森恵×松井五郎|作詞家はシンガーソングライターに何をすべきなのか

森恵が4年ぶりのフルアルバム「1985」をリリースした。今作は森が初めて全曲セルフプロデュースを手がけた作品で、インディーズ時代の楽曲「そばに」のリメイクバージョンを含む14曲を収録。このうち7曲で彼女は、作詞家・松井五郎と歌詞を共作している。

これを受けて音楽ナタリーでは今回、森と松井の対談を実施。アルバムの制作秘話と共に、2人それぞれの歌詞に対するスタンスや作詞メソッド、アルバムタイトルでもある1985年の松井の知られざるエピソードなど、さまざまなトピックについて語り合ってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / マスダレンゾ

作詞家の役目は、森恵を松井五郎にすることではない

──この2人での対談は初めてだそうですね。

左から森恵、松井五郎。

森恵 初めてなのでドキドキしてます(笑)。

松井五郎 最初に会ってから6年?

 そうですね。2012年の「世界」というミニアルバムから、ご一緒させていただいてます。

松井 でも会うのは仕事のときだけだから、合計したら1週間にも満たないかもしれない(笑)。

 連絡はよく取らせていただいてるんですけど、直接お会いした回数はそれくらいかもしれないですね。

──最初にお話があったとき、松井さんは森さんにどのような印象を持たれたんでしょうか?

松井 資料をいただいて、すごく「きれいな声だな」と思いました。歌手の方と最初に仕事をするとき、まず気にするのは声質なんです。歌唱力は練習で身に付きますが、声の質だけはなかなか変わるものじゃないので。その一方で彼女はシンガーソングライターなので、最初はかなりバリアを張ってたんじゃないかな 。いい意味で「自分が歌を書くんだ」って気持ちがあるじゃないですか? 僕もいろんなシンガーソングライターと仕事をしてきましたけど、大抵はそういう壁があるものなんです。それは恵ちゃんにも感じました。でもアーテイストはそういう壁があったほうがいい。そういう意味でも彼女は最初からしっかり自分の世界観を持ってました。

──森さんは松井さんと歌詞を共作することになっていかがでしたか?

左から森恵、松井五郎。

 松井さんの歌詞が素晴らしいことは知っていましたが、どういうコミュニケーションの取り方をすればいいのかわからなかったので、最初は恐る恐る接してました(笑)。でも、私の目線まで降りてきて世界を一緒に見てくださる感じがすごく伝わってきて、この方と一緒に作っていけば自分の視野も広がるなと思い、僭越ながらどんどんお願いしていった感じです。松井さんに教えていただいたのは、例えば、接続語1文字で世界が180°変わるということ。空を見上げるのは自然なことですけど、空が僕たちを見てるとすれば視点がまるで変わりますよね。私はずっと松井さんのことを「言葉の魔法使い」ってこっそり呼んでるんですけど(笑)。言葉が組み合わさったときに起こる化学反応を常に考え続けてきた年月があるからこそ、こんなに素敵な詞が書けるんだなって、毎回勉強させてもらってます。

松井 先ほどもお話ししたようにシンガーソングライターは自分が歌いたい歌があるので、そこで生きている言葉というものがあると思うんです。僕は何を必要とされているのかと言えば、森恵を松井五郎にするのではなくて、森恵がより森恵になっていくための推進力なんだと思うんです。何年か後に、共作したものが「あれはいったいどっちが考えたフレーズだったかね?」みたいな感じになっていく。そしてゆくゆくは松井五郎という名前が消えて、それがすべて森恵というアーティストの言葉になっていくのが僕としては一番うれしいことです。ただ作り手はエゴイストですから、「僕1人で書いた方がいいんじゃないか」と考えることもなくはないです(笑)。共作の場合でも、作っている過程では「僕のフレーズのほうがいい」と思うことがあります。ところが実際にライブで歌ったものを聴いたときにアーティストのほうが正しかったなと思うことも多々あるので、絶対僕の答えが正しいという押し付け方ではなく、お互い正解を探しながら彼女も僕の言葉を自分の言葉にしていってくれたらいいなと思っています。

左から森恵、松井五郎。

 言葉って歌ってしまうと魂が宿るので、自分が最初に作った歌詞からなかなか離れられないときがすごくあるんです。なので今回は自分で作ってしまった言葉に対する執着をちょっと解き放たなきゃなってことはすごく意識していて。「歌詞の大サビのここの世界観をもうちょっと広げたいんですけど」っていうときも、松井さんは1番、2番の歌詞の流れをすごく汲み取って、「この言葉遣いだったらこういう言い方が合うかもね」っていうアイデアを出してくださって。今回もまた松井さんならではの言葉の使い方が端々に表れていたので、楽しみながら勉強させていただきました。

彼女はすごく学習能力が高い

──今回は4年ぶりのフルアルバムにして、初のセルフプロデュース作となります。カバーアルバム「Grace of the Guitar」「COVERS Grace of The Guitar+」を経て、森さんとしても今回のアルバムはご自身の中でセルフプロデュース作にしようという考えが強くあったのではないでしょうか。

 セルフプロデュースするにあたって、自分自身を客観視することがすごく難しかったんですけど、だからこそ今までの延長線上では絶対にダメだと思い、「新しく生まれ変わった森恵が出てきたな」って思ってもらえる作品じゃないといけないっていうのを一番に考えながら作ってました。

松井五郎

松井 彼女はすごく学習能力が高いですよね。レコーディングのたびにプロデュースの仕方や方法論を自分なりに再構築しているなというのは感じましたし、今回それが実を結んだことで、また新しいスタートラインを自分で作ったんじゃないかなという気がします。

──今までの森さんのイメージにとらわれない、いろんな表情を持った楽曲がそろった1枚になりましたね。

 今回は「いい曲ができたなと思ったときにアルバムを作りたい」というところからスタートしたんです。この曲はライブでやりたいなとか、ツアーメンバーだったらこういうふうにアレンジするだろうなとか、イメージが強く湧いたものを厳選していったので、生まれるべくして生まれたアルバムという意識はすごく強いです。その必然性をもっとも感じたのが1曲目の「Around」で、これはこのアルバムを作ろうと決めて最初に制作した曲なんですね。

森恵「1985」
2018年4月25日発売 / cutting edge
森恵「1985」

[CD]
3240円 / CTCR-40395

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. Around
  2. 確信犯
  3. いつかのあなた、いつかの私
  4. #M-D18
  5. そばに
  6. プランクトン
  7. コルク
  8. Going there
  9. Howl
  10. #M-0018
  11. コタエアワセ
  12. 今も、やさしい雪
  13. この街のどこか
  14. 愛のかたち
初回受注限定生産盤DVD収録曲
  • 「MEGUMI MORI Concert at Shinagawa Gloria-Chapel」ライブ映像10曲収録+インタビュー+オフショット映像

公演情報

MEGUMI MORI“全国バンドツアー”
FOLK ROCK LIVE TOUR 2018
  • 2018年6月2日(土)
    福岡県 イムズホール
  • 2018年6月3日(日)
    広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2018年6月9日(土)
    岡山県 さん太ホール
  • 2018年6月10日(日)
    京都府 磔磔
  • 2018年6月17日(日)
    東京都 日本橋三井ホール
  • 2018年6月23日(土)
    愛知県 DIAMOND HALL
  • 2018年7月22日(日)
    北海道 生活支援型文化施設コンカリーニョ
MEGUMI MORI
COVERS BAND LIVE
2018年7月6日(金)
東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
MEGUMI MORI
FAN CLUB "FOREST" LIVE 2018
2018年7月7日(土)
東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
HIKIGATARI LIVE TOUR 2018 "Folk LIVE"
  • 2018年7月8日(日)
    東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2018年7月21日(土)
    北海道 生活支援型文化施設コンカリーニョ
  • 2018年8月4日(土)
    広島県 Live Juke
  • 2018年8月5日(日)
    兵庫県 神戸アートビレッジセンター Kavc
  • 2018年8月26日(日)
    宮城県 retro Back Page
  • 2018年9月29日(土)
    愛媛県 松山教会
  • 2018年9月30日(日)
    香川県 史跡高松城跡 玉藻公園 披雲閣
  • 2018年10月13日(土)
    沖縄県 TopNote
MEGUMI MORI
Year-end special concert in 2018
2018年12月2日(日)
広島県 JMSアステールプラザ 中ホール
森恵(モリメグミ)
森恵
広島県出身、1985年生まれの女性シンガーソングライター。高校生時代に地元を拠点としたストリートライブでファンを増やし続け、2010年にcutting edgeからメジャーデビュー。2012年にメジャー1stフルアルバム「いろんなおと」をリリースする。2014年には2ndアルバム「10年後この木の下で」を発表。またギターメーカーのギルドスターズと日本人アーティストとして初のエンドースメント契約を結んだ。2014年10月にプロデューサーにASA-CHANGを迎えたミニアルバム「オーバールック」をリリース。2018年4月には初のセルフプロデュースアルバム「1985」を発表した。
松井五郎(マツイゴロウ)
1957年生まれの作詞家。1979年に結成したバンドで「ヤマハポピュラーソングコンテスト」つま恋本選会に出場。このコンテストがきっかけでチャゲ&飛鳥(現:CHAGE and ASKA)のアルバム「熱風」の作詞を担当することになり、作詞家としてデビューする。1984年には作詞を手がけた石川優子&チャゲ「ふたりの愛ランド」が大ヒット。同年玉置浩二と出会い、安全地帯のアルバム「安全地帯II」のほぼ全曲の作詞を担当。1985年発売の安全地帯「悲しみにさよなら」で初めてオリコンウィークリーチャート1位を経験する。工藤静香「恋一夜」、田原俊彦「ごめんよ涙」、HOUND DOG「BRIDGE~あの橋をわたるとき~」、光GENJI「勇気100%」、氷室京介「KISS ME」、V6「愛なんだ」など数々のヒット曲を世に放つ、日本を代表する作詞家の1人。