三上ちさこ「I AM Ready!」特集|三上ちさこ×保本真吾(CHRYSANTHEMUM BRIDGE) プロデューサーと振り返る再生までの道のり

「チャート1位を獲りたい」とか恥ずかしいことも口に出さないと先には進めない(保本)

──カウンセラーみたいなものですね。

三上 ホントそう(笑)。でもそこからだったんですよ。そこが一番大きかった。

──そこまで踏み込んで話してくれる人がいなかった。

三上 いなかったですね。1人じゃ生きられないくせに人に頼るのがすごい苦手だったんですけど、「どうせ1人じゃ何もできないんだから、もっと頼ったほうがいい」って言われて。お客さんに対しての気持ちも変わっていきました。昔はホントに壁1枚隔ててたと言うか。お客さんとは無関係に、ただ自分の世界を放出してただけだったんですけど、今はすごくお客さんにも頼ってて。「もっともっと大きいステージでやりたいから、みんなの力を貸してください」って頼むぐらいになったし。みんなを煽るようにもなったんですよ(笑)。「いくぞー!」って。昔はカッコ悪い、ダサいと思って絶対やらなかったことを(笑)。でもダサくていいじゃんって思えるようになった。さらけ出してやったほうがいいんだって。

保本 アーティストはそういうふうに斜に構えがちだけど、それなら多くを望まない方がいい。自分の身の丈にあった活動をしてればいいわけでね。

──でも彼女が「マイペースで身の丈にあった活動ができればいい」と考えているようなアーティストだったら、興味もなかったんじゃないですか。

保本 うん、興味ないですね。僕は自分のプロデュースしたものはホントにたくさんの人に聴いてもらいたいと思ってやってるから、こじんまりとした活動を望んでいるのであれば、自分は必要ないと思いますね。

三上ちさこ

三上 昔だったら一緒にできなかったですよ。fra-foaで赤坂BLITZでライブをやりながら、自分にこの会場は広すぎると思ってたから。今はそうは思わなくなったけど、だからと言って自分の身の丈以上に大きいところで今すぐやりたいって感覚はまったくなくて。最終的に辿り着きたいところを自分の中で設定しつつ、小さいところから着実に、聴いてくれる人と一緒にみんなで広げて向かっていきたいと思うようになりました。

保本 もっと大きなところでやりたいとか、チャート1位を取りたいとか、40歳を超えるとなかなか恥ずかしくて言えないですよ。でもそれを言わないと先には進めないと思うんです。口にすることが大事で、そういうことを口にする人と僕はやりたい。そこは年齢関係ないですから。才能があれば絶対取れる。僕はヒットが出たのは38歳です。周りの仲間は全員辞めて、自分だけなんとかしがみついてやってて、30代後半まではバイトしないと食っていけないぐらいだったけど、それでも我慢して続けてたらヒットが出た。それを思ったら、遅い早いは関係ない。だから年齢なんか関係なく、もう1回やりたいと口に出して言えるような人とやりたいと思ったんです。

三上 自分のやりたいことをはっきりと表だって言うことは決して恥ずかしくないんだなって、みんなにそう思ってもらえるようになったらなと思います。

自分の音楽が誰かのがんばれるきっかけになれたら(三上)

──今作の歌詞もみんなを勇気付ける、背中を押すような歌詞が多いですね。

三上 そうですね。そういう根本的なところから変わりましたね。人ってこんなに変われるんだなってぐらい(笑)。そもそも自分がなぜ音楽をやりたいと思ったのか考えてみると……大学のとき、学校にも行かず毎日グダグダして何もしてなくて。自分がいてもいなくても何も変わらないような気がしてたんです。自分の生きてる価値を何も感じられない状況の中で、自分がいることで誰かが喜んでもらいたいと思ったんですね。それで音楽を始めたんです。

──その気持ちは今でも変わってない?

三上 変わってないです。一番伝えたいのは、どんな人でも輝ける場所は絶対にあって。自分の人生を輝かせるきっかけになるものって、好きっていう気持ちとか何かに対する情熱だと思うんですよ。それをみんなに見つけてほしいし、うまくいかなかったとしても、「自分は1人じゃないんだ」って思えてがんばれるきっかけに、自分の音楽がなったらいいと思っていて。今は「あなたが必要だよ」って伝え合って支え合っていける関係になりたいと思ってます。

──誰かのために歌うとか誰かのためにがんばるって、すごく意味のあることだと思うんです。自分のためだけだとなかなか動けないけど。

三上 うんうん、そうですね。自分のためだけだったらエネルギーも出てこないけど、人のためだと思うと無限に湧いてくるんですね。最近考えてたのは、自分の本質って弱さなんじゃないかということ。音楽をやってる瞬間はけっこう元気なんですけど、日常ではどんどん劣等感に苛まれて、自分の嫌いなところばかり見えてきて。自分で自分を否定して押しつぶしそうになるんですよ。もともと自分を肯定する力が弱い人間で。自信満々のすべてそろっている人に「大丈夫だよ」って言われても「いや、アンタはそうだろう」って思うだけ。それよりは劣等感に苛まれながら、満身創痍で、「それでも大丈夫」って叫ぶ人のほうが、人の心には響くんじゃないかと思ってるんです。なので次回作は自分の中にある弱さとか、そういうものに徹底的に向き合おうかなと。

──もう次の構想があるんですね。

保本 まだ「I AM Ready!」も出てないよ(笑)。

三上 あはははは!(笑) 「I AM Ready!」は「ここから行くんだ」って強さを打ち出そうと思って、それしか考えてなくて。目標をここと見据えたら、そこに向かって、周りが真っ暗闇でも、ひたすら突き進んでいくっていう強さを示せたアルバムだと思っていて。なのでこのアルバムを聴いた人それぞれが自分の中の輝きを見つけて、元気になってほしい。この間大阪でのライブで、男性のお客さんが「生きててよかった」ってつぶやいてくれたんですよ。それで、今までいろいろがんばってきたことが全部報われたと思ったんです。1回でも多く、1人でも多くの人と「生きててよかった」と思える瞬間を作り上げて分かち合っていきたいと思ってます。

左から三上ちさこ、保本真吾。
ツアー情報
三上ちさこ「2019年ワンマンライブ・ツアー “I AM Ready! TOUR”」
  • 2019年2月10日(日) 愛知県 ell.FITS ALL
  • 2019年2月11日(月・祝) 大阪府 Shangri-La
  • 2019年2月23日(土) 宮城県 HooK SENDAI
  • 2019年3月2日(土) 東京都 下北沢GARDEN