染み込んでいる曲だからこそ崩す難しさ
──先ほど中園さんが「原曲のことをよく知っていたら、カバーする際にアレンジするのが難しかったかもしれない」とおっしゃっていましたが、おかもとさんが「Newtro」でカバーする際に意識したこと、大切にしたポイントはなんですか?
おかもと 私はこれまで2曲参加させてもらっていて。フレンズとしてカバーした「雨にキッスの花束を」(今井美樹の1990年の楽曲)は、わりと原曲に近いものを意識しながら、その中でフレンズの個性をいかに出せるのかということで、ちょっと実験的なアレンジになっています。「明日、春が来たら」(松たか子の1997年の楽曲)はDJ HASEBEさんがトラックを作って、私は歌に関してのみ関わる形だったので、歌声や歌い方において「おかもとえみってどういう人なんだろう」というところと向き合いました。「明日、春が来たら」はよくカラオケで歌う1曲なんですけど、松たか子さんの溌剌とした発声というよりは、寝ている人の横で歌うぐらいの感覚を意識しているので、「雨にキッスの花束を」とはだいぶ方向性が違います……というか、「Newtro」でカバーされている曲って、私がカラオケでよく歌う曲のリストみたいな感じなんですよ(笑)。
中園 確かに、カラオケでよく歌われる曲っていうイメージが強いかも。
おかもと 「フライディ・チャイナタウン」はスナックで絶対1曲目に歌うって決めていて。私がYouTubeでやっている番組「NEOスナックえみそん」でも最初に歌うぐらいですから(笑)。でも、それくらい染み込んでいる曲だからこそ、崩す難しさもありますよね。皆さんしっかりとそれぞれの個性が出ていて、すごいなと思いました。
──僕は皆さんよりも世代が上ですが、自分が20代の頃にカラオケスナックに行き出した頃もこのあたりの楽曲はよく歌われていたので、カラオケの定番曲ってずっと変わっていないんだなと気付きました。
おかもと 最近はスナックに行く若い子たちも増えているじゃないですか。スナックでは周りの人の空気を読んでカラオケをする印象が強いから、どんなに若い方でもこのへんのラインナップから歌い始めるんですよね。
中園 テーブルマナーみたいな。
おかもと そうそう(笑)。おじさんたちも楽しませながら自分も楽しめるという、上質なラインナップですよね。
当時の中森明菜よりも大人のイッキュウが歌う「DESIRE -情熱-」
──ここからは新たに公開されたLE GRAND RETOURと中嶋さんによる「DESIRE -情熱-」のカバーに関して聞かせてください。
竹田 アレンジしやすそうでイッキュウさんの歌が映えそう、かつサックスにもぴったりな曲という3つがポイントとなって「DESIRE -情熱-」に決まりました。私たちはよくジャズをやっているので、もしかしたらご依頼いただいた時点ではジャズアレンジにしてほしいのかなと思ったんですけど、そこは“ジャズエレクトロユニット”としてのLE GRAND RETOURのカラーを出そうかなと、打ち込みによるハウスっぽいアレンジにしてみました。
中園 こういうクラブっぽい雰囲気のアレンジで、かつあまりレトロっぽくないサックスの入れ方をできたのは、個人的にもうれしかったです。何よりイッキュウさんの歌が最高で、想像を200%超えてきました。
中嶋 そんなに上やったんや(笑)。
竹田 最初にデモ音源が上がってきたとき、素晴らしすぎて「えっ、何これ?」って2人で話しましたから。
──そもそも、イントロを聴いてこれが「DESIRE -情熱-」だと気付く人はまずいないですよね。それに歌が入った瞬間の、いい意味での裏切られ方も最高ですし。
中嶋 ありがとうございます。
おかもと 中森明菜さんが歌っているイメージが強すぎる曲ですもんね。
中園 ここまで変えて歌えるのがすごいと思った!
竹田 あのイメージをここまで崩せるのは、本当にすごいですよね。
中嶋 めっちゃ褒められてる(笑)。LE GRAND RETOURさんの音に引っ張られてあの声、あの歌い方になったんですよ。音源が届く前から「こうやって歌おう」なんて、もちろん考えていなくて、音源を聴いて「よし、歌ってみよう」と思ったその1発目からあの歌い方になってました。
竹田 そう言っていただけるのは、このうえなく幸せです。
中嶋 最初は原曲にある強い女性像をイメージしていたんですよ。でも、原曲を歌われていた当時の明菜さんの年齢より自分のほうがだいぶ大人なので、「大人になる過程の女子」というよりは「大人になって余裕もあるんだけど、その中で表に出してない不安定さ」みたいなところを本来の楽曲の熱量で歌えたら面白いなと。そういう部分が自然と出ているのかなと思います。
おかもと 原曲の「DESIRE -情熱-」って「ガッツリ」とか「ドーン」っていう印象があったけど、この「DESIRE -情熱-」はコンロの青い炎というか、ふつふつと沸いてくる感じがあるんですよね。それがすごい衝撃でした。
──「DESIRE -情熱-」リリース当時の明菜さんは20歳だったそうですよ。
一同 えーっ!?
中嶋 当時のアイドルって、すごく若いのに大人びた曲を歌ってましたよね。
竹田 それを私たち大人の年代が料理すると、こうも変わるんだなというのが面白かったです。いやあ、歌の力って本当にすごい。
中園 そういう意味でも、イッキュウさんの歌は完璧でした。ありがとうございます!
竹田 おかもとさんが「Newtro」でカバーした2曲も、今井美樹さんや松たか子さんのイメージをまとっていて、原曲の魅力と自分らしさをいかに共存させるかはいろいろ考えるわけですよね。
おかもと けっこう考えましたね。松たか子さんの場合は「絶対になれない存在」として、なぞるというよりは好きな部分を抽出して、それを自分と混ぜ合わせるような感覚だったかもしれないです。一方、今井美樹さんのほうは「なりたい存在」だったのかな。なので、寄せていく気持ちが強かった気がします。
ピンク・レディー、SPEED、モー娘。……4人でカバーするなら
──「Newtro」以外でも、皆さんライブや音源でほかのアーティストの楽曲をカバーをする機会もあるかと思います。そのときに、一番大切にしていることは?
中園 私たちはインストユニットなので、原曲のよさというよりも自分のカラーを軸にしてカバーすることが多いですかね。なので、まったく違うものにしようっていう意識で臨んでいるかもしれません。
竹田 確かに。そこは歌い手さんとは全然違う感覚なんじゃないかな。
中嶋 私はカバーをそこまでするほうではないですけど、ライブとかで対バンした人の曲をカバーするときはリスペクトを持ったうえで「私の曲です」くらいズタズタに変えちゃいますね(笑)。
おかもと 今ふと思ったんですけど、音源になるときは歌メロの譜割りをめちゃめちゃ気にして、原曲通りに歌おうと心掛けていたかもしれない。ただ、ライブだとその曲を使って遊ばせてもらうような気持ちというか、感謝しながら愛でさせてもらっている感覚が強いかもしれないです。
竹田 そう考えるとここにいる全員、カバーするときは原曲で遊ぶ感覚が強いのかな。
おかもと 破壊から始めるという(笑)。でも、それが芸術ですよね。
中園 「Newtro」では、LE GRAND RETOURとして本当に素敵な機会をいただけて、新しい扉を開くこともできたと思うので、もっとこういうことに挑戦してみたいですね。
竹田 やりたい!
中嶋 次は(おかもとと)ダブルボーカルとか。
中園 めっちゃいい!
中嶋 ピンク・レディーのカバーとか。「Newtro」ではまだやってないですよね。
おかもと せっかくピンク・レディーをカバーするんだったら、振付までやりたいね。
竹田 TikTokとかにアップして(笑)。
Newtroスタッフ 今までは動画のイラストも曲をイメージしたものでしたけど、お二人を意識して描いてもらうと、より曲とリンクするかもしれませんね。
竹田 もう決定じゃないですか(笑)。
おかもと あと、この4人でSPEEDとかどうですか?
中園 えー、ダンスの練習をしないと(笑)。
中嶋 じゃあ、初期のモー娘。もやりたいな。
竹田 アレンジがんばります!(笑)
「Newtro」YouTube公式チャンネル
プロフィール
おかもとえみ
1990年生まれ、東京都板橋区出身のシンガー、ソングライター、ベーシスト。ソロシンガーとして活動する傍ら、フレンズのメインボーカルを務める。2014年にソロ活動を本格的に始め、2021年8月に1stフルアルバム「gappy」をリリースした。作家としても活躍し、さかいゆう、Sexy Zone、TEAM SHACHI、M!LK、FRONTIER BACKYARDらに歌詞を提供。ソニー・ミュージックソリューションズのメディアチームが手がける音楽プロジェクト「Newtro」には、フレンズとして「雨にキッスの花束を」(オリジナル:今井美樹)、DJ HASEBEのフィーチャリングゲストとして「明日、春が来たら」(オリジナル:松たか子)で参加した。
中嶋イッキュウ(ナカジマイッキュウ)
1989年生まれ。2010年にtricotを結成し、ライブやリリースを重ねる。2019年4月にエイベックス内のcutting edgeにプライベートレーベル・8902 RECORDSを設立し、シングル「あふれる」でメジャーデビューを果たす。2016年にはソロ活動をスタートさせ、2017年に音楽バラエティ番組「BAZOOKA!!!」の知名度を上げるために始動したプロジェクトの一環でジェニーハイを結成。2022年には山本幹宗との音楽プロジェクト・好芻の活動を開始した。ソニー・ミュージックソリューションズのメディアチームが手がける音楽プロジェクト「Newtro」には、LE GRAND RETOURのフィーチャリングゲストとして中森明菜「DESIRE -情熱-」のカバーで参加した。
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LE GRAND RETOUR(ルグランルトゥール)
鹿児島出身のサックスプレイヤー中園亜美と、北海道出身のピアニスト竹田麻里絵によるジャズエレクトロユニット。ともに1986年生まれ。2017年冬から都内を中心に活動している。2023年に1st EP「MAISON LE GRAND RETOUR」をリリース。2025年5月にはミニアルバム「OVER」を発表した。川口千里率いるバンド・THE JAZZ AVENGERSにも参加し国内外で評価を獲得している。ソニー・ミュージックソリューションズのメディアチームが手がける音楽プロジェクト「Newtro」には、中嶋イッキュウをボーカルに迎えた中森明菜「DESIRE -情熱-」のカバーで参加した。
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