火に油を注ぐことになるから当時は言えなかった
──ずっと気にしていたリリース後のファンの反応はどうでしたか?
最初に歌ったのがファンクラブ限定のライブ配信だったんですけど、もうドキドキでした。まず、最初に「今までと全然違うから、みんなが気に入ってくれるか、本当わかんない」ってすごいエクスキューズして(笑)。だからみんな「え? どんな曲なの?」って心配していて。実際に歌ってみたら「この曲でそんなに怖がってたの?」「私たちうれしいよ」「こういう曲を待っていたよ」っていうコメントがたくさんあったので、ちょっと安心しました。でも「Rebellious」はそこまで変化が大きくない曲だったので、問題は第2弾の「Can't Breathe」(参照:誹謗中傷とどうやって向き合っていくか、May J.が新曲「Can't Breathe」で強い思い歌う)のほうですよね。
──先ほど話に出た「セラピーになった曲」というのがこの曲ですか?
この曲ですね。まさに自分のための曲かもしれない。歌詞のテーマは誹謗中傷なんですけど、一番悲しんでいるときというよりかは「どう向き合っていくか」っていう、ちょっと前向きな気持ちを歌った歌詞なんです。心ない言葉に一度傷つけられると、何度乗り越えようとしても無理なんですよ。傷みがよみがえってきちゃうし。
──傷が癒えることはないんですね。忘れられないというか。
ずっと残ってますね。普段はどうでもいいと思ってるんだけど、やっぱり歌うときに……特にテレビの生放送のときに、そういった人たちの言葉がよみがえってきて、歌えなくなるんですよ。まさに息ができなくなって。この曲ではそれを「自分の声を奪われた」と表現していて。その悲しみとかネガティブなものも、いつかは大きな心を持って包み込めるような温かさで歌い続けていきたい。
──「歌い続ける」という決意ですよね。
そうなんですよ。そこは進歩した!
──これもパーソナルな実体験から生まれているわけですね。
そうです。今までは、「こういうことはみんなに心配かけちゃうから、あえて話さないほうがいいな」と思っていて。ファンの人は本当に一緒になって悲しんでくれる人たちだから、こういう曲を出すのはちょっと抵抗があったし、誹謗中傷が目立っていた時期にこういうことを歌ったら、火に油を注ぐことになっちゃう。だから言えなかったんですけど、今は時代の流れも変わってきていて。SNSのあり方や、「本当に本人たちを傷つけてしまうんだよ」ってことがニュースを見ていてもわかるようになってきたから、私からもメッセージをちゃんと出したいなって。
──それで自殺まで追い込まれてしまう人もいるわけですからね。曲調はアンビエントっぽいムードのダークなエレクトロになっています。いわゆるJ-POPのようなわかりやすい構成ではないですよね。
私は大好物でした。トラックを聴いた瞬間から、暗くて神秘的で、でも踊れる感じが最高ですごく好きです。
──歌い方もこの曲が一番今までと違いますよね。
そうですね。全編ウィスパーボイスは初めてでした。私、レコーディングに入るときはいつも「力強く歌わなきゃいけない、歌で存在感を出さないといけない」と思っていて。この曲も、私はウィスパーボイスで歌っているつもりでも、ミルくんからは「Mayさん、もっとウィスパーで」というディレクションも受けました。
──弱ければ弱いほど、苦しさが伝わってきますよね。
これだけ力を抜いたほうが、感情は伝わるんだと思いました。ファンの人にも「表現力が増しましたね」って言われて。あ、そういうふうに感じるんだというのも発見でしたね。
──ウィスパーボイスの上に、声を幾重にも重ねてます。
そうですね。声を重ねて楽器みたいに聞こえるように工夫しました。私、声を楽器にするのはデビュー当時から好きだったんですよ。当時もいっぱい重ねていたし、楽器の音をすべて抜いた声だけのトラックを聴くのも好きで。昔からそういうやり方が好きだったので、ひさびさにやった感じでしたけど私の好みでしたね。
エゴサはやめられない
──そして、7月14日に第3弾「DRAMA QUEEN」(参照:May J.が“悲劇のヒロイン”への怒りをぶつける「DRAMA QUEEN」リリース)がリリースされます。この曲では、どんなことを言いたかったんでしょうか。
「Can't Breathe」の延長線上ですね。「Can't Breathe」は「自分が変わればこの状況を変えられる」と、わりとポジティブに自分と向き合ってる曲なんですけど、「DRAMA QUEEN」は完全に人のせいにしてる曲。一番SNSで書いちゃいけない内容(笑)。
──心ない発言をしてくる相手に対して、言い返してるんですよね。
「こんなに人のことばっかり書いて。あなたは自分の人生ちゃんとできてるの?」っていう怒りというか。一番火に油を注ぐ発言ですけど、本当に自分が思っていたことですね。そのままではツイートできないような内容を、面白おかしく歌いました(笑)。
──「あんたなんて相手にしないわよ」っていう。
そう言ってるわりには、相手にしちゃってる現実ね(笑)。タイトルの「DRAMA QUEEN」はいろいろ悪口を言う人のことで、攻撃対象は私自身。そのドラマクイーンに対して、「うるさい!」って言ってる曲ですね。そもそもは、そんなツイートを見なければいい話なんですよ。もし学校や会社の友達から言われたのであれば、付き合わなければいいっていう選択もある。でも私はどうしても気になってエゴサしちゃうっていう……。
──エゴサはやめないですか。
やめられないんですよ。やっぱり気になっちゃう。もちろん、いいコメントがいっぱいあるから見るんですけど、その中には必ず悪いコメントもあって。悪いコメントが1/100だとしても、どうしてもその1つが頭に残っちゃうんですね。でも見ちゃう。
──見ちゃうと、また「Can't Breathe」に戻っちゃうじゃないですか。
でも向き合い方に慣れたというか。当時は見たこともない自分の悪口を初めて見たから全部真剣に受け止めちゃって、実際にボイトレに通って直したりしたこともあるんです。でもその人たちはそこまで考えて書いてないというのもわかって。何も調べずに書いてる人もいるし、世間の風潮に合わせてただ乗って叩いてる人もいるし。それに引っかかっちゃダメだなと今はわかったので、もう大丈夫です。
──曲調としては一番ポップですよね。ラップのようなビートにも乗っていて。
歌詞はラップを意識して書きましたね。すごく疾走感があるので歌っていても気持ちいいし楽しかったです。サビはけっこう歌い上げているんですけど、声色をちょっと男性的にしました。ローを強めにした歌い方で、力強さを出してみました。
今、すごいスッキリしてる
──そして、来月には第4弾のリリースが控えています。
この曲ではBlack Lives Matterのことを歌っています。BLM運動があった頃に書いたので、当時、自分もいろいろ調べていて。ミルくんも彼なりにいろんな運動をしていたので、私も黒人文化をもっと勉強したいなとドキュメンタリーや特集を見たりして、いろいろと感じることがあったんですよね。BLMのすごいところって、黒人の当事者だけが声を上げているんじゃなくて、周りの人たちも一緒になっていること。気にしている人たち、おかしいと思っている人たちが一緒に声を上げたことで、これだけのパワーをもたらすんだなって。日本は同調性や協調性を持つことが美徳とされているから、声を上げることは、なかなか難しいじゃないですか。
──アーティストが社会的なメッセージをあまり言えない空気があります。
私もあんまりしちゃいけない立場にいるように感じることがあるんですけど、それは違うなと思っているんですね。少しずつでも声を上げていけば、いつかは変わるんじゃないかなっていう気持ちで歌っているので、楽しみにしていてほしいです。
──今回、こうしてご自身の内面の深い部分を掘り下げて、「今まで言いたかったけど言えなかった」という後悔や痛み、怒りや憎しみを歌ってみてどう感じましたか。
最初は不安でしかなかったんですけど、今はすごくスッキリしています。自分のやりたいことをちゃんと形にできたので、いろんなことにもっと挑戦しやすくなりました。ファンはもしかしたら気に入らないかもしれないけど(笑)、ダークな曲が好きな人たちに届いてくれていたらいいなと思う。今まで私の音楽を自分に合わないと思ってた人たちにも「May J.ってこういう曲も歌うんだな」っていうふうに存在を示せたことで、前のMay J.の歌もより堂々と歌えるというか。両方ちゃんと見せたいし、のちのちはこの表と裏の両方が合わさって、一緒になっていったら理想だなと思います。とにかく、今を一生懸命に生きている人たちに聴いてほしいですね。
──4カ月連続の先はどう考えてますか?
もっと作りたいと思ってます。今は忙しさもあって進められていないんですけど、このプロジェクトだけのアルバムを1枚作れたらいいな。ただ、1曲を作るまでの自分の心の削り具合がかなり大変なんですけどね(笑)。
※特集公開時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正します。
2021年7月14日更新