1曲入魂ではなく11曲入魂
──ここまでのお話を聞くだけでも40年の重みが伝わってきますが、さらに本作には平松愛理さんや広瀬香美さん、岸谷香さんという、森口さんの90年代の音楽活動における屋台骨を作った作家による書き下ろしの新曲も収録されています。
プライベートでも仲がいい皆さんにここで再集結していただこうと思いましてお声がけしました。平松さんが書いてくださった2曲目の「Good Morning Good Night」は、私が出演したテレビドラマ「最後から二番目の恋」を題材に、とリクエストしました。バタバタとがんばって生きてきた同世代の大人の方々の背中を押すような、ちょっとファニーでユニークな、でも力強い曲になっています。平松さんはこの曲を書く際、私の30周年アニバーサリーライブの映像を観て、「自分が曲を提供したのは博子ちゃんが20代の頃だったけど、今はこんなに大人な表現ができるようになったんだ」と驚いたらしくて。それで「だったら大人に向けてストレートに、大人な言葉でリアリティを伝えられるな」と思い、この曲を作ったそうです。しかも「博子ちゃん、ここまでよくがんばってきたな、今もがんばってるな。がんばれ!」と、泣きながら書いたんですって。そういうお話を聞くだけでも「なんてありがたいんだろう」と、私も涙が出てきちゃいます。
──ちなみに、印象に残ったフレーズは何かありましたか?
特に好きなのが「動揺しながらシビレちゃえ」という部分なんですけど、これは大人じゃないと表現できないフレーズだなと思いました。これまでたくさんがんばってきて、生きる術もたくさん学んできたはずだけど、時には「こんなはずじゃなかった」「これまでうまくいってたのに、なんでうまくいかないんだろう」と動揺することもあるんですよ。しかも、そういうことを前向きに捉える気持ちが大人になると減っていく。この「動揺しながらシビレちゃえ」は「そうだよな、そういう気持ちを大切にしないと」と気付かせてくれた、大切なフレーズです。
──僕も森口さんと世代が近いので、おっしゃることがよくわかります。
ありがとうございます。あと、「今日こそひとつだけ 大切に諦めよう」というフレーズが刺さりまくりました。大人の方なら理解できるんじゃないかなと思っていて。投げやりにあきらめるのではなく、がんばって大切にしてきたからこそ、手放すことで逆に前に進めることもあるよねと、自分に言い聞かせているようで、すごく哲学的だなと感じました。
──広瀬香美さん書き下ろしの4曲目「forever and ever and ever and ever.......」は、とてもドラマチックなバラードです。
広瀬さんとは30年来の付き合いで、落ち込んで泣きながら相談したこともあったりと、私のことを全部知っている大切な友人なので、お願いしない理由はないですよね。楽曲のプロデュースもしてもらったんですけど、流石の企画力で。「歌手でありながら、ドラマもミュージカルもやってきた博子ちゃんだったら歌えるだろうという歌い出しにしたい」とのことで、ちょっと芝居がかったため息で曲が始まるんです。ここでまず「何?何?」ってつかまれるんですよ! 歌詞にはずっと私のことを応援してくれているファンの皆さんとの関係、“歌手・森口博子”としての思い、広瀬さんとの友情が書かれていて、グッとくる大作になっています。「いろんなアーティストに楽曲提供をしてきたけど、号泣しながら曲を書いたのは博子ちゃんが初めてだよ」と言ってくれて私も号泣。どの作家さんたちも熱量と本気度が半端なくて、1曲1曲の濃度がめちゃくちゃ高いんですよ。個人的には全部シングルカットしたいくらいです。11曲入魂。もうこれ、シングル集にしちゃいましょうか(笑)。
──(笑)。確かに、どの曲も100%全力投球という印象が強いです。
本当、高カロリーすぎません?(笑) 作家の皆さんの「お互いまだまだこれからだよね」という熱い思いが、どの曲からもしっかりと伝わってくるので、私も背筋が伸びる思いでレコーディングに向き合いました。
──6曲目に収録されている「年下のあいつ」は、実に岸谷さんらしさのある軽快なポップチューンです。
爽快で気持ちがいいんです。岸谷さんには「スピード」や「ホイッスル」という、私のライブに欠かせない楽曲を提供していただいてきたので、今回も「『スピード』のようなライブ映えする明るい曲を」とお願いしました。この曲、最初にメロディと譜面が届いたときは「年下のビリー」という仮タイトルだったんですよ。その「年下」というワードに惹かれたんですけど、ラジオ局の現場ですごくがんばっている男の子がいて、最初はいろいろ教えていたのにいつの間にか私を追い越して、すごくしっかりしてきたというエピソードを思い出しまして。そこから、このエピソードをモチーフに岸谷さんとの共作で歌詞を書きたいとお伝えし、歌詞ができあがりました。これは余談なんですけど、その男の子のイニシャルがMだったので、最初は「年下のMくん」ってタイトルにしようかと思ったんですよ。でも……。
──プリンセス プリンセスの名曲「M」と被ってしまうと。
だからなのかわかりませんが、香さんに却下されました(笑)。「あいつ」で大正解だと思います!
ヒャダイン提供曲は“森口博子年表”
──このほか、アルバムには前山田健一さんらしさ全開の「元祖バラドルなんだもん!」というコミカルな楽曲も収められています。
ヒャダインさんがバラドル時代の私を、最高の切り口で総括してくださいました。傑作誕生です! 私がかつて出演したドラマやバラエティ番組の名前が出てきたりと、まるで“森口博子年表”みたいな歌詞で。曲の途中で始まるクイズコーナーも、曲中のコールも全部ヒャダインさんの自作自演です。ライブでの盛り上がりの絵が見える曲になりました。かつ、“爆笑ホロリソング”といいますか。ヒット曲に恵まれなかった時期はバラエティに必死だったけど、結果それがこうして歌につながっているんだと思うと感慨深くて、「そのままがんばり続けていいんだよ」とあの頃の私に伝えてあげたいです。
──そのがんばり続ける姿勢が、「『適当』って言葉はNGワード」などの歌詞に表れていますね。
「寝る間なくても笑顔でいたよ」というフレーズもまさにそうで。そういった思いをヒャダインさんにひと言も伝えていないのに、こうして歌詞に盛り込んでくださって。しかもここまでエンタテインメント性高く仕上げてくださったことに、ウルっときちゃいました。
──森口さんのことはデビュー当時から拝見してきたので、「セーラー服反逆するどころか」や「今日も笑顔パオパオなんだよ」のくだりには思わず爆笑してしまいました(笑)。
ヤバいですよね! 「セーラー服反逆同盟」(1986~87年放送のテレビドラマ)や「パオパオチャンネル」(1987~89年放送のバラエティ番組)の要素の入れ方がヒャダインさんらしいなと思いました。「セーラー服反逆同盟」、知ってるんですか?
──当時、リアルタイムで観てました(笑)。
えー! (周りにいた若いスタッフに向けて)知ってますか? 「セーラー服反逆同盟」って。主演が中山美穂ちゃんで、仙道敦子ちゃんや山本理沙ちゃん、後藤恭子ちゃんとセーラー服反逆同盟を結成して、学園の闇と対峙していくドラマなんですけど、私は不良のチョイ役で出演していたんですね。ほとんど映らなくて、セリフも「(気の抜けた声で)何やってんだよー」くらい(笑)。やっと出番がきたと思ったら悪い大人に騙される役(笑)。あれを知ってるなんて、びっくらポンですよ!
──(笑)。森口さん作詞作曲による「ドキがムネムネ♡」も、「元祖バラドルなんだもん!」同様にコミカルさが際立つ1曲です。
去年のコンサートツアーでこの曲をビキニ姿で歌って、さらにそのツアーグッズとしてビキニ姿の私のアクリルスタンドを作ったんですよ。それも、昔懐かしい8cmシングルCDの縦長パッケージの中にアクリルスタンドが入っているという形で。「せっかく8cmシングル風なんだから、パッケージの中に歌詞が書いてあったら面白いよね」という話になり、自分で歌詞を書くことになったんですけど、だったらメロディも付けちゃえと。そしてその曲をコンサートでサプライズで披露したわけですが、「この曲を40周年アルバムに入れたいです」と言ったら、「この豪華でそうそうたる作家陣の書き下ろし楽曲の中に、わざわざ入れなくてもいいんじゃないですか」とスタッフのみんなに反対されました(笑)。
──アルバムの中での置きどころにも困りそうですよね。
実際、難しかったです。考えに考えて入れ込んだので、「ペンタス」の前にこの曲がくるというジェットコースターみたい流れも含めて楽しんでいただきたいです(笑)。
──すごい高低差ですよね(笑)。
私のこの性格をストレートに表した流れですよね。私、やるかやらないかが常にはっきりしていて、中間のグレーがないんですよ。「ドキがムネムネ♡」をボーナストラックとしてアルバムの最後に置くという案も出たんですけど、それは絶対に違うなと。だからといって、「元祖バラドルなんだもん!」に続く形だとクドくなりすぎてしまう。あと、「元祖バラドルなんだもん!」が“森口博子年表”のような内容になっているのに対し、「ドキがムネムネ♡」には50代の今の気持ちをそのまま遊び心で詰め込んでいるので、私の中では色の違いがはっきりとしていて、そういう意味でも並べないほうがいいなと。そうやってスタッフと喧々諤々している時間こそがアルバムを作る醍醐味ですし、そこも含めて幸せな期間でした。
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「水の星へ愛をこめて」を聴いてきたファンの皆さんに向けて



