中山美穂の「ザ・ベストテン」全出演シーンがBlu-ray5枚に、歌手としての輝かしい足跡を振り返る (2/2)

豪華作家陣と作り上げた息の長い名曲たち

1986年は慌ただしい1年となった。まずは「ザ・ベストテン」1月9日放送回に「BE-BOP-HIGHSCHOOL」が初ランクイン。歌唱前にはスカウト後の最初の仕事だった白泉社「花とゆめ」応募者全員プレゼントページ(柴田昌弘「ブルー・ソネット」のバインダー)でモデルを務めた12歳の頃の写真が紹介された。同曲は「週刊ヤングマガジン」連載、きうちかずひろの人気コミックを実写化した東映映画「ビー・バップ・ハイスクール」の主題歌として制作され、自身もトオル(仲村トオル)とヒロシ(清水宏次朗)のマドンナ・今日子役で出演。「BE-BOP-HIGHSCHOOL」は手に負えない不良たちを母性で見守るような歌詞と曲調が人気を博し、4週連続でランクインした(5→7→9→9)。緑山スタジオからの中継では“番組が用意した屋台のラーメンを食べるタクシー運転手たちの背中越しに歌う中山美穂”というシュールな演出が一部で話題になった。

2月5日には4thシングル「色・ホワイトブレンド」をリリース(作詞・作曲:竹内まりや / 編曲:清水信之)。表題曲は中山自身がCMに出演した資生堂'86春のキャンペーンソングで、竹内まりやが楽曲を提供した。レコーディング時、竹内は歌い方などを直接指導し、コーラスにも参加している。同曲は「ザ・ベストテン」2月20日放送回に10位で初登場した。中山は東京・有楽町で中継車の上から歌唱。「この歌を歌うときは毎回違う白い衣装を着たいです」と語り、6週ランクイン(10→10→9→5→6→7)で実際にその夢を叶えている。4月には初のコンサートツアー「VIRGIN FLIGHT」(全5公演)が開催された。倉橋ルイ子「ラストシーンに愛をこめて」、中森明菜「モナリザ」のカバーも披露された同ツアーは「VIRGIN FLIGHT '86 中山美穂ファースト・コンサート」としてライブアルバムになっている。

5月16日リリースの5thシングル「クローズ・アップ」(作詞:松本隆 / 作曲:財津和夫 / 編曲:大村雅朗)では財津和夫を初起用。財津が松田聖子に提供した「白いパラソル」や「夏の扉」を思わせるフレッシュなサウンドに、5作目のタイミングで挑戦しているのも興味深い。サビの「存在感 大きな人ね」の歌声が印象に残る。「ザ・ベストテン」で12歳下の弟を初めて紹介したのもこの曲の出演回。「クローズ・アップ」は5月29日放送回で初登場し、3週ランクイン(7→4→8)を果たした。

7月15日リリースの6thシングル「JINGI・愛してもらいます」(作詞:松本隆 / 作曲:小室哲哉 / 編曲:大村雅朗)は、渡辺美里「My Revolution」の大ヒットで注目され始めた当時27歳の小室哲哉が初提供。東映映画「ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌」の主題歌であることを意識した歌詞と、打ち込みのシンセサウンドがユニークに絡み合う楽曲となっている。余談だが、デビュー曲「『C』」のB面は「スピード・ウェイ」(作詞:松本隆 / 作曲:林哲司 / 編曲:萩田光雄)で、TM NETWORK結成前に小室が在籍していたバンドの名前もSPEEDWAY(スピードウェイ)だった。「JINGI・愛してもらいます」は8月7日放送回で初登場し、3週ランクイン(10→圏外→10→10)。新幹線移動の途中駅停車中に歌唱する予定が音声トラブルで歌うことができないまま発車し、次の名古屋駅で歌い直すというハプニングも当時大きな話題となった。閉まりゆく窓越しに見える、戸惑う表情に注目いただきたい。

前作から間髪をいれず8月21日にリリースされた7thシングル「ツイてるね ノッてるね」(作詞:松本隆 / 作曲:筒美京平 / 編曲:大村雅朗、船山基紀)は、再び中山自身がCMに出演した資生堂’86秋のキャンペーンソング。歌い出しの「Lucky Girl…」から、一度タメを効かせる「あぶない恋はいつもいつもルーレット」まで、ヒットの法則を知り尽くした松本・筒美コンビによる極上の高速ダンスチューンだ。「『C』」と同じBPM160の楽曲だが、タイトル通り“ノッてる”感がパフォーマンスからしっかり伝わり、成長を感じさせてくれる。中山は9月4日放送の同曲の初登場回にて、ロケ先の沖縄県ムーンビーチからの中継で歌唱。日に焼けた素肌、アップにした髪が健康的で、当時まだ全国区ではなかったイラブーやミミガーなどの沖縄料理に挑戦した。この曲は8週ランクインし(8→4→4→4→3→4→8→9)、自己最高の3位を記録した。

続いてフジテレビ系ドラマ「な・ま・い・き盛り」の主題歌として11月21日にリリースされた8thシングル「WAKU WAKUさせて」(作詞:松本隆 / 作曲:筒美京平 / 編曲:船山基紀)では、当時頭角を現してきたイギリスのプロデューサーチーム・Stock Aitken Waterman風のサウンドにアプローチ。中山が歌う「頭ん中 Upside-down 空っぽに消去して 身体ん中 High and High 爆薬をしかけてね」というフレーズのドライブ感も実に心地よく、福住チーフプロデューサーもこの楽曲を記念碑的作品だと高く評価している。12月4日放送回で初登場したのち9週連続でランクイン(10→7→3→3→4→4→5→6→7)し、中山は年をまたいで翌年の2月5日放送回まで同曲で番組に出演している。新人アイドルやバンドが次々と登場し、チャートの入れ替わりが激しい時代に、こうした息の長い楽曲を生み出せるようになったことは彼女にとって大きな強みだった。この曲は衣装も凝ったものが多く、髪型やメイクとあわせて実に見応えがある。

「WAKU WAKUさせて」を歌う中山美穂。

「WAKU WAKUさせて」を歌う中山美穂。

1987年3月18日リリースの9thシングル「『派手!!!』」(作詞:松本隆 / 作曲:筒美京平 / 編曲:船山基紀)は、3人の子持ちの中学教師と極秘結婚したトップアイドル・中山美穂を本人が演じるという攻めた設定のTBS系ドラマ「ママはアイドル!」の主題歌。前年ヒットした小泉今日子「なんてったってアイドル」(作詞:秋元康 / 作曲:筒美京平 / 編曲:鷺巣詩郎)への目配せも感じさせる、大人の遊びを含んだ楽曲だ。この曲は4月2日放送回で初登場し、5週ランクイン(5→4→4→7→6)。中山はドラマ撮影で多忙を極める時期だったが、同じ緑山スタジオで収録していた人気番組「風雲!たけし城」の戦車に乗って歌う貴重な姿が届けられた。

J-POPの時代を軽やかに

1987年7月7日リリースの10thシングル「50/50」(作詞:田口俊 / 作曲:小室哲哉 / 編曲:船山基紀)では、南野陽子「パンドラの恋人」(作詞:田口俊 / 作曲:亀井登志夫 / 編曲:萩田光雄)で注目された作詞家・田口俊を初起用。この頃、小室も自身のグループ・TM NETWORKの「Get Wild」(作詞:小室みつ子 / 作曲・編曲:小室哲哉)で初のベストテン入りを果たしている。「50/50」はカリプソ風のリズムに、フックの効いたボーカルメロディで歌われる「ばかにしないで かけひきなら 50/50 甘い罠」というフレーズが心地よいサマーソングだ。福住チーフプロデューサーいわく「C」で提示した“男女対等の関係”は、ここにもつながっているとのこと。全国30公演に及ぶ1987年夏のコンサートツアー「ONE AND ONLY これっきゃない!」用に結成されたバックバンド、Liberty ClubにはDREAMS COME TRUE結成前の中村正人がベーシストとして参加している。「50/50」は7月23日放送回で初登場し、9週ランクイン(7→4→5→3→3→2→2→4→9)。6週かけて2位まで上昇という珍しいチャートの動きだが、バンドとの息の合ったパフォーマンスを“もう一度観たい”と思った人がそれだけ多かったのだろう。中山の軽やかなステップは毎回見とれてしまう。

本人主演のフジテレビ系ドラマ「おヒマなら来てよネ!」の主題歌となった1987年10月7日リリースの11thシングル「CATCH ME」(作詞・作曲・編曲:角松敏生)は、前年7月リリースの3rdアルバム「SUMMER BREEZE」に「Leave Me Alone」「Rising Love」などを提供してきたプロデューサー / シンガーソングライターの角松敏生が全面プロデュース。得意のニューヨークサウンドとユーロビートを融合させたスタイルで新しい風を吹き込むことに成功している。10月22日放送回で初登場し、7週ランクインした(7→4→3→2→2→6→10)。

引き続き、角松は1988年2月10日リリースの6thアルバム「CATCH THE NITE」、2月17日リリースの12thシングル「You're My Only Shinin' Star」(作詞・作曲・編曲:角松敏生 / ストリングスアレンジ:大谷和夫 / ブラスアレンジ:数原晋)をプロデュース。「You're~」は1986年発売の3rdアルバム「SUMMER BREEZE」のラストを飾ったバラードで、ファン人気も高く中山本人も気に入っていたことから新たにシングルバージョンとして再レコーディングされた。初のバラードシングルということで、衣装も大人びたオフショルダーのドレス姿で歌うことが多かった。この曲は3月3日放送回で初登場し、10週ランクイン(5→4→3→7→6→5→7→8→9→9)。18歳の誕生日(3月1日)をケーキで祝われ、黒柳が「18歳になって何がしたい?」と聞くと「免許を取りたい」と答えるやりとりもあった。その後、実際に免許を取得し、ドライブを趣味にしていた話が過去のインタビューで語られている。愛車は赤いアウディだったそうだ(GQ Japan「愛車の履歴書」インタビューより)。

「You’re My Only Shinin’ Star」を歌う中山美穂。

「You’re My Only Shinin’ Star」を歌う中山美穂。

“大人びた”から真の大人へ。中山は1988年7月11日リリースの13thシングル「人魚姫 mermaid」(作詞:康珍化 / 作曲:CINDY / 編曲:ロッド・アントーン)で念願の1位の座を獲得。初ランキング入りから68週目のことだった。シンガーソングライターのCINDYは同日発売の7thアルバム「Mind Game」収録の「Mind Game」「I Know」で初参加となったが、筒美や角松とも異なるブラックコンテンポラリー感を持つ彼女は中山とのプロジェクトで素晴らしい作品を数々残している。わかりやすいサビがある楽曲ではないが、「人魚姫 mermaid」は本人主演のTBS系ドラマ「若奥さまは腕まくり!」主題歌ということもあって大ヒット。7月28日放送回で初登場し、12週ランクインした(4→3→2→1→2→1→3→1→3→3→4→6)。返り咲きも含めて1位に計3度輝いているが、これはほかにラッツ&スター「め組のひと」、田原俊彦「抱きしめてTONIGHT」しか成し得ていない記録であり、番組内でも折れ線グラフのパネルを用意して偉業を讃えている。同年11月14日リリースの14thシングル「Witches」(作詞:康珍化 / 作曲:CINDY / 編曲:鳥山雄司)は前作からの“フェアリーコンセプト”第2弾で、天使か魔女のどちらにするか考慮した結果、魔女が選ばれたという。「Witches」は12月1日放送回で初登場し、10週ランクイン(8→5→2→4→3→3→3→5→6→7)。中山はこの曲で年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。

1989年2月21日リリースの15thシングル「ROSÉCOLOR」(作詞:康珍化 / 作曲:CINDY / 編曲:鳥山雄司)は、本人出演の資生堂’89スプリングキャンペーンソングに使用されたメロウなバラード。3月9日放送回で初登場し、8週ランクインした(10→6→5→5→5→5→6→10)。7月12日リリースの16thシングル「VIRGIN EYES」(作詞:吉元由美 / 作曲:杏里 / 編曲:小倉泰治)は主演映画「どっちにするの。」の主題歌として制作され、かねてから中山が大ファンを公言してきたシンガーソングライター杏里からの初提供が実現した。この曲は7月27日放送回で初登場し、10週ランクイン(10→8→6→6→8→10→9→9→8→10)。映画の共演者である風間トオル、宮沢りえ、真田広之の前で披露する機会にも恵まれた。中山は「ザ・ベストテン」最終回にも出演し、「すごく寂しいです」と気持ちを伝えると、黒柳も「美穂ちゃんはどんなに忙しくても必ず、中継でも出てくださいましたもんね」と感謝の言葉を添えた。作り手が本気で視聴者を感動させようと全力を尽くしてきた「ザ・ベストテン」にはここでしか見られない歌手の表情があった。

「~Miho Nakayama 40th Anniversary~ 中山美穂『ザ・ベストテン』永久保存版」には「ザ・ベストテン」終了後にリリースされたシングル曲についても、TBSの番組で歌唱した映像が残っているものを収録している。WANDSとのコラボレーションでダブルミリオンの大ヒットとなった「世界中の誰よりきっと」、今もなおクリスマスソングの定番として愛され続ける「遠い街のどこかで…」、複数のダンサーを従えて歌い踊るラテンハウスナンバーの「Rosa」、ボディコンシャスな衣装が神々しい「女神たちの冒険」、竹下欣伸の編曲が冴える隠れた名曲「マーチ カラー」……。ボーナストラックからは幼少時に憧れたキャンディーズを1人3役のヘアアレンジと衣装でカバーする「春一番」「やさしい悪魔」「微笑がえし」メドレー、松任谷由実「恋人がサンタクロース」のカバー、「WAKU WAKUさせて」B面曲でファン人気の高い「ハートのスイッチを押して」の映像をファンの方にぜひオススメしたい。

素晴らしい映像作品に心から感謝を。そして中山美穂さん、デビュー40周年おめでとうございます。

中山美穂

中山美穂

プロフィール

中山美穂(ナカヤマミホ)

1970年3月1日生まれ、東京都出身の女優、歌手。1985年にシングル「『C』」で歌手デビューし、同年に「第27回 日本レコード大賞 最優秀新人賞」を受賞した。その後も女優と歌手活動を両立し、1992年に中山美穂&WANDS名義でリリースした「世界中の誰よりきっと」や1994年発表の「ただ泣きたくなるの」がミリオンセラーを記録。1999年以降は女優業に専念していたが、約20年の時を超えて2019年12月に高田漣が全曲アレンジしたニューアルバム「Neuf Neuf」を発表した。2024年12月6日に逝去。TBS「ザ・ベストテン」に出演した際の歌唱シーンを中心にまとめた5枚組Blu-rayボックス「~Miho Nakayama 40th Anniversary~ 中山美穂『ザ・ベストテン』永久保存版」が2025年3月にリリースされた。