私を作った6冊の本
文・写真 / 西片梨帆
① 狗飼恭子
「オレンジが歯にしみたから」
18歳まで地元の図書館に行くことが好きでした。
本が無限にある空間と、匂いにどきどきして、よく入り浸っていました。
本の選び方は、装丁とタイトルを見て、直感で決めていて、
その遊びで出会ったのが、狗飼恭子さんです。
狗飼さんのタイトルは、この「オレンジが歯にしみたから」の他にも
「冷蔵庫を壊す」であったり、印象的なタイトルばかりでした。
当時、フィクションで、どこか現実感のない小説ばかり読んでいた私は、
この短編集に詰まったみずみずしい言葉に驚いて、
当時の自分と重ねていました。
私小説のような音楽を作ろうと思えたのも、
この本に出会えたからだと思います。
② 鳥飼茜
「前略、前進の君」
雑誌「Maybe!」を読んでいたときに、この連載に出会いました。
単行本が出る発売日に買いに行き、そのままセンター街のマックで、
この作品のなかで、片思いをしている女の子の主人公が出てくる
「それが恋。」という話があって。
主人公は、授業中に好きな男の子が、想いを寄せる綺麗な女の子を
見ているのを知っているんです。それで、主人公がその女の子に
「私、あなたになりたい。それか消えてなくなってほしい」というシーンが
とても好きです。この言葉をよんだとき、自分がただ頭で考えているだけで、
誰にも話さなかったことはこれだ…と思いました。
私には、形にできないような心に一番近い部分を繊細に描くこの作品は、宝物です。
③ 宮崎夏次系
「僕は問題ありません」
インディーズ時代にとてもお世話になった方と初めて会った日に、
「これ、梨帆さんに。」とプレゼントされたのが、
宮崎夏次系さんの「僕は問題ありません」と「変身のニュース」でした。
帰りの電車で読みながら、自分が孤独で一人であることを考えていました。
宮崎さんの作品は、とても好きなのになぜかうまく伝えられなくて..。
読んでいるときは、作品に抱きしめられて、守られている感覚があるのですが、
読み終わると、それらがふっと浮遊してすぐに消えてしまう。
だけど、生きていて、この作品が必要な瞬間があるのです。
なので、それがいつ来てもいいように、部屋の中、
手の届くところにいつも置いています。
④ 森栄喜
「intimacy」
この本の出会いは、大学の帰りに新宿のブックファーストに行った時です。
当時、写真集を買ったことがなく、いつもはパラパラとめくる程度だったのに、この本は最初から最後まで、1枚1枚見ていました。
1本の映画を見ているようで、ぼろぼろと泣きました。
なぜか、ここに写っている人に愛しさが込み上げてくるような、
そしてこの気持ちを私はよく知っているなあと思ったのです。
そう思えたのは、きっと撮る人と撮られる人の距離感が密接で
お互いを信じているから、見ている人にまで
それが伝わるような写真になるのだと思います。
生きてることが懐かしくなったり、思い出したりしてしまう作品です。
⑤ 岡崎京子
「リバーズ・エッジ」
岡崎京子さんの作品にどのように出会ったのかは、なぜか思い出せなくて
気づいたら好きでいて、近くにいました。
それくらい、私自身の中に入り込んでいるのだと思います。
今の私がこの作品を語るには、まだ全然生き足りない気がして、
言葉にすることをためらってしまいますが、これから年を取って、
岡崎さんの作品に触れたとき、自分がどう思うのか、
何を感じるのかが、楽しみです。
映画においても、実写化された作品の中で、「リバーズ・エッジ」が1番好きです。
私が、好きなシーンは、吉川こずえというモデルの女の子が
主人公の若草ハルナのことを「あの人は何でも関係ないんだもん」
と言う場面です。
20年以上前、私がまだ生まれていない時に描かれたこの作品を、
生きていく中で出会い、そして世代を超えて共鳴したという事実を
これからも大切にしたいです。
⑥ 寺山修司
「恋愛辞典」
恋人の本棚に収納されていた本の中の1冊に、この本がありました。
彼とは、映画、小説、音楽などの好みが合わない中で、
私も好きだと思ったのが寺山修司さんの作品です。
人を介して好きになったものは、その人との関係性の変化で、作品の見方も変わってしまう気がして、なるべくは自分で見つけたいと思う派なのですが、
きっとこの作品だけは、ずっと好きだと思います。
「恋愛辞典」の中では、ダイヤモンドという詩が好きです。
1月の単独公演では、自分で「恋愛辞典」を朗読した音源を、雨の音とミックスし、開演時間まで、背景音楽として使わせていただきました。
最後の一文の、
「ほんとに愛しはじめたときにだけ 淋しさが訪れるのです」という言葉を特に大切にしています。