夏川椎菜が11月9日に6thシングル「ササクレ」をリリースする。
シングルの表題曲は、夏川椎菜の代表曲の1つ「パレイド」を手がけた山田竜平が作編曲、夏川が作詞を担当したナンバー。今年の5月から6月にかけて行われたライブツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER」で初披露され、剥き出しの感情を歌い上げる夏川の姿とエモーショナルな歌声は、多くのヒヨコ群(夏川のファンの呼称)に強い印象を植え付けた。楽曲は7月に先行配信されており、すでに多くの人々の耳に届いているかと思うが、音楽ナタリーではCDリリースを前に本作に注がれた思いを本人に聞いた。またインタビューではカップリング曲「passable :(」やソロアーティスト活動5周年を経ての今後の活動についても語ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 梁瀬玉実
「ササクレ」は「パレイド」の夏川作詞バージョン
──表題曲「ササクレ」は今年の6月末、「夏川椎菜 2nd Live Tour 2022 MAKEOVER」の追加公演で初披露された曲ですね(参照:ツナギ姿の夏川椎菜が工事現場で熱唱!ヒヨコ群率いて夢いっぱいの未来へ進む)。僕も現場で観ていたのですが、ヒヨコ群の人たちにはささくれどころではない深い傷を残したのではないかと。
えぐっちゃったかもしれないですね(笑)。
──僕個人としては、2018年のTrySailのツアー(「LAWSON presents TrySail Second Live Tour "The Travels of TrySail"」)における夏川さんのソロコーナーで初めて「パレイド」(2018年7月発売の3rdシングル表題曲)を聴いたときと同じ種類の衝撃を受けました(参照:TrySail、幕張に笑顔あふれたツアーファイナル「私たちはすごく幸せ者!」)。
おお、うれしい! 実は私も若干、それを狙っていたんですよ。ライブでのちょっとしたサプライズというか、音源としてまだ世に出ていない曲を歌うとお客さんが「あの曲はなんだ!?」「もう1回聴きたい!」と言ってくださるんですけど、特に「パレイド」はそういう声をたくさんいただいて。この曲を起点に、その後の夏川のソロ活動の流れが決まっていったところもあるんです。しかも「ササクレ」の作編曲は、「パレイド」と同じく山田竜平さんなんですよ。それもあって、「パレイド」以前から夏川を応援してくれている人には4年前をフラッシュバックさせるような体験になったらいいし、「パレイド」以降に夏川のことを知ってくれた人にも4年前と同じような衝撃を与えられたらいいなと思っていました。
──僕はまんまと夏川さんの術中にハマったわけですね。
そういうふうに受け取ってくださった方がいたという確認が取れてよかったです(笑)。あと「パレイド」の作詞はワタナベハジメさんで、当時の私には自分で詞を書くという発想すらなかったんですね。でも、そこから作詞の経験も積ませてもらって「今の自分が『パレイド』と同じほうを向いて詞を書いたらどうなるのかな?」とずっと考えていたし、それをお客さんにも聴いてほしかったんです。なので、自分の中で「ササクレ」は「パレイド」の夏川作詞バージョンみたいなイメージもあって。あのときの自分と比べて考え方だったり物事の捉え方だったりも変わっているし、今の私の活動のスタンス、もっと言うと人生のスタンスを自分の言葉で書いたのが「ササクレ」ですね。
──作編曲者が同じだし、どちらも大雑把にいうと負の感情を吐き出して爆発するみたいな曲ですが、「ササクレ」は決して「パレイド」の焼き直しや二番煎じにはなっていないと思いました。
やっぱり同じことを言っているだけではいけないし、ソロアーティストデビュー5周年というタイミングもあり、バッドエンドにはしたくなくて。「パレイド」には停滞感がすごくあったんですけど、「ササクレ」に関しては主人公が徐々に顔を上げていくようなイメージで作詞しましたね。だから「パレイド」と「ササクレ」は口当たりは似ているかもしれないけれど、「ササクレ」のほうがちょっとだけ前向きに聞こえるような言葉をチョイスしていたりします。
──そういう曲を作りたくて山田さんにオーダーしたんですか?
いや、実はこの曲は「コンポジット」(2022年2月発売の2ndアルバム)のコンペでいただいた楽曲で、私が「これは、次のシングルにしたい」とキープさせてもらったんです。そのときは山田竜平さんの曲だと知らなかったので、あとで聞いて「え、そうなんだ!?」とびっくりして。
──山田さん、要所でいい仕事しますね。
そう、本当にそうなんですよ。山田さんが私に曲を書いてくださったのは「パレイド」以来4年ぶり2回目で、レコーディングのときに「オリンピックみたいですね」みたいな話をしていて。山田さんも「『パレイド』も『ササクレ』も感情を押し詰めたような曲だけど、そういう曲を作るときはそれなりの熱量が必要というか、自分の魂をぶつけなきゃいけない。でも、それはやろうと思ってできることじゃなくて、タイミングやそのときの自分の状態に左右される」とおっしゃっていたんです。だから夏川の5周年のタイミングと、山田さんが魂をぶつけられるタイミングがかち合ったのは、すごく運命的だなって思いましたね、うん。
自分の可能性を見落として「できない」と言うことをしたくない
──夏川さんはこれまでいろんなタイプの歌詞を書いてきましたが、「ササクレ」の歌詞は、例えば「トオボエ」や「ボクはゾンビ」(いずれも「コンポジット」収録曲)のような映像的でわかりやすいタイプとは違い、抽象度が高いですね。
おっしゃる通り「トオボエ」も「ボクはゾンビ」も、あと「烏合讃歌」(「コンポジット」収録曲)とかも頭の中でミュージックビデオを作るように、キャラクターを動かしながら詞を書いていたんですけど、「ササクレ」は1つのモチーフだけを見つめて書いたというか。具体的には、植木鉢からちょこんと出た“芽”をイメージしていたんです。ただ、そいつ自身の物語というよりは、そいつが比喩しているのは何かみたいなことを意識して書いていたので、植物を連想させるような言葉はBメロを除いて意図的に避けていますね。
──僕はまさに1番Bメロの「咲いたのかわかんないまま 実落として 出来たって言えっこないんだよ」という歌詞が特にしんどかったです。
そこに関しては、私の実体験として、ソロでデビューして歌を届けることに対して消極的だったときのことを書いています。当時、自分の中で能力とか才能みたいなものが開花している実感が全然なかったんですよね。努力はしてきたけれど、自分の落とした実が、つまり自分の歌が世間に認められる自信もなくて。もちろんデビュー自体は最終的には自分で決めたことだし、CDを出したりライブをしたりする中で得たものもあったんです。だけど、デビュー後しばらく経っても「これが夏川椎菜です」「私、できる子です」と言えない、自分に対して半信半疑なところがあって。
──それが2番Bメロでは「蒔いたのは わかんないまま見落として 出来ないってしたくはないから」と、少し目線が上向く感じになりますね。ついでに言うと1番の「実落として」が2番で「見落として」になっていて……。
私がよくやるやつです(笑)。
──耳で聞く音と、目で見る文字が異なるという。
音を同じにすれば歌詞を覚えるのが楽だからというのもあるんですけど、今回はバシッとハマったなと思っていて。1番では「できた」と言える自信がなったけど、2番では何かをやる前からあきらめて、自分の可能性を見落として「できない」と言うことをしたくない。ちゃんと挑戦はしたい、種は蒔きたいみたいな。