MISIA|多様な出会いの集大成

歌うきっかけとなったゴスペル

──新曲の「CASSA LATTE」は、“SOUL JAZZ流のダンスミュージック”というイメージのナンバーです。

この曲も黒田くんのアレンジが素敵で。ドラムとベースが楽曲を引っ張っていて、そこにブラスセクションの流れが加わって。歌とサウンドの絡みもいいし、グルーヴィで楽しい1曲ですよね。作曲は「INTO THE LIGHT」(1stミニアルバム「THE GLORY DAY」収録曲)を作曲してくれた松井寛さんで、デモの段階では松井さんらしいハウスミュージックだったんですけど、黒田くんは最初から「ビッグバンド形式でアレンジしても絶対にカッコよくなる」と言っていたんです。そのときはどうなるか見えなかったんですが、ニューヨークのスタジオで演奏してみたら、すごくよくて。この曲を初めて演奏したとき、私はちょうどスタジオのドアを開けるところだったんですが、入った瞬間に「すごくいいね!」って言いました(笑)。

──ゴスペルクワイアのコーラスも印象的でした。

「あなたにスマイル」には最初からゴスペルを入れるつもりだったんですが、「CASSA LATTE」をアレンジしている中で、「分厚いコーラスを入れたら、もっとよくなるはず」と思って。“SOUL JAZZ”では主旋律を追いかけるようなコーラスはあまり登場してなかったんですが、この曲には絶対に合うと思って、ゴスペルクワイアを入れることにしました。最近はポップスの世界でも、ゴスペルが参加する流れがありますからね。レコーディングに参加してくれたSing Harlem Choirは、現地のスタッフにインスタで見つけてもらったんです。

──え、そうなんですか?

はい。日本でも上演されたミュージカル「Mama, I Want to Sing」を手がけたヴァイ・ヒギンセンが立ち上げたクワイアの財団法人に所属しているグループで、10代から20代前半の若い人たちが中心。オバマ前大統領のセレモニーやアリアナ・グランデのライブにも参加していて、レコーディングで歌ってもらったときも素晴らしかったです。

──ゴスペルはMISIAさんにとっても、ルーツの一部になっている音楽ですよね。

そうですね。実は私がゴスペルを初めて知ったのも、「Mama, I Want to Sing」だったんです。11歳か12歳の頃に、テレビのCMでこの曲が流れていて、衝撃を受けて。「この音楽、何?」って両親に聞いて、「ゴスペルよ」って教えてもらったんです。すぐに町のCDショップに行ったんだけど、そこではゴスペルのCDが見つからなくて、その代わりにソウルミュージックのCDを聴き始めたんです。そこからR&Bやヒップホップにも出会って。すぐに「私も歌手になりたい」と思うようになって、それを母親に話したので、まさに「Mama, I Want to Sing」ですよね(笑)。そのきっかけとなったミュージカルを作った方が手がけているグループと一緒に制作できたのは、すごい出会いだったと思います。

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共感しながら作っていく

──「Mysterious Love」には、ラッパーのMIYACHIさんが参加しました。「英語わかりません」と連呼する「WAKARIMASEN」で話題を集めた、アメリカ在住の日系アメリカ人のラッパーですね。

「Mysterious Love」はデモの段階でラップのパートがあったんです。そのパートを残すためにプロデューサーがニューヨークでラッパーを探していたらMIYACHIくんの名前が出て。しかも、もともとプロデューサーはDJ MUROから「いいラッパーがいる」と名前を聞いてMIYACHIくんのことを知っていたんですよね。それで連絡を取ってみたら、たまたまニューヨークの近くにいたので、次の日に会いに来てくれて、お話をさせてもらって、「ぜひ一緒にやりましょう」ということになったんです。彼のラップは英語と日本が独特なスタイルで混じり合ってる。日本語のチョイスや、言葉の響きが英語的だったりもして、すごく面白くて。レコーディングエンジニアも「すごいフロウだ」と驚いていたし、あまりにも素晴らしいので、予定していた尺を倍にしたんです。低い声、リズムを立てた声、優しい声なども試してもらって、「ラップも歌なんだな」と改めて感じました。

──そして「オルフェンズの涙」には、以前から交流がある世界的ベーシスト、マーカス・ミラーさんが参加しています。

歌のメロディをすごく意識したベースラインですよね。リードベースですが、あるときは歌とかけ合って、あるときは潜るように演奏して。ベースの音だけを取り出して聴いてみると、高い音でソロを取りつつ低音にもアプローチしてるんですよね。ベースが高いところに行って、ローを支える音がなくなると楽曲全体のバランスが悪くなりがちなんだけど、彼はそこもしっかり意識しているんです。「こんな弾き方をしているんだ!」と驚きました。

──シンプルなのに、すごく奥深い演奏ですよね。世界のトップミュージシャンのすごさを実感しました。

マーカスさんは、新しいチャレンジに対して常に開いているんです。いつも忙しい方ですけど、私たちがオファーすると「どこかで時間を見つけて参加するよ」と言ってくれるし、「こういうアプローチをしてほしい」とお願いしたときも、すぐに対応してくれて。「俺が弾いたんだから、文句言うな」ではなくて、「何でも言って。いいアイデアがあったら教えて」と。だからこそ私たちもマーカスさんといろいろなチャレンジができるし、音的にも人柄も「こんなミュージシャンに自分もなりたいな」と思いますね。

──枠を決めてしまわず、新しい可能性を求め続けているというか。

絶対的な答えを持っている人なんて、実はいないですからね。音楽って、最初から「これだ」と決めるのではなく、みんなで集まって「こうじゃない?」「ああじゃない?」と話して、共感しながら作っていくものだと思うんです。今回のレコーディング作業でも、そのことを何度も実感しました。アレンジは黒田くんですが、トランペット、トロンボーンなど、それぞれのセクションごとに「このパートはこういう演奏をしたほうがいい」とアイデアを出しながら進めているので。「Everything」「CASSA LATTE」はクリックを使ってないので、どうやれば全員のタイミングが合うかも話し合いました。制作の中で、「そうだ、あの曲の雰囲気でやってみよう」とか「〇年代の解釈でやってみたらどうだろう?」という話が出てくることもあって。彼らが出会ってきた音楽の歴史を200%使って作ることができたのもよかったですね。それに全員がずっとスタジオにいるんですよ。自分のレコーディングが終わっても帰らないで、次の楽器の録音に立ち会う。だから、レコーディングしているときに、いろいろ録音してみたら、録り直したいって箇所が出てきても「そうだね、いいよ!」と対応してくれる。みんなが自由に楽しんでくれていたのもうれしかったです。