カバー企画「Newtro」特集|おかもとえみ×中嶋イッキュウ×LE GRAND RETOURが語る、懐かしくも新しい「レトロブーム」 (2/3)

懐かしみながらも新しく取り入れている

──前回の「Newtro」特集では、“レトロ”と“懐メロ”の違いについてもお話しいただいたんですが、皆さんはどう捉えていますか?(参照:UNCHAIN谷川正憲×Keishi Tanakaインタビュー|カバープロジェクト「Newtro」で互いが示した矜持

おかもと 私は記憶の解像度の違いという観点で、色で捉えていて。懐メロはざらつきのあるフルカラーで、レトロはセピアなんです。懐メロは記憶に根付いていて、レトロになるとちょっと遠いもの、うろ覚えなイメージがあります。だから、カバーするにしてもレトロのほうがより自分の色を付けやすいかもしれません。

左からLE GRAND RETOUR、中嶋イッキュウ、おかもとえみ。

左からLE GRAND RETOUR、中嶋イッキュウ、おかもとえみ。

竹田 レトロには自分があまり体験してきてない部分も含まれているから、より新鮮に感じるかもしれない。

中園 「DESIRE -情熱-」もよく知っている曲だったら、こういうアレンジはできなかったかもしれないです。固定観念がなかったから、ここまで大胆に変えられたんだと思います。

中嶋 シティポップも、当時を知らない人たちが新鮮に感じるからあそこまでブームになったのかもしれないし。

竹田 確かに。リアルタイムで通っていない若い世代だからこそ、当時ヒットしていなかった曲を掘り起こして注目したりするんでしょうね。

中嶋 ちょっと前に、平成に流行ったものを展示する「NEO平成レトロ展」というのがやっていて、友達が観に行ってました。私たちは当時を過ごした世代なので、昔流行ったものを再び観られる喜びがあるけど、それを初めて観る下の世代の人たちはどう感じるのかはすごく興味があります。お母さんが「私の若い頃も、こういうの流行ってたよ」って言うような感じになるんですかね(笑)。

中園 今のファッションにも言えるよね。「昔もこういうの流行ってたよ」って。

中嶋 そうそう。自分たちもそのお母さん側の感覚がわかる世代になってきた(笑)。自分たちが子供の頃に過ごした時代がレトロになるっていう感覚を、今初めて体験しているところなのかもしれないです。

おかもと でも、自分たちが体験してきた時代のものがリバイバルしたとしても、昔とバッチリ一緒ではないっていうこともすごく感じていて。リバイバルすると、そこにまた新しいエッセンスも入ってくるから、自分の中で記憶を照らし合わせながら見るのも面白い。今日履いているパンツもそうですけど、Y2Kファッション的なアイテムって私は当時は着てなかったけど、最近流行ってるから着てみよう、みたいなのもあるので、レトロブームを懐かしみながらも新しく取り入れている感覚があります。

おかもとえみ

おかもとえみ

「昔は人間が曲を作ってたらしいよ」「えっ、人間に作れるの?」

竹田 ブームというものはいつか終わりを迎えるけど、レトロブームは更新されながらずっと続いている感覚もありますよね。

おかもと 確かに。いつどこで切り替わっているんだろうね。

中嶋 「ここからはこの時代がリバイバルします」って、誰が決めてるんやろ(笑)。

おかもと 音楽もそうだよね。シティポップにどこから火がついたのかとか、80'sリバイバルのあとに90'sリバイバルが来たのも誰が起点だったのかなとか。そこの切り替わりも早かったし。

中園 やっぱりDJなのかな。

おかもと 「真夜中のドア~stay with me」はNight TempoさんがDJでかけたことでバズった印象があります。

竹田 今はCDを買いに行かなくてもサブスクを通じて古い曲も新しい曲もどんどん拾いにいけるし。「DESIRE -情熱-」に関しても、原曲を聴こうとしたら10数年前はCDを買うところから始まったけど、今はすぐにサブスクで聴ける。便利な時代になったなと、アレンジしているときに実感しました。

LE GRAND RETOUR

LE GRAND RETOUR

中園 そうやって手軽に接することができるようになったからこそ再認識できたんですけど、昔の曲って作り込みが本当にすごいですよね。演奏やアレンジもそうですけど、たくさん時間やお金をかけて作られている。だから今の若い世代の人たちが初めて聴いたときに、新鮮だと感じるのかも。

中嶋 その分、発信するまでのハードルも高かったでしょうね。

中園 「絶対いいものを出さなきゃいけない」っていう使命のもと、作詞家さん、作曲家さん、アレンジャーさんたちが力を合わせて渾身の1曲を生み出して、それがヒットしていた時代ですもんね。そりゃあ何十年経とうが残るわけですよ。

竹田 今は1曲作るのに、そんなに時間をかけられないかもしれない。こうやって「Newtro」でカバーされた楽曲リストを見ると、ほとんどの曲が職業作家さんによって書かれた曲なんですよね。

おかもと 私、作詞家の阿久悠さんがめちゃめちゃ好きで。「私ピンクのサウスポー」(ピンク・レディー「サウスポー」)みたいな、思いついたとしてもなかなか手を出せないような言葉の並べ方というか、そういう遊び心がレトロな曲には多い気がするんです。

竹田 確かに。

おかもと コード使いに関してもそんな感じしますか?

中園 めちゃくちゃ感じます。

竹田 「なんでこの流れからここに行くんだろう」っていう展開も多いですしね。だからカバーする際にもアレンジのしがいがあるし、音楽に詳しくない子たちでも感じちゃうぐらいの凄味が80年代前後の楽曲にはある気がします。

おかもと それでいて歌いやすいんですよね。

中嶋 自分で作っていたら自分が歌いやすいメロディばっかりになっちゃうけど、昔の曲って自分以外の人が作ることで歌う人のことをより考えられていたのかもしれない。

竹田 しかも、昔はその“1曲入魂”みたいな曲を短いスパンで連発していたんですよね。そういう時代も体験してみたかったなあ。

おかもと 今も実はそうだったりするのかも。

中園 何十年か後に「あの令和の時代、すごかったね」と言われるようになっていたりして(笑)。

中嶋 そっか、今作っているものがレトロになるという。それは怖いなあ(笑)。

竹田 その頃の音楽業界ってどうなってるんだろう。AIが音楽を作ってるのかな。

中嶋 「昔は人が曲を作ってたらしいよ」みたいな(笑)。

中園 「えっ、人間に作れるの?」とか(笑)。もしかしたら今って人力の時代とAIの時代の、ちょうど狭間だったりして。

竹田 過渡期みたいな。

中嶋 今はiPhoneにGarageBandが最初からインストールされているから、マジで誰でも簡単に音楽が作れちゃうわけで。

中嶋イッキュウ

中嶋イッキュウ

おかもと Sunoっていう音楽生成AIがあるじゃないですか。こないだ友達が「タトゥーを入れたい」と言っていて、「じゃあSunoに聞こう」という話になったんですね。それで「こういう人が明日タトゥーを入れようと思っているんですけど、どんなのがいいですか? 曲にしてください」って聞いたら、「コイキング入れな~」みたいな歌詞の曲が上がってきて(笑)。

一同 あははは!

中嶋 和彫りの鯉みたいな(笑)。コイキング限定なんだね。

中園 面白い(笑)。すごい時代になりましたね。