「ううーっ」じゃダメなんだ、「あ」にしてくれないか
──松井さんとはインストゥルメンタルを除いた12曲中、7曲で歌詞を共作されています。
松井 結果的に、ですね。最初はたぶんそこまでのつもりじゃなかったと思います。1曲はまるまる僕が書くことが最初から決まっていて、あとはいろいろ見せてもらっているうちに親心で「ここはこうしたほうがいいんじゃない?」といったアドバイスをしだしたら、どんどん増えていってしまって。
森 アイデアを出していただくと、「じゃあ、ここはもっとこうしたほうがいいかも」っていうアイデアが自分の中にも出てきて。それが出てくると、もっとよくするためにはどうしたらいいだろうって松井さんにまたご相談したり。
松井 最後は本人が選択すればいいことで、歌ってみてフレーズが気に入らなければ別に選ばなければいいだけなので。歌を背負っていくのはアーティスト本人であって、僕なんかは名前だけ出してあとは影に隠れて応援するしかない(笑)。ただ、よくも悪くも彼女は自分の声が中心にあるので、ギターを弾きながら作っているときに気に入る語感があると思うんです。それだといい面もあるんだけど、どうしても着地点やロジックが似てしまう。だったらこういうアイデアもあるよとか、アルバム全体で聴いたときにこの歌は最後まで言い切らなくても伝わるんじゃないかみたいな客観的なことを話しながら、彼女が再構築していく作業に手を貸しました。あとは「曲を作ってみたもののこれはどういう詞がいいんだろう」みたいなときに僕が書きましたね。
森 松井さんに書いていただいた「プランクトン」はギターのアルペジオからできた曲なんですけど、すごくいいメロディができて、今までにない森恵感が出せるなと思いながら、デモの段階ではラララで歌っていたんです。この浮遊感のあるメロディにどんな言葉を乗せようか考えたときに「うーん、松井さんだな」と思って(笑)。この曲はちゃんと正しく扱える人にやっていただくのが絶対正解だという確信があったので。松井さんにお願いしたんですけど、まさかプランクトンの曲になるとは思わなかったですね。
松井 まさに彼女が言った浮遊感からプランクトンという言葉が浮かんだんです。自分の気持ちを強く表現する歌が多い中、この曲はいい意味でとらえどころがなかったからほかの作品とは違うものにしたほうがいいなと思って。ちょうどラララで歌ったデモテープを聴いたときに彼女の母音の「あ」という響きがすごくきれいだったので、言葉の最後を全部「あ」の母音で終えたんです。気付きました?
──夜が明ける「な」、雨なの「か」、誰のせい「だ」ですね。
松井 それに彼女は気が付いてなくて。
森 すごくいい歌詞だなと思いながら深く考えずスッと頭の中に入ってきたので自然に歌ってました。そのあと電話でお話ししていたら「実はね」って。
松井 最後の部分にフェイクを入れてもらったら「ううーっ」って歌ったから、それじゃダメなんだ、全部「あ」で終わってるからフェイクも「あ」にしてくれないかって言って、ようやく気が付いたという(笑)。この曲はアレンジもいいですよね。ちょっと洋楽っぽい。
森 うれしいです。これは言葉が乗った瞬間にアレンジの方向性が固まって、イルカが鳴くような高いエレキの音を入れてあるんです。言葉とメロディが生み出す世界観を今までとは違う面で表現できたんじゃないかなって。
今までの音楽人生が1つでも欠けていたら絶対できなかった
──「確信犯」の歌詞も共作ですが、新境地と言えるロックナンバーに仕上がりました。
森 これはもともと恋愛の曲だったんです。嫌な男に引っかかってしまった気持ちをぶつけるような曲だったんですけど、ラブソングはほかにもあったので、これは私が持っていない視点が必要だなと思い一緒に作らせていただいたんです。ただこの曲は自分自身の夢への憧れとか、矛盾とか、いろいろな言葉をキーワードとして散りばめていたので、松井さんもおっしゃられた通りイチから手がけていったほうが絶対楽だろうなと思ってました。手直し的な作業がすごく大変だったんじゃないかなって。
松井 僕は共作するときにどっちがどこを書いたのかという種明かしはしないようにしてるんですけど、この曲は最初に彼女が書いてきたものに「ここはこういうリズムで歌いたい」っていう言葉のハマりがあったんです。聴いたときの歌の心地よさとかグルーヴ感みたいなものを生かしたいといつも思っているので、そういったところがボキャブラリーを探すうえでポイントになっていくんです。最初の段階で「ここはこうハネて歌いたい」とか「ここはシンコペーションで歌いたい」という歌の性格がちゃんとできていたので、書きやすかったですね。
──タイトルの「1985」は森さんの生まれた年ということで、これまで生きてきた歩みをすべて反映したアルバムという意味合いも感じました。
森 まさにその通りで、ここからリスタートという思いもすごくありましたし、もし今回初めて松井さんとお会いして共作をさせていただいたとしたらこの作品には絶対にならなかったと思うんです。「世界」という作品以来いろんな形で携わっていただいて、松井さんがこういう世界観に導いてくれるということを知っていたからこそ「プランクトン」という曲を書いてほしいと思ったわけですし。自分の今までの音楽人生が1つでも欠けていたら絶対できなかったアルバムだなと思います。
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安全地帯の歌詞、実は軒並みボツで
- 森恵「1985」
- 2018年4月25日発売 / cutting edge
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[CD]
3240円 / CTCR-40395
- CD収録曲
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- Around
- 確信犯
- いつかのあなた、いつかの私
- #M-D18
- そばに
- プランクトン
- コルク
- Going there
- Howl
- #M-0018
- コタエアワセ
- 今も、やさしい雪
- この街のどこか
- 愛のかたち
- 初回受注限定生産盤DVD収録曲
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- 「MEGUMI MORI Concert at Shinagawa Gloria-Chapel」ライブ映像10曲収録+インタビュー+オフショット映像
公演情報
- MEGUMI MORI“全国バンドツアー”
FOLK ROCK LIVE TOUR 2018 -
- 2018年6月2日(土)
福岡県 イムズホール - 2018年6月3日(日)
広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA - 2018年6月9日(土)
岡山県 さん太ホール - 2018年6月10日(日)
京都府 磔磔 - 2018年6月17日(日)
東京都 日本橋三井ホール - 2018年6月23日(土)
愛知県 DIAMOND HALL - 2018年7月22日(日)
北海道 生活支援型文化施設コンカリーニョ
- 2018年6月2日(土)
- MEGUMI MORI
COVERS BAND LIVE - 2018年7月6日(金)
東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
- MEGUMI MORI
FAN CLUB "FOREST" LIVE 2018 - 2018年7月7日(土)
東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
- HIKIGATARI LIVE TOUR 2018 "Folk LIVE"
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- 2018年7月8日(日)
東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE - 2018年7月21日(土)
北海道 生活支援型文化施設コンカリーニョ - 2018年8月4日(土)
広島県 Live Juke - 2018年8月5日(日)
兵庫県 神戸アートビレッジセンター Kavc - 2018年8月26日(日)
宮城県 retro Back Page - 2018年9月29日(土)
愛媛県 松山教会 - 2018年9月30日(日)
香川県 史跡高松城跡 玉藻公園 披雲閣 - 2018年10月13日(土)
沖縄県 TopNote
- 2018年7月8日(日)
- MEGUMI MORI
Year-end special concert in 2018 - 2018年12月2日(日)
広島県 JMSアステールプラザ 中ホール
- 森恵(モリメグミ)
- 広島県出身、1985年生まれの女性シンガーソングライター。高校生時代に地元を拠点としたストリートライブでファンを増やし続け、2010年にcutting edgeからメジャーデビュー。2012年にメジャー1stフルアルバム「いろんなおと」をリリースする。2014年には2ndアルバム「10年後この木の下で」を発表。またギターメーカーのギルドスターズと日本人アーティストとして初のエンドースメント契約を結んだ。2014年10月にプロデューサーにASA-CHANGを迎えたミニアルバム「オーバールック」をリリース。2018年4月には初のセルフプロデュースアルバム「1985」を発表した。
- 松井五郎(マツイゴロウ)
- 1957年生まれの作詞家。1979年に結成したバンドで「ヤマハポピュラーソングコンテスト」つま恋本選会に出場。このコンテストがきっかけでチャゲ&飛鳥(現:CHAGE and ASKA)のアルバム「熱風」の作詞を担当することになり、作詞家としてデビューする。1984年には作詞を手がけた石川優子&チャゲ「ふたりの愛ランド」が大ヒット。同年玉置浩二と出会い、安全地帯のアルバム「安全地帯II」のほぼ全曲の作詞を担当。1985年発売の安全地帯「悲しみにさよなら」で初めてオリコンウィークリーチャート1位を経験する。工藤静香「恋一夜」、田原俊彦「ごめんよ涙」、HOUND DOG「BRIDGE~あの橋をわたるとき~」、光GENJI「勇気100%」、氷室京介「KISS ME」、V6「愛なんだ」など数々のヒット曲を世に放つ、日本を代表する作詞家の1人。