ナタリー PowerPush - 南壽あさ子

透明な歌声の奥に潜む強い意志 注目新人ロングインタビュー

自己満足を人に見せてる

──先程ステージへの反応をもらったことで曲作りへの姿勢が変わったというお話がありました。具体的には、一緒に歌ってくれたり、拍手をもらったりっていう目の前の光景がうれしかったんですか?

南壽あさ子

初めてのときは、お客さんが温かい目で見ててくれて、終了後に「感動しました」っていう声をもらって。今まではステージを観てる側だったけど、「ほかのアーティストの人たちはこういう感じを味わってるんだ」っていうのが少しわかった気がしたんです。

──それは音楽を通して誰かとつながるっていう感覚ですか?

そうですね。私にとっては、それがすごく衝撃で。1人で歌ってるときは自分の好きなようにやってるんですけど、その自己満足を人に見せてるっていうのが不思議な感覚だったんです。しかも、自分が気持ち良くなってるだけなのに、相手も同じような感覚になってくれたりするのってすごいなって。これはやってる意味があるなって思いました。

──その感覚にハマっちゃったってことですね。

ハマりましたねー(笑)。

──以後、今回のインディーズデビューを掴んだきっかけは?

大学時代よく出ていた吉祥寺のSTAR PINE'S CAFEが、現在の所属事務所の系列で。STAR PINE'S CAFEのスタッフさんが事務所に紹介してくれたことがきっかけでリリースに至りました。

──なるほど。話は少し戻りますが、南壽さんが本格的に曲作りを始めたのは大学生(20歳)の頃。ずっとアーティストになりたいという気持ちはあったにしろ、決して早いスタートではないですよね。

そうなんです。熱は内に秘めてるんですけど、積極性が足りないといいますか。でも、いつか何かが導いてくれるきっかけがあるかなと思ってて、それを信じて待ってたような気もするんです。自分がそういう運命なら、そういうときが来るだろうって。

──10代のころからオーディションを受けたり、がむしゃらに夢を追わなくても、いつかそういう運命になるのかなって?

自信があったわけじゃないんですけど、わりと流れに身を任せて生きるタイプなんだと思います。

──でも現在23歳ということで、曲作りを始めてからわずか3年でデビュー。そこのスピードは早いですよね。

すごくありがたいと思ってるし、運と縁もあったのかなって。それに、ずっと言えなかった「歌手になりたい」っていう夢を大学時代は周りにも伝えるようになってたんです。隠す必要もないくらいの年代になってたし(笑)、言ってれば実現すると思ってたのも大きかったのかな。

一番強い感情は寂しさと心もとなさ

──ここからは南壽さんの作品性についてもお訊きします。まずデビューシングル「フランネル」を聴いたときに、心がすごく落ち着いて。現代のスピード社会にいい意味で逆行してるというか、ゆりかごに揺られているような感覚になりました。

ありがとうございます。

──音楽でこれを届けていきたいっていうものはありますか? もしくは、なんのために音楽をやっていきたいんでしょうか?

南壽あさ子

自分にしか歌えないものや思いを歌で表現したり、誰かの心に寄り添うような歌を届けたいっていうのがまず第一にあります。その中身は、基本的には寂しさや心もとなさといった気持ち。それが自分の感情の中で一番強い部分だと思うし、自分には明るすぎる感情はあまりないと思います。

──その「寂しさ」や「心もとなさ」は、どんなときに感じるんですか? それとも、常に心のどこかにあるものですか?

常にありますね。孤独という言葉ともちょっと違うんですけど。自分は(精神的に)結構不安定なほうだと思うんですが、そのバランスを取ってくれるのが昔から歌だったんです。

──歌が救いになった?

曲を作ってるときはそうでもないんですけど、ステージで歌うと、そこに込めた思いが浄化される気がして。人間なので、その感情がまた湧き出てきたり、なくなるものではないんですが、汚れたらまた浄化して……。そういうことの繰り返しですね。

──楽曲はどういったときに生まれるんですか?

常に、という言い方が正しいかわからないですが、歩いてるとき、お風呂に入ってるとき……なんとなくアイデアが浮かべばそれを書き留めておいて。それはわりと自然な作業で、あまり意気込んで作ったりはしてないですね。もっと言うと、メロディが浮かんだときは、その時点でもう描きたい景色が見えてて。作詞は、そこで浮かんだ感覚的な風景を言葉に置き換えていくっていう感じです。

南壽あさ子(なすあさこ)

南壽あさ子

1989年千葉県佐倉市出身のシンガーソングライター。幼少の頃からピアノを始め、大学時代に軽音部に所属。2010年より東京都内を中心にライブ活動を行い、2012年4月にライブ会場と一部店舗でデモ音源「回遊魚の原風景」を300枚限定でリリースし、約2カ月で完売。そして同年6月に湯浅篤をプロデューサーに迎えたシングル「フランネル」でインディーズデビューを果たした。なお、「フランネル」は収録曲全てに番組タイアップや各地FMのパワープレイが決定している。