みゆはん|コミュ障シンガーソングライター 集大成的1stアルバムとほとばしるポケモン愛を語る

体験談を歌にするみゆはんの制作スタイル

──ご自身を形成する要素の1つである「ポケモン」をテーマにした歌がありつつ、アルバムの収録曲はみゆはんさんが自分自身のことを歌った曲が多いように感じました。

そうですね。自分の体験談を歌にすることが多いので。例えば「世界の片側」は、昔、片思いをしていたときのことを書いた曲で、私は引きこもりだったんですけど、相手は完全にアウトドア派でクラスのムードメイカー的な人だったんですよ。そういう人と接すると、自分が我慢しないといけないこともけっこうあって。私はあまり知らない人と遊ぶのが苦手なんですけど、向こう側としては友達を紹介したいからいろんな場所で友達を紹介されて。それが苦痛で仕方なかったんです(笑)。それでもその人を思う気持ちが勝ってたんで……そんな自分との葛藤の曲なんです。その気持ちに気付いてほしいんだけど、相手の前では取り繕った自分でいないと嫌われてしまうかもしれないから言い出せないっていう。

──この曲からは喪失感みたいなものを感じたんですが、それは悲しい思い出として残ってる?

そうですね。結果、私がフラれたので(笑)。

──そんな思い出を曲にしようと思ったのはなぜ?

私は自分がそのときに思ったことをメモ帳に書き溜めてて、歌詞を考えるときは、そのメモを見返して「こんなことがあったな」と思ったことを曲にすることが多いんです。でも、書き溜めるのはマイナス思考のときが多いので、後ろ向きな曲が多いかなあと……。

──アルバムの1曲目に置かれてる「ユーアンダイ」も、みきとPさんがアレンジしたサウンドは明るい曲調ですけど、歌詞はちょっと切ない内容ですよね。

これも体験談で、自分が飼ってた犬との出会いから別れまでを書いた曲なんです。ちょうど1年前の話だったんですけど、うーん……16年間ずっと一緒にいて思いが強かったので、その子がくれた思い出とかを形に残せたらと思って書きました。

──ただ、別れを描きながらも、歌詞の最後は「ありがとう 前を見て歩かなきゃ 元気を出していこう そして迎えるのはHappy ending」で締めくくられていて、すごく前向きな曲になっています。

やっぱりペットとの死別は心にダメージを受ける人が多いと思うので、そういう人の支えになりたいという思いもあったし、今大好きなペットがいる人も、まだペットを飼ったことのない人にもぜひ聴いてもらいたいと思って……。ペットと生活することは素晴らしいし、本当に家族みたいな感じでずっと接してきたので……いろんな人に聴いてほしいです。

──もちろんそういった前向きな気持ちを聴いてる人に伝えたいんでしょうし、自分自身に向けて言い聞かせている部分もあるのかなと思って。

そうですね。やっぱりどこかでまだ悲しい思いが残ってるので。レコーディング中も号泣しながら、休み休みで歌を録りました。

──「続・化け猫ワルツ feat. まうくん」の歌詞に「凶暴なチワワによく襲われとったダックスフンドが最近おらん」というフレーズがありますけど、それはこの曲で書かれてるペットのこと?

はい。つながってます。

RADWIMPS、40mP、さだまさしカバーの背景

──それと今回のアルバムには、先ほど話題に挙がったさださんの「胡桃の日」のほかに、2曲のカバーが収録されています。そのうちRADWIMPSの「なんでもないや」を選曲したのは?

RADWIMPSはもともと好きで、TwitterにもよくRADWIMPSの曲を弾き語りでカバーしてアップしてるんです。その中で一番反響をいただいたのが「なんでもないや」だったんですけど、私はその時点で「君の名は。」をまだ観てなくて。そのあとに映画を観て「こういう曲だったんだ」と思って、もう一度歌い直したいという思いがあってカバーしました。

──40mPさんの「からくりピエロ」は?

Vocaloidの曲にハマってた時期があったんですけど、この曲は初めて聴いたときから聴き惚れて、自分でも歌いたいなあと思ったんです。私はメロディから曲を好きになるタイプで、歌ってて楽しいと感じる曲が好きなんです。中でも「からくりピエロ」は聴いてても歌ってても楽しいし、自分の中のストライクゾーンに入っていく感じなんです。

──しかも40mPさんご本人が新たに編曲されてて、原曲よりもロック寄りのアレンジになってます。

本当に恐れ多くて(笑)。この曲は完全にお任せでアレンジしていただきました。

──n-bunaさんが編曲された「輪廻」も、どこかブルージーな雰囲気のロックナンバーです。

これはあるアニメに感銘を受けて作った曲なんです。そのアニメに出てくるキャラクターが「『痛み』についていろいろ感じたり考えろ」と言うんですけど、それを自分なりに考えた答えがこの曲になってます。

──「その痛みを 誰かへの優しさにしてしまおう」といったフレーズからは、つらいことを負の感情で発散するのではなく、いい方向に捉えていこうという思いが伝わってきます。

やっぱりつらい思いをしたり、それによって痛みを感じた人のほうが優しくなれる気がしていて。ときにはつらい思いをして、痛みを感じることは大事だと思うんです。

あんまり外に出たくない

──「ダンシングメトロノーム」はルミカ「キミは何色?」のCMタイアップソングですが、具体的な情景が浮かぶ曲です。

これは初のワンマンライブのときのことを書いた曲ですね。私の歌に合わせてペンライトが揺れる光景が印象的で、ずっと忘れられなくて。応援してくれる人たちと初めて顔を合わせて、一緒に音楽を楽しんでるあの場所、あの瞬間がとても思い出に残ってて、ファンの人への感謝を込めて書いた曲です。「リスキーシフト」に収録してる「メッセージ」もファンに向けて書いた曲ではあるんですけど、ライブを通してより感謝の思いが一層強くなって……やっぱり直接会うと全然違いました。生の声が飛んでくる感覚が、優しくて……うん、心が温かくなりました。

──引きこもってるままでは味わえない感動があったと。シャッフル調のミディアムナンバー「帰り道」も温かな雰囲気の曲で、好きな人との放課後の帰り道を書いた歌詞がものすごく甘酸っぱかったです。

でも、この曲は完全に妄想なんです。こんな甘酸っぱい青春を送れたのなら毎日楽しかっただろうなって。

──先ほどの「世界の片側」のお話と比べると、悲しくなってくるじゃないですか(笑)。実際に自分で作って歌ってみていかがでしたか?

嫉妬しそうでした(笑)。

──現実と理想の差は残酷ですね……そしてアルバムの最後には、代表曲「ぼくのフレンド」のアコースティックバージョンが収録されています。

ロックじゃなくてアコースティックな「ぼくのフレンド」があってもいいかな?と思って、ちょっとお洒落な感じにしてみました。それと、今までギター1本で歌ってる曲を発表してなかったので、この1stアルバムを機にアコースティックバージョンを出してみようと思って。

──この曲に関しては、最初に作ったときと今とでは意味合いも変わってきてるのではないでしょうか?

うーん、「ぼくのフレンド」に関しては私の大切な人物を思い描きながらアニメに書き下ろしました。大切な人と離れてしまってなかなか会えないこともあるけど、お互い思い出しながらがんばろうねっていう歌なんですよ。

──大切な人への気持ちを歌った曲が、「けものフレンズ」という作品にもマッチしたのはすごいですね。

作ったときはアニメの設定とかをあまり知らされてなかったので、作品にマッチしてよかったです。

──さて、1stフルアルバムが完成して、改めてご自身にとってどんな作品になったと思いますか?

うーん……引きこもりの集大成?(笑) 自分の好きなように作った作品です。

──引きこもり生活の中で抱くいろんな感情や妄想が丸っと詰め込まれた作品ということで。ちなみにみゆはんさんはまだまだ引きこもっていたい?

あんまり出たくない(笑)。

──せっかくライブで感動したと言ってたのに(笑)。

私生活ではあんまり外に出たくないです(笑)。でもライブはぜひまたやりたいです。

イーブイとみゆはん。
みゆはん「ひきこもり情報弱者」
2018年7月4日 / Victor Entertainment
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収録曲
  1. ユーアンダイ[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:mikito]
  2. なんでもないや[作詞・作曲:野田洋次郎 / 編曲:Ayano Kaoru]
  3. 輪廻[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:n-buna]
  4. ウワノソラ[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:Tsubasa Takada]
  5. 続・化け猫ワルツ feat. まうくん[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:R_Men_Soul、Shunsuke Kasuga]
  6. イーブイマーチ[作詞:みゆはん&プロジェクトイーブイ / 作曲:みゆはん / 編曲:Shunsuke Kasuga]
  7. 胡桃の日[作詞・作曲:さだまさし / 編曲:Naoki Itai、Hayato Yamamoto]
  8. 世界の片側[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:nishi-ken]
  9. ダンシングメトロノーム[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:Tsubasa Takada]
  10. からくりピエロ[作詞・作曲・編曲:40mP]
  11. 帰り道[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:R_Men_Soul]
  12. ぼくのフレンド(acoustic ver.)[作詞・作曲:みゆはん / 編曲:Tsubasa Takada]
みゆはん
香川県出身の“コミュ障シンガーソングライター”。Twitterで公開した写真や動画が所属事務所のスタッフの目に留まり、2017年2月にテレビアニメ「けものフレンズ」のエンディングテーマ「ぼくのフレンド」を含むミニアルバム「自己スキーマ」でメジャーデビューする。同年に2ndミニアルバム「リスキーシフト」を発表。ファッション、デザインにも造詣が深く、ほかのアーティストのCDジャケットやミュージックビデオのプロデュースを手がける。2017年11月に初のワンマンライブ「よだれまみれ」を東京・マイナビBLITZ赤坂にて開催。2018年7月に初のフルアルバム「ひきこもり情報弱者」をリリースした。