MUCC|リアルな世情と思いを反映した最高傑作「惡」

MUCCが15作目のオリジナルアルバム「惡」を6月10日にリリースした。

シングル「アメリア」「My WORLD」などを含む本作は、ファンタジー的な色合いが強かった前作「壊れたピアノとリビングデッド」から一転し、メンバー4人のリアルな感情、現在の社会の空気を色濃く反映した作品となった。音楽ナタリーではミヤ(G)とYUKKE(B)にインタビューを行い、リーダーのミヤが「最高傑作」と胸を張るアルバムについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

ライブ感を重視

──ニューアルバム「惡」、素晴らしい内容でした。メンバーの皆さんの生々しい感情が音楽表現に直結した作品だと思いますが、制作に入る段階ではどんなビジョンがあったのでしょうか?

ミヤ(G)

ミヤ(G) 前作(「壊れたピアノとリビングデッド」)はそもそもアウトテイク集から派生したコンセプトアルバムだったし、ファンタジーの要素が強かったこともあって、“リアル感”がなかったんですよね。今回は普段のMUCCの表現に戻って、よりフォークなものというか、そのときに思っていることを歌えればいいなというテーマはなんとなくありました。

──今回のアルバムには、すでにライブで演奏されている楽曲も含まれていて。

ミヤ もともとそういうコンセプトがあったんですよ。先にツアーで披露して、ライブ会場に来たお客さんはデモ音源を買えるけど、ツアーが終わるまでは配信もしないという。ライブで育った楽曲の中からアルバムに入れられると思ったものをレコーディングしたんですけど、その成果はありましたね。

──新作をリリースしてツアーをするという定番の流れを変えたかった?

ミヤ それもありました。インディーズの頃はライブで披露してからリリースするやり方だったんだけど、メジャーレーベル移籍以降はその流れが難しくなってきて、先にお客さんが音源を聴き込んでからライブに来る感じになった。どちらもよさがあるんだけど、今回はライブ感を重視したかったし、そっちのほうが面白そうだなと。

YUKKE(B) やっていてどっちも楽しいんですけどね。音源で聴いてもらえる環境を整えてからライブでやるのも面白いし、先にライブで披露するのも楽しくて。ただライブでやり続けるとアレンジも変わっていって、そのときの空気感も自然と入ってくるんですよね。そういうやり方は初めてではないし、今回はこのスタイルが必然だったというか、違和感はまったくなかったです。

この時代にリリースする意味がある

──1曲目の「惡 -JUSTICE-」は、アルバム全体のリアルな手触りを象徴する楽曲だと思います。作曲はミヤさん、作詞は逹瑯さんです。

ミヤ これは俺から歌詞を書いてくれと逹瑯に頼みました。自分の主観で書くと、イメージした曲にならないと思ったんですよ。この曲については、日本人の多数派の意見、人間性を持ったヤツが書いたほうが、自分が表現したい作品になるだろうなと。逹瑯が歌詞を書くことを含めての曲作りでした。

──日本人の多数派の意見というと?

ミヤ 例えば何か問題が起きたときに、傍観して意見を言わない人が多いと思うんですよ。ウチのメンバーも俺以外は全員がそういう感じなんです。「惡 -JUSTICE-」で表現したかったのは、いろんな人間の感情が渦巻いて、モヤモヤした感じだったから逹瑯が適任というか。あらかじめこちらからワードをいくつか渡していたんですが、あまり使われていなくて。俺の目線に寄りすぎず、逹瑯が言いたいことの中に、ほかの人間の感情も表現されていてよかったですね。

YUKKE 逹瑯は「惡 -JUSTICE-」の歌詞を書く前、普段以上に気合いが入ってたんですよ。リーダーも「アルバムの1曲目はボーカリストが歌詞を書いたほうが強くなる」と言っていたし、「『惡 -JUSTICE-』の歌詞を書くのは大変だと思うから、YUKKEやSATOちの曲がアルバムに入ることになってもたぶん歌詞は書けねえから」とあらかじめ釘を刺されて(笑)。俺も「わかった。がんばってくれ」という感じでした。実際、すごくいい曲になったと思います。アルバムの全体像を捉えているし、リード曲にふさわしい曲だなと。今回のアルバムは対になった言葉の表現がけっこうあるんですけど、「惡 -JUSTICE-」もまさにそうで。“惡”と“JUSTICE(正義)”は普通、一緒にならないですから。

ミヤ 逹瑯が最初に出してきた曲名は「JUSTICE」だったんです。それは俺のイメージと違っていたから、アルバムタイトルの「惡」とくっ付けたらどうかとアイデアを出して。この曲は正義だけ、悪だけを歌っているわけではないし、ときには“悪だけど正義”という場合もあり得るので。

──「惡 -JUSTICE-」もそうですが、現在の社会の空気を反映しているのでは、と感じる曲もかなりありました。

ミヤ 最後に書いた4曲、「惡 -JUSTICE-」「眩暈」「DEAD or ALIVE」「アルファ」はそうかもしれないですね。

──新型コロナウイルスよる社会的な変化や問題点を感じさせる歌詞もあって。

ミヤ 2月頭からライブ会場の消毒をやっていて、2月末までなんとかライブを続けている中で感じていたことも自然に入ってるというか。不安感もあったし、「このままじゃヤバイだろ」「こんな楽観的でいいの?」という気持ちもあって。今の状況を歌っているように聴こえるかもしれないけど、曲を作った時点では「こうなるだろう」という予想だったんですよね。

YUKKE MUCCはずっとそういう感じなんです。アルバムに向けて走り出すときは特にテーマがなくても、作っていく段階で自然と出てくるというか。去年作った曲も今のことを歌ってるように聞こえたりするし、「惡 -JUSTICE-」のMVを公開したときも、Twitterのタイムラインでかなり話題になって。この時代にリリースする意味がある作品になっていると思います。

今まで一番個人的な歌詞になった「アルファ」

──「アルファ」もアルバムの軸になる楽曲だと思います。MUCCのポップネスがまっすぐに表現されていて。

YUKKE(B)

YUKKE これは制作しているときから、アルバムの重要なポイントに入れたいと思ってたんですよね。気合いの入ったサビにしたかったんですけど、リーダーに「もっとシンプルにしたい」と言われて。スタジオでパッと歌ったメロディをそのまま採用したことで今の形になりました。シンプルなサビになったことで、歌詞もいい感じで乗っていると思います。

ミヤ ある程度アルバムの曲が出そろったときに、ほかにどういう曲が必要か考えて。MUCCのお客さんが求めているものは、シンプルでわかりやすい曲かなと。YUKKEが持ってきた原曲は複雑だったから、「もっとまっすぐに伝わる曲にしたい」というプロデューサー的な視点が働いたというか。同時に歌詞のイメージも湧いてきたんです。当初は「COBALT」を「アルファ」を入れたこの位置にしようと思ってたんだけど、アルバムに終盤には今の感情を表現するために新しい曲を入れたくて。「COBALT」はちょっと前に書いた曲だし、リアルタイム感がなかったんです。

──「アルファ」の「世界中の君たちへ いつかこの霧は晴れるから」という歌詞もそうですが、未来への希望が感じられる曲ですよね。

ミヤ 「惡 -JUSTICE-」と一緒に先行配信したとき、「今の時期に合っていて沁みますね」という感想をリスナーからもらったんですけど、実は社会のこととは関係なく、自分が感じたあることに対しての歌詞なんです。もしかしたら今まで一番個人的な歌詞かもしれない。でも、そうやって共感を呼んで、曲が独り歩きしているのはいいことだなと。歌詞では人間のダメな部分を表現することも増えてますけど、柔らかい部分、優しさを表現する割合も増えてきましたね。