Newspeak|複雑な感情を「Turn」に凝縮 大混乱のコロナ禍でどうやって前を向いた?

コロナ禍以前に目指していた実験的サウンド

──サウンド面に関してはEPに引き続き、トニー・ホッファーさんとダニエル・J・シュレットさんがミックスで参加されていますね。

Yohey 僕ら3人で完結させちゃうと、部分的に固執してしまう危険性があるので。ほかのエンジニアやミキサーがNewspeakの音楽をいじると、どう変化するのか試してみたかったんです。トニーはSaint MotelやThe Fratellis、Foster the Peopleの作品を手がけてきたエンジニアで、インディー系アーティストの作品でもグラミー賞にノミネートされたことがある人。一方でダニエルはDiivとか、僕らと同じ事務所に所属しているCHAIの作品のミックスを担当した方で、ニューヨークのインディーシーンらしいサウンドに寄せてくれるんです。サチュレーション(テープ録音や真空管アンプの再生などで発生する歪みをシミュレートするエフェクト)がめっちゃかかった、キラキラした音を作るイメージの人ですね。

Rei パンチはトニー、空気感はダニエル、みたいな感じだよね。

Steven(Dr)

Steven 僕らだけでデモの状態から何種類もバージョンを作って、完成版をエディットして、ミックスもやると耳が疲れてくるんだよね。もちろん自分でミックスまで担当するのは楽しいんだけど、デモの音が耳に残っているから、ベストな出来にはならなくて。そう考えるとトラッキング、エディット、ミックスを全部自分でやるのはあまりよくない。本当はやっちゃダメ。だからこそ、トニーやダニエルがミックスしてくれるって聞いたとき、すごくワクワクした。

Yohey 音源が返ってくるのがすごく楽しみでね。「どんな感じになるんだろう?」って。

──具体的な音楽性に関して言うと、例えば8曲目「Jerusalem」や9曲目「Animals」は、今までの楽曲とは違う形でエレクトロニックな要素を取り入れた印象がありました。

Rei その2曲はコロナ禍に入る前からできていたと思います。それこそコロナが流行する前は「新しいことをしたい」とすごく考えていて、ムラ・マサやポスト・マローンの楽曲を聴きながら、みんなと「エレクトロな要素を実験的に取り入れてもいいんじゃないか」と話していて。

Yohey 生ドラムを一切使わないとか。「ロックのカラーを一度外してみたらどうだろう?」と考えていました。

──もしコロナが流行しなければ、全体的にはより実験的なトーンの強いアルバムになる可能性もあったんですかね?

Rei うん、その可能性はあったと思います。全然違うアルバムになっていた気がしますね。

Yohey あと、「ライブでどう表現するか?」ということも、もっと考えながら作っていたと思う。ロックな曲はもっとスケールが大きくなっていたかもしれないし、エレクトロな作風に寄せた曲はもっと実験的になっていたかも。サウンドで遊んでいる作品になっていた可能性はあります。

「迷信」から解き放たれて、惑わされないほうが楽しいよ

──2曲目の「Generation of Superstitions」にはCalmeraの小林洋介(Tp)さん、辻本美博(Sax)さん、寺谷光(Tb)さんがホーン隊として参加されていますね。

Rei もともと寺谷光さんは、僕がNewspeakの前に活動していたバンドのサポートメンバーだったんです。「Generation of Superstitions」を作っていたときに「本物のホーンを入れたらテンション上がるよなあ」と思ってお願いしました。この曲はただただ楽しさを求めた曲なんですよね。

Yohey(B)

Yohey 「Generation of Superstitions」制作中はCaravan Palaceみたいなエレクトロスウィング系の音楽、あとはトニーが手がけているSaint Motelとか、インディー系のバンドサウンドに生のホーンが入っている曲をよく聴いていて。それで「やっぱり生のホーンはいいよな」という話になったんです。ホーンのパートは打ち込みでも作ったけど、やっぱり生の音には勝てない。

Rei この曲に限らず、例えば「Blinding Lights」のストリングスもそうですけど、アルバム全体で“生々しさ”をすごく大事にしているんじゃないかと。特にコロナ禍に入り、感情に流されながら作った曲は“生”のフィーリングを重視していますね。

──なるほど。ただ、“楽しさ”や“生々しさ”を重視しているのとは裏腹に、「Generation of Superstitions」というタイトルは和訳すると「迷信の世代」で、かなり意味深ですよね。歌詞に関してはどのようなことを考えていたんですか?

Rei さっきの「Turn」の話にもつながりますが、このコロナ禍ですぐスマホを見ちゃう習慣が染みついちゃって、そういう自分がすごく嫌だったんです。本当のことなんてスマホの画面越しじゃわからないんだから、もっとナチュラルに生きていたい……みたいな気持ちがあったんですよね。そこから「Superstitions」、つまり「迷信」という言葉が出てきたんです。「迷信」から解き放たれたいなって。

──なるほど。SNSで拡散される情報が、正誤を問わず「迷信」化していくのは、すごく現代的な状況ですよね。

Rei でも、こういう感覚って今だけじゃなく、どの時代でも生まれてくるものかもしれない。例えばメディアが新聞しかなかったら、人は新聞に踊らされるだろうし。使えるメディアが限定されると、そこから得られる情報に翻弄されるのかなって思うんですけど、自分は惑わされずに生きていたい。なので「Generation of Superstitions」では「惑わされないほうが楽しいよ」というポジティブなエナジーを強く出したかったんです。「いろいろ考えたうえで、やっぱり楽しくなりたいよね」って。

絶対に「前を向こう」と言い切れないからこそ、
大丈夫な“フリ”をしたい

──「楽しくなりたい」というのもまた、このアルバムのテーマを言い当てている言葉ですよね。確かにコロナ禍ゆえの重たさは根底にはあるけれど、そのうえで緊張を解きほぐしていくような、優しくて柔らかなムードがアルバム全体から感じられて。それゆえに配信シングルの4曲の中でも、特に怒りのエネルギーが強かった「Another Clone」はアルバムに入らなかったんでしょうし。

Rei おっしゃる通りです。「Another Clone」は最初の緊急事態宣言が出た頃、「どうなるの、これ?」という状況の中で作った曲なんです。状況が把握できないまますべての活動が止められて、自分の生活もどうなるのかわからなくなって。ライブハウスが苦労している噂を聞いて、スタッフとのオンラインミーティングで「なんとかできないのか」みたいな話になっても、誰もどうしていいかわからず、何分も沈黙が続いたり。自分たちにできることを考えているんだけど、僕ら自身そこまで影響力がなくて、そこに対してもすごく苛立ちを感じました。

──なるほど。

Rei(Vo, Key)

Rei 「Another Clone」はそのフラストレーションが爆発した曲なんです。本当にめちゃくちゃムカついていたから、勢いで一気に完成させました。あのとき突発的に爆発した感情は「Turn」には合わなかったんですよね。「楽しく前向きでありたい」と言おうとしているアルバムの中で、「Another Clone」は怒りが強すぎた。

Yohey どうしようもなかったもんな、あのとき。俺もすべてに対してイライラしてた。誰かに背中を押してもらいたかったし、「バンドの影響力なんて関係なく、できることはあるんじゃないの?」と考えたくても、経験を重ねてきたスタッフでもどうしたらいいかわからない状況で。

Rei で、イライラしながらスマホを見ると、影響力のある人たちがライブハウスやそこに携わる人を支援する方法をちゃんと実現できていて。でも俺たちが提案しても、スタッフから「それは今のNewspeakができることじゃないな」と言われてしまって。今考えれば当たり前のことだったし、理解できるけど。

──そう考えると、今回のアルバムで「It's Okay」と言えるところまで到達したことに、改めて特別さを感じますね。怒りを引きずらず、すごく穏やかな場所にたどり着いている。なぜそのような心情に向かうことができたと思いますか?

Rei どうしてだろう……。去年から今年にかけてはコロナ禍の影響が大きかったけど、自分の人生を振り返ってみると、波自体はずっとあったんですよね。「もう絶対無理だ」と思うことは多々あったし、「イギリスに行っちゃおう」とか「バンドを辞めて仕事を探そう」とか、本当にいろんな波があった。そのたびに自分の人生は沈んでは浮き上がってを繰り返してきたし、沈むたびに「また浮かび上がるときがくるだろう」と思ってきた。そういう人生の中でコロナ禍はちょっと大きめな波という感じですけど、ただ、ここまで先が見えないことは今までなかったし、自分の努力でどうにかできることでもなかった。だからこそ「Great Pretenders」で歌ったように、「フリをしてでも前を向こう」という気持ちになったんだと思います。

──「Great Pretenders」はタイトルを直訳すると「偉大なる詐称者」という感じだと思うんですけど、やはり「Pretend」(フリをする)というところが大きなポイントですね。決して完全に前を向けるわけではなくても、前を向くフリをしてみるっていう。「Let's pretend it's gonna be all okay」(すべてがうまくいくフリをしよう)と歌っていますし。

Rei そうですね。「単純に『前を向こう』なんてBullshit(でたらめ)じゃん、今は絶対に前を向けない」みたいな気持ちがあったから。ウソっぽい言葉になるのは嫌だったんです。

Steven Reiの考え方は、ブリティッシュな考え方だよ。日本によくある「明日は明るいぞー!」「いつか青空がくるぞー!」みたいな発言って、僕らみたいなタイプの人間にはなんのインパクトもないからね。

Rei そうなんだよね。

Steven それだったらもっとリアルな言い方のほうがいい。「すべてはハッピーじゃないかもしれないけど、Let's pretend」っていうReiの言い方、僕はすごく好き。

Rei 今新しい曲を作ったらもっと明るいものになるかもしれないけど、アルバムを作っている間はこういうテンションでした。去年は私生活もいろいろあって、むちゃくちゃ落ち込んでいたけど、「このままじゃいけないし、大丈夫なフリを1回してみよう」と思ったんですよね。で、たとえフリでも「大丈夫だ」と考えてみると、友達やメンバー、スタッフが周りにいてくれて、だんだん気持ちが楽になっていって。前を向くことは自分のことを信じないとできないと思うんです。だから、ときにはフリをする勇気も必要だよなって感じています。俺は、今までもそうやって波を乗り越えてきたから。

ツアー情報

Newspeak「Turn Tour」
  • 2021年9月11日(土)宮城県 仙台MACANA
  • 2021年9月18日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2021年9月19日(日)愛知県 SPADE BOX
  • 2021年9月20日(月・祝)石川県 vanvanV4
  • 2021年9月22日(水)香川県 DIME
  • 2021年9月24日(金)福岡県 Queblick
  • 2021年9月25日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2021年10月9日(土)東京都 LIQUIDROOM
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