音楽ナタリー Power Push - MYTH & ROID

固定観念を壊す「実験的なのに売れるアニソン」への挑戦

「顔が見えたほうがいい」という常識を変えたい

──では、ニューシングル「Paradisus-Paradoxum」について聞かせてください。この曲はアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」後期オープニングテーマになっていますね。

Tom-H@ck はい。ただ、今までのシングルの中では、一番アニメを意識しないで制作した曲なんです。自分たちが抱えている矛盾や葛藤、それをウイルスに浸蝕されることに例えて歌詞を書くところから始まっているので。アニメの世界観を取り入れた割合は3割くらいだと思います。実は今までの(アニメとタイアップした)楽曲も、アニメ作品に半分以上寄り添ったことはないんですよ。アニソンが好きな人にも、そうじゃない人にも聴いてほしいですからね。

Mayu

Mayu 今回の曲も今までとはかなりテイストが違うと思います。私は曲ごとに自分自身が歌そのものになることを常に意識していて。“浸蝕”というテーマで書かれた歌詞に対して、「浸蝕される側」と「する側」の両方を表現できるよう意識しました。今回も本当にいろいろなことを考え、挑戦したので、聴いてくださる方の反応が楽しみですね。

──先ほど話に出ていたCDジャケットのビジュアルもすごいインパクトがありましたが、これはMayuさんが花に浸蝕されているデザインですよね?

Mayu そうですね。撮影のときは首の忍耐力が問われました(笑)。

Tom-H@ck 先ほども少し言いましたけど、アニソンのアーティストでここまでスタイリッシュなビジュアルを作る人は少ないと思うんです。これはASOBISYSTEMのアートディレクターに作ってもらったんですが、関わるクリエイターもすごく面白がってくれてるんですよ。ジャケットのデザイン、MVを含めて、MYTH & ROIDを中心にクリエイティブが渦巻いているというのかな。3枚目のシングル「STYX HELIX」あたりから、いい風が吹いてる気がしますね。

Mayu 楽曲と同じで、アニメを知っている人も知らない人も楽しめたり、「カッコいいな」と思ってもらえるようなアートワークにしたいんですよね。特にCDというパッケージは形に残せるし、ジャケットやブックレットを合わせて、1つのアートして成立させたいので。もっと言えば私の人生のすべてがアートだと思ってるし、そういうアプローチを続けていきたいんです。そういうことができるのも、このユニットのよさかなって。

──なるほど。MYTH & ROIDはまだデビューして1年だし、「アート性を強調するよりも、CDジャケットではアーティストの顔をしっかり見せたほうがいい」みたいな意見も出てきそうですが……。

Tom-H@ck 確かにそういう声が挙がることもあります。まずアーティストの顔やキャラクターを浸透させるのは確かに常套手段ですが、それさえもぶっ壊していいと思ってるというか。

Mayu 「アート性よりも顔が見えたほうがいい」という常識自体を変えたいんですよね。3rdシングルのジャケットも私の手と花束しか写ってないですから(笑)。私たちのアートワークは、関わってくれる方々が「これがいい」と自信を持っている作品ばかりだし、どこを切り取ってもすごくこだわっています。

新しいことは7割以上の勝機がないと絶対にやらない

──サウンドメイクに関しては、どんなテーマがあったんですか?

Tom-H@ck オーケストラ的なストリングスをここまでの大編成で入れたのは初めてなので、それが一番の特徴だと思います。曲の途中で民族音楽っぽい雰囲気になるんですけど、クラシックと民族的なものを融合させることで、今までになかった音になってるんじゃないかな、と。

──アニソンとして成立させながら、音楽的にはかなり実験的は部分もあるということですね。

Tom-H@ck

Tom-H@ck まさにそうですね。CDジャケット、アートワークの話と同じなんですが、アニソンに関わる者としては、こういう実験的なサウンドメイキングは本来ならばやっちゃいけないんです。ただし、そこにはツボみたいなものがあって、それを3つくらい押さえてグッと引っ張ってから抽出すれば、ちゃんと売れるような曲になるんですよ。そのためにはまずコンセプトを念入りに考えて、今までに培ってきたプロデュース能力を注ぎ込む必要があって。それができないと、おそらく生き残ってはいけないと思いますね。

──今言ったツボというのはTomさんにしかわからない感覚なのかもしれませんが、「ここを押さえれば大丈夫」という勝算はあるわけですよね?

Tom-H@ck もちろんあります。音楽に限らず事業でもなんでもそうですが、新しいことを立ち上げるときは7割以上の勝機がないと絶対にやらないので。MYTH & ROID自体も「絶対にイケる」という確信を持って始めたプロジェクトですからね。

──しかも実は幅広い層のリスナーに受け入れられるポテンシャルを持ったプロジェクトでもあるという。

Tom-H@ck はい。アニソンとしても楽しんでもらえるだろうし、音楽に詳しい人が聴けば「理論が完全にわかってないと、こんなことはできないよね」みたいな発見もあるという。どんな曲もそうですが、聴く人によってかなり印象が違うと思います。今回のシングルはその傾向が強いかもしれないですね。

Mayu だからこそ、私としては最初に聴いた瞬間に一発で伝わる表現をしなくてはいけなかったんですよね。浸蝕していく側の強さ、浸蝕されている側の無感情を歌だけで表現するというか。

──最初にリスナーの印象に残るのは歌ですからね。

Mayu それが私の責任だと思っています。そういう意味では、ボーカリストは孤独なポジションですよね。楽曲を制作するためにたくさんの方に動いていただいていますが、結局、多くのリスナーにとって最初に印象に残るのはボーカルなので。MYTH & ROIDの看板、アニメの看板、皆さんからの評価を背負うのも私ですから。

ニューシングル「Paradisus-Paradoxum」
「Paradisus-Paradoxum」
2016年8月24日発売 / 1296円 / KADOKAWA メディアファクトリー / ZMCZ-10783
Amazon.co.jp
収録曲
  1. Paradisus-Paradoxum
  2. theater D
  3. Paradisus-Paradoxum(instrumental)
  4. theater D(instrumental)
MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
MYTH & ROID

ボーカリストのMayuとプロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」の前期エンディングテーマ「STYX HELIX」を次々にヒットさせる。2016年8月には「Re:ゼロから始める異世界生活」の後期オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」を4枚目のシングルとしてリリースする。