ナタリー PowerPush - 南壽あさ子
透明な歌声の奥に潜む強い意志 注目新人ロングインタビュー
透明感のある歌声
──改めてデビューシングル「フランネル」についてですが、これはどんな景色が浮かんで作られた曲ですか?
車で国道を走ってて、青空には雲が浮かんでて、気持ち良い風が通り抜けていくっていうイメージです。そこに自分の寂しい感情や、あなたとそばにいたいっていう気持ちを付けていきました。あとは1番と2番で昼と夜っていうふうに時間が変わるんですけど、そういう時間の流れも考えながら作りました。
──いろんな捉え方ができる歌詞ですよね。自分の根底にある思いをさらけ出したラブソングにもとれるし、孤独を歌った曲にも思えるし。
実はコンセプトは特に考えてなくて。人にどう思われるかっていうのもあまり気にしてないです。多分、ストレートにものを言えないタイプなので、わりといろんな捉え方ができる歌詞に自然となるんだと思います。うまくまとめようとかも、あまり考えていないので。
──迷いや危うさもストレートに閉じ込められた歌詞は、南壽さんの等身大の姿が反映されている?
そうですね。これは人生で2番目に書いた曲なんですけど、20歳の頃の自分がよく出てると思います。
──個人的には歌詞の「今をつらぬく力があるなら わたしは 生きるでしょうか」というフレーズが印象的で。語尾が問いかけになっていますよね。
東京に出てきてから、生きづらいなと思ったり、知らなくていいことを知っちゃったりってことがよくあって。もちろん時代のせいもあるからしょうがないんですけど、そんな状況に陥ったとしても「私は私の好きなことをやって貫いていけたら、自分は自分として生きていけるんじゃないか?」って思って。だからこれは自分自身への問いかけでもあるんです。
──伸びやかで美しい歌声にもすごく引き込まれました。昔から歌唱スタイルは変わらず?
昔のほうが少し荒かったと思います。根本的にはあまり変わってないんですけど、だんだんそういうトゲの部分を削っていった気がします。
──普段リスナーの方からは、歌声についてどう言われますか?
よく言っていただくのは「透明感がある」。このワードはかなり出てきますね。ありがたいなって思います。
自分のペースでずっと歌っていきたい
──カップリングの「例え話」と「星のもぐる海」は、どのようにできた曲ですか?
「例え話」は古めかしくて浪漫的な感じをイメージして。いつも空想半分、自分の感情を半分で混ぜてるんですけど、これはわりと幸せな曲になってますね。「星のもぐる海」は、ほぼ真っ暗な状態の空に星がたくさん散りばめられてて、それが雨みたいに落ちて海にもぐっていくイメージです。その海の中にある星をすくえたら自分の願いも叶う気がするっていう、わずかな希望も織り交ぜながら書いてみました。
──ちなみに今回の3曲は、全て一人称が違いますよね。「わたし」や「あたし」だったり、「ぼく」だったり。
そうですね。その辺は特にこだわってないというか、歌詞はそれぞれ別の小説や絵を描いてるようなイメージなので。ひとつひとつの主人公や人が違っているので、自然と一人称も変わるんだと思います。
──今後の楽曲にも期待が高まりますが、やはり書いていきたいものは「寂しさ」や「心もとなさ」、またはそこからつながっている何かですか?
大体そういうものだと思います。あとは空や海とか、いろんな景色に歌を乗せていけたらいいなとも思っていて。そういう意味では、作品には限りがないですね。
──今後は、どういうペースで作品を作っていきたいですか? 流れに身を任せて生きるタイプ、というお話もありましたが。
そうですね。元々なんでもゆっくりなので、急かされることに弱いんですよ(笑)。これからはそういうわけにもいかなくなってくるのかなとも思うんですけど、自分のペースは常に持って、崩れないようにしていきたいとは思っています。
──南壽さんのアーティスト人生で、こうなったときが到達点とか、夢に描いていることってありますか?
今は正直あまり見えていなくて。自分のペースでずっと歌っていって、それを長く続けられることが一番の理想ではあるんですけど……。あ、でもそんな中でひとつ思うのは、歌の内容が変わっていくことも今後あり得るかなって。その時々の感情を乗せているので、それがこの先どうなるかは自分でもわからないですから。あとは今からいろいろ経験していく中で知ることや感じることもあると思うので、それを機に何かが変わっていくかもしれないです。今はそれが楽しみでもありますね。
【PV】南壽あさ子 / フランネル
南壽あさ子(なすあさこ)
1989年千葉県佐倉市出身のシンガーソングライター。幼少の頃からピアノを始め、大学時代に軽音部に所属。2010年より東京都内を中心にライブ活動を行い、2012年4月にライブ会場と一部店舗でデモ音源「回遊魚の原風景」を300枚限定でリリースし、約2カ月で完売。そして同年6月に湯浅篤をプロデューサーに迎えたシングル「フランネル」でインディーズデビューを果たした。なお、「フランネル」は収録曲全てに番組タイアップや各地FMのパワープレイが決定している。