アニメ「メガロボクス」島本和彦インタビュー|「あしたのジョー」ファンのいい同窓会だった

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「あしたのジョー」の連載開始から50周年を記念して制作されたオリジナルアニメ「メガロボクス」が、6月に最終回を迎えた。これまでジャンルを横断し、3回にわたり特集を展開してきたナタリーでは、連載企画の最後に「炎の転校生」「アオイホノオ」などの作品で知られる島本和彦に登場してもらう。生粋の「あしたのジョー」ファンである島本は「メガロボクス」をどう観たのか? 「いい同窓会だった」と例えるその理由について聞いた。なおインタビューの最後には、島本による「メガロボクス」の描き下ろしイラストも公開しているので、こちらもあわせて楽しんでほしい。

取材・文 / 熊瀬哲子

うまくいくはずがないと思ってた

──「メガロボクス」は、「あしたのジョー」の連載開始から50周年を記念して制作されたオリジナルアニメですが、今回は「あしたのジョー」ファンとして知られる島本さんにお話をお伺いしたいと思います。島本さんは「メガロボクス」の放送はご覧になっていましたか?

Twitterでフォローしている何人かの方が「メガロボクス」について話していたので存在は知っていたんですけど、なんていうか……うまくいくはずがないと思ってたんですよ(笑)。

──(笑)。

アニメ「メガロボクス」より、ジョー(CV:細谷佳正)。

私の個人的な考えですけど、「あしたのジョー」はあの当時の時代背景が反映されている作品なので、今の時代に続編を作るのも無理だし、新しく作り直そうとするのも難しいんじゃないかと思ってたんです。でもちばてつや先生や梶原一騎先生(「あしたのジョー」では高森朝雄として執筆)も喜んでいらっしゃるだろうなと思うと、あんまり横から茶々を入れるのも嫌だなと。「あしたのジョー」ファンがヘタなことを言って水を差すぐらいだったら、むしろ触れないほうがいいだろうというスタンスでいたんですよね。

──そんな中、放送が始まってから3カ月後にTwitterで「メガロボクス」について言及されていましたよね。どういうきっかけでご覧になろうと思ったんですか?

Twitterでフォローしている人の中に、野口征恒さんというアニメーターの方がいて。コミケでもよく会ったり、「あしたのジョー」のイラストのお仕事で声をかけていただいたり、お世話になっている方なんですけど、その野口さんが「メガロボクス」に関わっているということで(第5話の原画として参加)、ふとしたきっかけでちょっと観てみるかと思ったんですよね。で、いざ観てみたら意外だったという。

──どう意外でした?

すっごくよかったから意外だった(笑)。そのときはもう6、7話くらいまで放送が進んでいるときだったんだけど、1話を観た段階で「ああ、これはわかってる人たちが作ってるな」と思いました。例えば勇利の姿も、力石とは違うデザインなのに、目のアップや演出で「こいつの中に力石が入ってる」って視聴者にわからせる見せ方がすごくうまいなと思ったんです。しかも、勇利には力石だけじゃなく、ちょっとだけホセ・メンドーサも入ってる。だから最終話のジョーと勇利が闘うシーンで、ホセ戦での攻防がオマージュされてますよね。マンガのほうだけじゃなく、アニメーションもトリビュートしてるのは新しいなと思いました。

アニメ「メガロボクス」より、勇利(CV:安元洋貴)。

──パッと見たときの最近のアニメっぽくない画面づくりだけでも、アニメ版の「あしたのジョー」を思わせますよね。

セル画のような雰囲気で作られていて、鉛筆で描いた途切れ途切れの線が異様に心を打つんですよね。リングで対峙するジョーと勇利の姿をカメラが引いて映していくときに、今はCGを使ってグーッとなめらかに引くこともできるけど、少しずつ小さくなる絵を描いて、ちょっとガタガタさせながら画面を引いてるところなんかは、「よっしゃ!」っていう感じだった(笑)。「これが俺の好きなアニメだ!」っていう。絵の達者な人がたくさん描いてくれるうれしさを感じましたね。

どこまで受け止められるか、自分と制作者との戦いになっていく

──“勇利の中に力石が入ってる”とわかる演出についてお話がありましたが、主人公は矢吹丈と同じく「ジョー」というリングネームを名乗っていました。

声とかしゃべり方とか性格とか髪型とか、矢吹丈に比べてどうなんだっていうのは非常に気になるところじゃないですか。それで言うと、勇利もそうだけど声優さんに違和感がなかったですね。いい意味で、あおい輝彦さんじゃなくてもジョー役を演じることができるんだっていうことがわかった。髪型はあえて違う方向にいったことで、変に「昔はこうだった」って考えなくて済むデザインなのがいいなと思いました。矢吹丈のあの髪型はカッコいいけど、今は無理だもん(笑)。

──あの時代の、「あしたのジョー」の矢吹丈だからカッコいいと思える髪型ですよね。

それを「今表現するんだったらこうだよね」というふうにうまくアレンジできているなと感じました。「メガロボクス」には「あしたのジョー」の登場人物を思わせるキャラクターが何人も出てくるけど、全体を通してカーロスは出てこないんですよね。私の勝手な考えだと、矢吹丈とカーロスを一緒にしたのがジョーなんじゃないかなと思ったんです。旧作のアニメ(第1作)でのカーロスの髪型って、あんな感じだったんですよ。

アニメ「メガロボクス」より、ジョー(CV:細谷佳正)。

──ああ、原作よりもウェービーな髪型として描かれていましたよね。

あの髪型がすごく好きで。いい処理をしたなって子供の頃から思ってたんです。私的に矢吹丈にカーロスを混ぜるのはまったく問題ないと思っていて。カーロスは八百長をやってたから、そういう意味ではジャンクドッグとつながるところもあるし。そうやって「これを作ってる奴は『あしたのジョー』のことをわかっているからこういうふうにしてるんだろうな」って深読みをしていくと、回を追うごとに自分と制作者との戦いになってくるというか。考えた奴に対して、見ている自分はちゃんと受け止められているのか!?っていう、厳しい勝負になってくるんですよね。

──ちゃんとすべてを読み解いてやろうとすると(笑)。

そう。これはなかなか新しい体験でした。

アニメも、マンガも、レコードも、夢中になった「あしたのジョー」

──「メガロボクス」についてさらに詳しくお伺いする前に、改めて島本さんにとって「あしたのジョー」はどんな作品だったのかをお聞きできればと思います。

マンガのほうはリアルタイムでは読んでいなかったんですけど、テレビアニメは本放送のときから観てたんです。ただ幼かったのでストーリーの記憶は徐々に薄れていって。1974年頃に「宇宙戦艦ヤマト」が流行ってアニメブームが起きたときに、昔のアニメを一気に見せますっていう内容の番組が放送されて、その中で「あしたのジョー」の力石戦が流れたんだけど、当時はまだビデオがなかったから、その番組の音声をテープに録音したんですよね。それを何回も繰り返し聴いて、このシーンをまた絶対映像で観たいと思っていて。高校2年か3年生のときにベータマックスを買ってもらったんですけど、その頃にちょうど「あしたのジョー」の再放送が始まったんですよ!

アニメ「あしたのジョー」より、矢吹丈(CV:あおい輝彦)。

──ついに待ち望んだそのときが!(笑)

当時はビデオテープが2時間で1本5000円くらいする時代だったから、全部録画するわけにはいかなくて。その頃はもう単行本を買ってマンガもちゃんと読んでいたので、重要なシーンは知っていたんですよね。ということで、私は「あしたのジョー」を3本のテープにまとめました!

──あはは(笑)。厳選した360分の物語に(笑)。

そのテープを何回も繰り返し観ていたんですよね。「あしたのジョー」って、観ていても、聴いていても気持ちがいいんですよ。私は特に旧作のアニメ(第1作)が好きで、マンガ家としてデビューしてからも原稿をやるときは旧作のビデオテープを頭から最後まで流して、終わったら「あしたのジョー2」を流すというのを延々と繰り返して。レコードも集めたりして、それに収録されているドラマも好きだったからずっと聴いていましたね。

──ご覧になったのはアニメのほうが先だったんですね。

そうですね。小学生のときにアニメを観て、中学生のときに初めて単行本を揃えたんですけど、アニメの内容は全然覚えてなかったから、マンガも初めて読む物語として見ていました。だから力石戦で、矢吹は力石がトリプルクロスで来るだろうと読んだのに、来ないで下に沈んだときは思わず体が「ウワッ!」「なぜ沈む!?」って前のめりになりましたもんね。ちば先生はなんてマンガの描き方が上手なんだろうと衝撃を受けました。

──「あしたのジョー」は島本さんのその後の作家活動にも影響を与えたんでしょうか。

それはね、すべてのマンガ家が影響を受けていると思う。私だけじゃなくて。力石が矢吹丈を倒したあとの「終わった……なにもかも……」の構図があるじゃないですか。あのシーンを見たときも「なんだこれは!?」って。あんな素晴らしい絵を描ける人がマンガ界に存在するんだって。名場面を描けるマンガ家のすごさっていうものにショックを受けましたね。

テレビアニメ「メガロボクス」
アニメ「メガロボクス」

ストーリー

今日も未認可地区の賭け試合のリングに立つメガロボクサー“ジャンクドッグ”。実力はありながらも八百長試合で稼ぐしか生きる術のない自分の“現在(いま)”に苛立っていた。

だが、孤高のチャンピオン・勇利と出会い、メガロボクサーとして、男として、自分の“現在”に挑んでいく──。

スタッフ

  • 原案:「あしたのジョー」(原作:高森朝雄、ちばてつや / 講談社刊)
  • 監督・コンセプトデザイン:森山洋
  • シリーズ構成・脚本:真辺克彦、小嶋健作
  • 音楽:mabanua
  • キャラクターデザイン:清水洋
  • アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
  • 製作:メガロボクスプロジェクト

キャスト

  • ジョー / ジャンクドッグ:細谷佳正 
  • 南部贋作:斎藤志郎
  • 勇利:安元洋貴
  • 白都ゆき子:森なな子
  • サチオ:村瀬迪与
  • 藤巻:木下浩之
  • アラガキ:田村真
  • ミヤギ:多田野曜平
  • 白都樹生:鈴木達央
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2018年7月27日発売 / バンダイナムコアーツ
「メガロボクス」Blu-ray BOX 1

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14040円 / BCXA-1372

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック【ROUND1 “BUY OR DIE?”】(絵コンテ:森山洋)
映像特典
  • 新作ショートアニメ「“BEFORE THE ROUND ONE”」
  • MAKING OF MEGALOBOX 第一章 企画編
  • プレミア試写会[2018.3.28 スペースFS汐留]
  • 超特報
  • 特報
  • 特報PV2
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・ROUND1【スタッフ編】
    [出演:森山洋(監督・コンセプトデザイン)、真辺克彦(脚本)、小嶋健作(脚本)、藤吉美那子(プロデューサー)]
    ・ROUND4【チーム番外地編】
    [出演:細谷佳正(ジョー / ジャンクドッグ役)、斎藤志郎(南部贋作役)、村瀬迪与(サチオ役)、三好慶一郎(音響監督)、森山洋(監督・コンセプトデザイン)]
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

「メガロボクス」Blu-ray BOX 2 特装限定版
2018年9月26日発売 / バンダイナムコアーツ

[Blu-ray Disc] 14040円 / BCXA-1373

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック
映像特典
  • 新作ショートアニメ「“AFTER THE ROUND FINAL”」
  • MAKING OF MEGALOBOX 第二章(仮)
  • キャラクターPV(全6種)
  • 「AnimeJapan 2018」スペシャルPV
    ほか
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・スタッフ編、キャスト編
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

「メガロボクス」Blu-ray BOX 3 特装限定版
2018年11月22日発売 / バンダイナムコアーツ

[Blu-ray Disc] 14040円 / BCXA-1374

バンダイナムコアーツ

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック
映像特典
  • 完全新作ショートアニメ
  • MAKING OF MEGALOBOX 第三章(仮)
  • 放送中PV
    ほか
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・スタッフ編、キャスト編
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

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島本和彦
島本和彦
1961年4月26日北海道池田町生まれ。本名は手塚秀彦(てづかひでひこ)。1982年、週刊少年サンデー2月増刊号(小学館)にて「必殺の転校生」でデビューし、1983年より少年サンデー(小学館)にて「炎の転校生」を連載開始。熱血マンガ風の力強い線と熱いセリフが特徴だが実のところギャグマンガ、というギャップと、ちりばめられた細かいネタが賞賛を受けた。代表作に「逆境ナイン」、「吼えろペン」など。「贋作・アニメ店長」「逆境ナイン」「アオイホノオ」「炎の転校生」は舞台、映画、ドラマなど実写化が展開された。現在ゲッサン(小学館)にて「アオイホノオ」、月刊ヒーローズ(ヒーローズ)にて「ヒーローカンパニー」をそれぞれ連載中。執筆業の傍らTSUTAYA札幌インター店・千歳サーモンパーク店・アカシヤ書房ちとせモール店、さらに株式会社ダスキン アイビックも経営。