仲村宗悟|夢に向かう旅路の途中で作り上げた3曲

石膏を削るような曲作り

──「JUMP」のサウンドは疾走感のあるさわやかな仕上がりです。作曲は片山義美さん、アレンジは村山☆潤さんと、仲村さんの楽曲ではおなじみの面々によるものですね。

仲村宗悟

楽曲に関しては、「エンディング主題歌だけどバラードではなく、スポーツものにふさわしいBPM速めの曲がいいです」というオーダーをアニメサイドからいただいていて。それを踏まえて10数曲の中から選んでいった感じですね。作家の名前を伏せた状態で選んだのですが、蓋を開けてみたら義美さんの曲だったという。決め手は一度聴いたらパッと覚えられてしまうキャッチーなメロディを持っていたところ。義美さんの曲はメロ力が強いので、文句なしで人に伝わりますよね。さらに村山さんのアレンジも素晴らしくて。泥臭すぎず、鼻息が荒々しすぎず、ちょっとキラッとしてる雰囲気があって。

──「スケートリーディング☆スターズ」のビジュアルイメージにマッチしたサウンド感ですよね。熱血スポ根アニメというよりは、もっと都会的でスマートな世界観というか。

そのあたりはタイアップ曲であること踏まえて作ってもらった感じではありましたね。

──今回、アニソンであることを意識して作ったところはありましたか?

アニソンって、音楽とアニメの映像が組み合わさることで、視聴者1人ひとりの人生の中にできる“しおり”のような存在になるものだと思うんですよ。

──昔観ていたアニメの曲を聴いたとき、アニメの映像と共に当時の自分のことが鮮明によみがえってきたりしますもんね。

そう。だからすごく大事なものだと思うし、自分の中にも記憶に残るアニソンはたくさんあります。ただ、自分が音楽を作る際には、アニソンだからどうこうということは一切考えないんですよ。僕が曲を作るときは彫刻みたいに、いろんなことを考えながら大きな石膏を丁寧に削っていく感じなんです。今回もそうやって削り出して「JUMP」という曲が生まれた。その手法はどんな曲でも変わらないんですよね。

──なるほど。アニメのタイアップなどの場合、作品の設定やテーマなどによって削り方に差異が生まれることはあるけれど、作り方自体を変えることはないという。

そうですね。アニソンだからという意識はないにせよ、そのアニメのストーリーなんかを見たことで普段とは違った要素が付随されることはあるかもしれない。でもアニソンとはこうあるべきだ、みたいな感覚で曲を作ることはないっていう。そこは今後も変わることはないと思いますね。

──「JUMP」のボーカルに関しても聞かせてください。今回はどんな感情を歌に乗せましたか?

BPMが180くらいあるから口が回らなくて大変だったけど(笑)、曲に込めたテーマがはっきりしていたのでレコーディングはすごくスムーズだったと思います。意識したのは1曲の中でしっかり抑揚を付けることかな。AメロやBメロでは葛藤を描いてるからグーッと苦しい表情を出しつつ、サビでは思いを一気に100%開放していくみたいな感じですかね。あとは歌詞を書く段階で、聴き手へのトリガーになるように意識して言葉を選んだところがあったので、そこは歌う際にもすごく大事にしました。

──どんな部分にトリガーを仕込んだんですか?

「七転八起(しちてんはっき)」「日進月歩(にっしんげっぽ)」という歌詞のように、「っ」を多用することでノリをよくしてるんですよ。それによってメロディがより覚えてもらいやすくなると思うので。さらに今回は基本的に語尾を母音の「あ」で終わらせてるんですよ。そうすることで曲はもちろん、主人公たちの思いもどんどん広がっていく感じが出せるかなって。こだわって書いた歌詞が歌にも影響を与えたところはあったと思います。

──今回はタイアップ曲での作詞が実現したわけですが、今度は作曲にも挑戦してみたい気持ちもありますか?

できたらうれしいですよね。自分で作詞作曲をした曲でタイアップを取れたら面白いだろうな。そこはこれからの自分にとっての1つの目標でもありますね。

仲村宗悟

やりすぎない美学

──では、カップリングのお話も。今回は2曲とも作詞作曲を仲村さん、アレンジを村山さんが手がけたナンバーになっています。

はい。まず「てこと」は村山さんのアレンジがめちゃめちゃいいんですよ! 本当に好きですね。この曲はラブソングではあるのですが、ドラマチックな感じにはしたくなくて。モヤモヤといろんなことを考えるけど、結局は「君と一緒にいられるだけで最高なんだよね」という気持ちに着地するっていう。

──すごく日常的でシンプルな感情を描いた曲ですよね。

休日の午後、ソファに1人で寝っ転がりながらボーッと考えてることを歌ったような曲ですからね(笑)。だからサウンドも、「ここからも日常は続いていく」みたいな感じにしたかったんです。僕の中にはアレンジのイメージも明確にあったので、それをお伝えしながら、何度もやり取りして完成しました。演奏面もドラマチックにはしないっていうテーマがあったので、バンドの方々は「もっと弾きたいのに!」みたいな思いがあったんじゃないかな(笑)。歌も含め、今回はやりすぎない美学を追求させてもらいました。

──曲の構成もすごくシンプルで、J-POPのセオリーに縛られない感じもあって。シンガーソングライターとしての奥行きを感じさせる楽曲ですよね。仲村さんはこんな曲も作れてしまうのか、とちょっと驚きました。

もうね、とにかく自由なんですよ(笑)。基本的には自分のやりたいように作っただけです。ただ、心のどこかには自分を俯瞰して見ている自分もいるというか。言わばプロデューサー的視点を持つ自分が、今の仲村宗悟にこんなことをやらせたら面白いんじゃないかなという指示を出している感じもあるとは思います。でも結果的に出てくるものは自分の経験や熱量にのっとったものでしかないんですけどね。

──「てこと」というタイトルも秀逸ですよね。「どんな曲なんだろう?」と興味を掻き立てられるというか。

そうそう。そう思ってほしかったんですよ。タイトルだけでは内容がわからない、でも曲を聴けばちゃんと納得できるという。柔らかい3文字のひらがながキャッチーですしね。

仲村宗悟

──もう1曲は「オブラート」と題されたバラードですね。

この曲はとにかく美しいメロディを作ることにこだわりました。美メロを書こうという意識のもと、音楽的にかなり考えて作っていった曲ですね。

──うん、本当にメロディのよさが際立つ曲だと思います。

ちゃんと書けてよかった(笑)。いつもは自分の中から自然と出てきたものを曲として紡いでいくことが多いのですが、今回は意識的に考えて作っていくことができたのは面白かったですね。アレンジに関しては、最初のワンコーラスはほぼアコギだけでいいと。そこから1つひとつ楽器が加わっていく感じのイメージをお伝えてして作っていただきました。「てこと」とは対照的に、こちらはドラマチックにすることを意識して作りましたね。歌詞は、人と人との間にある壁みたいなものをテーマにして書きました。けっこう難しくて歌詞を書き上げるのに時間がかかりました。1コーラス目だけバッと書いて、それ以降は数カ月後に改めて書いたんです。

──この曲はボーカルの雰囲気もすごくよくて。息遣いが感じられるニュアンスにグッと引きつけられます。

今回の3曲のうち、この曲だけ今年に入ってからの歌録りだったんですよ。年末年始にガッツリ休めたのもあって、めちゃめちゃノドの調子がよかったんですよね(笑)。自分でも「超いい歌録れたじゃん!」と思った。現場で急遽、後半部分にフェイクを入れることになったのですが、そこもすごくいいものが録れたと思うので、ぜひじっくり聴いてもらえたらうれしいですね。

仲村宗悟