音楽ナタリー Power Push - 中野テルヲ
盟友・三浦俊一とたどる異端の電子音楽史
中野テルヲの「今夜はブギー・バック」
──もう1曲、CD初収録となるのが小沢健二 featuring スチャダラパー「今夜はブギー・バック」のカバーです。この選曲は意外すぎてすごく驚きました。「今夜はブギー・バック」が出た1994年、中野さんはロンバケで3rdアルバム「SUNSHINE NOTE」を発表しています。
中野 「今夜はブギー・バック」はもちろん当時聴き知ってはいたんですが……2014年だったかな、ライブの準備をしながら、やはりいろんなリズムを探っているときに、ヒップホップのブレイクビーツを鳴らしていてふと思い浮かんだんです。ビートからあのメロディが引き出されたというか。それでブレイクビーツにギターを乗せて歌ってみたら、意外としっくりきたので。これまでの自分の作品の中にもラップやヒップホップ的なアプローチはありましたから、そんなに違和感なくやれたんですよね。
──三浦さんは、中野さんが「ブギー・バック」をやると聞いてどう思いましたか?
三浦 意表を突かれましたね。アイドルの子が始球式で145kmの球を投げるぐらい意表を突かれました(笑)。うわあ、マジかよ!みたいな。
中野 面白い例えだなあ(笑)。
三浦 ライブでやったときはすごくウケてましたよ。それで「いつかCDに入れたい」って思っていて、今回がちょうどいい機会だったんでしょうね。オリジナルアルバムだと何曲目に収録したらいいのか困るだろうし。
中野 1度ライブでやったきりなんですよ。寝かせてタイミングを伺ってたんですけど、今回はちょうどいい機会だったので、アレンジを練り直しました。
──中野さんのことを知らないオザケンファン、スチャファンが聴いたときにどういう反応をするのか気になりますね。
三浦 お手柔らかにお願いします(笑)。敵意じゃなくてリスペクトですから。
ライブの活性化が作用した音楽の変化
──今作にはほかにも、既発曲の別バージョンもいくつかありますよね。例えば「ファインダー」(2011年発売のアルバム「Signal / Noise」収録曲)は「2016 Recording」となっています。
中野 オリジナルから明らかに変わったものは後ろにバージョン名が付いていますけど、何も書いていない曲でも、音を足したり引いたり差し替えたりしているものはけっこうあります。今の気分としては違うもの……ライブをやっていく中で、リリースした当時と変わってきたものは、今のライブアレンジに近付けています。単にオリジナルアルバムから選んできてトラックを並べるというやり方はしたくなかったので。DISC 1には「User Unknown」(1996年発売の1stソロアルバム)からの曲を多く選びましたけど、このあたりはマルチトラックが残っていなくて大きな修正ができなかったので、DATから新たにリマスタリングしました。「Trance-Pause Room」も「User Unknown」に入っていた曲ですけど、これは去年ライブ用に作り直したものです。
──お話を聞いていると、今の中野さんにとってライブの占める比重がかなり大きくなっていますよね。ライブをやっていない時期が長かったですけど、ここ数年はかなり本数が増えていて。「IDは異邦人」でリズムやベースの効いた音楽を目指したのもライブの影響が大きいのかなと。
中野 ライブは重要ですね。ライブをやっていなければ、ここまでコンスタントに新作をリリースしていなかったかもしれないし。ライブで受ける刺激やお客さんの反応は、作品にも影響していると思います。
──中野さんからそういう発言が出るなんて、何年か前だったら想像つかないですよね。
三浦 ロックバンドみたい(笑)。でも確かに「ライブで通じる音楽」ってありますよね。ある程度細かいものを間引いて、テーマをはっきりさせないと、ライブではなかなか伝わらない。それが作品にも反映されている感じはあります。シンプルでテーマが見えやすくなった。それは中野さんがこの4、5年のライブ活動から見出した結論なんじゃないでしょうかね。
──強烈な個性を一貫して保ちながらも変化を感じるのはそこなんでしょうね。楽器としての中野テルヲは変わっていないけど、演奏者が変わってきているというか。
三浦 あと、東京以外の場所でもやるようになったのが大きいと思う。地域ごとにウケるものが違ったりするから、ブラッシュアップしていかなきゃいけない部分があるんですよ。
中野 うん。そうかもしれないですね。まだその境地には達していないけれど、間引いていくと最後には本当に必要な音だけが残るのではないかと。
中野テルヲの未来像
──デビューから30年、ソロで20年の活動を経て、ここから先はご自身でどのように変化していくと思いますか? ここまでブレのない人だから、大枠が変わることはないのかなと思いますが。
中野 自分でもそう思います(笑)。ただ、微妙な変化の流れはずっとあると思うんですね。骨格は変わらないんですけど、ちょっとずつ組み変わっているところがある。それがどんどん先に進んでいくんだろうなと思います。
──その一方で三浦さんは、NESSだと世代差もあるバンドということもあって、1枚のアルバムの中でも骨格から何からバラバラで(笑)。
三浦 NESSは酔っぱらい運転みたいなものですからね(笑)。どこ行っちゃうんだかわからないという。よく言えばスリリング。
──中野さんはこの先どういうふうになりたい、という理想の未来像はあるんですか?
中野 理想像かあ。なんだろう……長く続けたいとは思いますけどね。
三浦 20代の頃の願望と今の願望ではずいぶん変わるもんですね。長く続けたいなんて20代の頃なら絶対言わなかったもん(笑)。それこそ中学生の頃なら「ロックスターになりたい!」とか言うんだろうけど、「1日でも長く続けたい」というのが、それなりに年齢を重ねた上での結論なんだろうね。
──70歳ぐらいになった中野さんがどんな音楽をやってるんだろうかと想像すると、やっぱり「中野テルヲ」をやってると思うんですよね(笑)。
三浦 とりあえず次の目標は「TERUO NAKANO 2016-2026」だね。ジャケットが青から赤に変わります(笑)。
中野テルヲ 20th Anniversary[Live160609]
- 2016年6月9日(木)愛知県 池下CLUB UPSET
- 料金:前売 3500円 / 当日 4000円(ドリンク代別)
一般発売:2016年4月9日(土)
イープラス プレオーダー:2016年3月26日(土)~3月30日(水)
中野テルヲ 20th Anniversary[Live160610]
- 2016年6月10日(金)大阪府 北堀江club vijon
- 料金:前売 3500円 / 当日 4000円(ドリンク代別)
一般発売:2016年3月20日(日)
中野テルヲ 20th Anniversary[Live150702]
- 2016年7月2日(土)東京都 KOENJI HIGH
- 料金:1F・2F椅子席 前売 5800円 / 当日 6300円(ドリンク代別)
1Fスタンディング 前売 3800円 . 当日 4300円(ドリンク代別)
一般発売:2016年4月2日(土)
- 中野テルヲ ベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」 / 2016年3月16日発売 / [CD2枚組] 3888円 / Beat Surfers / BSUK-1003~4
- 中野テルヲ ベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」
DISC 1
- Let's Go Skysensor
- Uhlandstr On-Line
- Trance-Pause Room[2015 Recording]
- Computer Love(2005 Recovery)
- Computer Dub
- Run Radio II
- Mission Goes West
- Run Radio IV(Memory Bank B)
- コンダクター・プラス
- RAM Running(Plans For Disc)
- Run Radio I
- ウーランストラッセ節
- Winter Mute(Part II)
- Call Up Here
- Run Radio III[Extended]
DISC 2
- 今夜はブギー・バック
- IDは異邦人
- ディープ・アーキテクチャ
- 宇宙船
- ファインダー[2016 Recording]
- Ticktack
- グライダー
- サンパリーツ
- 遠くのカーニバル
- Raindrops Keep Fallin' On My Desktop[Extended]
- Dreaming
- Long Distance, Long Time
- Game[Type B]
- Eardrum[Extended]
- 虹をみた
収録曲
- Fes/Gate
- Entwurf
- n1
- Nescio
- MAGIC AND ECSTASY/EXORCIST II THE HERETIC
- n2
- something else again
- C99
- n2
- everywhere
中野テルヲ(ナカノテルヲ)
1963年8月12日、東京都生まれ。1986年から1988年にかけてP-MODELで活動し、1991年にはKERA、みのすけとともにLONG VACATIONを結成する。1995年のLONG VACATION活動休止後はソロ活動へと移行し、フロッピー作品「UHLANDSTR ENDLESS1~6」を発表。1996年12月には1stソロアルバム「User Unknown」をリリースし、本格的なソロ活動をスタートさせた。コンピュータやシンセサイザーを駆使したサウンドが特徴で、LONG VACATION時代より短波ラジオや高橋芳一(ex. P-MODEL)が製作したオリジナルシンセサイザー「UTS」シリーズをライブパフォーマンスやレコーディングに取り入れている。2011年より三浦俊一が主宰するレーベル・ビートサーファーズに所属し、以降はコンスタントにアルバムをリリース。2016年3月にはソロ活動20周年を記念したベストアルバム「TERUO NAKANO 1996-2016」を発表した。
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- 中野テルヲの記事まとめ
三浦俊一(ミウラシュンイチ)
1964年8月18日、東京都生まれ。1983年から1985年にかけてP-MODELで活動し、1986~87年には有頂天、1995年にはケラ&ザ・シンセサイザーズに参加。楽曲提供やプロデュースを広く手がけ、現在は音楽制作会社ビートサーファーズの代表取締役を務めながら複数のバンドで活動している。2011年には内田雄一郎(B / 筋肉少女帯)、河塚篤史(Dr)、戸田宏武(Syn / FLOPPY)とともにNESSを結成。2015年11月には3rdアルバム「NESS 3」を発表した。
NESS ライブ情報
- NESS 5th Anniversary「Live NESS Special」
- 2016年5月7日(土)東京都 KOENJI HIGH
料金:
1F椅子席 前売 5800円 / 当日 6300円(ドリンク代別)
1Fスタンディング 前売 3800円 . 当日 4300円(ドリンク代別)
一般発売:2016年3月27日(日)