西川貴教3rdアルバムインタビュー|「FREEDOM」が与えた変化と新たな航海 (2/2)

僕くらいはがんばれと言わせて

──各楽曲についても詳しく聞かせてください。まず先ほどお話にあった今井了介さんが作詞作曲とアレンジを手がけられたのが「ALL UNITED」です。

今井さんらしい曲ですよね。実はね、今井さんと「一緒にやろうよ」という話をしてから3年ぐらい経っていたんです。今井さんは食を通じての社会貢献に長く取り組んでいるし、僕は僕で地方創生や地域振興をやり続けているので、以前からいろいろ接点はあって。でもあるとき、「ちょっと待てよ」と。お互いミュージシャンのくせに、音楽では一緒に何もやっていないなと気付いた(笑)。今回ようやくその思いが結実した感じですね。

──楽曲のイメージについては西川さんからオーダーをしたところもあったんですか?

以前、一度デモをいただいたことがあったんですけど、それは1960~70年代のファンクやソウルをルーツにしたような、R&B色の強いものだったんです。個人的にはすごく好みだったんですけど、まあ西川貴教のR&Bな側面はあまり求められていないと思ったので(笑)、そことはまったく違った曲を改めてお願いしました。殺伐とした今の世の中には、誰かにがんばれと言うことさえも憚られるような生きづらさがある。だったら僕くらいはがんばれと言わせていただいてもいいんじゃないかと。そんな曲にしたいということを今井さんにお伝えしました。

西川貴教

──眩いほどの希望が見える、すべての人にとってのアンセムになり得る曲だと思います。西川さんの輝度の高いボーカルも新鮮な印象があります。

アルバムの中では一番、歌のダビング数が多かったです。ここまでたっぷりハーモニーを積むのは、ソロとしてあまりやってこなかった作業なので、自分としてもすごく新鮮でしたね。小さなお子さんや年配の方にクワイヤとしてレコーディングに参加してもらえたのもすごくよかった。ぜひ皆さんも一緒に歌ってほしいですね。いいご縁で「東京マラソン2025」のテーマソングに決まったんですけど、この曲はいろんなところで歌っていきたい。僕の地元、滋賀県でも今年は国民スポーツ大会、全国障害者スポーツ大会「わたSHIGA輝く国スポ・障スポ」があるので、そこでも歌えたらいいなと思っています。

──原一博さんが作曲とアレンジを手がけられたのは「LIBERATED」ですね。

お声がけした直後にロックバラードのデモを上げてくださって。それも本当に素晴らしい曲だったんですよ。ただ、今回のアルバムのカラーにはちょっとハマらない気がしたので別の機会に発表させていただくことにして、失礼を承知でおかわりさせていただいたところ、「LIBERATED」を上げてくださったんです。しかも原さんはものすごく柔軟な方で、ちょっとしたアイデアを投げかけると、「全然好きにしちゃってください」とおっしゃってくださって。アレンジに関しても原さんのものをもとに、こちらでやらせていただくことができました。結果、原さんから生まれたメロディの持つ強さが際立つ、今回のアルバムを象徴する1曲になったと思います。

──作詞にTATSUNEさん、アレンジにGAKさんという若い世代の方が参加しているのも面白いところで。世代を超えたコラボレーションが、いいケミストリーを生んでいますよね。

そうですね。近年、うちのツアーのメンバーにもなってくれているGAKはコンポーザーとしても活躍しているので、今回はいろんな部分で貢献してくれています。「LIBERATED」もGAKのアレンジでより押しの強い楽曲に仕上げることができましたし、「Breaking Daylight」という曲も作ってくれたし、あとは「BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-」のアレンジもやってくれました。アルバム全体のシルエットを作る役割を彼が大きく担ってくれた感じがします。

西川貴教

前に進む行為にこそ価値がある

──アルバム曲としては、Fear,and Loathing in Las Vegasと2回目のコラボとなる「Energy Overflow」も相当強いインパクトを放っていますよね。

好き勝手やってくれた感じですよね(笑)。本当にラスベガスらしい曲。ライブでの彼らはへんてこりんな水着を着てギター弾いたりしてますけど(笑)、またサプライズで突撃してやろうかなと思ってます。地元神戸をものすごく愛していて、いろんなイベントをやったり、地元の企業と組んでクラフトビールを作ったりしてるんですよ。変だけどちゃんとしてる優しい子たちだからすごくかわいくて。今回のコラボも本当に面白かったです。

──GAKさんが作曲とアレンジをした「Breaking Daylight」では、ショーンボウさんとともに西川さんが作詞に参加されていますね。これまでもアルバムごとに「HERO」「Dominant Animal」といった重要な楽曲で作詞をされてきたわけですが。

この曲はアルバム制作の後半、全体の流れの中で必要なパーツはどんなものかを考えながら作っていったんです。曲のタイプ的には、1stアルバムなら「Hear Me」、2ndなら「Life‘s Anomalies」の流れを汲んだような感じ。非常に内向きなようにも聞こえますが、実際は自分の内面を燃やしながら次の夜明けに向かっていくという、すごく前向きな曲なんです。現状に留まるのではなく、失敗やくじけてしまう出来事があったとしても前に進む行為にこそ価値があるんだということを、この曲を通して皆さんにお伝えしたかった。今回はショーンボウさんとコライトさせていただいたことで、英語の部分も含め、より奥行きのあるリリックになったと思います。

西川貴教

メガ粒子砲で惑星を消してしまうかのようなカバー

──そして本作には、TM NETWORKの「BEYOND THE TIME -メビウスの宇宙を越えて-」と、See-Sawの「あんなに一緒だったのに」という2曲のカバーが収録されているのも大きなトピックになっています。ともに「機動戦士ガンダム」シリーズに縁のある楽曲という点でも、今回収録される意義を感じますね。

実は「FREEDOM」の中には、「BEYOND THE TIME」とつながる要素をこっそり忍ばせていて。そんな洒落の効いた仕掛けを小室さんがギミックとして用意してくれたので、だったら西川貴教として「BEYOND THE TIME」もぜひ体現させていただければと思った次第です。

──ライブでは何度か披露されて、大きな話題になりましたよね。

そうですね。ありがたいことに気に入ってくださる方も非常に多くて。特に昨年ボーカリストとして参加させていただいたアイスショー「Fantasy On Ice」では、フィギュアスケート選手の田中刑事くんとこの曲でコラボさせていただいたんです。さらに田中くんがNHK杯のエキシビションで滑るときにまたこの曲を使ってくださったことで、音源化の声もすごく大きかったんですよ。反響という意味では「あんなに一緒だったのに」も同様で。あの曲は昨年、「HYPER PLAMO Fes.」で一度だけ歌わせてもらったんですけど、「まさかあの曲をカバーするなんて」「聴きたかった」という声をたくさんいただいたので、今回音源にさせてもらうことにしました。See-Sawのメンバーであった梶浦(由記)さんにはカバーするタイミングで許諾をいただいてはいたのですが、もうお一方の石川(智晶)さんとはお話しする機会がずっとなくて。でも、昨年末に開かれた「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の打ち上げの席でようやくお会いすることができたんです。なので今回、心置きなくカバーを収録できることになりました。

西川貴教

──どちらも西川さんらしいカバーになっているのも聴きどころですよね。ぜひオリジナルと聴き比べてほしいなと。

僕のカバーで皆さんが納得するかどうかはわからないですけどね(笑)。「BEYOND THE TIME」はしっとりした曲なのに、また違ったアプローチをしているので。

──ラストの「Beyond the time」を力強く歌っているのが、まさに西川節ですよね。「あ、地声でいった!」と思いました(笑)。

そうそう(笑)。オリジナルでは宇都宮隆さんがはかないファルセットで歌っていて、宇宙のかなたに消えていく感じですからね。それを僕はもう、グッと押していくっていう。メガ粒子砲で惑星を消してしまうかのように(笑)。

──あははは! いや本当に最高のカバーだと思います。本作を携えて、3月には4カ所8公演のツアー「TAKANORI NISHIKAWA LIVE TOUR 003 『SINGularity Ⅲ -VOYAGE-』」も開催されます。これまでに開催された2度のツアーは内容的にリンクしていたので、今回がどうなるのか非常に楽しみです。

引き続き、へんてこりんなライブにしようと思っています。楽しく楽曲を聴きにきたのに、ハードSFを叩きつけられるライブっていう(笑)。もちろん今回のライブだけでもしっかり楽しんでいただける内容には仕上げていますが、先におっしゃっていただいたように、これまでのライブの背景を知ったうえで観てもらえたら、より早く世界観に入り込めると思います。あと今回は各会場、昼夜2公演でそれぞれ「PLAN-A」「PLAN-B」という異なる内容になっていて。アルバムの1曲目には「[ Ω ]」というインストが収録されていますけど、ってことは当然“α”もあるわけで……その意味はぜひライブで確認してください。

──最後にもう1つ。小室哲哉さんと浅倉大介さんによるユニット・PANDORAが約7年ぶりに再始動し、2月28日にライブ「OPEN THE BOX」が開催されます。そこにはBeverlyさんとともに、西川さんもゲスト出演されるんですよね(参照:小室哲哉と浅倉大介のユニットPANDORAが再始動、西川貴教とBeverlyをゲストに迎えライブ開催)。

そうなんです。ありがたいお話なんですけど、僕は何しに行くんですかね(笑)。だってBeverlyちゃんはPANDORAにフィーチャリングされた「Be The One」という曲がありますけど、僕は参加した曲がないですから。先生(小室)からお呼びがかかったので、正装で行きますけど(笑)。

──西川さんの存在も再始動に必要なピースなんだと思います、きっと。

「FREEDOM」という楽曲を始め、今の先生は本当に楽しそうにいろいろな活動をされていて。そこに僕も運よく居合わせることも多いんですよ。そんな状況の中、西川貴教という要素が必要なピースとして、先生にとっての刺激になる存在になれているのであれば、本当に光栄の極みです。PANDORAがどんなライブを見せてくれるのか。それを僕自身も楽しみにしたいと思います。

西川貴教

公演情報

PANDORA LIVE 2025 -OPEN THE BOX-

2025年2月28日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
<出演者>
PANDORA(小室哲哉×浅倉大介)
ゲスト:西川貴教 / Beverly


TAKANORI NISHIKAWA LIVE TOUR 003「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」

  • 2025年3月5日(水)神奈川県 KT Zepp Yokohama
    [PLAN-A]OPEN 14:00 / START 15:00
    [PLAN-B]OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2025年3月19日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
    [PLAN-A]OPEN 14:00 / START 15:00
    [PLAN-B]OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2025年3月23日(日)愛知県 Zepp Nagoya
    [PLAN-B]OPEN 14:00 / START 15:00
    [PLAN-A]OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2025年3月29日(土)東京都 Zepp Haneda
    [PLAN-B]OPEN 14:00 / START 15:00
    [PLAN-A]OPEN 18:00 / START 19:00

プロフィール

西川貴教(ニシカワタカノリ)

1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。1996年5月にT.M.Revolutionとしてシングル「独裁 -monopolize-」でメジャーデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」など数々のヒット曲をリリースした。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催している。2018年3月には西川貴教名義で初となるシングル「Bright Burning Shout」をリリース。2020年に「第45回滋賀県文化功労賞」を受賞した。2024年1月に、小室哲哉をプロデューサーに迎え書き下ろした「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」主題歌「FREEDOM」を発表。2025年2月に3rdアルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」をリリースした。