音楽ナタリー Power Push - 中野テルヲ

盟友・三浦俊一とたどる異端の電子音楽史

P-MODELとデモテープ

──お2人ともその後テクノポップに傾倒して……そこからが早いですよね。1983年には三浦さんがP-MODELに加入して、翌1984年には中野さんもP-MODELのローディを務めたそうですが、影響を受けた数年後に自分がそのバンドに加入するって不思議な気分ですよね。

三浦 そう、当時P-MODELはすでにベテランっぽく感じてたんですけど、僕が入ったのはまだデビューしてから3、4年後ぐらいなんですよね。今の感覚で言えばほぼ新人みたいなもので(笑)。

──中野さんの加入はメンバーにデモを渡したことがきっかけだと聞いていますが。

中野 当時のライブハウスは今と違って、ライブが終わっても客は追い出されなくて、楽器の片付けをしているメンバーに声をかけたりできたんですよ。それで平沢(進)さんにデモテープを渡して。

──その時代を知らない世代からすると、先鋭的なニューウェイブ界のエピソードとしてはずいぶん牧歌的な話に聞こえます。

三浦俊一

三浦 でもね、雰囲気はすごく緊張感がある、おっかない感じだったと思いますよ、お客さんの目から観ると。笑顔の1つも見せない、MCもしないようなバンドはいっぱいいたし、P-MODELもそうだった。

中野 うん。デモテープを聴いてもらえただけでもありがたかったですね。まさか連絡をもらえるとは思わなかったですけど。

三浦 すごく高評価だったんですよ。デモテープを聴く場に僕も居合わせたんですけど、みんな「わあ、すげえ」って。当時赤坂にあった事務所で、テーブルにラジカセを置いて、平沢さんとマネージャーと3人で聴いたのを覚えてますね。A面にリズムマシンとベースとシンセによる中野さん1人の多重録音が、B面はバンドの曲が入っていて。バンドのほうもそれはそれでカッコよかったんで、あとでライブを観に行きましたけど、ニューウェイブなのにボーカルがソウルフルに歌い上げるタイプで……。

中野 よく覚えてるね(笑)。

三浦 でも、その中野さんが1人で録音したA面がすごくよかった。歌い方は今と変わんないですよ。それからすぐに連絡を取って、運転と楽器の片付けをする、いわゆるローディとして来てもらって。中野さんと僕は歳が近かったから、ずっと一緒にいたよね。メンバーよりも親密でしたよ(笑)。

ロンバケが再集結した一夜

──そして1986年にはちょうどお2人が入れ替わるような形で、中野さんがP-MODELに加入すると。そこで、ファンには有名な話ですが中野さんは「キーボードとベース、どっちがいい?」と言われてベーシストになったという(笑)。そんなに楽器に頓着がない人がいるのか!と驚いてたんですけど、もともとベーシストとしてのキャリアが出発点なんですね。

中野 ええ、そうなんです。

──でもそのあと、有頂天のKERAさん、有頂天や筋肉少女帯でドラムを叩いていたみのすけさんと組んだLONG VACATIONはキーボードでの参加でした。ロンバケは短い活動期間の中でかなり大量に作品を残しましたよね。

中野 すごく働きましたねえ(笑)。リリースの数も多かったし、曲のアレンジもどんどん変化させたりして。今考えるとよくやれてたなあと思いますね。

──2013年12月に開催されたKERAさんの生誕50周年イベントでは「中野テルヲ feat. KERA & みのすけ」という形で擬似的なロンバケ再結成が実現しました。

中野 あれはもともとソロでのオファーだったんですけど、ゲストボーカルでKERAさんに入ってもらうことになって「だったらみのすけも呼ぼう」という軽い気持ちで。楽しかったですよ。アレンジする作業自体も楽しかったですし、スタジオを取ってリハーサルをする時間がなかったので、2人に私の家に来てもらったんですよ。1回ぐらい音合わせはしておこうと。それも楽しかったですね。LONG VACATIONという名前ではなかったけれど、3人でもう一度集まって一緒にやれたことはよかったなと思っています。

キャラ化した中野テルヲ

──ロンバケには中野さんが歌う曲もありましたし、その後のソロワークに通じるサウンドはロンバケの時点で確立されたように思います。そして1995年7月のロンバケ活動休止後、1996年にはソロ活動がスタートしました。……ここから20年ですね。

中野 ああ、そんなに経っちゃったんだなあ(笑)。

──その20年間を凝縮したのが今回のベストアルバムですけど、こうやって並列されたとき改めて感じるのは、あまりにも一貫性がありすぎるなという。もちろん時代時代の変化はあるんですけど、ずーっとブレることなく“中野テルヲの音楽”としか言いようがないものだけを作ってますよね。

中野テルヲ

中野 音楽の組み立て方や好きな音色、響きや質感といったその基本的な部分がずっと同じに出せてきてるのだと思います。ソロ初期からのサウンドプロデュースの方向がそのまま、レーベル(ビートサーファーズ)に入ってからも「次はこういうの作って」と言われることなく、自由にやらせてもらっていて。

──レーベルオーナーである三浦さんから見て、中野さんの音楽はひと言でどんな音楽だと思いますか?

三浦 まず一貫しているのは、ポップスが一番下に敷かれているんですよ。その上に電子音が乗っている。そこまではよくあるエレポップの手法なんだけど、質感が……クールというよりもう一段冷たい感じ、とでも言うんですかね。決してスカしてるわけじゃなくて……うん、凛としてる! そこが一貫しているんだと思います。ベストを聴けば曲調はそれぞれの時代で違うんだけど、凛とした空気感だけはずーっと同じなんですよね。それは最初にP-MODELの事務所で聴いたデモテープも一緒なんです。

中野 ……照れるじゃないですか(笑)。

三浦 普通はどうでもいいようなものに影響受けてチャラチャラしてしまう時期もあると思うんですけど、そういうのがまったくないですからね。

──1つだけ変わったことがあるとしたら、客席の歓声が黄色くなったことですね(笑)。何年か前に中野さんのライブを観に行ったら客席の大半が女性で、ちょっとびっくりしたんですね。一貫して黄色い歓声が上がるタイプではない音楽をやってると思うんですけど。

三浦 ですよね(笑)。

──それでも年々若い女性ファンが増えていて。それってなぜなんだろうと考えると、どこか謎めいた科学者みたいなイメージに対する萌えの要素が大きいのかなと。

三浦 理系男子萌え(笑)。不思議なもので、ビートサーファーズには中野さんよりも若いバンドがいるんだけど、客層を探ると中野さんのファンが一番若いんですよ。中野さんにしろ、平沢さんなんかもそうかもしれませんけど、理系萌えの要素がある。ちょっとアニメ的というか……1つのキャラクターとして成立しているんでしょうね、きっと。

──ステージ上に一般的な楽器ではない演奏のシステムが組んであって、そこにたたずんでいる姿がキャラ的なのかもしれないですね。パフォーマンスの特殊性も含めて。

中野 そうですか(笑)。自分では意識していないので、よくわからないですね……。

ビートの探求と変化

──曲によってはヒップホップ的なビートが組まれていたり、去年のアルバム「Swing」(2015年1月発売)ではジャズを感じさせる要素もありましたけど、何を取り込んでも出力が中野テルヲでしかないというか。ここまで強烈にサウンドの個性を持っている人もあまりいないなと思います。

中野 ああ、ありがとうございます。

──今作に収録されている新曲「IDは異邦人」はラテンというか、スパニッシュ、フラメンコ音楽の要素が入った新機軸ですが、これはどうしてこのような楽曲に?

中野 最近はリズムやベースの効いた音楽がやりたくて、それが一番新しい形で出てきたのがこれですね。ラテン音楽を聴いていたわけじゃないんですけど、今までにやっていなかったリズムを探っているうちに、なんとなくフラメンコのステップに導かれたという。

三浦 結果としてのラテンだったんだね。

──「Swing」にジャズの要素が入ったのも同じ理由で?

中野 あれもリズムへのアプローチからですよね。“揺れ”というものをキーに、シャッフルやスウィングといったノリを中心にした。ちょうどその時期に導入したエレクトリック・アップライトベースから発想した部分も大きいですね。

中野テルヲ ベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」 / 2016年3月16日発売 / [CD2枚組] 3888円 / Beat Surfers / BSUK-1003~4
中野テルヲ ベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」
DISC 1
  1. Let's Go Skysensor
  2. Uhlandstr On-Line
  3. Trance-Pause Room[2015 Recording]
  4. Computer Love(2005 Recovery)
  5. Computer Dub
  6. Run Radio II
  7. Mission Goes West
  8. Run Radio IV(Memory Bank B)
  9. コンダクター・プラス
  10. RAM Running(Plans For Disc)
  11. Run Radio I
  12. ウーランストラッセ節
  13. Winter Mute(Part II)
  14. Call Up Here
  15. Run Radio III[Extended]
DISC 2
  1. 今夜はブギー・バック
  2. IDは異邦人
  3. ディープ・アーキテクチャ
  4. 宇宙船
  5. ファインダー[2016 Recording]
  6. Ticktack
  7. グライダー
  8. サンパリーツ
  9. 遠くのカーニバル
  10. Raindrops Keep Fallin' On My Desktop[Extended]
  11. Dreaming
  12. Long Distance, Long Time
  13. Game[Type B]
  14. Eardrum[Extended]
  15. 虹をみた
NESS 最新アルバム「NESS 3」 / 2015年11月11日発売 / 2592円 / Beat Surfers / BSUK-1002
NESS 最新アルバム「NESS 3」
収録曲
  1. Fes/Gate
  2. Entwurf
  3. n1
  4. Nescio
  5. MAGIC AND ECSTASY/EXORCIST II THE HERETIC
  6. n2
  7. something else again
  8. C99
  9. n2
  10. everywhere
中野テルヲ(ナカノテルヲ)
中野テルヲ

1963年8月12日、東京都生まれ。1986年から1988年にかけてP-MODELで活動し、1991年にはKERA、みのすけとともにLONG VACATIONを結成する。1995年のLONG VACATION活動休止後はソロ活動へと移行し、フロッピー作品「UHLANDSTR ENDLESS1~6」を発表。1996年12月には1stソロアルバム「User Unknown」をリリースし、本格的なソロ活動をスタートさせた。コンピュータやシンセサイザーを駆使したサウンドが特徴で、LONG VACATION時代より短波ラジオや高橋芳一(ex. P-MODEL)が製作したオリジナルシンセサイザー「UTS」シリーズをライブパフォーマンスやレコーディングに取り入れている。2011年より三浦俊一が主宰するレーベル・ビートサーファーズに所属し、以降はコンスタントにアルバムをリリース。2016年3月にはソロ活動20周年を記念したベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」を発表した。

三浦俊一(ミウラシュンイチ)
三浦俊一

1964年8月18日、東京都生まれ。1983年から1985年にかけてP-MODELで活動し、1986~87年には有頂天、1995年にはケラ&ザ・シンセサイザーズに参加。楽曲提供やプロデュースを広く手がけ、現在は音楽制作会社ビートサーファーズの代表取締役を務めながら複数のバンドで活動している。2011年には内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)、河塚篤史(Dr)、戸田宏武(Syn / FLOPPY)とともにNESSを結成。2015年11月には3rdアルバム「NESS 3」を発表した。

NESS ライブ情報
NESS 5th Anniversary「Live NESS Special」
2016年5月7日(土)東京都 KOENJI HIGH
料金:
1F椅子席 前売 5800円 / 当日 6300円(ドリンク代別)
1Fスタンディング 前売 3800円 . 当日 4300円(ドリンク代別)
一般発売:2016年3月27日(日)