ナタリー PowerPush - 蜜

魅惑の“声”を凝縮した「eAt me!」解説

1人じゃできない曲が書けるのが面白い

──「レター」は歌の中のストーリーを演じるような感じの曲ですよね。

木村 そうですね。「アセロラ」みたいな感じで書く詞と、曲を聴いて浮かんだシーンを言葉にするときとケースバイケースなんですけど。

橋詰遼

橋詰 これは結成して割とすぐに書いた曲だったけど、木村さんに詞を書いてもらうことで1人じゃできない曲ができるのが面白いなって思った時期で。かなりボーカルに引っ張られた曲だなって思ってます。

木村 それ、褒めてる?

橋詰 もちろん!(笑)

──「レター」の中の主人公は、どういう人なんですか?

木村 自分に近い感じはあると思うんですけど……「ハリー・ポッター」に出てくるドビーかな? そういう感覚って自分にあるんです。「ソウルナビゲーション」って本があって、そこに私は「自分のいる場所を牢獄だと感じてしまいがち」って書いてあって。悪く言えば、どこに行っても不満を持ってしまうみたいな。自分で切り開いていきたいと思いつつ、ビビっちゃったり、偏屈になっちゃったり……そういうのって、全然違うタイプの人に指摘されてハッとしたりっていう感覚もあるので。だから曲から浮かんだシーンを言葉にしてストーリー仕立てにしたものではあるけど、そこにもやっぱり自分がいるんだなって思いますね。

カバーはガムシャラ

──蜜はこれまでにもいろいろな曲をカバーしてきましたが、今回のアルバムでは矢野顕子さんの「ひとつだけ」を歌ってますね。

橋詰 すごく好きな曲で、フジロックで矢野さんと(忌野)清志郎さんが共演したときの演奏がすごく良くて。おこがましいですけど、そのイメージでやってみたいなって思って。

木村 歌詞を読みながら矢野さんって、とてもロマンチックな方なんだなって。すごく明るい気持ちで歌いました。

──話はちょっと逸れますが、今回アルバムと同時発売でカバー集「蜜狩り」が配信限定でリリースされますよね。

橋詰 これは「蜜狩り」と題してデビューしてから毎月3の付く日に1曲ずつカバー曲をYouTube公式チャンネルにアップしていく企画を発展させたものです。これまでにカップリングで発表していた5曲と「蜜狩り」で取り上げた曲に未発表の1曲を加えた10曲で構成されてます。

蜜

──選曲にはL'Arc-en-Ciel「HONEY」のような意外な選曲もあったりして、それぞれアレンジのアプローチの面白さが際立っていて面白かったですね。

橋詰 選曲の時点で意識してたのは、なるべく振り幅のあるセレクトにしよういうことで。でも、僕1人じゃカバーしないような曲もあるから、木村さんもいたからこそというか。例えばラルクだったら木村さんが好きだったり。

木村 MAXの「Give me a shake!」もそうですね。

橋詰 その曲はアコギでファンクなイメージでカバーしてみました。どの曲もカバーするのはアレンジ考えるのも含めて、かなりガムシャラにがんばりました(笑)。

木村 そうやって発表していったおかげで、こないだ地方のライブハウスに行ったときも、「いつも『蜜狩り』観てます!」って言ってもらえてうれしかったです。

魔物目指してがんばります!

──アルバムに話を戻すと、リード曲になってる「パープルスカイ」は今までの蜜とはちょっと違ったイメージに聴こえたんですよね。関西弁で歌ってるというのもあるけど、最初は言葉遊び的に曲が始まって、そこからだんだんとシリアスな内容になっていくのが面白くて。

橋詰 これはかなり声で遊んだというか。声の力で持っていけるようなアレンジにしたくて。細かい部分でいろいろやってますね。男女ボーカルっていうのをできるだけ出したくて、コーラスの響き方も意識して。

──「パープルスカイ」って言葉は、やっぱり明け方の白んでくる時間をイメージしたものですか?

木村ウニ

木村 そうですね。今年から東京で一人暮らしを始めたんですけど、夜型になって明け方の時間帯まで起きていることが多くて。終わるような始まるような、そんな感じが切なくて好きですね。

橋詰 朝になって寝るみたいなのはよくありますね。社会から取り残された感はすごく感じます。

木村 この曲はある程度年齢を重ねた人が失恋をして、それでも自分が生きていくことは変わらないんだけど、でも心がキュッとなっているような。ちあきなおみさんの「ねえあんた」みたいな感情を表現したくて詞を書きました。

──なるほどね! それはすごくわかります(笑)。

木村 うれしい! マイケルとちあきなおみさんと(美空)ひばりちゃんと玉置浩二さんと岡村(靖幸)ちゃんは魔物だと思うんですよね。蜜も魔物目指してがんばります!(笑)

──でも本当に魔物な人たちは魔物を目指してないのかもしれないですね。

木村 確かに。じゃあ魔物を目指してないです!(笑) でもああいう魔物感はいつか身に付けたいですね。

CD収録曲
  1. アセロラ
  2. レター
  3. 初恋かぷせる
  4. ひとつだけ
  5. パープルスカイ
  6. DX
  7. ロイヤルノンタイトル
  8. 行かなきゃ
  9. どうしようもない
  10. あいせき
収録曲
  1. HONEY / L'Arc-en-Ciel
  2. バウムクーヘン / フジファブリック
  3. 心もよう / 井上陽水
  4. traveling / 宇多田ヒカル
  5. あざやかな場面 / 岩崎宏美
  6. Give me a Shake / MAX
  7. ひとつだけ / 矢野顕子
  8. 私がオバさんになっても / 森高千里
  9. 髭と口紅とバルコニー / 鈴木慶一とムーンライダーズ
  10. トンネルぬけて / BO GUMBOS
(みつ)

木村ウニと橋詰遼の2人からなる男女ボーカルユニット。木村はロックバンドのボーカリストとして、橋詰はソロアーティストとして活動していたが、コンテストでの出会いをきっかけにユニットを結成。アコースティックスタイルを基本に、大阪でライブ活動を行う。どこか懐かしさを感じさせるキャッチーなメロディ、美しく伸びやかなツインボーカルの妙、躍動的なパフォーマンスが繰り広げられるライブなどでリスナーを獲得。2011年10月に「いくつかの恋」、2012年3月に「ひとひらの時」というミニアルバムをインディーズレーベルからリリースしたのち、2012年6月に「初恋かぷせる」でEMIミュージック・ジャパンからメジャーデビュー。同年11月にメジャー1stアルバム「eAt me!」をリリースした。