フリースタイルバトルはジュノンスーパーボーイみたいなもの
武田 あの……ちょっと僕の素朴な疑問を皆さんに伺ってもいいですか? 僕のようにヒップホップをよく知らない人間からすると、フリースタイルバトルの現場はとてもネガティブなものを吐き出し合っているだけのように見えて、そのシーン全体にとってマイナスプロモーションになっているように思えるんですよ。Qさんは作品でポジティブなメッセージを伝えているけど、1人のアーティストとして、まるで反対なものを表現するってどういう感覚なんでしょうか?
Mr.Q 確かに貶し合いになるときもありますけど、ネガティブなものだけではありませんよ。「お前のことは好きだけど、俺はお前よりもカッコいい」とリスペクトを込めて戦うときもあります。
せいこう フルコンタクト空手的なことだよ。殴り合ってるけど喧嘩じゃない。
DJ DRAGON お互いに技を出し合ってる感じですよね。
武田 でもそれって損してませんか? ヒップホップの中でフリースタイルバトルでのネガティブさは氷山の一角なのかもしれないけど、一般の人はそうは思ってないわけじゃないですか。
DJ DRAGON 若い子たちは今みんなヒップホップに夢中なんだよ。
Mr.Q みんなプロレスみたいに試合として楽しんでるところはあると思います。ベスト4とかになってくると、みんな「どっちが勝つんだろう? どっちが強えんだ?」って感じで観てますし。それに相手が言ったことにムカついて冷静さを欠くと負ける。こんなこと言うと怒る人もいるでしょうけど。
せいこう 「俺はリアルなんだ」ってね。でもどっかではプロレス的な部分もあると思うんだよな。即興の芝居と言うかさ。だってエンタテインメントなんだもん。
武田 エンタテインメントとして意識はあるんですね。即興の芝居かあ。なるほど。
DJ DRAGON いとうさんが始めたときって、今みたいなバトルはあったんですか?
せいこう ないないない。俺、フリースタイルできないから昨日も家で練習したよ、全然できなかったけど。フリースタイルができる人は特殊な脳みそを持ってると思う。人の話をちゃんと聞いて、そのうえで自分の言いたいことをラップしてるわけじゃん。
DJ DRAGON 僕、先日亡くなられたECDさんが主催されたバトルに、レゲエのDeeJayとして出たことがあるんですよ。89年くらいかな。
せいこう 優勝すると「Check Your Mike」に出れるやつ?
DJ DRAGON そうです! 西麻布のトロスというクラブだったと思います。当時はTOKYO No.1 SOUL SETの前で、僕はレゲエのラップみたいなのをやったんですね。一緒に出てたのがスチャダラパーのBoseとか、GAKU-MCとか。あとMURO。確かA.K.I Productionもいたと思うけど、あいつは当時高校生だったはずだから、出てはいないかもしれない。そんな感じで10人くらいでやりました。今のバトルと比べたら全然チープだけど(笑)。マッツ・ダ・セイコー(MAZZ+PMX)とかもいたかも。
せいこう 懐かしいな! 当時俺はマック・ザ・セイコーと名乗ってて、あいつが俺に似てるからって(藤原)ヒロシが名付けたんだよ。
DJ DRAGON 決勝戦は僕とマッツ・ダ・セイコーの対決だったんですよ。結局負けちゃったんですけど、ECDさんが気に入ってくれて僕は「Check Your Mike」に出られたんです。それがTOKYO No.1 SOUL SETにつながっていくんです。
せいこう マジかよ、知らなかった!
DJ DRAGON 当時僕は無名だったけど、そこから世に出られるようになったんです。バトルってそういう勝ち上がりができる仕組みなんですよ。もちろん有名な人のほうが有利。人気もあるし。けど裏を返せば、無名の人が一気に名を知らしめるチャンスでもある。
武田 へえー、面白いね。ちょっと興味出てきた。
DJ DRAGON 真治が若い頃にジュノンボーイのコンテストに出たのと一緒ってことよ。名もなき人が集まって特技を見せ合って戦うっていう。あれもバトルじゃん。いい男バトル。ジュノンボーイも優勝者はそれなりの栄冠を得られるわけじゃない? ラップバトルもそういう感じなんだよね。Qくんは横綱みたいなもんで、若い人から追われる立場だから大変だと思う。
Mr.Q それで勝ったらカッコいいじゃないですか?
武田 じゃあQさんがやろうとしていることは、「俺がもう一度ジュノンボーイを受ける」のと同じってことですか!? Qさん、それはすごいね。俺無理だわー(笑)。
Mr.Q バトルに出てる人って音源はダサいって言われる人が多いんですよ。でも俺はバトルでも音源でもカッコいいと思われたいんです。この歳でバトルにも出ることはチャレンジだけど、そのほうがカッコいいかなと思うんでやることにしました。
Qちゃんにみんな感謝だね
せいこう Qって無茶してるじゃん。でも収めちゃうんだよね。しかも平均を下げて収めるんじゃなくて、いいものの最大公約数を作って収めてる。これって、物作りをするうえではなかなかできることじゃないと思うんだ。かなり説明不足なところはあるけど(笑)。今回のアルバムもいろんな人が集まって、それぞれがいろんな音を鳴らしてるけど、ちゃんと収まってんだよね。こういうのは「どこにお金がどうかかる」とかを知らないと作れないと思う。
武田 いろんな経験をしていくと「結局これも無駄になるんだろうな」って思考が先行して働いちゃって、若いときと同じようには行動できなくなりますよね。でもお話しを伺ってるとQさんは、裏方として働いていたときの経験があるせいか、その無駄の部分を最小化できちゃうんでしょうね。
せいこう Qには持って生まれた何かがあるんだよ。だって、俺とDRAGONが会うのって35年ぶりなんだよ。俺らは昔同じ原宿のブティックで働いてた先輩後輩同士なのよ。
DJ DRAGON 竹下通りにあったHappy Againというお店でしたね。僕はせいこうさんが辞められたあとに入りました。実はせいこうさんとお会いできるっていうんで、今日の座談会を楽しみにしてたんです。
せいこう お互いずっと会って話したいと思っていたけど、なかなか実現しなかった。それをQが実現してくれたんだよ。
武田 人の出会いはどういうところで生まれるかわかりませんもんね。
DJ DRAGON 一緒にアルバムを作ったって、一度も顔を合わせないパターンもありますからね。この場を作ってくれたQちゃんにみんな感謝だね(笑)。
Mr.Q 実は今、リリースパーティに「Let's Get !」の客演メンバー全員が出演できる日を調整している最中なんですよ……。
せいこう お前、マジかよ(笑)。
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Mr.Qソロインタビュー
- Mr.Q「Let's Get !」
- 2018年2月14日発売 / MS Entertainment
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[CD+DVD]
3500円 / VCCM-2111~2 -
[CD]
3000円 / VCCM-2113
- CD収録曲
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- Let's Get ! feat. マツマイヤー & The Money
- Fly High
- MATSURI
- GEKIATSU feat. 浅野忠信
- アイノパノラマ feat. yooco
- WeArePartyMonster feat. BLACK JAXX(DJ DRAGON & 武田真治)
- Who Is the Best
- ブレてる暇なんか無ぇ feat. いとうせいこう
- I Like That
- 大人のおもちゃ
- Like A Sapphire
- 衝撃 feat. Zeebra
- I Just Wanna
- 手紙
- HOPE feat. HAN-KUN
- DVD収録内容
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- Let's Get ! feat. マツマイヤー & The Money(Music Video)
- アイノパノラマ feat. yooco(Music Video)
- WeArePartyMonster feat. BLACK JAXX(DJ DRAGON & 武田真治)(Music Video)
- ブレてる暇なんか無ぇfeat. いとうせいこう(Music Video)
- 手紙(Music Video)
- Mr.Q(ミスターキュー)
- 1993年にラッパーとして活動を開始。ラッパ我リヤやREAL STYLAのメンバーで、ヒップホップ集団・走馬党の党首を務める。ラッパ我リヤは1995年に発表された日本のヒップホップ史に残るコンピレーションアルバム「悪名」に「ヤバスギルスキル」を提供しデビュー。2000年3月にDragon Ashの「Deep Impact」に客演し、2000年4月にメジャーデビューシングル「Do the GARIYA thing」をリリースした。Mr.Qは2016年にテレビ朝日系「フリースタイルダンジョン」に“隠れモンスター”として登場し話題に。2017年3月にラッパ我リヤとして8年ぶりのアルバム「ULTRA HARD」を発表し、2018年2月に2ndソロアルバム「Let's Get !」をリリースした。