Ms.OOJA「くもり ときどき 晴れ」配信記念インタビュー|KURO(HOME MADE 家族)が聞く「逆Stories ~シンガーソングライターとしてのMs.OOJA~」

Ms.OOJAは失恋のシンガーソングライター?

──さて、ここからが本題ですよ。じゃ、さっき言っていた「Ms.OOJAはなんのシンガーソングライター」なのか。Ms.OOJAの強みはなんだろうっていろいろと考えたんだよ。で、それが一番顕著にわかるのが、ベスト盤だなと思って。まず作詞した失恋の歌が「ANSWER」「baby don't know why」「30」で3票。応援歌は「Be...」「My Way」「翼」で3票。ベストアルバムの最後に入っている黒沢(薫 / ゴスペラーズ)さんとの「Be...」はデュエット曲だからノーカウント。だからなんとちょうど3対3なんだよね。“失恋のシンガーソングライター”と俺は言うつもりでいたんだけど……そんなことよりも浮かび上がってくるのは “恋愛中”とか“恋の歌”が圧倒的に少ないという事実なんだよ。それはあえて書かないの? 書けないの?

うんとね、それはね……つまり、そういう事だよ!!(笑)

──そこなんだよ!! 俺が気になったのは。さてはMs.OOJA、かなり長いこと恋愛していないなって思ったわけ。だからこれまでのMs.OOJAの軌跡をベストアルバムをもとに簡単に要約すると、「ずっと昔の失恋を引きずっていて、その経験をこすり過ぎてもうネタが出てこなくなりました。私は今度からみんなの応援に回るわ。Be...!」みたいなことなんだよ(笑)。

あーん……悲しい……そうなのよ! 言わないでよ!!

KURO(HOME MADE 家族)

──でもね、この8周年が分岐点だと思ったの。ちょうど3対3だからさ。この先“○○のシンガーソングライター”になるために、その明確な○○が決まったら、きっとまたさらに強いMs.OOJAになってもう1個上の段階にいくんじゃないかって。偉そうに言って申し訳ないけど。聴き直すまでは「Be...」でおなじみのと思っていたら、失恋の曲も同じくらいあったからさ。さて、今度はどっちの方向に彼女は向かうのか!?というところだと思うんだよね。

そうだね。KURO先生、ご名答でございます(笑)。私は自分が何系のシンガーソングライターかわからないんだけど、ただそのときどきで変わっていて、最近は気付いたら応援ソングばっかり書いてるの。多分そこしか今は見えていないのかもしれない。失恋ソングが多いのはもともと明るい曲より切ない曲の方が好きだから、自然とそういったものが多くなっちゃうんだと思う。

──そうなんだろうね。でも「Stories」のインタビューを読んでいるとさ、「私、失恋とかあまり人に言わない」「上書き保存するから」とかって言っているじゃない? そりゃ、言わんわな! だってこれだけ歌にしていたらと思うんだよね(笑)。

(笑)。

──人に言わないどころか、むしろ不特定多数にさらしまくってるという(笑)。

そうだね(笑)。でも実は「Be...」は自分を鼓舞する歌でもあるんだけど、同時に恋愛の歌でもあるんだよね。

──ああ、なるほどね。確かに。

人生観、応援と恋愛が見事に融合した曲でもある。

──じゃあ、まさにさっき話した“3対3”の配合の曲なんだね。

そう。最近自分に何が一番合っているんだろうって、いろいろと考えていて。いろんな曲を歌って、カバーもやって……自分が何を歌うのが一番合っているのか、ちょっとわからなくなっちゃって。例えば「I'm alive」とか「こんなアッパーな応援歌っていいのかな?」と思ったりもするの。でも実際ライブでやるとすごく盛り上がってくれて、この曲を好きって言ってくれる人もいるし……。

──だから俺「Stories」での試みはすごくいいなと思ったよ。多分そういうモードだったと思うんだけど、テーマも多岐にわたっているし。しかも面白いのは全部、明るい歌なんだよね。「星をこえて」は哀愁があるけど、希望の歌だし。これまで“地球の歌”だったり、失恋の歌だったり、応援歌が多い中、「Stories」でいろんな引き出しがバーッと開いたというか。この先のMs .OOJAが1人で書くものが変わってくるんじゃないのかなと思ったんだよね。

そうだね。これまではけっこうスケール感があるものが自分の歌詞では多かったんだけど、ルンヒャンのライブを観ていて、彼女みたいなミニマムな歌詞を自分の歌の要素に取り入れたいなと思ったの。それでルンヒャンに声をかけて制作チームに入ってもらうことになって、新しい世界が広がったんだよね。「あ、こういう表現で歌ってもいいんだ」と思ったの。

──ルンヒャンの歌詞は日常のささやかな瞬間を切り取ったものだよね。

そうそう。「Stories」はそういうものを取り入れようとした結果なんだよね。

“最強”だった17歳の頃、
大人は楽しいと思えるようになった今

──それまでの歌詞の傾向はさ、例えば応援歌だと「あの頃の自分に会ってがんばれと自分に言う」みたいなのが多かったよね。もちろんそれが悪いわけじゃないんだけど、“あの頃”の自分と今の自分との対比が多かったと思う。

ギャー、言わないで! まあ、でもそうなの(笑)。なんかね、私、学生時代の自分に対して、もしかしたら人一倍思い入れがあるのかもしれない。その年が私の中では永遠に続くと思ってたもん。そのとき「もう今最強だな」って思ってた。

──そう。そこも聞きたかったことなんだけど、Ms.OOJAの歌詞に出てくる“あの頃”っていつなの? それを聞きたかったからインタビューの最初に歌詞を書き始めた年齢を聞いたんだ。もしかしたらそこになんらかの原風景やある種のトラウマがあるんじゃないのかなって思って。

うん。私ね、いまだに学生時代の夢を見るのよ。学校行くんだけど、遅刻するの。まあ、実際遅刻はよくしていたんだけど、もしかしたら制服に対する未練が今もあるのかもしれないなって自分では思っていて。

──ええ、そこ!?(笑) ずいぶん期待して話を聞いていたのに損したわ(笑)。

(笑)。でもなんでこんなに学生の頃の夢を見るんだろうって、不思議なんだよね。あの頃はカラオケとかで毎日のように歌っていて、それが歌手になるきっかけにもなって。で、17歳のときに歌い始めて、なんかその17歳という年齢が私の中では永遠に続くと思ってたんだよね。そのとき「もう今私は最強だな」と思ってたの。そのときの気持ちが今もまだ潜在意識の中にあるのかもしれない。

──へー。なるほどね。不思議だよね。それ以降も楽しいことはあるわけじゃん。けど、なんでそこに固執してるんだろう?

Ms.OOJA

楽しいことはたくさんあるんだけど、なんでなんだろうね……まだうまく言葉にはできないけど、初めてクラブのステージに立って歌ったときに「これは私の生きる道だ」と思ったの。目の前がパーッと開けたあの瞬間、あの感覚が自分の中にずっと残っているんだと思う。その感覚で今もずっと歌っているのかも。だから今でも歌を歌ったりとか、音楽を作っている瞬間が一番楽しいもんね。

──素敵だね。そこがMs.OOJAのいいところだよね。女の子ってさ、環境が変わって、メイクも変わって、付き合いも変わって、どんどんよくも悪くも染まっていくというか、変化していくのが普通なのかなと思うの。女性でそういうのはたぶん珍しくて、男性の方が過去にこだわっている気がするんだよね。でもMs.OOJAは、今でも“四日市のMs.OOJA”って感じがするんだよ。

そう思うのはKUROちゃんだからかもしれないけどね。でも当時出会った人たちのことが大好きなんだと思う。自分の中であの頃のことが今でも輝かしいんだよ。もちろん今も楽しいんだけど。最初にステージに立った頃はなんか無条件に楽しくて、とにかくなんの心配もなかったんだよね。何も見えない、何も知らないからこその強さというか、無防備さというか。今はいろんなことを知っちゃって、その頃の自分がちょっと羨ましいんだと思う。私は何かを知るたびにね、不幸になっているとも思っていて。知る喜びはもちろんあるし、知って幸せにもなるんだけど……例えば、すごくおいしいお寿司を食べたら、それまでは回転寿司をすごくおいしいと思っていたのに、もうそのお寿司以下のお寿司はおいしいって思えない自分がいるかもしれないって。だから、何も知らなかったあの頃が眩しいと思うのかもしれない。

──そうか、だからどの歌詞もちょっと切ないのかもね。

うん。それは誰しもが持っている感覚なのかなと私は思っていて。大人になるってそういうことなんだなって。大人になることがちょっと悲しいなと思うときがあったからさ。でも今はようやくそこから抜けたんだよ。大人は楽しいなって思えるようになった。

──確かに。そんな感じがするね。Ms.OOJAは軸足がブレていないのかもしれないね。17歳を起点に、もう一方の足が大きな円を描いているだけなのかもしれない。

そうかも。なんか楽しいね、こういう話。自分を見つめ直すことができて(笑)。

KUROからMs.OOJAへ10個の質問

──いや、俺も付き合いが長いけど、ここまでMs.OOJAをどっぷりと見つめたのは初めてだったから、なんかいろいろと新鮮だった。いい話が聞けたところで最後にさ、10個の質問を投げて終わってもいい?

なにそれ(笑)。いいよ。

──使うか使わないかは別として、最後にこれを箇条書きにして読者に想像してもらおうかなーと(笑)。

01.好きな言葉は?

継続。

02.嫌いな言葉は?

電話。

03.うんざりすることは?

「猫飼ってるから彼氏できないんだよ。」と言われること。

04.一番うれしいことは?

歌で人生変わりました。

05.好きな映画は?

「グレイテスト・ショーマン」

06.ほかになりたかった職業は?

ない。

07.絶対にやりたくない仕事は?

音楽以外の仕事。

08.人から言われてカチンとくる言葉は?

昔、聴いてました。

09.男性から言われてうれしい言葉は?

一緒にいると楽しいね。

10.死ぬ前に愛する人に残す伝言は?

元気でね。

──ありがとう。ちなみになんで電話?(笑)

電話が嫌いなんだよね、私。なんか電話がかかってくるとドキドキして、胸をおさえてハー……ハー……ってなる(笑)。なんかがんばらないといけない気がするの。

──何、それ(笑)。

(笑)。

左からMs.OOJA、KURO(HOME MADE 家族)。

笑いの絶えない彼女との1時間ほどの対話は、気付けばあっという間に終わり、19年来の長い付き合いの中にも新たなMs.OOJAの側面を気付かせてくれるものだった。軸足はいつまでも“あの頃”と変わらないが、彼女が一歩一歩踏みしめてきた道のりは、確実に人として大きな弧を描いている。わからないことはわからないと言い、悩んでいるときは悩んでいると言う。どこまでも素直で謙虚で、よく笑い、そして今でもどんな洋服でもよく似合う。Ms.OOJAは8周年にして、まだまだ伸びしろを感じる、恐ろしく可能性に満ちたミュージシャンだと思った。

そしてインタビューを終えて、レコーダーを切ったときに、最後にポロッと彼女が僕に漏らした一言が、すべてだったようにも思う。Ms.OOJAは「シンガーソングライターと言われるよりも“歌手”って呼ばれたいんだよね」と言った。