若い子たちが理解できないものではダメ

──ここ最近では、ボカロシーンのファンの年齢層が下がったということもよく言われますよね。特に10代のファンが多いと言われます。そのあたりはmothyさんも小説の反響から感じたりしますか？

mothy　まさにそうですね。もちろん年配の方は多いですけど、それ以上に中学生や小学生がすごく増えてきている。ファンレターをもらうこともあるんですけれど、12歳から15歳くらいの女の子が多い。しかも、もう7年もやっているので、ファンの年齢層も上がるかなと思ったら意外とそうでもなくて。ずっと若い年代が入ってきているんです。

──作品を作るにあたってもそういうことは意識しますか？

mothy　そうですね。そういう子たちを大事にしなくちゃいけないと思っているところはあります。というのは、そういう人を軽く見ちゃうのが作り手として陥りやすい罠だと思っているんです。音楽をやっていると、同じ音楽仲間に褒められるのが何よりうれしいんですよ。音楽好きや音楽に詳しい人に認められるのが気持ちいい。でも、それは落とし穴だと思うんです。

──というと？

mothy　やっぱり音楽好きに褒められるとうれしいから、どんどんマニアックな方向になっていってしまう。若い子たちが理解できないものになっていってしまう。僕はそれじゃダメだと思っていますね。むしろ、音楽を知らない子にいかにわかってもらうかを重視して作らないといけない。

──今回のアルバムでもそこは徹底していますよね。音楽性としては、言ってしまえばあえてダサいところに踏み込んでいる。

mothy　そうそう。「こういうのをやればウケるんだ」と思ってる人はいるかもしれないけれど、結局なかなかやれないんですよ。それはやっぱりプライドのせいだったり、カッコいいイメージを守りたかったりするせいだと思います。

──「野ざらしの首、鬼ヶ島にて」は演歌ですからね。クールなものを目指していたらあれはできない。

mothy　そもそも、自分がまったくクールな人間ではないですから。もう、そこはちょっとあきらめてる（笑）。クールな音楽を作ってくれる人はほかにたくさんいるから、それは僕がわざわざ作らなくていいのかなっていう。むしろ僕としては、求められていること、需要のあることに応えたい気持ちがありますね。

大人が作る子供の曲

──mothyさんって、授業中や空き時間にノートに小説とかマンガを書いていたようなタイプでした？

mothy　小学生の頃はよくやってましたね。自分の考えたオリジナルのキャラクターとか敵の設定をノートに書いてました。それこそRPGみたいにHP（ヒットポイント）とか攻撃力を書いて、自分だけで楽しむという。中学生になってからは音楽にハマり始めたのであまりやらなくなっていったんですけれど。

──今の自分のやっていること、求められていることも、そういう小学生のときの遊びと地続きなところがあるんじゃないでしょうか。

mothy　確かに、わりと今やってる感じに近いかもしれないですね。きっと誰にだってそういう時期はあったんじゃないかと思うんです。「僕の考えた最強の◯◯」みたいな（笑）。そういうものの発展だと思っているところはありますね。

──そういう小学生の心を持ったまま、大人として全力で作品を作るということですよね。

mothy　もちろん、小学生だとここまでのことは書けないですからね。それに、中途半端に若い時期だったらプライドが邪魔をしてこういうことはできなかったと思います。自分はもうある程度大人になっているので、妄想で突っ走りながらも、そこから一歩引いて客観的に見たりすることもできる。だから、変な表現ですけど、大人が作る子供の曲みたいなことができるんだと思います。