milet|クラシック育ちの新星 初インタビューで明かす音楽遍歴と素顔

スケール感のある楽曲と、ハスキーで重厚な歌声が特徴の女性シンガーソングライターmilet(ミレイ)が、3月6日にメジャーデビューする。

デビュー作となる「inside you EP」には、ドラマ「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」のオープニングテーマ「inside you」と、ドラマ「JOKER FACE」のメインテーマ「Again and Again」およびエンディングテーマ「I Gotta Go」を収録。デビュー作にして4曲中3曲にタイアップが付き、その歌声がテレビから流れるや否や「歌っているのは誰?」と話題を呼んでいる。音楽ナタリーではmiletに初のインタビューを実施。その素顔や表現のルーツに迫った。

取材・文 / 廿楽玲子

Sigur Rós、ビョーク、Kula Shaker好きな小学生

生まれて初めてのインタビューです。よろしくお願いします。

──おお、それは光栄です。よろしくお願いします。まだまだ謎に包まれた存在なのでいろいろお聞きしたいんですけど、まずmiletさんと音楽の出会いはいつだったんでしょうか。

フルートを習っていたので、小さい頃からクラシックを聴いて育ちました。ロックを聴くようになったのは小学生になってから。お兄ちゃんの影響でSigur Rósとかを知って。

──小学生でSigur Rós!

はい。最初に聴いたときからすごくしっくりきました。ちょっと湿った感じが自分の性格的にも合ってる気がして、自然と親近感を抱いてましたね。クラシックでもベートーベンとか荘厳な響きの曲が好きだったので、近いものを感じていたのかもしれません。あとはビョークやKula Shakerをよく聴いてました。

──世代的にクラスの子とはなかなか話が合わなかったのでは?

そうですね、みんなJ-POPを聴いていたので、そこはちょっとズレてたかも(笑)。

──どんな性格の子供だったんですか?

声が大きくて、元気だねって言われてました。あと、感情の起伏が激しくて、何を考えてるのかわからないとも言われましたね(笑)。自分でも言葉にできないような感情になることが多くて、心の中でいろいろと渦巻いてる感じでした。

──学校生活はどうでした?

ある程度は周りに合わせられるんですけど、「なんでこれしなきゃいけないの?」って疑問に思ったときは言っちゃうし、日々いろんな違和感を抱えて過ごしてましたね。大勢の中にいると、どうしても自分と人との差を感じるじゃないですか。それで「なんでこの人、こういうこと言ってるんだろう?」とか、「なんでこの人、今こういう表情してるんだろう?」とか、そんなことをすごい疑問に思って、ずっと考えたり。でも人はみんな違う人間だから、そこに理由や答えはないし。

──そうですね、一言で言えば「他人だから」ということになる。

でもそこが全然割り切れなくて、その違和感が今でもずっと自分の中で渦巻いているんです。歌にしたら出るかなとか、絵を描くので絵にしたら出るかなとか、そう思って作品にしてみてもやっぱり答えは出ない。自分の中で解決しないまま、いつからか「人っていうのは同じ人間というくくりだけど、まったく別々のものだろうな」ということを意識しながら人と接するようになってました。

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音楽は私の“帰る場所”

──音楽というのはmiletさんにとってどんな存在なんでしょうか?

ものに例えるなら、布団とかベッドみたいに“帰る場所”という感じですね。それにすがるとか何かを変えてもらえるとか、そういうふうに思ったことはなくて、心地よさを与えてくれるもの。ないと困りますね。

──音楽を仕事にしようと考えたのはいつ頃?

ずっと音楽が好きで、フルートで音大に行こうと考えてました。その頃、ちょっと心を病んだ友達がいて、その子の前で歌う機会があったんです。ギターの弾き語りでカバー曲を歌ったんですけど、その子がすごく感動して「miletちゃんの歌で心のもやもやが晴れたよ」と言ってくれたんです。そんなふうに人に何かをして感動されたのは私にとって初めての経験だったので、そこで初めてシンガーという職業を視野に入れました。

──それで大学には音楽を学びに?

いえ、それと同時期に、映画音楽がすごく好きだったので、映画を勉強したくなって。結局大学は、映像の勉強ができるところを選択しました。

──どんな映画が好きなんですか?

音が面白い映画ですね。スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」とか、ロベール・ブレッソン監督の「スリ」、ジャック・ベッケルの「穴」。映画を観るときは、常に音に意識が集中してます。それで映画の効果音を勉強していたら、だんだん音のないシーンに惹かれるようになって、最終的には映画の無音シーンについて研究してました。

──すごいところに行き着きましたね(笑)。

そう、気付いたら映画音楽から離れてました。でも友達の前で歌った経験と、映画を通じて深めた音に対する興味、すべての経験が重なって今に至ると思っています。

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「ちょっとこの人と曲を作ってみて」

──デビューのきっかけは?

レコード会社に知り合いのいる友達が「デモテープがあるなら聴いてもらう?」と声をかけてくれて、カバー曲を歌ったデモテープを作って聴いてもらったのが最初です。歌をやるならオリジナル曲も必要だろうなと思って、去年から本格的に曲作りを始めました。

──つい最近なんですね。

それまでほとんど曲を作ったこともなかったし、私自身も何がどれくらいできるのか最初はよくわからなくて。ある日突然レコード会社の人にサカイさん(Ryosuke "Dr.R" Sakai。中島美嘉など多数のアーティストを手がけるプロデューサー)を紹介されて、「ちょっとこの人と曲を作ってみて」って言われたんですよ。それで、会ったその日にセッションで曲を作ることになりました。

──えっ、初対面で?

そう、いきなり放り込まれた感じで。最初は何やらせるんだと思いましたけど(笑)、とりあえずやってみたらサカイさんとはすごく波長が合うし、音楽的なツボも合うし楽しくて。打ち込みで曲を作るのは初めてだったんですけど、何しろ完成までが早いんです。アイデアの鮮度を保ったまま、どんどんメロディや歌詞を生み出していくスピード感がすごく新鮮でした。それでサカイさんとの3度目のセッションで作ったのが、今回のデビュー作に入ってる「Waterfall」という曲です。

──サカイさんとは具体的に、どんなやり取りをするんですか?

例えば「Waterfall」はセッションに向かう電車で「今日のテーマは“滝”だな」と思って。サカイさんに「今日はちょっとテンポ遅めの“滝”でいきます」と伝えたら、「コードはこんな感じ?」とその場で弾いてくれるので、「いや、もっとドス黒い感じで」とか細かいイメージを伝えてコードを作っていきます。その間に自然に浮かんできたメロディを、マイクの前で大体10パターンくらい録るんですよ、即興で。

──10パターンも!?

なんでメロディが出てくるのか自分でもわからないんですけど、たぶん即興で作るのが自分に合ってたんですよね。すごく楽しかったし、どんどん出てくるなあと思って。それである程度メロディが固まったら、サカイさんがトラックを細かく詰めていって、その間に私が歌詞を書いて、2人のタイミングが合ったところで歌入れして、それでほぼ完成。

──超スピーディですね。

そうなんですよ。でもサカイさんは海外の作曲キャンプにも参加されていて、「向こうはもっと速いよ」と言ってました。それを聞いたらちょっと燃えちゃって、1日2曲作った日もあります(笑)。

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感情を滝に例えて