音楽ナタリー Power Push - MISIA

多彩な“愛”詰め込んだアルバム「LOVE BEBOP」

愛を持ってなんでもやろう

──今のタイミングで、愛を描いたメッセージがご自身から自然とあふれてきたことには何か理由があったんですかね?

生きているといろいろな選択をする瞬間に出会って、そこで利益や損得、あとは社会のシステムなんかにのっとって選んでしまうことってよくあるとは思うんです。でもそうやって選んだものにはどこかしら矛盾が生じてくるし、いつしか必ず壊れていってしまうんですよね。そう考えると結局は愛を持って選んだものしか残っていかないんだなって、より強く感じるようになってきて。

──それは人に対してだけではなく、すべての物事に関してもそうですよね、きっと。

MISIA

だと思います。音楽を作る上でもそれはすごく感じますから。今回、鷺巣さんとレコーディングをすることになったときには、とにかく好きなことをやろう、やりたいことをやろうってプロデューサーが言ってくださったんですよ。お金がかかるかもしれないけど、それはあとで考えようって。

──それこそ愛がないとできないことですよね。

そうそう。音楽への愛がないとそんなことできないですよね。今回はスティーヴィー・ワンダーの「Songs in the Key of Life」でベースを弾いてるネイザン・ワッツにプレイしてもらったり、ロンドンやダラス、アトランタ、ニューヨークでレコーディングしたり……本当にやりたいことをやらせてもらうことができて。それがすごく楽しかったからこそ、「愛こそ」と言えるアルバムになったんじゃないかなって思いますね。

「君の言いたいことは昔から変わってないね」

──愛の描き方に関しては、年齢やキャリアを重ねたことでの変化を感じるところもありますか?

10代20代で感じる愛の歌を無理やり書いたのではなく、大人になってわかったこと、今の自分がわかる愛の歌を書いてみたという気持ちは強いですね。例えば夜と朝の景色がそれぞれ違うみたいに、愛には嘘もあるし真実もあるのよっていうことを今の私は知っている。そういう気持ちを歌詞にしたいなと思うし、それは意識せずとも出てしまうところでもあるとは思います。ただ、以前プロデューサーからあるテーマをもらって歌詞を書いたら、「君の言いたいことは昔から変わってないね」って言われたことがあったんです。自分では忘れていたけど、過去に同じテーマで書いたことがあって、そのときも同じような内容だったみたいで(笑)。

──と言うことは、MISIAさんが伝えたいことの根本、軸となる思いは変わっていないんでしょうね。表現の仕方や視点が変化しているだけで。

そうなんだと思います。あと自分は表現者として歌詞を書きますけど、一方ではシンガーとして歌を歌うという軸もやっぱり大きいものなんですよね。そういう意味では愛をテーマにしたものに限らず、作詞家の方に代弁してもらう楽しさもあるんです。

──そこにも今のMISIAさんが伝えたい思いがしっかり反映されてるわけですよね。

はい。今回はher0ismさんと一緒に詞を書いてみたりとか、「花」や「流れ星」を里花さんに書いていただけたのがすごくうれしかったですね。特に「花」なんかは、人の失敗を許さない今の社会、ちょっとしたミスをみんなでバーッと責めてしまう今の時代に対して何か言えたらいいのになって思っていた時期に出会えました。作詞をしていただいた曲も、自分で作詞をした曲も、やっぱり「今」伝えたいことなんですよね。ただ説教くさくなるのはイヤなので、気持ちいいサウンドとともにそういった私の思いを聴いてもらって、なんとなくメッセージを感じてもらえたらいいかなって思いますね。

6時間ぶっ通しで歌ってしまう

──今回も前作同様、全国ツアーと並行して作業が進められていったわけですよね。それってものすごく大変なことなんじゃないかなと思うんですけど。

MISIA

もちろん大変なところもありました(笑)。でも、ライブにしてもレコーディングにしても歌ってるときはある種の興奮状態にあるので、大変なこともすべて忘れられるんですよ。レコーディングでは6時間ぶっ通しで歌って、スタッフさんが倒れてしまうこともあるので、2時間ごとにアラームをかけてます。強制的に休憩するように。

──それがなかったらいつまででも歌えてしまう?

もちろん途中でお水とかは飲みますけどね(笑)。それだけ好きなことに出会えていることは本当に幸せだなって思うので、歌うこと自体はまったく苦ではないんです。

──でもライブとレコーディングでは歌い方にも違いが出ますよね。その切り替えにとまどったりはしませんか?

レコーディングはある意味、答えのない世界なんですよ。このフレーズでいいのか、この歌い方でいいのかみたいな部分で、自分たちとの闘いになる。だから満足するまでやるしかないところがあるんですよね。

──だから6時間も歌ってしまうんでしょうね。

そうそう(笑)。でもライブの場合は、お客さんが拍手の大きさや歓声で答えを出してくれるんです。そういった違いは確かにありますね。ただ、その両方を並行してやっていることで、ライブで感じたエモーショナルな部分をレコーディングにそのまま反映できる、お客さんがくれた答えをそのままレコーディングでも表現できるよさがあるんです。だから楽しさしかないんですよね。……しいて言えば、ライブは体中で音楽を感じながら歌えるけど、レコーディングはヘッドフォンで聴くから「もっと来て!」って思っちゃう。大変なのはそれくらいかな(笑)。

ニューアルバム「LOVE BEBOP」 / 2016年1月6日発売 / アリオラジャパン
「LOVE BEBOP」
初回限定盤 [CD] 3564円 / BVCL-963
通常盤 [CD] 3240円 / BVCL-964
収録曲
  1. あなたにスマイル:)
  2. Butterfly Butterfly
  3. LOVE BEBOP
  4. オルフェンズの涙(Long Ver.)
  5. 真夜中のHIDE-AND-SEEK
  6. 白い季節
  7. 明日はもっと好きになる
  8. Oh Lovely Day
  9. FREEDOM
  10. 桜ひとひら
  11. Candle Of Life
  12. 流れ星
  13. LOVE BEBOP (Love Is All Remix)(※初回限定盤ボーナストラック)
MISIA(ミーシャ)

長崎県生まれの女性シンガー。1998年2月にシングル「つつみ込むように…」でデビュー。同年6月に発表した1stアルバム「Mother Father Brother Sister」は200万枚以上を売り上げ、R&Bブームの火付け役となる。2000年に発表したシングル「Everything」はドラマ主題歌に採用され、200万枚を超えるセールスを達成した。2013年2月にはデビュー15周年記念ベストアルバム「MISIA SUPER BEST RECORDS -15th Celebration-」を発表。2015年4~10月に全国ツアー「MISIA 星空のライヴⅧ MOON JPURNEY」を実施し、2016年1月には12枚目となるアルバム「LOVE BEBOP」をリリースする。