エンタテイナーになりたい
──2曲とも「アーアー」「ウォッオー」といった非言語的なコーラスが印象的ですが、これもみんなで歌いたいという意識の表れですね。
昔はこういうのダサいと思ってたんですけど、心と心が触れ合うことはそのダサさの中にあるんじゃないかと思って。外面的にカッコつけるよりも、ダサかろうがなんだろうが全力でやり切って、さっき言ったように1人も置いて行かずにみんなで勝ち上がれたら、それが一番カッコいいよな、と。チンケなプライドをなかなか捨てられなくて「カッコ悪いんじゃないかな」とか思っちゃうけど、その壁は越えていきたいですね。
──「きれいごと言ってんな」と思う人もいるかもしれませんが、そう思われてもかまわない?
それはその人の判断だから、受け止め方は自由でいいと思います。ただ、人生はすべて選択で決まってるから、私は自分が幸せになれるほうを選ぶのが賢明だと思うんです。疑う自分もいるにはいるけど、きれいごとと言われても、いい方向に行ける、自分が幸せになれるほうの思考を最終的には選びますね。
──その“幸せ”とはどんなことですか?
みんなに「この曲を届けてくれてありがとう」と言ってもらえることですかね。LIGHT盤を作ったきっかけの1つでもあるんですけど、人がなぜ仕事をするかと言ったら、人のためになりたい、人の喜ぶ顔が見たいっていう思いが根本にあると思うんですよ。それを実現する中でぶつかるさまざまな困難を乗り越えるために、自分の音楽を役立ててもらいたいんです。
──そうなると、三上さんの音楽を聴いた人が元気になることが、世の中をよくすることにつながりますね。
それが私の理想ですね。そういう世の中になったらいいなと思ってやってます。それ以外のことは考えたことがないかもしれない(笑)。
──自分が歌いたいこととみんなが聴きたいことがいつも一致していればいいけど、そうじゃないこともあると思います。そういう場合はどちらを選びますか?
私は昔はアーティストだったけど、今はエンタテイナーになりたいと思ってるんです。でも、たとえ私がやりたいこととみんなが求めているものにズレがあったとしても、自分が本当に伝えたいことを突き詰めていけば、それはいずれ、みんなが求めているものに変わっていくと信じてやっています。
絶対的な愛を知った
──「表現」とか「成功」の意味するものが昔より広がった?
若いときは世間でいう成功には一切興味がなかったし、表現に関してはどこまでも自分自身の内側に入り込んでいって、一瞬の真実をつかみ取るみたいなことしか考えていませんでした。でも結局、そこにはつらさしかなかった(笑)。みんなで一緒に勝ちに行きたいという考えは、その経験があったから生まれたと思います。もともと「つながりたい」という思いがあって音楽を始めたわけですけど、昔は自分の孤独と向き合えば向き合うほど、個人個人の孤独とつながれるんじゃないかと思ってたんです。今は直接手を取り合うことへの抵抗が消えて、アプローチのし方が変わったんだと思います。
──そう変わってきたきっかけとして、前回のナタリーの特集(参照:三上ちさこ「I AM Ready!」特集)ではアルバム「I AM Ready!」を一緒に制作した保本真吾さんとの出会いを挙げていましたが、2012年に出した自主制作盤の「tribute to...」を聴くと、その前から変わり始めていたような。
そうかもしれませんね。方向性がまだ定まっていなかったけど……。一番大きかったのは、やっぱり子供を産んだことだと思います。1人の頃は「この世に絶対なんかない」と思っていたし、自分のことさえ信じられなくて、つながりを求めているのにそれを得られない悲しみや苦しみをずっと抱えてました。子供を産んでも、人と完全にはつながれないという認識は変わらないんです。子供も別人格ですからね。でも愛情のあり方が変わりました。「自分が死んでもこの愛情は残る」と思ったとき、「この世に絶対ってあるんだ」ということを知った。「何があっても、私はあなたのことを愛している」という感情は絶対なんですよ。それはほんっとに大きな変化でしたね。
──若いときは愛を恋愛の枠内で捉えがちだけど、恋愛って不安定なものですしね。
だから考えが刹那的になって、ひたすら「どうせ気持ちは変わるものだから、今を大切にしよう」と歌ってました。今は相手が自分をどう思ってるかに関係なく「私はあなたを愛してます」という気持ちが揺るぎない確かなものとしてあるから、CHIEERSの人たちにもそういう気持ちで音楽を提供していきたいんです。
──それはすごくよくわかります。歌もライブのMCも、母親が子供に向かって語りかけているように聞こえるときがありますし。
相手が自分をどう思っているかに左右されない愛情を、聴いてくれる人たちに向けて歌いたいなって思ったんです。昔はお金を払って観に来てくれるお客さんのことさえ「本当は好きじゃないんでしょ?」って思ってました(笑)。そういう部分が完全になくなったわけではないんですけど、前よりも振り幅はできたかなって。
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