NARITA THOMAS SIMPSON初アルバムインタビュー|成田昭次、寺岡呼人、青山英樹が歩む、それぞれの人生の一本道 (2/2)

50歳過ぎて、ようやく自分を受け入れられるようになったのかな

──「名もない愛の物語」(作詞・作曲:成田昭次)もUKロックのテイストが反映されていますね。

寺岡 「ブリティッシュっぽくしていいかな?」とLINEで昭次くんに確認しましたね。

成田 「こうしたいんでしょ?」「はい」という感じですね(笑)。さっきも言いましたけど、自分のデモ音源はアコギとボーカルだけなんですよ。そこから先は委ねたほうがいいのかなと思っていて。自分のプレイにこだわる人もいるだろうし、それも大事なことなんだけど、そこまで追求しても、たぶん本人にしかわからない気がするんですよ。昔は僕もそうだったんですけどね。すごく神経質だったし、ボーカルの音程やギターのフレーズを含めて、細かいところがすごく気になって。今はそうじゃなくて「ちょっと不器用だけど、このテイクはもう二度と録れないよね」と思えるようになりました。もちろん呼人さんとの信頼関係も大きいです。ギターソロも「呼人さんがOKと言ってくれるんだから、大丈夫」と思えるので。50歳過ぎて、ようやく自分を受け入れられるようになったのかなと。

青山 お互いのことがよくわかっているし、仲もいいですからね(笑)。僕自身は普段、“はじめまして”という環境でレコーディングすることも多いんですけど、NARITA THOMAS SIMPSONはそうじゃなくて、ここまでの活動の中で築いた信頼関係があるので。

成田 英樹くんには何もリクエストする必要がないんですよ。

寺岡 そう。さっきも話に出てたけど、すぐに曲のイメージをつかんでくれるので。だから僕が作るデモ音源のドラムもだんだん適当になってるんですよ(笑)。

成田 僕らも英樹くんのオリジナリティを求めてますからね。そういう関係がバンドの未来につながっていくと思ってます。

──「クライシス」(作詞・作曲:成田昭次)は憂いを帯びたミディアムチューンです。「空の巣になった 情熱の矛先には / 逃げ場のない 執着が潰れてる」という歌詞もそうですが、成田さん自身の内面が吐露されている楽曲だなと。

成田 そうですね。僕は10年以上、名古屋に戻って、音楽から離れていた時期があって。ギターも弾かず歌も歌わず、一般の社会で働いていたんですけど、「クライシス」の歌詞はそのときの思いですよね。当時の日々の苦しみや悲しみが出ていて……。今はこうやって音楽をやらせてもらっていますが、自分の言葉でその頃のことを伝えるのは難しくて。この曲ができたときは「曲を通して、歌詞を通して伝えるところまで来れたんだな」と思いました。

寺岡 昭次くんが書いた歌詞には一切、手を加えてなくて。「このまま出すのが自分の役目だな」と思っていたし、バンドとしてどうアレンジするかだけを考えていました。

寺岡呼人(B)

寺岡呼人(B)

──「君が欲しい」(作詞・作曲:寺岡呼人)の「同じ時代を生きた仲間が / 今日も1人天国へ旅立った」という歌い出しにもグッと来ました。

成田 まさにリアルタイムですよね。去年から今年にかけて起きたこと、今の社会情勢を見事に捉えているし、一方でいつの時代に歌ってもいい、万人が共感できる感情をしっかり打ち出していて。

寺岡 昭次くんが3曲作ってきて、「これに対して、どういう曲を書こうか?」という感じだったんですよ。あとは僕の中で「実験したい」という気持ちもありました。「昭次くんの声で、こういう曲を歌ったらどうなるだろう?」という。

成田 呼人さんが作る曲は、男闘呼組も含めて「一度も通ったことがないメロディラインだな」と思うことがけっこうあって。音程の高低差があって難しいこともあるんですけど、自分のいろいろな部分を引き出してくれるし、周りの人から「こういう感じの昭次の歌は初めてだな」と言われることも多いんです。自分でも「こういう曲も歌えるんだな」と感じてますね。

それぞれの道を歩んで、その間にいろんなことが起きても、一生その道を歩いていくしかない

──「B・P・M!」(作詞・作曲:RYO)はディスコティックな楽曲です。アルバムの中でも際立ってカラフルなサウンドですね。

寺岡 この曲はLittle Black DressのRYOさんが書いてくれて。デモ音源の段階からしっかりアレンジされていたんですよ。昭次くんと違って(笑)。

成田 (笑)。ベース、ドラムもしっかり入ってたからね。さすがZ世代。

寺岡 ハハハ。デモの完成度が高かったので、ほぼそのまま生かしてますね。

成田 アルバムの中で、この曲だけパーティみたいな雰囲気があって。すごくハジけてるし、収録できてよかったです。RYOさんに感謝ですね。

──そして「思い出になる日まで」(作詞:寺岡呼人、西野蒟蒻 / 作曲:寺岡呼人)は80年代の歌謡曲やニューミュージック、シティポップの雰囲気を感じさせるラブソングです。青山さんはこの曲をどう捉えていますか?

青山 親父(80年代~90年代に活躍した名ドラマー・青山純)はこういうサウンドのど真ん中にいたんですよ。

寺岡 そうだよね。

青山 当時はドラムに興味がなくて。スポーツ少年だったのであまり知らなかったんですけど、今になってみると「ちゃんと聴いておけばよかったな」と思いますね。この曲のドラム、一番難しいんですよ。間の取り方とか、タイム感とか。

成田 わかる。レイドバックしたほうがいいんだけど、ちょっと前に行っちゃいがちなんだよね。

寺岡 全員ね(笑)。昭次くんのソロ曲でブラスが入ったブラックミュージックっぽい曲があって。NARITA THOMAS SIMPSONでもそういうテイストの曲をやってみたいなと思って作った曲なんですよ。ライブでもいい役割を果たしてくれてます。

成田 そうだね。この曲、アルバム制作の最後に録ったんですよ。当初は7曲の予定だったんだけど、呼人さんが「実はもう1曲あるんだけど」って(笑)。

──アルバム最後の「いっぽんみち」(作詞・作曲:成田昭次)は、成田さんが歌う「人生はいっぽんみち 生きてゆく」という歌詞の説得力に圧倒されました。

成田 15年ぶりに曲を書いて、その中で言いたいことをすべて集約している曲だと思っています。音楽から離れて、また戻ってきて。「ここからやり続けるんだ」という信念も込めてますね。呼人さんもライブのMCで言ってくれたんですけど、誰の人生も一本道だと思うんです。それぞれの道を歩んで、その間にいろんなことが起きて。でも、一生その道を歩いていくしかないっていう。

寺岡 昭次さんの心情が一番出ている曲だと思いますね。内省的な感じで始まって、サビで平和的な雰囲気になるバランスもすごくいいなと。

──青山さんはこの曲の歌詞について、どう感じていますか?

青山 僕はまだ30代なので、人生のスタートラインに立ったばかりだと思っていて。成田さんがこの曲に込めた思いを噛みしめながら演奏させてもらってます。

成田 英樹くんはドラマーとして一本道を歩んでると思うけどね。すごくリスペクトしているし、年齢に関係なく、本当にたくさんのことを学ばせてもらっています。あと「いっぽんみち」は最初、漢字のタイトルだったんですよ。でも道は開いていったほうがいいし、(漢字から平仮名に)開いたほうがいいなと。

男闘呼組やRockon Social ClubとNARITA THOMAS SIMPSONとの大きな違い

──成田さんは15年ぶりに曲を書いたこともそうですが、アルバム「冒険者たちのうた」を作り上げたことで「ここから新たな音楽キャリアが始まる」という感覚もあるのでは?

成田 そうですね。男闘呼組、成田商事、Rockon Social Clubとバンドを経験させてもらって。当初はブランクを気にしていたんですけど、今は「もっと先に行けそうだな」と思えるところまで来られた。そういう意味ではスタートラインに立ったところなのかなと。この先は自分がどれだけ新しいものが生み出せるか、どこまでトライできるかが大事だと思っています。仕事のオファーがあったときに、「無理そうだな」と断るのは簡単じゃないですか。プレッシャーを感じながらトライすることが大事というか。僕自身、ひさしぶりに東京に出てきて活動を再開させてからは、できるだけ受け入れるようにしているんです。正直「やれるのかな」という依頼もありましたが、人生は一度しかないし、思い切ってやってみることで自分の未来につながるんじゃないかなと。そうすることによって、応援してくれる方々にどこまで喜んでもらえるか? そこに挑戦するのが僕らの仕事なので。

──そうですね。

成田 音楽においてもそうで。新しく開花できる要素が自分にあるのなら、どんどんやってみたいと思っています。呼人さんが作ってくれる曲についても、自分自身がモノにできなければつまらないものになってしまう。やるからには100%自分のモノにする。その姿勢があるかないかで全然違うと思うし、自分で言うのもおかしいですけど、1年ごとに成長できている実感がありますね。

──寺岡さん、青山さんは現在の“アーティスト・成田昭次”に対して、どんな印象を持っていますか?

青山 成田さんとは3、4年くらい一緒に音楽をやらせてもらっていますが、かなり印象が変わりましたね。最初はピリッとしていて怖いイメージだったんですが、実際はすごく優しい方で。ライブの雰囲気も変化していると思います。男闘呼組では当時の勢いを取り戻すような感じでライブをやっていたんですけど、NARITA THOMAS SIMPSONはもうちょっと柔らかい。もちろん歌ってるときはカッコいいんですけど、トークはちょっと笑えるというか、ホンワカしていて(笑)。

成田 そうかもね(笑)。

青山 ギャップ萌えじゃないですけど(笑)、お客さんもその違いが楽しいんじゃないかなって。

寺岡 確かにちょっとゆるいよね(笑)。男闘呼組やRockon Social ClubとNARITA THOMAS SIMPSONとの大きな違いは、成田昭次がメインボーカルを取ることだと思っていて。しかも昭次くんはこの3年間の中でどんどん進化しているんですよ。そのことを踏まえて、次の作品がどうなるのか、今後どんなライブができるのか。僕自身もそれがすごく楽しみですね。

NARITA THOMAS SIMPSON

NARITA THOMAS SIMPSON

プロフィール

NARITA THOMAS SIMPSON(ナリタトーマスシンプソン)

成田昭次(Vo, G)、寺岡呼人(B)、青山英樹(Dr)という、現在はRockon Social Clubのメンバーとしても活動する3人により、2022年6月に“成田商事”として結成。同年10月にミニアルバム「ボストンバッグ」を発表した。2023年9月に現在のバンド名に改名。2024年4月10日に1stアルバム「冒険者たちのうた」をリリースした。「音楽の力を通じて社会を活性化し、創造性と革新の新たな未来を切り拓く」をモットーに活動している。