milet|新たな扉を開け放つ、ニューモードな「Who I Am」

2020年6月に1stフルアルバム「eyes」をリリースしたシンガーソングライターのmilet。アルバムはロングヒットを記録しており、アルバム発表後に予定されていたツアーは彼女がデビューから1年かけて築いたものを観客と分かち合う場になるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの影響によりツアーは中止に。誰もが予測不能な世界でもがく中、miletもまた次の一歩を模索し、制作を進めていた。

先日、「第71回NHK紅白歌合戦」初出場決定というビッグニュースが発表され、改めて2020年に飛躍を遂げたことをお茶の間に証明した彼女。今回音楽ナタリーでは新作「Who I Am」のリリースに合わせてmiletにリモート取材を行い、STAY HOME期間の過ごし方から新作制作の経緯、現在の心境までを聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

意識的に新しいことを始めた自粛期間

──今年はmiletさんの初フルアルバムが出て、そのあとツアーがあって……となるはずが、まったく違う世の中になってしまいました。

ね、もうそろそろ年末だなんて信じられないですよね。春からずっと時間が止まったままな気がします。

──どんな日々を過ごされていましたか?

緊急事態宣言が出ていた頃は家にいるしかなかったので、音楽ソフトの使い方を知り合いのプロデューサーに教えてもらったりしていました。

──それはリモートで?

はい、連絡を取りながら。もともとパソコンで曲作りはしていたんですけど、TomoLowさんが使ってるオーディオインターフェースと同じものを買って詳しい使い方を聞いたり、ドック(Ryosuke "Dr.R" Sakai)にいつもスタジオで使ってるプラグインについて聞いたり。ほかにもイコライザーのいじり方とか、トラックメイクについていろいろ教わりました。

──自宅スタジオ化計画が進んでいたんですね。

そうなんです。普通に生活していたときより全然出費が多かったです。マイクも変えたし、作業しやすいように椅子とかも全部変えたり。

──機材を触ることで浮かんでくるアイデアもあるんでしょうか。

めちゃくちゃあります。サンプル音源のサイトをよく使うんですけど、音の素材が何万とあって、聴いてるだけでいろんなイマジネーションが浮かんできて、それだけで1日過ごせちゃう。

──miletさんの中で新しいことが始まっていたんですね。あれだけボリュームのあるアルバムを出したあとだったので、燃え尽き症候群みたいになっていないかなと思ったりも実はしていたんです。

確かに私、燃え尽き症候群になりやすい体質だし、こういうときはけっこうダレちゃう性格なんです。でもこのコロナの状況を見て、きっとみんなに会えない時間が長くなるだろうなとわかっていたので、意識的に新しいことを始めました。機材をそろえたりとかも時間があったらやりたいことだったので、できることを少しずつでも動かしていこうと。そうするとデモのレベルも少し上がって、曲の輪郭を伝えやすくなると思ったので。まだまだ全然、これからなんですけどね。

──機材にハマると底なし沼っていうイメージがありますが。

そうですね、これはもう果てしない沼な感じはしています(笑)。

milet

自分を肯定できるのは自分しかいない

──今回の新作は、その新たな環境で作り始めたんですか?

はい、「Who I Am」は最後のレコーディング以外、全部リモートで作りました。デモの歌も自分でパッと録れたりして、機材の使い方を学んだことがすごく役立ちました。

──リモートでの制作はどんな感じでした?

「Who I Am」のプロデューサーであるONE OK ROCKのToruさんとリモートで大まかな方向性だけを話し合って、あとはToruさんの感性でトラックを作ってほしいとお願いしました。そしたらToruさんがいくつもトラックを作って「この中からmiletが好きなものを選んで」と言ってくれて。それで今回の「Who I Am」のトラックを選んで、メロディと歌詞を付けていったんですけど、やっぱりちょっと不安でしたね。いつもならディレクションしてくれる人が周りにいて、「いいね!」とか「もっといいの出るよ!」とか言ってくれるのに、今回は誰もいなかったので。それでもメロディの案を数種類作ってToruさんに送ったら、「どれもmiletらしくできてるし、すごくいいよ」と言ってもらえて、「よかった、ちゃんとできた」と思って。今回初めてリモートでもできるとわかったので、これからも曲作りが捗りそうだなと思いました。

──「Who I Am」はドラマ「七人の秘書」の主題歌ですが、ドラマのスタッフサイドからは主題歌の制作あたって何かリクエストはあったんですか?

とにかくこのドラマをカッコよくしてほしいっていうことと、あとBPMの指定だけがありました。あとは私らしさを肯定してくださって、自由にやってくださいという感じで。

──BPMの指定があるというのはちょっと面白いですね。

そうなんですよ。今回2曲同時に依頼をいただいて、そのうちの1つがバラード(「The Hardest」)だったので、それとのバランスを取るということだと思います。あとは、制作陣の方たちが以前手がけた作品で使われていた曲を自分の中でリファレンスとして持っていました。女性の歌う強い曲が求められていると思ったので、Toruさんがいくつか作ってくださったトラックの中でも、一番骨太なのを選びました。

──「Doctor-X」や今回の「七人の秘書」の脚本家である中園ミホさんの作品をたどって見ると、女性が自分で選んだ道を自分の足で歩くというテーマが多いですよね。

そうですね。「七人の秘書」に登場する女性たちの強いまなざしに合う曲をイメージしました。その人が立っているだけでカッコよく見える曲にしようと。

──でもこの歌の主人公はもともと強いスーパーウーマンという感じじゃないですね。

そう、ドラマの中の彼女たちも過去のトラウマを抱えていたりするので。それぞれいろんな事情はあるけど、とにかく一番大事なのは、自分が今立っている場所だと思う。今までの自分を肯定できるのは自分しかいないし、それだけが今証明できることなんです。

──それは、これまでmiletさんが歌ってきたテーマともつながりますね。

すごくつながります。自分の足を使って歩いて行って、自分が選んだ扉を開いて、腹を決めて進む。そういう意識が私の中にもあったので、その思いを曲に込めることができました。