めいちゃんが全曲オリジナルの新作アルバム「大迷惑」をリリースした。
「XYZ TOUR」「ひきこもりたちでもフェスがしたい!」など大型のイベントに出演したり、YouTuberユニット・肉チョモランマの一員としても活躍したりと、幅広い活躍でその知名度を高めているめいちゃん。2枚目のソロアルバムとなる本作には、めいちゃん自身が作詞作曲を手がけた楽曲や、熱烈なオファーによって実現したBRADIOとのコラボ曲「ホレボレボリューション」、めいちゃん自身が選定したボカロPたちによる書下ろしの提供曲など、趣味嗜好を前面に打ち出した楽曲が収められている。この特集では、ボーカリストになったきっかけや自作の曲に込めた思い、活動のスタンスなどを紐解き、新世代の歌い手・めいちゃんの魅力に迫る。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 曽我美芽
受験に落ちて歌い始めた
──めいちゃんが音楽活動を始めたきっかけはなんだったんでしょうか?
めいちゃんとして趣味で歌い始めたのが中学3年生の頃なんですけど、特に大きな野望があって始めたわけではなくて。高校受験に落ちて、家に帰ってきてなぜか“歌ってみた”を録ったんです。そうしたら母親が泣き叫びながら部屋に入ってきて大変でした(笑)。「息子が受験に落ちていきなり大声で歌い始めた」みたいな感じで(笑)。
──その後は高校時代、大学時代と“歌ってみた”動画を投稿し続けるわけですよね。
はい。高校時代も歌は投稿していましたけど、正直に言って当時はそこまで本気ではなかったんですよね。自己満足でやっている感覚というか。意識が変わってきたのは大学生のときで、その頃からちょっとずつ聴いてくれる方が増えてきたんですよ。大学生になってやれることも増えてきたので、自主制作でワンマンライブをやってみたんです。それで初めて歌でお金をいただく機会があって、そこからは自分の歌に対する意識が少し変わったような気がします。
──めいちゃんがソロアルバムをリリースするのは今回の「大迷惑」で2枚目です。初めてのソロアルバム(「めいちゃんの頭の中はだいたいこんな感じです」)から約3年ぶりになりますが、この3年でめいちゃんを取り巻く環境は大きく変わりましたよね?
そうですね。YouTuberを始めたり、頻繁にソロライブをやるようになったり……3年前とは環境ももちろんですし、活動に対する考え方もかなり変わりました。趣味の延長ではなく、ちゃんと仕事として音楽と向き合おうという思いが芽生えてきたんです。3年前はまだ趣味の延長というか、歌い手という活動を楽しんでいた部分が大きくて、活動を楽しんでいたら、ありがたいことにCDのお話をいただいた、みたいな感じでした。当時はアルバムを作ったことなんてないから、ただ単に僕が大好きな曲をかき集めて完成したのが「めいちゃんの頭の中はだいたいこんな感じです」なんです。
──活動に対する意識が変わるきっかけはあったんですか?
いろんなことの積み重ねのような感覚もありますが、「XYZ TOUR」に参加することができたのは1つ大きいかもしれません。それまでもコンピライブに何度か出させてもらったことがあったんですが、「XYZ TOUR」は参加者の意識がほかのライブとは全然違って。それに照明や音響へのこだわりもすごかったんです。「あ、こんなにこだわって1つのイベントを作り上げている人たちがいるんだ」ということを知って、自分もそのレベルまで上がりたいと明確に思うようになりました。
ネガティブには爆発力がある
──前作と今作の大きな違いは、めいちゃんの自作曲が収録されていることですよね。もともと曲作りはしていたんですか?
曲作りには興味があって、昔からギターを持っていたんですよ。ただ、曲作りを本格的にやろうと決めてからは、音感を鍛えるためにもピアノを始めて、コード進行の勉強も始めました。同時に作詞も自分でやりたいなと思って、この3年間、自分が思うことをちょこちょこメモ帳に書き留めていました。それで、初めて完成させられた曲が「ヴィクター」ですね。
──「ヴィクター」は昨年4月に動画で公開された曲ですね。自作曲を作り上げた手応えはどうでしたか?
投稿前はけっこう不安だったんですよ。僕はそれまでカバーを投稿してきたから、リスナーさんがすでに知っている曲を公開し続けてきたんですよね。でも自作曲って……当たり前のことなんですが、誰も知らない曲を皆さんに聴いてもらうわけじゃないですか。ちゃんと受け入れてもらえるのか不安だったし、公開するときは緊張しました。ただ、自分がアーティストとして歌うことを職業とするなら、自分の思っていることを歌を通してみんなに理解してもらうということがすごく大事なんだとも感じていて。だから自作曲を公開することに対する迷いはなかったです。
──「ヴィクター」を制作した時期にはすでにアルバムのことも見据えていたんですか?
アルバムを作ることは決まっていたんですけど、その内容までは具体的に思い描いていなかったんです。それどころか「全曲めいちゃん作曲で」みたいな案もあって、「いや、さすがにそれはできませんよ」みたいな話をしていたんです。でも「ヴィクター」という曲が完成して、ようやく自分の作りたいアルバムがどういうものか見えてきた気がしたんです。
──それはどういうビジョンだったんですか?
まず1曲作ってみたところ、全曲を自作曲で構成するのは難しいなと思って(笑)。でもアルバムではちゃんと自分らしさを表現したかったから、僕が好きなもの、やりたいことを全部詰め込もうと。根本は前作と変わらないかもしれないけど、3年も経てばできることもやりたいことも変わってくるから、テーマは似通っていても内容は違うアルバムになるという確信はありました。
──自作曲の歌詞を読んで、めいちゃんのパブリックイメージとのギャップを感じました。めいちゃんは明るく元気なイメージが強いですが、書かれている詞にはどこか影があるというか。
ああ、なるほど。確かに暗い歌詞が多いかもしれないですね(笑)。基本的にはみんなのイメージ通りの明るい人間だと思います。ただ感情を表現するとき、ハッピーな感情ってすぐにアウトプットできるんですよね。例えば友達とお酒を飲んで楽しかったら、その感情は隠さずその場で表現できますよね。でもヘイトだったり、自分の中でのわだかまりだったり、ネガティブな感情って自分の中に溜め込まれるものだと感じていて。僕はハッピーな感情よりも、自分の中に溜め込んでいるネガティブな感情のほうが爆発力があると思うんです。自分という人間を知ってもらうためには、そういうパワーのある部分を表現するべきかなと。
──ライブや配信で見せる普段のめいちゃんとは違う顔が曲には込められているわけですね。
正直に言うと、自分の内側に溜め込んでいる感情を見せるのって恥ずかしいんですよ。もしかしたら歌詞を読んでも、何を言っているかわからないという人もいるかもしれないし。でもそれを理解しようと読んでもらうことに意味があると思うし、歌や言葉で表現する仕事を選んだ以上、自分という人間を知ってもらうことがすごく大事だと思うんです。恥ずかしいとか言ってられないですよね。
ジャンルを超えた“大迷惑”
──めいちゃんが自作した「ヴィクター」「アンユージュアル」「世迷言」の3曲はどれも曲調が違って、バラエティに富んでいます。「ヴィクター」を聴いたときはめいちゃんのルーツはギターロックにあるのかと思っていたんですが、それだけではない気もしていて。
ギターロックはもちろん好きなんですけど、けっこうなんでも聴くタイプなんです。例えば「10-9」という曲は、作曲のK.F.JさんにMaloon 5をリファレンスとして出していますし。最近はウルフルズとか、洋楽で言うとCaravan Palaceとか……あと、それこそ今作でお世話になったBRADIOさんのようなファンクミュージックも大好きですね。
──BRADIOとめいちゃんのコラボが発表されたときは驚きました(参照:めいちゃん×BRADIOによる異色コラボ曲のMV公開)。
僕から猛烈アタックしたんですよ。まさかOKがもらえるとは思っていなかったです。
──BRADIOにコラボのオファーをしたのはなぜだったんですか?
僕の印象なんですけど、最近は言葉を遠回しに伝えてリスナーさんにいろんな解釈をしてもらう曲が流行していると思うんです。でもBRADIOさんは、伝えたいことをまっすぐに歌うんですよね。それは僕にはできないことだし、カッコよすぎて。すごく惹かれています。
──コラボするにあたってはどんなオーダーを?
BRADIOさんの曲の中でも「腰振る夜は君のせい」とか「Golden Liar」のような同じリフがずっと続いていく曲が好きで。リファレンスとしてそういった好きな曲を並べて、「リスナーさんと楽しくなれるような曲にしたい」といメッセージをお伝えしました。
──実際にライブではBRADIOとの共演も果たしました(参照:めいちゃん、クリスマスイブにピアノの弾き語りやBRADIOとのコラボ披露)。
もうわけわかんなかったですね。ずっとイヤフォン越しに聴いていた方々が隣にいて、目を合わせながら一緒に歌っているわけですから。今でも夢だったんじゃないかと思うくらい、現実感がなかったです。まさかライブまでご一緒できるとは思っていなかったし、それこそBRADIOさんにはいろいろ“大迷惑”をおかけしたなあと思っています(笑)。
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何も言うことがなかった「ナンバアナイン」