夏川椎菜が痛快にパンチ!フック、アッパー織り交ぜた攻撃的ロックチューン「シャドウボクサー」 (2/3)

ヒヨコ労働組合のテーマ曲

──カップリング曲「労働奉音」の作詞も夏川さんで、作編曲は川崎智哉さんです。川崎さんは「トオボエ」(「コンポジット」収録曲)と「羊たちが沈黙」(2023年11月発売の3rdアルバム「ケーブルサラダ」収録曲)というオルタナティブメタル路線の曲に携わってきた方ですが……夏川さん、ロブ・ゾンビってわかります?

すごい! 「労働奉音」のリファレンスは、まさしくロブ・ゾンビの「Dragula」という曲だったんですよ。実は「ケーブルモンスター」(「LAWSON presents 夏川椎菜 3rd Live Tour 2023-2024 ケーブルモンスター」)の開場BGMで「Dragula」を流していたんですけど、初日公演からそこでクラップが自然発生して、「なんだこの現象は?」とざわつきまして。しかも7公演すべてで同じ現象が起こって、妙な一体感が生まれていたんです。

──へええ。ヒヨコ群、ノリがいいですね。

その「ケーブルモンスター」が終わったあと、納期的にかなりギリギリのタイミングで「『シャドウボクサー』のカップリングどうする?」という話になったんです。そこで、例えば「ケーブルサラダ」に入れられなかった楽曲を使う選択肢もあったんですけど、表題が田淵さんの「シャドウボクサー」なら、カップリングで私が今やりたいのはあのときのロブ・ゾンビだと思って。そういう曲を書いてもらうんだったら、「トオボエ」の編曲と「羊たちが沈黙」の作編曲をしてくださった川崎さんしかない。いやあ、元ネタが伝わるとうれしいもんですね。

夏川椎菜

──「労働奉音」は、曲名からも察せられますが、夏川さんのバックバンドであるヒヨコ労働組合がモチーフになっていますね。

はい。ヒ労組のテーマ曲と言ってもいいですね。歌詞には私がライブのMCとかで話していることを入れ込んでいて。例えば「求めたのは 変な音」は、ギターの川口圭太さんがライブでいつも変な音を出すので、私が「変な音担当」と言っていたのがもとになっているんです。ただヒ労組のメンバーは、ギターが今言った圭太さんと山本陽介さん、ベースが伊藤千明さん、ドラムがかどしゅんたろうさんか早川誠一郎さんで固定されてはいるんですけど、あまりにも露骨なメンバー紹介になってしまうのは避けたかったので、そこのバランスが難しかったですね。

──ああー。僕は1、2コーラス目のサビ以外の4つのブロックは各楽器について書かれていると思っていたのですが、これは“露骨じゃない”メンバー紹介になっているんですね。つまり、その楽器を演奏しているのが誰か知っていればメンバー紹介になるみたいな。

あ、そうそう。まさにちょっとしたフックから各メンバーを連想してもらえたらいいなと思って書きました。メンバーの立ち位置的にステージの下手から上手に向かって紹介されていて、最初のブロックは「低音」と「弦」だからベースの千明さん、最後のブロックで「ネックは常に振り乱して」いるのはギターの陽介さんですね。ちなみに「全装備 曝け出して 紡いだもん 焼き付ける」のは私です。作詞をしているという意味でも。

──「ネックは常に振り乱して」の「ネック」はギターのネックであり、山本さんの首でもあるわけですよね。

そうですそうです。基本的にダブルミーニングにしたかったというか、意味を1つに限定したくなくて。ドラムのブロックにある「性懲りなく挟んでく feeling」の「feeling」も、本当はフィルインのことなんですよ。でも、それだと音楽用語として具体的すぎるし、人によっては馴染みの薄い言葉かもしれないから「feeling」に逃げて意味をぼかした感じですね。

自分の声は聞こえなくていい

──夏川さんはヒヨコ労働組合について「とにかく音がデカい」「だいぶスパルタだった」というお話をされていましたが(参照:夏川椎菜「ササクレ」インタビュー)、彼らと一緒にライブを続けてきたことで夏川さん自身にどのような変化があったか、改めてお聞きしていいですか?

だいぶ胆力がつきましたね。例えばライブの終盤って、体力が削られて息切れしてくるんですけど、流れとしてはフィナーレに向けてアゲていかなきゃいけないので、一番キツいところではあるんです。でも、ヒ労組の爆音の中でリハも本番もやってきたおかげで踏ん張りどころを覚えられたし、演奏のボルテージがどんどん上がっていくのに食らいついていくことで、私自身のギアを上げていくこともできるようになったと思います。

──僕は以前、ライブBlu-ray「夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER」(2022年11月発売)の特典ブックレットに収録された「ヒヨコ労働組合座談会」の構成を担当したのですが、そのとき川口さんが「うちらが初めてのバンドだからよかったのかな?」とおっしゃっていました。

それは、大いにありますね。TrySailとかでバンド演奏をバックに歌ったことはありましたけど、バックバンドというものについてほとんど何も知らなかったので。その状態でヒ労組の中に放り込まれたおかげで「バンドって、こういうものなのか」と、特に疑いを持つことなくリハとかについていけたのかも(笑)。

──ベースの伊藤さんは、バンドリハの初日を見学しにきた夏川さんが、爆音の中で耳栓もせずに歌い出したのを見て「この子はなんなんだ?」と驚いたそうですよ。「なんで歌えるの?」って。

ですよね(笑)。今でもリハスタだと、イヤモニもしないから自分の声が何も聞こえないんですよ。なのに、毎回不思議なんですけど、なぜかリハができちゃう。むしろ最近は、夏川椎菜以外のライブでイヤモニを付けて歌うと、自分の声が聞こえすぎて違和感があるというか、オケが聞こえなくて逆に歌いづらいんですよね。だから自分の声のボリュームをがっつり下げてもらって、その分オケのほうを上げてもらうことが多くて。あと、近頃は全然行っていないんですけど、カラオケで歌うのが恥ずかしくてしょうがないんです。自分の声しか聞こえないので、あれは私にとってアカペラに近い。

夏川椎菜

──耳がヒヨコ労働組合のスタイルに順応していますね。

でも、初めてヒ労組を背負って歌った「Pre-2nd」(「LAWSON presents 夏川椎菜 Zepp Live Tour 2020-2021 Pre-2nd」)では、自分の声が聞こえないから、不安になってどんどん声を張ってしまったんですよ。もう、抑揚も何もない、ずっとサビみたいな感じで。そのときディレクターの菅原拓さんに「夏川の声はちゃんとマイクに乗ってるから、お客さんに届いてるから、そんなに力まないでいい」と言われて、そこからバンドの音とのバランスを意識するようになったんです。ただ、自分の声が聞こえないのは変わらないんですよね。聞こえないから音を取れるはずがないのに、だんだん音が当たっている感覚とかリズムと合っている感覚がつかめてきて。周りは爆音だから、細かいことは気にせず、自分の感覚を頼りに歌えるようになりましたね。

──座談会で山本さんもおっしゃっていましたが、ライブにおいてはソロアーティスト・夏川椎菜ではなく「ヒヨコ労働組合のボーカルの人」ですね。

そうなのかも(笑)。自分の声は聞こえなくていいし、むしろ聞こえすぎると気にしなくていい細かい揺れとかが気になっちゃうから、このままがいいです。というか、結果的にそういう訓練を受けてしまったので、もう戻れないでしょうね。