May J.が1月1日にベストアルバム「May J. W BEST 2 -Original & Covers-」をリリースする。
デビュー15周年イヤーの幕開けを飾る本作には、2015年に発売された「May J. W BEST -Original & Covers-」以降の楽曲がオリジナル盤、カバー盤の2枚に分かれて全26曲収められている。2020年2月に初の舞台となる「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」に出演して以降、コロナ禍の影響でライブができない状況に陥ったMay J.は、自身の音楽とどのように向き合っていたのだろうか。当初はベスト盤の話を入り口に“これまで”を振り返ってもらおうと思っていたが、彼女の視線はすでに未来へと向けられており、“これから”への期待が膨らむインタビューとなった。
取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 堀内彩香
なんでこんなに好きなんだろう
──デビュー15周年を迎える心境から聞かせてください。
15周年ってこんなにあっという間なんだなという気持ちですね。いろいろありましたけど、ホントにまだまだだなと思っていて。こういう節目にいつも感じるんですけど、やっぱり、ここからがスタートだなという気持ちです。
──デビューしたばかりの頃は、15年後の自分は想像してました?
そのときはそのときで想像していたと思うんだけど、当時の理想は今の自分にはもう関係ないんですよね。いろんな巡り合わせや縁があって、さまざまなことに挑んできて。もちろん失敗もあったけど、その中でまた新たな道を切り開いていった。常に自分のベストを出していくっていう気持ちでいたことが、今の自分を作っていったと思っていて。だからもう、変な理想とかは持たなくなりました(笑)。純粋に楽しく、長く歌い続けていきたいし、自分自身、歌が一番好きなことなので、歌を常に追求していきたいという気持ちでいます。その時代に合わせた歌だったり、ファンの皆さんに喜んでもらえるようなものだったり、自分が今好きな音楽だったり。いろんな形で、音楽をこれからも楽しんでいきたいですね。
──歌が好きだという気持ちは変わらなかった?
それだけは変わらないです。自分でもなんでこんなに好きなんだろうって思うんですけど……。
──もう歌いたくないと思ったことはないですか?
ないですね。まだできないことがいっぱいあるから。何か1つ達成できたとしても「次はこういう曲も歌えたほうがいいよね」とか「もっと感情を出せる人になれたらいいよね」とか、自分の年齢と合わせて歌も変わっていくんですよ。デビュー当時の歌はもう同じようには歌えないんですね。自分でも「どうやって歌っていたんだろう?」と思うこともあるし(笑)、ビブラートのかけ方もどんどん変わってる。それも面白さかもしれないなと思って。年齢と共に歌も成長していくし、自分の一部なんだなというふうに思いますね。
──以前、「訓練も大切だけど、それ以上に人生経験が大事」とおっしゃってましたね。
私は歌による経験が一番大きいなと思いますね。歌と向き合う中で、歌に裏切られたこともあるし、辛抱強くしていれば叶うこともあるって教えてもらった。「これって形になるの?」と思っても、塵も積もれば山となるんだってわかった。歌にたくさん教えてもらったので、それが私の人生かもしれない。
つんく♂からの照れくさい助言
──先ほど、自分が好きな音楽とファンの人に求められるものという言葉がありましたけど、そのバランスはどう考えてます?
世間に認知される前はずっと手探りで、何がみんなに引っかかるんだろう、何が耳に留まるんだろうって試行錯誤していた時期もあったんですね。「これだ!」と見つけたらまた違うふうに変わっていくし。チャレンジしたい気持ちがあるから、いろんな歌唱方法を試せたなと思っていて。だから、自分がやりたいことっていうのは、時代に合わせつつ、自分の歌声で聴かせることだと思うんですけど。
──歌いたいジャンルがあるわけではなく?
そうですね。いろいろなジャンルをやりました。選択肢がいっぱいあるし、これって決めつけるのは嫌だなっていう性格もあるかもしれないです。ただ、今は逆に自分がやりたい音楽があって。来年はその方向性を極めていきたいなって準備に入ってるところですね。「Garden」のリミックスが今やりたい音楽に近いんですけど。
──ローファイヒップホップやエレクトロニカ系のサウンドですよね。yahyelの篠田ミルさんがリミックスを手がけてます。
音数が少なくて、ちょっとダークでシンプルなサウンドで、声もたくさん重ねてる。歌唱力をアピールするんじゃなくて、声が楽器になってる感じ。そういう音楽もやりたいなと思っていて。
──「Garden」のカバーは2009年、2012年に続き今回のベストアルバムで3度目ですが、毎回サウンドが違っています。
最初はDJ KAORIさんにお任せしたパーティソングで、まだ20歳くらいのときの私が歌ってしっくりくるような「Garden」で、次は豪華で派手なEDMになっていて。時代に合わせて変わってる感じですね。どんなアレンジにも変身できる曲自体がすごいなと思います。
──May J.さんの次の1歩を示す楽曲になってますよね。前回の「W BEST」から今回の「W BEST 2」の最後に収録されている「Garden」に至るまでの約6年間というのはどんな日々でしたか。
のんびりと、地道に、でも着実に歩んできた約6年だなと思いますね。作品で言うと、つんく♂さんと小室哲哉さんの曲「Have Dreams!」のレコーディングが印象深くて。そのときにつんく♂さんに「May J.は壮大なイメージを持って歌ってる。それはそれでいいんだけど、遠く聞こえるんだよね。もうちょっとリスナーと同じ目線で歌ってほしい」とアドバイスをもらって。当時の自分は、すぐにはできなかったんですよ、「1人の人に向けて囁くように歌ってほしい。電話で好きな人と話してる感じで」と言われたんですけど、照れくさくてできなかった(笑)。その日に自分の歌のイメージが全部崩されて、なんとかレコーディングできて。その日から、自分の歌に対しての見せ方をちょっと変えられるようになりました。
──聴き手ととても近い距離で歌ってますね。語るように歌ってるというか。
そうですね。うまく聞かせようとか、ビブラートとかも意識してなくて。ホントに話してる感じなんだけど、リズムには乗って歌ってるっていう。それがすごく難しくて、大変なレコーディングでしたね。
──でも、この曲ではバックのコーラスやフェイクにMay J.さんらしい歌の広がりを感じるので、従来のイメージも織り交ぜつつ、新たなことに挑戦している印象を受けました。ご自身にとっては、オリジナルとカバーでは何か違いはありますか?
オリジナルの場合は自分で作詞をすることも多くて、曲の世界観を0から私の頭の中で生み出していくので、曲のイメージや詞の世界、ストーリーが自然とできていくんですよね。カバーは、すでにできあがってるものだけど、どんなふうにその曲が作られたかという知識もない中で、自分で探していく作業があるんです。なのでオリジナルと同じ気持ちで歌えるくらいの準備をしますね。深いところまで、何回も歌詞を読み直して。私の中でしっくりくるストーリーができるまで、ずっと考えていますね。
毎回、死ぬほど緊張する
──では、オリジナルのほうでベストアルバムから今の自分を表現してるなという曲を挙げるとすると?
1曲目に持ってきた「Faith(Japanese Ver.)」ですね。もともとは英語バージョンしかなかったんですけど、この曲が、10周年のときにやったリクエストライブでファン投票1位になったんです。「ReBirth」(2015年2月発売)のカップリングで、全然予想してなかった曲が1位になって。驚きもあったけど、自分で作詞した曲が選ばれて純粋にうれしかったですね。そのときの気持ちを赤裸々に書いた曲が、ファンの皆さんに響いたと実感できて。日本語にしたほうがもっと歌詞を理解してもらえると思って、今回は改めて歌詞を書き直してレコーディングしたんです。
──どんな思いが込められていますか?
「GOD EATER 2 RAGE BURST」のテーマソングだったので、当時はゲームの内容に沿いつつ、自分も感じてることを書いたんですね。何回も何回も挑戦して失敗したとしても、絶対にできるっていう自信は失わないし、「その信念は誰にも壊させはしない。悔しくても負けない」っていう、外に向けてのエネルギーを歌ってたんです。でも5年経った今、ちょっと変わっていて。外に対しての思いじゃなく、内に入るようになったんです。強い自分と弱い自分が2人いるんだと思って。過去に失敗した経験を知ってるから、なかなか怖くてできないっていう私と、絶対にできるんだよ!と思う私が常に戦っているんですね。もちろん、うまくいく日もあれば、弱い自分が勝ってしまう日もあって。今日はダメだったなということも何度もあるんですけど、その日はその日のベストを出し尽くしたわけだから、明日からまた違う自分でがんばればいいじゃんって気持ちを切り換えられるようになった。そんな思いを踏まえて、もう一度歌わせてもらいました。
──弱い自分は追い出さないんですか?
追い出せないです。絶対にいなくなることはないから、受け入れることを学んだんじゃないかなと思います。
──今、「faith=信念はなんですか?」と聞かれたらどう答えますか?
何があっても歌い続けること。止めたら終わっちゃうから。でも、無理して歌ってないんですよ。つらいことがあっても「これも通らないといけない道なんだ」って受け入れる気持ちがあるみたい(笑)。
──そう考えるようになったきっかけはありますか?
デビュー当時からうまくいかないことのほうが多かったから、逆にそれがよかったのかもしれないですね。現実は厳しいものなんだな、と受け入れることができたからだと思います。
──May J.さんは自分の力で道を切り拓いてきた人だと思います。それが強い自信になって、弱い自分がなくなったりしないですか?
それがないんですよ。今でも毎回、死ぬほど緊張していて。いろんな無駄な、外野の声が一瞬よぎって(笑)、本当は寝ながらでも歌えるような曲が急に歌えなくなったりとかして。それは全部、自分の気持ちから来ているものなので、毎回、自分の気持ちにどう打ち克つかがテーマになっていますね。
──今回、歌い直したときはどんな気持ちになりました?
当時はもうずっと全力で歌ってたんですけど、今回は弱い自分をとことん受け入れながら歌ったので、優しい気持ちになりました(笑)。
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歌うことで発散