MIYAVI「Found In Pain」インタビュー|矛盾とカオスを抱え、己の音楽を追求する表現者 (2/2)

人との出会いの中にこそ進化のチャンスがある

──MIYAVIという人は、ステージはもちろん、演技でもCMでも、なんなら招待された企業イベントのような場でも当たり前かもしれないけど、とにかく全力でパフォーマンスに取り組むスタイルでした。でも、今はパワー配分がつかめてきた感じがありますか?

うーん……確かに全力でやりすぎて、ちょっとよくないときもある(笑)。だから本当は「どうでもいい」と思ってスムーズに取り組めるといいんだけど、そこは性分もあるし、全力でやってきたからここまでの俺があるし、本当に悩ましいところ。今回のアルバムは1人では絶対にたどり着けない境地でしたね。コライトしたアーティストやスタッフ、みんなに新しい引き出しをたくさん開けてもらいました。それこそ「Call Me by Fire 4」で出会ったみんなもそうだけど、人との出会いの中にこそ進化のチャンスがある。

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──今回もコライトとして相当数の作家がクレジットされています。ちょっと立ち入った話題になりますが、これだけ参加していたら、予算もかかるし楽曲の配当も細分化されるわけじゃないですか。つまり、端的に言ってしまえば、MIYAVIさん自身の収入にも関わってくるわけですよね。

うん。俺の場合、海外スタイルできっちりとやっています。だからこそ、この制作形態を日本の音楽市場でやっていくのは、ちょっと難しい部分もあって。日本のコマーシャルとか、ちゃんと報酬が細分化されないと、海外の子たちが入ってこられない。パブリッシングとのパーセンテージの分け方とか、コマーシャルにおける音楽の対価の考え方ひとつ取っても、日本ってまだまだすごく意識が低いというか。ほかの分野も同じかもしれないけど、ぶっちゃけ報酬が低い。正直、どこかで「コマーシャルとか映画に“使ってあげている”」という意識が拭えていない部分もまだ少なくないと思います。これはどの業界においても同じだけど、やっぱり汗をかいていない人が儲けちゃったら、その業界で人は育たないよね。アメリカはそこが明確だから、作家だろうが、エキストラだろうが、比較的しっかりとフォローされている。だから、みんながんばるし、夢を見られるわけで。

──確かにそうですね。

何より、俺はそもそも金儲けのために音楽をやっているわけじゃない。それはCM出演や映画出演も一緒。もちろん対価としてのギャランティは大事だけど、仮に大金をもらおうが、俺はクライアントの決意とハモれなければやらないし、やりたくない。熱い思いを持った誰かとハモって、自分を燃やせるか、燃やし尽くせるどうか。それが重要。世界には俺よりももっと自分を燃やしてるやつだっているしね。逆に言うと、燃え尽きていないやつは見ればすぐわかる。「ああ、このレベルでいつもOK出してるのか」って。反対に、俺よりも全然OKを出さない人だっている。本当、世界は広いから。

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──その世界のレジェンドから、今回、「I'm So Amazing」にP-ファンクの総帥・ジョージ・クリントンがゲスト参加しています。

本当にたまたま縁があって実現しました。俺は彼の音楽も存在もすごくリスペクトしてきたし、うれしかった。存在というか、在り方として決して自分と遠くないと思っていて。なんか彼って、「どこの星から来たんだろう感」があるじゃない?(笑)。思う存分、自由にやってもらいました。

──今回もEDMなどダンサブルな要素がありますけど、そういうジャンルでMIYAVIさんが今好きなアーティストってどのあたりなんですか?

いろいろいるけど、最近だとイギリスのNothing But Thievesというバンドかな。今回、そのバンドのギターのドム・クレイクに「If You Know How To Dance」という曲のコライトとプロデュースで参加してもらっているんだけど、もう最高にカッコいい。生まれ変わったら、俺があのバンドに入りたいと思うくらい。いつかまたコラボしたいですね。歌もサウンドもめっちゃいいから、ナタリーの読者にもぜひ聴いてほしいです。

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大きな分岐点であり、現時点までの代表作としての「Lost In Love, Found In Pain」

──この2部作のサウンドと、前回、今回と音楽ナタリーでインタビューさせてもらった印象から、ボーカルも、楽曲のクオリティも、MIYAVIさんなりにかなり追求することができたんじゃないかと感じます。改めて、この2部作はMIYAVIさんにとってどんな位置付けの作品になりそうですか?

自分の大きな分岐点であり、現時点での代表作になったと思います。ここから、また次はより高いところへも飛べるし。

──そんな2部作を完成させた今現在、MIYAVIさんが求めるアーティストとしての理想形があれば教えてください。

とにかく、もっとすべてを混ぜたい。ギターも、歌も、ダンサブルな見せ方の部分もすべてが混ざった、自分だけにしかできない唯一無二のスタイルをより追求したいですね。“ニュープリンス”じゃないけど、ダンスミュージックであり、ポップミュージックでもあり、ロックミュージックでもあるような音楽を確立したい。

──今後の活動については?

まずはこの2部作をライブで昇華させたいので、来年はツアーとかできたらいいな、と。まあ中国での今後の活動も含めて、正直、今は自分のスケジュールが自分でもわからなすぎる(笑)。

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──まあ中国も然り、MIYAVIさんの場合は“予想外”が多いから無理もないというか。

思えば、ハリウッドデビューからちょうど10年が経ったんですよね。あのときも、まさか自分がアメリカで俳優をやるなんてまったく予想もしていなかったし、中国での活動も本当に同じ感じというか。アーティストとしてのスタンスとしても、活動の仕方も、正直、MIYAVIがかなり独特なのは自分でもいい加減わかっているけど、独特なら独特で、もうそこをどんどん掘り下げていくしかないというか。今は「ガンガン掘ってやろうじゃんか!」という気持ちですね。その先に何が待っているのかはわからないし、ハリウッドも中国もまあ強烈な体験だけど、新しい何かを得られる可能性も価値もあるから。

──今後もMIYAVIさんの奮闘に期待します。最後に、日本のリスナーにメッセージをお願いします。

この2部作を通じて、リスナーやファンのみんなにも“自分だけの自分”を見つけてもらえたらうれしいです。あと、俺が海外で生活したり中国で活動したりしていると、「寂しい」と言ってくれるファンのみんなの声も届くんだけど、例えば「Call Me by Fire 4」はむしろ日本に住んでいたときよりも、俺がどう生活しているかが見られると思う(笑)。今はソーシャルメディアもあるし、離れていてもいろんなつながり方ができる。そうやって自分の生き様や音楽を、今後もどんどんみんなとシェアしていきたい。それと、MIYAVIというアーティストを媒介にして、知らない国の文化や聴いたことのなかった音楽やアーティスト、新しい体験に触れてもらえたら、とも思う。俺はまだまだ新しい世界に飛び込むつもりなので、これからもみんなと一緒に旅ができたらいいなと思います。

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プロフィール

MIYAVI(ミヤヴィ)

1981年大阪府出身のアーティスト / ギタリスト / 俳優。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという独自の“スラップ奏法”でギタリストとして世界中から注目を浴び、これまでに約30カ国350公演以上のライブ、8度のワールドツアーを成功させている。多彩な活動でも注目され、アンジェリーナ・ジョリー監督の映画「不屈の男 アンブロークン」で俳優としてハリウッドデビューを果たしたのち「BLEACH」「ギャングース」「キングコング:髑髏島の巨神」「マレフィセント2」にも出演した。またYOHJI YAMAMOTO、Y-3、Monclerなどでモデルとしても活躍。音楽活動や俳優業、モデル業のかたわら、難民問題への知識を深め、2017年には日本人として初めてUNHCR親善大使に就任した。2022年11月にはYOSHIKI、HYDE、SUGIZOとTHE LAST ROCKSTARSを結成。2部作アルバム「Lost in Love, Found in Pain」の前編「Lost in Love」を2024年4月に、後編「Found in Pain」を10月にリリースした。