Ms.OOJA「くもり ときどき 晴れ」配信記念インタビュー|KURO(HOME MADE 家族)が聞く「逆Stories ~シンガーソングライターとしてのMs.OOJA~」

2015年に頭の中で鳴った「カラーン……」

──じゃあさ、そこからちょっと時計の針を進めて、メジャーデビューしてからの話に移りたいと思うんだけど。客観的な視点が入るようになって、歌詞での言葉選びってどういうふうに気を付けてる?

自分なりの気持ちよさを考えて、音に乗せて言葉を選ぶところは作り始めた頃と変わっていないかな。自分らしい言葉選びというか……。

──なるほど。普段使う言葉を使うということ?

そうだね。普段使わない言葉は使わなかった。でもここ最近は、そういう言葉を取り入れるのも楽しいかなと思うようになって。例えば「愛してる」という言葉は歌詞の中で使ったことがなくて。だって普段もそう使わないじゃん。だけど「愛してる」と歌うのもいいなと思ったんだよね。ちょっとそういう言葉も使ってみようかなと思い始めてる。なんか言葉の面白さみたいなところにここ最近は興味が出てきたかな。

──わかる。特に最近の作品だと「あの日のメロディー」とか好きなんだけどさ。歌詞に「アンデルセン」とかハーモニカとか出てくるじゃん。ああいうアプローチはいいよね。今までの作品から“広がり”が出た気がした。

「Stories」(2018年10月発売のアルバム)は自分の中にない言葉をたくさん使ったものにしようと思って作ったの。だから制作中は、オリジナルなんだけど、どこかすごく客観的で、カバーアルバムを作っているような感覚もあったりして。その経験は大きかったかな。今後にも影響ありそう。

──歌詞を書くためにやっぱりいろいろと“体験”しなきゃダメ?

あのね。体験しなくても書けると思ってたんだけど……体験しなきゃダメだね。

──おお、言い切ったね!

いや、体験しなくても書けるには書けるんだよ。作詞家になりきって書くことはね。だけど私がやりたいのはそこじゃないんだなって最近は思い始めて。ただただ言葉を並べるんじゃなくて、自分の体験や思うことを言葉にしないと、自分が歌っている意味がないなと思ったの。そう思うようになったのは去年とかそれくらい。

──やっぱり。

やっぱり!(笑) 私の曲を聴いててわかっちゃった? 前までは「こういうこと書いたらいいんじゃないのかな」とかそういうことを考えて書いた曲もあったりしたんだけど。

──それはどのあたりの作品?(メモを見る)

それはね……2015年頃かな。

──「翼」(2015年発売のアルバム)のときだ。やっぱりな。

KURO(HOME MADE 家族)

このとき私、本当にカラカラで、何も書くことがないというくらい追いつめられていて。東京に来たばっかりで友達もほとんどいなかったし、仕事と家にいることしかないみたいな生活で、インプットも本当になくて。このときに自分の頭の中で「カラーン……」って音がしたの。立て続けにリリースがあるタイミングだったんだけど、当時の担当の人に「書くことないよ!」って言ったんだよね。でもその「カラーン……」が聞こえてから、インプットを増やそうと思った。ちょうどそのあたりで「水曜歌謡祭」という番組が始まって、出演する中で人との付き合いが広がったのもよかったんだよね。2016年に私、引っ越ししたの。それまで都心からちょっと離れた場所に住んでいたから、思い切って中心部にいこうと思って。自分を一度カオスな状態に置かないと私はこのまま死ぬわと思って(笑)。

──人と会いたくないのもあったのかな? 恋愛の面でも何かあったり……。

仕事をしていることが楽しかったんだと思う。恋愛は……そういうのもあったのかな(笑)。今考えると、遊んだりすることに対してすごく罪悪感があったのかもしれない。仕事に常に万全の状態で挑みたいと思っていたから。そうすると飲みにも行けないし、必然的に家にいることになって。もちろんそれも大事なことなんだけど、当時はちょっと仕事に対して肩肘を張り過ぎていたところもあったのかもしれない。

──ストイックになり過ぎていたということね。一時期はちょっと気を張って無理しているのかなって思うときもあったけど、最近はとてもリラックスしてアーティストとしての活動を楽しんでいるように見えるよ。

そうだね。なんかいろいろと模索してたんだよね。だからライブとかも「どうやって歌ったらいいんだろう」と考えて、常に120%のパワーで歌ったりとかしてて。そうじゃないと自分の歌に対していろんなことが気になっちゃって。でもここ最近は楽しんで歌うってことが一番大事だなって思えたの。もちろん技術も大切なんだけど、それよりも自分が楽しむことと、伝えることを重視するのが大事で、もっとありのままで歌っていいんだって思うようになったかな。

──コライト作品が少しずつ増えてきたことも理由の1つだったりする?

それはあるね。それまでは1人でこもって歌詞を書いて、がんばって絞り出すみたいな制作の仕方だったんだけど、一緒に誰かとその場で作って、そのときに生まれたエネルギーで作品を作るということをやってみたら、制作がまた楽しくなってきた。

当時は感覚で書いても、
その後の自分の心境に当てはまるときもある

──Ms.OOJAの歌詞はわりとスタートとゴールがしっかりしたものが多いよね。曖昧なものが少ないなと思ったの。これは自分の傾向なの?

ああ、それはね。デビューした頃に周りからアドバイスを受けてそうなったんだと思う。例えば始まりがあって、1サビは気付きの部分を描いて、2サビでその気付いたことを展開していって……みたいな、なんかそういう物語を完結させることの大切さを教えてもらったんだよね。デビューした当初は歌詞をほかの人が書いてくれたことが多かったから、自分の歌詞とその人の歌詞の違いってなんだろうとか、いろいろ勉強していて。その中で自分の中での正解がこういうものになったんだと思う。

──なるほどね。自分はどう? それが好き?

うーん。好きなのかもしれないね。たまにあるじゃん。曲はいいけど、歌詞がよくわからないものとか。それはそれで別にいいと思うんだけどさ。うまく書いてあったらね。

──あるね。どうとでも受け取れる曲。稀にあるよね。

「PROUD」に入っている「エール」は私も書きながら「これどういうことなんだろう」って思ったんだよね。完全に感覚だけで書いた歌詞なの(笑)。だけど、いろんな場面で「あ、これは今、“エール”の状態だ」と自分で思ったりはするんだよね。だから当時は感覚で書いても、その後の自分の心境にすごく当てはまるときもある。

──俺のメモに「エール」は“地球の歌”って書いてある(笑)。このあたりから少しずつ、スケール感のある曲が増えてくるんだよね。俺のメモには“少し地球の歌”、“地球を抱きしめる歌”とか書いてあるんだけど……特に「アルバム表題曲の「PROUD」なんかはスケール感があるよね。

ああ、確かにスケール感出てくるかもしれない。

──最近の曲作りはどうやってやってるの?

誰かと一緒に作るときは、リファレンスがあって「こういう曲いいよね」と話して、ビートを作って、伝えたいメッセージを乗せて……なんかけっこうその場で決めちゃうかも。最初のインスピレーションを大事にして、サビから作ることが多いかな。

──え! サビから作るんだ!? 面白いね。ラップの作詞方法はわりと逆でさ、言いたいことをバースで書いて、それを総括することをサビにすることが多いんだよね。

へえ、そうなんだ。私は一番言いたいことを先にサビにバーっと書いちゃう。サビにつながるAメロ、Bメロを書くことが多いなあ。

Ms.OOJAにキャッチコピーを付けるのなら

──ここからはさ、俺的な分析って言ったらアレなんだけど、それを基にMs.OOJAと一緒に答え合わせをしたくて。この取材を迎えるまで、俺はずっとMs.OOJAのシンガーソングライターとしての軌跡を自分なりに考えていて。一体“なんのシンガーソングライター”なんだろうなって。例えばさ、“泣きの女王”とか“応援歌の○○”とか、Ms.OOJAに「○○のシンガーソングライター」というキャッチコピーを付けるのなら、そこに一体何が当てはまるのかなと思って。

なるほどね。

──でね、「VOICE」(2011年発売の1stアルバム)から最近の作品まで、Ms.OOJAが自ら書いた曲だけを抽出すると、面白い事実が浮かび上がるのよ。例えば、「VOICE」は圧倒的に失恋の歌が多いんだ。

へー。

Ms.OOJA

──「baby don't know why」かさ、「Lost In Love」とか「Love Again」とか、とにかく失恋の歌が多いの。2012年発売の2ndアルバム「HEART」のときも、やっぱり失恋の歌が多いんだよね。「get over」とか「最後の言葉」とか「ジレンマ」とか。「My Way」とか「Be...」みたいな自分を鼓舞する歌も少しだけ増えては来るんだけど。で、3rdアルバム「FAITH」も相変わらず失恋の歌が3曲くらいあって。「JULY」は恋の歌ではあるんだけど、ある種、友情の歌というか、人の結婚を祝福する歌だよね。つまり……浮かれた曲が少ない。

本当だ……(笑)。

──ところがだよ。2014年の4thアルバム「COLOR」から失恋よりも恋愛中の歌が増えてくるんだよね。コライトがちょっとずつ増えてきたのも要因かもしれないけれど。「君の前で泣かない」「My Boy」「SHE」「同じ空の下」「歩道橋」が恋の歌で、これまでになかった“浮かれた”曲がいきなり5曲も増えてんのよ(笑)。だからね、さてMs.OOJA、2014年、誰かに猛烈に恋をしていたな、と(笑)。俺の目は誤魔化せねーぞ!!

してない! 本当にしてない! ……というか、覚えてない(笑)。誰かにしてたかな……(笑)。

──(笑)。でね、「カラーン……」って自分の中で音が鳴った迷走時代の2015年の「翼」のときは、やっぱり迷っているんだよね。急に応援歌ばっかだもん! 「翼」「シナリオ」「NEW DAY」の3曲。ミュージシャンが作る歌に応援歌が増えたときはネタ切れだなって、昔から言われていて……(笑)。

(笑)。

──俺らもそういうときあったからさ。応援歌が増えてくるときって、ちょっと枯渇しているときなんだ(笑)。で、そのあとベスト盤を挟んで5thアルバム「AGAIN」を出していて。このアルバム、失恋の歌がほとんどないんだよね。応援歌とか自分を鼓舞する歌ばっかり。「You Are Beautiful」とか俺、めちゃくちゃ大好きな曲なんだけど。Ms.OOJAの音楽歴で前半戦は失恋の歌があんなに多かったのに、これはもう失恋の歌をこすりまくって、ストックすらなくなったんだなって(笑)。6tアルバム「PROUD」はもうコライトだらけになるんだよね。もちろんそれは悪いことじゃないし、Ms.OOJAの音楽の幅を広げてくれることなんだけど……1人で書いた「BRAVE」「Stand Up!」「sakura」「Be Myself」は応援歌や鼓舞する歌で、これはやっぱり……。

まさにそうよ。恥ずかしいね。丸裸にされてる(笑)。