森口博子「ANISON COVERS 2」インタビュー|アニメソングとJ-POPの架け橋に

森口博子によるアニソンカバーアルバム「ANISON COVERS 2」がリリースされた。

「ANISON COVERS 2」は、“大人のためのアニソンカバーアルバム”をコンセプトとした作品。2023年にリリースされ、音楽チャートで好成績を残すとともにリスナーから好評を博した「ANISON COVERS」の続編にあたる作品で、通常盤ジャケットで森口が34年ぶりのビキニ姿を披露するなど発売前から話題に。前作に引き続き1980~90年代にかけて発表されたアニソンの名曲を中心に収録曲がセレクトされ、木根尚登(TM NETWORK)や百田夏菜子(ももいろクローバーZ)をはじめとする豪華アーティストが森口とコラボレーションしている。

1985年に「機動戦士Ζガンダム」のオープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」でデビューを果たし、近年はBS11のアニソン番組「Anison Days」でも数多くのアニソンをカバーしている森口。彼女はどんな思いを胸にアニソンを歌い続けているのか、インタビューを通して深く掘り下げた。

取材・文 / 西廣智一

アニソンは時間差で感動できる

──昨年「ANISON COVERS」をリリースした際、リスナーからどんな声やリアクションが届きましたか?

2019年に始まった「GUNDAM SONG COVERS」シリーズ(アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズの楽曲をカバーおよびセルフカバーした作品)が2022年の「GUNDAM SONG COVERS 3」で最終章を迎えた時点で、「森口さんが歌うアニソンをもっと聴きたいです」という声がたくさん届いていたので、「ANISON COVERS」の情報を解禁したときは「待ってました!」という喜びの声や「これは俺のための選曲だ!」という反響がたくさんありました。アルバムがオリコンデイリーランキングでトップ10に入ったり配信チャートで1位をいただいたりと、ガンダム関連の楽曲以外の私が歌うアニソンも楽しんでいただけるんだなと実感しました。

森口博子

──「ANISON COVERS」を聴いて、カバーした楽曲に対する愛情がすごく伝わってくる作品だと感じました。

ありがとうございます。私はBS11で「Anison Days」というレギュラー番組を持っていて、今年放送8年目に突入したんですけど、昨年「ANISON COVERS」をリリースした時点で番組内ではすでに250曲近くのアニソンをカバーさせていただいていたんです。そのカバー曲の中には私の知らない名曲もたくさん存在していて。そういう楽曲が地球上にこんなにもあふれていて、私みたいにまだこれらの曲を知らない人がいるんだと考えたら、その楽曲のファンの方はもちろん、知らない方たちに向けて曲を届けたいと思ったんです。それくらい驚きと感動がありました。その思いを詰め込みたくて、カバー歌唱した250曲を中心に、新たに挑戦してみたい楽曲を加えて悶えながら10曲を選びました(笑)。

──それだけの思いで10曲に絞ったのなら、そりゃあ「もう1枚作りたい!」となりますよね。

そうなんですよ。まだ次作について何も決まっていない段階から、1作目から漏れた曲に対して「これは『2』のアルバムに入れようね」と勝手にスタッフに言っていたくらいですから(笑)。以心伝心じゃないですけど、そういう思いはファンの皆さんにも伝わっていて、リクエストを募っていないのに「2作目ではこれを歌ってほしい」という書き込みがSNSにありました(笑)。

──「ANISON COVERS 2」の収録曲の中には、森口さんがリスナーとしてリアルタイムで触れてきた楽曲も多いと思います。

「こういうことを歌っていたんだ」っていう、大人になったからこその発見や感動が、カバーするにあたってたくさんありました。

──子供の頃に聴いていたアニソンって、年齢を重ねると違った解釈ができたりと、いろんな気付きがありますよね。

アニソンは時間差で感動できるような仕組みになっているなと思っていて。歌詞に込められたメッセージもそうですし、メロディやアレンジ、演奏に参加したミュージシャンとか、当時の大人たちはこんな豪華なものを子供に向けて丁寧に作ってくれていたんだという発見があります。だから「GUNDAM SONG COVERS」シリーズと「ANISON COVERS」シリーズを発表してきた私としては、「でもアニソンでしょ?」という先入観があったり、食わず嫌いでアニソンに触れてこなかったりして、このアルバムを聴いてくれない人がいたら本当にもったいないなと。「ガンダムを通ってこなかったけど、『GUNDAM SONG COVERS』を聴いて泣きました」とか「森口博子のこと、ナメてました」とか(笑)、SNSでそういう反響もあったりして本当にうれしいですし、この幸せの輪をもっと広げていきたいなというのが今の私の思いですね。

森口博子

「想い出がいっぱい」を自主練で歌っているときに号泣

──アニソンにはアニメに寄り添って作品そのものを表現するような楽曲と、アニメから独立してJ-POPとしても成立する楽曲と、大きく分類してタイプが2つあると思うんです。このアルバムには、その両者の魅力がいいバランスで混ざり合っていると感じました。

そうなんです! ではコラボアーティストの方々のことを語る前に、まずは作品のお話から。「おジャ魔女カーニバル!!」は前者の枠に入る、王道のアニソンですよね。私はリアルタイムで「おジャ魔女どれみ」を観ていた世代ではないんですけど、「Anison Days」にももいろクローバーZの皆さんがゲスト出演した際に歌ってくださって、「なんてかわいい曲なんだ!」と思いました。50代の私が元気になっちゃうくらい即効性の強い曲で、これぞまさにアニソンの魅力だなと。アルバムにはそういった曲もあれば、今のお話の後者に分類されるH₂Oの「想い出がいっぱい」(アニメ「みゆき」のエンディングテーマ)なども収録されているし、はたまたTM NETWORKの「STILL LOVE HER(失われた風景)」(アニメ「シティーハンター2」のエンディングテーマ)も入っている。こういう楽曲はアニメファンと普段アニソンを聴かない層の方々どちらにも刺さりますし、本当にアニソンってひと言では片付けられない魅力を秘めていますよね。

──「想い出がいっぱい」は1983年の楽曲ですが、「アニメソングから独立してJ-POPとしても成立するような楽曲」の先駆者的な名曲だと思います。

リアルタイムじゃない若い世代にとっても「合唱コンクールで歌いました」とか「教科書に載ってました」とか、何かしらなじみのある1曲ですよね。この曲がヒットしていた当時、私は中学生でしたが、それから数十年経って番組でカバーすることになったとき、学生時代とは違った響き方をして。練習で歌っているときに号泣してしまったんです。「時は無限のつながりで 終わりを思いもしないね」という歌詞の意味を学生時代は理解できていなかった。当時はすべてが永遠に、無限に続くものだという時間軸の中、ピュアな価値観で生きていたんですけど、年齢を重ねると世の中にあるすべてが有限なんだと気付きますよね。私たちは大人の階段を登っていくことで、こういう気付きを得ていくんだなって。若いからこそ秘めている可能性のことを、作詞の阿木燿子さんは歌詞の中で「手に届く宇宙」と表現しているんですよね。手に届く宇宙は限りなく澄んでいて、疑いもなくピュアで君を包んでいたけど、大人になると手が届くかどうかちょっとわからなくなる。そうやって夢に向かってひたむきに生きていた自分を思い出して、本当にグッときました。

──今の解釈を聞くと、自分も少しグッとくるものがあります。

逆に質問しちゃいますが、今回のアルバムの中で世代的にハマった曲はどれですか?

──僕は「ふしぎの海のナディア」のオープニングテーマ「ブルーウォーター」をこのカバー曲でひさしぶりに聴いて、改めていい曲だなと実感しました。森川美穂さんの楽曲を当時よく聴いていたので、その頃の記憶もよみがえってきましたし。

私、美穂ちゃんとは同じ1985年デビューで、同期なんですよ。「Anison Days」のゲストに美穂ちゃんが来てくれたときにこの曲を一緒に歌ったんですけど、心が解放されていく素敵なメロディだなと思って。私たちは来年40周年を迎えますし、美穂ちゃんへのリスペクトも込めて選びました。「ブルーウォーター」は世代を超えて響く名曲の1つで、夏にリリースされるアルバムに収録しないわけにはいかないなと。

TM NETWORKデビュー35周年ライブの映像を観て

──アルバムは「カードキャプターさくら」のオープニングテーマ「プラチナ」で後半のブロックに入り、この「ブルーウォーター」でクライマックスを迎えたのち、「STILL LOVE HER(失われた風景)」でフィナーレに突入する。とても素敵な流れだなと思いました。

うれしいです。「プラチナ」は畳みかけるような展開や転調が聴いていてすごく気持ちよくて。大大大リスペクトしている菅野よう子さんのアレンジが緻密ですし、岩里祐穂さんの歌詞との親和性も相まって、歌手としての自分の潜在能力を引き出してくれるようなすごい歌です。そして「STILL LOVE HER(失われた風景)」に関しては、TM NETWORKのデビュー35周年ライブの映像を観たときに、最後の「ラーラーラーラ」のコーラスのところでファンの皆さんが本当にいい顔をされていて。泣きながら曲を聴いている方もいればキラキラな瞳で歌っている方もいて、いろんなことを積み重ねて大人になったあともTM NETWORKの皆さんと時間を共有できている。その表情が本当に尊かったんです。それは私と私のファンの皆さんの関係性ともシンクロするので、リスペクトを込めてライブバージョンのテイストを取り入れたアレンジにしてもらいました。あと、この曲はやっぱりTM NETWORKのメンバーの木根尚登さんによる、琴線に触れる切ないブルースハープがないと成立しません! 20年以上もの付き合いになるお友達の木根さんに直接おねだりして参加してもらって感謝感激です! 木根さんの温かい歌声、ギターはもちろん、このブルースハープが入ることで、後半がよりドラマティックに盛り上がって、グッときました。

森口博子

──あのブルースハープは欠かせませんからね。あと、今回のアルバムには森口さんが1988年に発表した「BE FREE」のセルフカバーも収録されています。前作にも「サムライハート」の再録バージョンがボーナストラックとして用意されていましたが、再びご自身の楽曲を取り上げた理由は?

実は、コロナ禍真っ只中に「Anison Days」で歌わせていただいたことで、リリース当時よりもこの曲が好きになったんです。さっきの「想い出がいっぱい」のように、自分の楽曲ながら、この曲に対しても「こういうことを歌っていたんだ!」という発見がたくさんあって。もちろんリリース当時も好きな曲でしたが、ここまで深く感動できていたかといったら……まだ若かったですからね。例えば「シグナルが赤になる 君は何故か かけ出す…」という三浦徳子先生の歌詞は、かなりの極限状態に追い込まれている、ヤバい状態をイメージするじゃないですか。いろんなことを教えてくれた大切な人が、今壊れかけている。それを自分が救いたいんだという思いは、コロナ禍真っ只中のときの閉塞的な生活とも通じるものもあるし、もっと広く言えば現代社会においてバランスを崩した人にシンクロする部分もある。なんて愛のある歌なんだろうって泣けてきましたね。

──時代がどんどん移り変わることで、また新たな意味が加わるのが音楽の魅力ですよね。

そうですね。この切羽詰まった感じが当時の私には理解できていなかったんだと思います。あと、ラストの「信じることから 始めよう Come on 今日こそ 勇気抱きしめ 世界中に Say Hello!」ですよ! 「世界中に Say Hello!」ってもうね、響きまくっちゃいました(笑)。そういう強いメッセージが込められた曲が、アイリッシュなアレンジで生まれ変わっている。信号が赤なのに駆け出しちゃうっていう相当危険な状況を歌いながら、サウンドは温かみのあるワルツのリズムという相反するような世界観になっている。だからこそ助ける側の余裕が伝わってきますし、「大丈夫だよ」と言ってるようで、余計に泣けてきちゃうんです。