ナタリー PowerPush - THE NAMPA BOYS

19歳の“今”を切り取った「froM」

「到来」は“悪のヒーロー”みたいな曲

──ミニアルバム「froM」は、「到来」という曲が1曲目を飾っています。これは去年リリースされたライブ会場限定CDにも入っていた曲ですが、これを作ったときはどういう状況でしたか?

小林 とにかくイライラしてたと思うんですよね。自分たちが認められてないという思いがあったり、焦ってたりっていうのがあって。周りの大人には「そんな焦んなくてもいいんじゃない?」とか言われたりしますけど、俺はもやもやしてた部分がすごくあって。で、この曲を作ってた頃は荒れてたというか。

澤柳昌孝(G) ああ、確かに荒れてたかも。

ライブフォト

小林 そういう中で作った曲ですね。どうも、自分のいる場所って、闇なんですよ。もし「閃光ライオット」に出てからそのまま盤を出せていたらこうはなんなかったかもしれないですけど、自分の中でバンドとか生活っていうのは、影というか、負のフィールドが多い。そういう中で、「自分はここにいるよ」というのを曲に昇華したかった。承認欲求もあると思います。自分の中では、「到来」はいわゆる負のエネルギーから生まれた悪のヒーローみたいな曲なんです。

──正義の味方ではない?

小林 ないですね。俺は正義の味方には絶対なれないだろうなって思う。

──一方、このミニアルバムの最後には「待つ元」という曲がされています。これも「到来」と同じく印象的な曲で、バンドにとって非常に大事な曲であると感じました。

小林 そうですね。

──この曲はどれくらいの時期にできた?

小林 去年の9月ぐらいです。

──これは上京してきた自分たちを歌った歌ですよね。東京をコンセプトにした、「東京こんぴ」というアルバムにくるりやサニーデイ・サービスと並んで「東京」という曲名で入っていておかしくないタイプの曲だと思うんです。

澤柳 その感想はめっちゃうれしいです。

小林 実際にタイトルを「東京」にしようかと思っていたんです。でも、これは別に東京のことを歌ってるわけじゃないなと思って。地元に帰ったときの温かさであったり、そのときに抱えている悩みとか寂しさを歌った曲で。10年後に振り返ったら「お前なんでこんなことで悩んでんだよ」みたいな、すごい小さなものに思えるかもしれないですけど、やっぱりそのときに抱えてる悩みっていうのは、絶対的なものだと思うんで。やっぱり地元に帰るとすごく癒されるし、自分の場所があるというのをほんとに実感する。だから、この曲は地元に対して捧げてるものだなと思って、この曲名にしました。

松本にいる人ほど郷土愛が大きい気がする

──THE NAMPA BOYSって全員松本出身なんですよね。

小林 はい。

──例えば沖縄には沖縄の人なりの、東北には東北人なりの地元への思いがあると思うんですけれども、松本の人が地元に対して持ってる感情ってどういうものなんですか?

ライブフォト

小林 まず、東京に対する憧れがすごく強いんですよね。最近は変に街並みも都会っぽいし。

田中 エセ都会なんですよ(笑)。なんかわからないけれど、東京への憧れは強いですね。

小林 あと年を重ねるごとに地元の人は閉鎖的になってるような気がしますね。

澤柳 開放的な人は少ないですね。山に閉じ込められてるせいかな?(笑)

小林 松本にずっといる人ほど、郷土愛というか、「お前らには負けん!」みたいなプライドが大きい気がします。うちのじいちゃんとか、特にそうなんですけど(笑)。

──その東京の生活と地元への思いを歌った「待つ元」が、「死にたいと思うこと 生きたいと思うこと まあガムを噛んで吐き気を整える 生活」っていうフレーズから始まっているわけですけれども、ここにはどういう思いが込められているんですか?

小林 歌詞を書いたとき、すごく精神的にきつかったんですよね。このバンドで大丈夫だと思う反面、自分が何も残していないっていうのもあるし、先が見えないというのもあって。これで生きていけるとは到底言えないし。そう思いながらバイト先と自宅を往復するような日々を続けていて。そういう日常を正当化しようとした感じです。

──なるほど。

小林 正と負が入り混じってるような中で正気を保つのはなかなか難しくて。道行く人みんなにムカついてたりもしてた。そういうときにできた曲ですね。生と死についても考えるし。泊まるところなくてマンガ喫茶入ったりしてるし、吐きそうだけどガム噛んでなんとかやってるっていう。そういう日常を歌で昇華したかった。ある意味、自分は大丈夫だっていうのを証明したかったっていう感じですね。それでもなんとか前を向けたよって歌いたかった。それでなんとかやっていけた感じはしましたね。

ミニアルバム「froM」/ 2012年7月11日発売 / 1680円 / A-Sketch / muddy water records / AMWR-1004

CD収録曲
  1. 到来
  2. プランジ
  3. 月照
  4. 螺旋インセクト
  5. キャンバス
  6. 待つ元
THE NAMPA BOYS(なんぱぼーいず)

プロフィール写真

2005年に小林聡里(Vo, G)と田中悠貴(B)を中心に結成された4人組ロックバンド。メンバー全員が長野県松本市出身で、2008年の第1回「閃光ライオット」にて本戦出場を果たし、大きな注目を集める。その後地元での活動を経て、高校卒業を機に上京。都内で精力的なライブ活動を行う中で、現在の所属レーベルのスタッフの目に留まり、6月6日にテレビ東京系「クローバー」のオープニングテーマに起用された「プランジ」でデビュー。同年7月にミニアルバム「froM」をリリースする。