are
  2. Lipstick
  3. Everybody knows
  4. Spread Butter On My Bread
  5. On and On
  6. Ordinary
  7. NEW ERA
  8. Follow Me
Nulbarich(ナルバリッチ)
Nulbarich
シンガーソングライターのJQを中心に結成されたバンド。ソウル、ファンク、アシッドジャズなどをベースにした音楽性が特徴で、メンバーは固定されず、そのときどきに応じてさまざまな演奏形態に変化する。2016年6月にタワーレコードおよびライブ会場限定の1stシングル「Hometown」、10月には1stフルアルバム「Guess Who?」をリリース。その後は積極的なライブ活動を行いながら、2017年5月に4曲入りCD「Who We Are」を発表し、11月に自身初のワンマンツアーをスタートさせた。12月に新作CD「Long Long Time Ago」を発売。2018年3月には、ビクターエンタテインメント内の洋楽レーベル移籍後第1弾作品としてニューアルバム「H.O.T」をリリースした。3月から4月にかけては、新木場STUDIO COASTでの2DAYS公演を含むワンマンツアーを行う。