音楽ナタリー PowerPush - mothy_悪ノP

「悪ノ娘」から7年 CD+小説で堪能する“七つの大罪”シリーズの集大成

もともと物語と音楽の親和性は高い

──壱加さんがmothyさんとネットで知り合って楽曲のイラストを手がけるようになったのも「悪ノ娘」を聴いたのがきっかけだったんですよね。最初はこの曲に対してどんな印象でしたか?

壱加によるイラスト。

壱加 物語がうまく1曲にまとまっているという印象でした。物語調ということで歌詞にも具体的な描写があるので、イメージイラストを描きやすかったです。

──物語性を持った音楽というmothyさんの方向性のルーツはどんなところにあるんでしょう?

mothy もともと、ジャーマンメタルやメロスピのような洋楽のヘヴィメタルが好きだったというのはありますね。HelloweenとかStratovariusとか、激しい演奏で剣と魔法の世界を歌っているというような。邦楽でも、初期の槇原敬之さんのようにちゃんとストーリー性のある曲が好きだったので、そういう影響もあると思います。ただ、そもそも物語を歌う音楽って、昔から普通にあるジャンルだと思うんですよ。

──というと?

mothy 大昔の吟遊詩人だって、やっぱり音楽に乗せて物語を歌っていたわけですよね。オペラやミュージカルも物語性を持った音楽なわけですし。だから、自分の音楽が邪道だとか特別だとか、そういうことはまったく思わないです。単に今のメジャーなポップシーンでは見られなくなっただけだと思いますね。もともと物語と音楽の親和性は高いし、自分のやっていることもその流れの中での1つの形だと思って作っていますね。

小説で賛否両論が巻き起こることが新鮮だった

──2010年には「悪ノ娘」が小説化されました(参照:悪ノ娘 ノベルシリーズ オフィシャルサイト)。今ではボカロ小説というジャンルの作品も増えましたが、当時は楽曲をもとに小説を書くということ自体が初めてだったと思います。

mothy そうですね。楽曲をもとにした小説っていうのはなかったと思います。僕自身も小説を書くのは初めてでした。

──やってみて、どうでした?

mothy 完成しただけでも十分だと思ってました。正直、売れるとも思ってなかったので、なんのプレッシャーもなかったんです。出版社もそんなに期待していなかった。だからうまくいったのかもしれない。もし仮にほかの人が小説を書いていて「ぜひ悪ノPさんも」って言われたとしたら、逆にプレッシャーで書けなかったと思います。

──とはいえ、もともと1曲作るのにたくさんの設定資料を作っていたわけで、小説にするための材料はたくさんあった?

mothy そうですね。曲をもとにしたシーンもあったし、もともと小説に書けるくらいの設定を用意したつもりではありました。まあ、それでも実際小説にしてみると全然足りなかったんですけど、確かに土台はあったので、だからこそできたのかもしれないですね。ただ、今は小説を書き始めたことで設定が多くなりすぎて、まったく1曲に収まりきらなくなっているんです(笑)。最近は「ここから先は小説に書こう」と思いながら作っていることも多いですね。

──動画だけでなく小説でも壱加さんがイラストを手がけているわけですが、描くときに気を配っていることはありますか?

壱加 色合いやイラストの雰囲気など、曲の雰囲気を壊さないようなイラストになるように気を付けています。悪ノさんの楽曲に関してならば、いただいた資料やすでに公開されている情報の範囲内でイラストを描くように努めています。描写について迷ったときは一度確認を取ったりして、自分自身の解釈は極力入れないようにしています。

──ボカロ小説を書くようになって、mothyさんのもとにはどういう反響がありました?

壱加による「七つの大罪」アイテムのイラスト。

mothy 最初は反対意見もあったんですよ。小説になってしまうと想像の余地がなくなると言われたこともあった。そういう賛否両論が巻き起こること自体が新鮮でした。ただ、いわゆるボカロ小説というのはやっぱり楽曲の二次創作なんですよ。それを曲の作者本人が書いている。なので、自分としては好きにやっているという感覚が大きいですね。それに、最近では小説を楽しみにしてくれる人もたくさんいますし、状況は変わってきたと思います。

──小説化だけでなく「悪ノ娘」はコミカライズもされましたが、壱加さんがこのお話をいただいたときの感想は?

壱加 絵に関わるので、コミカライズとは長期間のお付き合いになりそうだなと思いました。小説内の挿絵で描けなかったシーンも描けるのはうれしかったです。

mothy_悪ノP feat. 鏡音リン、鏡音レン ニューアルバム「七つの罪と罰」2015年2月25日発売 / Warner Music Japan
初回限定ノベル同梱盤 [CD+書籍]3240円 / WPCL-12051
通常盤 [CD]2484円 / WPCL-12052
収録曲
  1. 七つの罪と罰 / mothy_悪ノP feat. 神威がくぽ、MEIKO、鏡音リン、鏡音レン、初音ミク、巡音ルカ、KAITO、GUMI
  2. ヴェノマニア公の狂気 / mothy_悪ノP feat. 神威がくぽ、MEIKO、初音ミク、巡音ルカ、GUMI、KAITO
  3. グラスレッドの肖像 / mothy_悪ノP feat. GUMI
  4. 悪食娘コンチータ / mothy_悪ノP feat. MEIKO、鏡音リン、鏡音レン
  5. Drug Of Gold / mothy_悪ノP feat. KAITO
  6. 悪ノ娘 / mothy_悪ノP feat. 鏡音リン
  7. 悪ノ召使 / mothy_悪ノP feat. 鏡音レン
  8. 眠らせ姫からの贈り物 mothy_悪ノP feat. 初音ミク
  9. 五番目のピエロ / mothy_悪ノP feat. 鏡音レン、巡音ルカ、GUMI
  10. 円尾坂の仕立屋 / mothy_悪ノP feat. 巡音ルカ
  11. 野ざらしの首、鬼ヶ島にて / mothy_悪ノP feat. 神威がくぽ
  12. 悪徳のジャッジメント mothy_悪ノP feat. KAITO
  13. 箱庭の少女 mothy_悪ノP feat. 初音ミク
  14. ネメシスの銃口 / mothy_悪ノP feat. GUMI
  15. 最後のリボルバー / mothy_悪ノP feat. GUMI
イベント情報
mothy_悪ノP メジャー2ndアルバム「七つの罪と罰」発売記念 サイン&握手会
  • 2015年2月25日(水)東京都 ニコニコ本社
    19:00~ mothy_悪ノP、下田麻美ニコラジ生出演
    20:00~ mothy_悪ノP直筆サイン&握手会
mothy_悪ノP(モッチーアクノピー)

2008年から活躍するボカロP。2008年2月に鏡音リン、鏡音リンを使用したオリジナル曲「10分の恋」をニコニコ動画に投稿しデビュー。ストーリー性の強い“物語音楽”を得意とし、中でもニコニコ動画にてミリオン再生を超える「悪ノ娘」「悪ノ召使」は代表作として自身のプロデューサー名の由来となっている。2010年8月に処女作となる小説「悪ノ娘 黄のクロアテュール」を執筆。「悪ノ娘」「悪ノ召使」の語られざる物語を制作者自らが発表したことで話題となった。2011年3月には第2弾小説「悪ノ娘 緑のヴィーゲンリート」を執筆し、前作も合わせて発行部数30万部を突破した。最近ではボーカロイド7種を使用し、各曲の物語性だけでなく、それぞれの楽曲につながりのあるシリーズ性を持った楽曲展開を行っている。2015年2月、自身の人気シリーズ「七つの大罪」の集大成となるアルバム「七つの罪と罰」をワーナーミュージック・ジャパンからリリース。

壱加(イチカ)

主にボーカロイド関連の動画にてイラストを手がけているイラストレーター。悪ノPによる「悪ノ娘」「悪ノ召使」が次々と発表されたとき、いずれの動画も壱加のイラストがサムネイルとなっており、これらの楽曲の大ヒットにより壱加の絵に大きな注目が集まる。それ以降も悪ノPの主要な作品でイラストや動画編集、ジャケットイラストを手がけている。