milet|音楽と向き合って作り上げた“人生”のような1stアルバム

2019年の春にデビューし、わずか1年の間に5作品をリリースしたシンガーソングライターのmilet。彼女にとって初のフルアルバム「eyes」が6月3日にリリースされた。

デビュー作の「inside you EP」から注目を集め、大きな期待を背負いながらも驚異的なペースで作品を世に送り続けてきた彼女は、今どんなことを感じ、アルバムを作り上げたのか。音楽ナタリーではmiletにインタビューを行い、「eyes」の制作プロセスや音楽に対する思いなどを聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

どの曲も私らしいけど落差が……

──ついにアルバムが完成しましたね。まず全18曲というボリュームにびっくりしました。

これまでに5作品をリリースして、そこから少なくとも2曲ずつ入れたいと思ったら、それだけで10曲になっちゃったんですよ。でもほかにも聴いてほしい曲がたくさんあって、結果18曲というボリュームになりました。どれも本当に毛色の違う曲だけど、これらすべてが合わさってmiletだと思ってほしい。そんな18曲になりました。

──新曲は全編英語詞のものも多いですね。

ホント、自由に作りました。自由に作ると英語が多めになるんだけど、最近「この音には日本語が合うな」といった感覚がだんだんわかり始めたので、途中で日本語に変えた曲もあって。「STAY」は最初英語で作ったけど、あとから日本語に変えました。

──「STAY」はメロディが洋楽的で、これがmiletさんからの中から自然と湧き出てくるものなんだなという感じがしました。

そうですね、私のラフさ、ライトさがこの曲によく出てる。鼻歌のようにできた曲です。

──こういうポップな曲もあれば、とことんダークな曲もあるし、ものすごく壮大な曲もあって、ちょっとひと言では言い表せないアルバムだと思います。私はこれまで5回取材させてもらいましたが、いまだにmiletさんの全貌がつかめずにいるんですよ。今回このアルバムを聴いて、その思いがますます強まりました。

ああ、まずい(笑)。でも、そうおっしゃるのもわかります。どの曲も私らしいと思うけど、明るい曲と暗い曲の落差が激しすぎると自分でも思う。特に「STAY」から「Dome」に一気に落ちていく感じとか、ちょっとすごいですよね。今回アルバムの曲順を決めているとき、プロデューサーにも「大丈夫?」って心配されました。「何か悩みごとがあったら言って」って(笑)。

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プロデューサーと煽り合う制作スタイル

──いろんなタイプの曲が収録されていますが、これはチャレンジだったと思う曲は?

ヘビーなバンドサウンドの「Until I Die」は、自分と“共存”するのにこれからもう少し時間がかかる曲かな。私はリラックスできる音楽を求めてしまうクセがあって、オルタナっぽい曲を歌う傾向がないので。

──デビュー曲の「inside you」もオルタナ路線のサウンドでしたが、あれがmiletさんにとっての王道だったわけじゃないんですね。

そうなんです。「inside you」はONE OK ROCKのToruさんが横でギターを弾いてくれて、セッションしながら自然とメロディが生まれた曲。ライブで何回も歌うことで、こういう曲調も私の中にあるんだなと納得できるようになりました。一方、「Until I Die」はオルタナっぽい曲にしようと思って珍しくエレキギターで作り始めたので、慣れない部分もあって、どんどん内にこもっちゃいました。ホントは「Until I Die」なんて怖いタイトルを付けるつもりはなかったんだけど、デモの時点で自然とそう歌ってたんですよね。そんなことを無意識に言っちゃってるのがちょっと自分でも怖いんですけど。

──miletさんはこれまでドックさん(Ryosuke "Dr.R" Sakai)をはじめとする複数のプロデューサーとコラボレーションを重ねていますよね。でも、あんまりコラボ相手に左右されず、自分らしさを貫いてる感じがします。

皆さん、いい意味で私に任せてくれるし、委ねてくれているんだと思います。何度も一緒に制作する中で通じ合えた部分もあって、私が「この音は使わないで」とか「このリズムの刻み方はちょっと違う」とかいろいろリクエストするうちに、プロデューサーの皆さんがそのクセを理解してくれたところもあります。私も、ドックならこのシンプルなメロディをうまく料理してくれるだろうなとか期待してアイデアを出したりするし。

──コラボレーション相手の存在は大きいんですね。

大きいですね。逆に私も、彼らのクセを引き出したいんです。エグみのあるアクを取り出して、その部分だけを自分の音楽と融合させてみたいという思いがあります。今はまだ私に寄せてくれてるからきれいな形に仕上がってるけど、たぶん皆さん、もうちょっと苦いアクが出ると思う(笑)。いわゆる編曲にクレジットされるプロデューサーの方はメディアなどでフィーチャーされることがあまりないと思うんですが、私はもっとその人たちの面白さを出したいんです!

──制作中はどんな感じなんですか?

もうね、お互いに煽りまくるんです。「もっとできるだろう、もっと気持ち悪いの出してこいよ!」みたいなバトルがあって(笑)、自分のとことん極端な部分を出してやろうっていう気持ちで煽り合う。その結果、「俺もこれ初めてやったわ」みたいなことを言われるとうれしかったりするんです。相手もやったことがないことを引き出せたら、これはちょっと面白いなって。

──なるほど。だから同じ人とやっても毎回刺激がある。

そう、コラボレーションの形もだんだん変わってくるし。例えばドックとなら、初期に作った「Parachute」と最近作った「Without Your Love」を比べると、使う音が変わってる。同じ人と一緒にやり続けると、今と昔で違いがわかって面白いですね。

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カッコいいとこ見せなきゃ!

──「Grab the air」はMAN WITH A MISSIONのKamikaze Boyさんが楽曲提供をしていますが、これはどういう経緯で?

MAN WITH A MISSIONさんが去年リリースされた「Reiwa」にゲストボーカルとして参加させていただいたんです。そのご縁があったので、「アルバムを出すので、よかったら作ってくれませんか」とお願いしました。そしたら、めちゃくちゃ素敵な曲を作ってくださって。

──共作ではなく、miletさんが楽曲提供を受けるのは初めてですよね?

初めてです。オケも作っていただいて、私がやったのは歌詞を作って歌うことだけ。しかもこの曲が難しくて、レコーディング当日は「ダメかもしれない。もう終わった……」とか言ってたけど、いろいろ試しながらやってみたら、自分らしく歌うことができてよかったです。

──どのへんに難しさがありました?

音域は私に合わせてくださってるけど、歌いやすい音の度数(2つの音の音程の違い)とかがやっぱりちょっと違うんですよね。でも、この難しい曲を歌うことを期待されて作ってもらったんだと思うとワクワクしました。「Reiwa」のときも思ったけど、すごく広がりのある世界観を持った曲を作る人たちなんです。私はあまり人が作った歌を感情込めて歌えるタイプじゃないと思ってたけど、実際に歌ってみたらすごく気持ちいいし、興奮しました。さらにこの曲は憧れのBOOM BOOM SATELLITESの中野(雅之)さんがアレンジとエンジニアリングで参加してくださって。

──それは気合いが入りますね。

「カッコいいとこ見せなきゃ!」ってテンション上がりました。レコーディングはホントに最高で、終わってほしくない時間でした。