音楽ナタリー Power Push - MYTH & ROID

固定観念を壊す「実験的なのに売れるアニソン」への挑戦

留学中にナメられ反骨心で外国人コンプレックスに

──カップリング曲の「theater D」に関しては、どんなコンセプトがあったんですか?

Tom-H@ck これもアニメ(「Re:ゼロから始める異世界生活」)の挿入歌なんですが、ものすごい絶望的なシーンで流される曲なんですね。まあ、絶望なんて世の中によくあることだし、僕としては滑稽な感じの物語にしたかったんですけど。

──なるほど。サウンドはかなりエキゾチックですが、わずかに和の要素も入っているような……。

Tom-H@ck 実はこれ、スパニッシュのスケールなんです。確かにサウンドはジャパニーズですけど、まあ、ワールドミュージックですよね。

──つまり国籍不明である、と。

Tom-H@ck そうですね。無国籍感というのは、いつも意識しているので。MYTH & ROIDのYouTubeには外国の方からコメントが寄せられることが多いんですが、僕はもともと外国人コンプレックスが強いほうなので、それに立ち向かうためには無国籍なサウンドかなと。

MYTH & ROID

──外国人コンプレックスというと……?

Tom-H@ck 10代のとき音楽を学ぶためにロサンゼルスに留学したことがあるんですよ。僕も若かったし、当時は金髪で紫のカラコンだったんですけど……。

Mayu 怖い(笑)。

Tom-H@ck そのとき、簡単に言うとナメられたんですよ。アジア人を見下すような雰囲気もあったし、それに対する反骨心がコンプレックスにつながったところもあるでしょうね。実際、「どうがんばっても真似できないな」と感じたこともあったし……。それにどう対抗するかは、僕だけではなく、いろんなクリエイター、プロデューサーが考えていると思いますけど。

アニメは「鬼に金棒」という言葉の“金棒”部分

──実際にMYTH & ROIDには海外のリスナーからのリアクションがありますよね。

Tom-H@ck アニメ自体、日本が誇るコンテンツですからね。特にMYTH & ROIDが今まで関わってきたアニメはシリアスな内容の作品が多かったんです。シリアス系のアニメって、海外ですごく人気があるので、その影響もあるでしょうね。あとは歌詞の中に英語が頻出しているというのも関係しているだろうし。ただ、思っていた以上の反応があるのは間違いないです。

Mayu 実は私も外国人コンプレックスがあるんですよ。とにかく小さい頃から洋楽をずっと聴いていて、好きな曲をCDと同じように歌えるまでずっと練習してたんです。英語の歌詞と日本語訳を見比べながら歌っていて。完全に再現できるまで歌い込むから発音はどんどんそれっぽくなるんですけど、徐々に超えられない壁というか、母国語でもなければ生活でも使わない言葉と自分との距離を感じてしまったんですよね。「私は日本語しか話さない日本人だし、こういう歌を歌っていても、海外でも日本でも受け入れられないんじゃないか?」って思って。

Tom-H@ck MYTH & ROIDの最初の頃にMayuに全編日本語で歌詞を書いてもらったことがあるんですけど、それが英語詞の日本語訳みたいな感じだったんですよ(笑)。ちょっと不器用な感じの日本語感というか。「え、そこから影響受けるのか?」っていう。

Mayu

Mayu 無意識だったんですけどね(笑)。

Tom-H@ck そんなに洋楽が好きで、コンプレックスを感じているなら、実際に海外に行ってみればいいじゃないですか。僕の場合はバイトしてお金を貯めて留学したわけですけど、彼女はそういうことをしないで、日本で手に入る情報だけで構築しようとする。Mayuの学び方だったり、価値観の作り方を見ていると、自分とは違う新人類だなって思いますね。それはいい悪いという話ではなくて世代間の違いだと思うし、それもMYTH & ROIDの無国籍感につながっているのかなって。グローバル化と同じで、これからはそれがスタンダードになるかもしれないですよね。

──なるほど。アニメと一緒に海外に向けて楽曲を発信して、そこを入り口にして音楽の個性を伝えるというスタイルもさらに浸透していくと思います。

Tom-H@ck そうですね。後ろ盾というとヘンかもしれないけど、アニメは「鬼に金棒」という言葉の“金棒”部分だと思うんですよ。自分たちで“アニソンアーティストです”とは言ってないんだけど、そう思ってもらってもいいので。アニメのパワーを拝借しながら、自分たちの表現を広げていきたいですね。

Mayu 私も新人類として(笑)、自分が信じる音楽とアートを突き詰めていきたいと思います。

ニューシングル「Paradisus-Paradoxum」
「Paradisus-Paradoxum」
2016年8月24日発売 / 1296円 / KADOKAWA メディアファクトリー / ZMCZ-10783
Amazon.co.jp
収録曲
  1. Paradisus-Paradoxum
  2. theater D
  3. Paradisus-Paradoxum(instrumental)
  4. theater D(instrumental)
MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
MYTH & ROID

ボーカリストのMayuとプロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」の前期エンディングテーマ「STYX HELIX」を次々にヒットさせる。2016年8月には「Re:ゼロから始める異世界生活」の後期オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」を4枚目のシングルとしてリリースする。