音楽ナタリー Power Push - MYTH & ROID
固定観念を壊す「実験的なのに売れるアニソン」への挑戦
プロデューサー&コンポーザーのTom-H@ck、ボーカリストのMayuを中心にしたユニット、MYTH & ROIDが4thシングル「Paradisus-Paradoxum」をリリースする。アニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」後期オープニングテーマに使用されたこの曲は、ヨーロッパの民族音楽的なコーラス、クラシカルなストリングスなどが融合したサウンド、起伏に富んだドラマチックなボーカルラインを軸にしたアッパーチューン。昨年7月のデビュー以来、矢継ぎ早にリリースを続けてきたMYTH & ROIDの音楽的進化が感じられる楽曲に仕上がっている。
今回はTom-H@ck、Mayuの両名にインタビュー。シングル「Paradisus-Paradoxum」を中心にユニットのコンセプトや、デビューから1年が経過した現在の心境などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕
アニソンに対する固定観念を壊したい
──MYTH & ROIDは2015年7月にシングル「L.L.L.」でメジャーデビューし、3rdシングル「STYX HELIX」はiTunes Storeで1位を記録。「STYX HELIX」のミュージックビデオがYouTubeで再生回数200万回を突破するなど確実に注目度を上げていますが、ここまでの手応えはどうですか?
Tom-H@ck 作品をリリースするごとに、我々が伝えたかったことが浸透してきているという実感はありますね。ライブやホームページなどを通していろいろな反応も伝わってきているし、特に3rdシングルはすごく手応えがあったかな。
──“伝えたかったこと”の中心にあるものとは?
Tom-H@ck いろいろあるんですけど「アニソンに対する固定観念を壊したい」という信念が一番強いですね。例えば今回のシングルのCDジャケットもそうですけど、こういうデザインって、今までのアニソンではあまりないと思うんですよ。歌詞に英語を使っていることもそう。アニソンにおいては「英語を使うだけでセールスが落ちる」と言われているんですが、それをあえてやっているという意味では、かなり反逆的かもしれないですね。
──Tom-H@ckさんは以前から、アニソンがフォーマット化されて、音楽的なトライアルが狭まっていることを指摘していましたよね。
Tom-H@ck その傾向は強まっていると思いますね。凝り固まっていけばいくほど、今までやってなかったことに挑戦するべきだと思うんです、僕は。その中で自分が「これはカッコいい」と思えること、もっと言えば「アニソン業界的にもやるべきだ」と感じられるものをどんどんやっていきたいな、と。それはアニソンだけではなくて、結局は音楽業界のためになると思うんですよね。
──確かにMYTH & ROIDのシングルには、1作1作に明確な意図が込められていますよね。
Mayu そうですね。これはデビューのときから言っているんですが、感情の最果てを1つひとつの曲で表現したいと思っているし、どのような歌い方、どのような表現をすれば、それをうまく形にできるのかを模索していて。もともと私にはアニメソングという引き出しがなかったから、イチから作り出さなくてはいけない状況だったんです。今まで培ってきた洋楽的な歌い方を生かしつつ、何度も繰り返しながら、1作1作積み重ねてきた感じですね。
「今の時代に何をやれば面白いか」を考えた結果がこのユニット
──楽曲の制作はTom-H@ckさんが中心になって進めているんですよね?
Tom-H@ck 楽曲を作るのは僕ですが、まず、MYTH & ROIDのクリエイター / メンバーでもあるhotaruという作詞家と一緒にコンセプトを考えるところから始まるんです。MYTH & ROIDは基本的にクリエイターの集団なんですよ。実はボーカリストもMayuだけではないし、声質の違うボーカリストや外国人に歌ってもらうプランもあったり。あとはダンサーもいますし、絵を描く人、服のデザイナーなどを含めて、1つのチームとして活動しているんですよね。デビューから1年経って、ようやく人がそろったという感じです。将来的にはMYTH & ROIDをブランドにしたいと思ってるんですよ。MYTH & ROIDというブランドが確立されていて、そこにいろいろなジャンルのクリエイターが集まっているというか。まずは自分たちが一番得意なところから始めようと思って、音楽からスタートした感じなんですけどね。
──今はアーティストに興味を持つ入り口が増えていますからね。さまざまなメディアやファッションから音楽にたどり着く場合も多いので、複数のクリエイターで構成されているMYTH & ROIDのスタイルは時代に合っていると思います。
Tom-H@ck 音楽そのものに興味を持って入ってきてくれることって、ほぼないような気がしますからね。アニメなどのタイアップだったり、YouTubeだったり、何かと付随する形で音楽を聴くことがほとんじゃないですか、今は。MYTH & ROIDのスタイルに関しては、今の時代に何をやれば面白いか?と考えた結果なんですけど、さっきのアニソンの話と同じで、やっぱり固定観念を壊したいという思いが強かったんですよね。
──音楽性だけではなく、制作の環境を整えることも大事ですからね。
Tom-H@ck そうですね。ほかの現場でプロデュースをやらせてもらうときも、人間と人間が交差する場面がいっぱいあるから、そこは慎重に進めていかないと。ただ、システマティックにすることによって情熱的なものが削がれてしまうのは、絶対にやっちゃいけないことですからね。タイアップ作品とのバランスも取りながら、自分たちの個性をしっかり発揮した音楽、パワーを持った音楽を作るというのは、やっぱり難しいことだと思うんですよ。仮に僕が10年間アーティスト活動だけをやっていたとしたら、こういうプロジェクトはできなかったと思います。こういうことをやるにはプロデューサーとしてのテクニックも必要だし、それを持っているというのがMYTH & ROIDの強みかもしれないですね。
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- ニューシングル「Paradisus-Paradoxum」
- 「Paradisus-Paradoxum」
- 2016年8月24日発売 / 1296円 / KADOKAWA メディアファクトリー / ZMCZ-10783
- Amazon.co.jp
収録曲
- Paradisus-Paradoxum
- theater D
- Paradisus-Paradoxum(instrumental)
- theater D(instrumental)
MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
ボーカリストのMayuとプロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」の前期エンディングテーマ「STYX HELIX」を次々にヒットさせる。2016年8月には「Re:ゼロから始める異世界生活」の後期オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」を4枚目のシングルとしてリリースする。