May J.|何があっても歌い続けた、その先にある未来

歌うことで発散

──「Faith(Japanese Ver.)」には「まだ見ぬ未来を求め / 昨日より少しだけ強くなれる / 今日より明日は輝ける」というフレーズがありますけど、オリジナル曲のほとんどに“未来”や“明日”という言葉があるんですよね。

へー。……へーとか言っちゃった。あはははは(笑)。どんだけ見てるんだよ、先を(笑)。いや、実は意識してないんですけど、そういうメッセージが多かったんですね。ま、私の性格がそうなんです。今日はダメだったけど、明日はできるぞ、みたいな。何かあってもその日のうちに反省して、寝たらもうスッキリするタイプなので、常に未来に対して希望は持ってるかもしれないですね。

──寝るだけでリカバーできますか。

May J.
May J.

そう、お酒もいらないんですよ。発散は次の歌える現場やライブなんですね。

──今年は思い通りにライブができなかったんじゃないかと。どうしてました?

暇でした(笑)。でも、暇だからこそできることもいっぱいありました。逆に、今までやりかったけど時間がなくてできなかったこと……例えばピアノの弾き語りをたくさん練習して、自分で動画を録ったりして。あと、来年の新しいMay J.のプロジェクトを作り始めていますね。次のステップの準備をしてました。

──常に先を見てるんですね。

だって、それしかやることないじゃないですか(笑)。

──(笑)。いや、過去ばかり振り返って、ずっと後悔してるタイプの人もいますから。ライブに対してはどんな思いがありますか?

先日、今年初めてのライブをやったんですね。MOTION BLUE YOKOHAMAで2日間、4公演。今年はミュージカル(「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」)をやってた分、自分のライブができなくて。1年ぶりくらいだったんですけど、「ライブってこんなに尊いものなんだな」と実感しましたね。それは初めての経験でした。1曲目に「Can't Take My Eyes Off You」から始めたんですけど、明るい曲なのに泣きそうになって、涙を堪えながら歌いました。最後にピアノの弾き語りで「Have Dreams!」を歌って。歌詞を、どうしても今に重ねちゃうんですよね。「今、この瞬間からみんなから目を逸らしたくない」っていう歌詞はみんなに会えてうれしい気持ちと重なったし、「もう一度会いたい」っていうフレーズも、次、みんなの前で歌えるのはいつになるんだろうって捉えちゃうし。

ハナレグミは絶対入れたい

──May J.さんにとってファンはどんな存在ですか? 以前、受け取ったファンレターにはすべて目を通してるとおっしゃってましたよね。

仲間みたいな存在かなと思います。ファンレターには、けっこうパーソナルなことを書かれてるんですよ。例えば、好きな人に会えなくなっちゃったとか、ガンになっちゃったとか。誰にも言えないようなことを打ち明けてくれるので、すっごい影響を受けるんですね。

──その思いを受け取ってしまうのは重くないですか?

重いですよ。でも、だからこそ、その人たちにちゃんと響く歌を届けないといけないんだなって思う。どんな人が私の歌を聴きに来てくれているのかが明確に見えるから、どういうふうに届ければいいのかがよりわかるんですね。だからみんなの手紙を読むのが大好きだし、私は歌でお返事を返したいなと思ってますね。

──オリジナル盤の最後は、ファンに向けて作った「SIDE BY SIDE」ですね。

「もう一度、みんなで会えますように」という歌詞で終わるんですけど、この曲は必ずライブの締めに歌っているので、これは絶対にラストだなと思って。私にとっては、ライブを思い出す曲でもあるし、みんなとの絆を歌ってる曲でもある。みんなで会える日を約束して終わりたかったんですね。

──この曲もコロナ禍で聴くと、これまでと違うニュアンスで伝わってくるものがありますよね。カバー盤で今の気分に合った1曲を選ぶとすると?

絶対に入れたいと思ったのは、ハナレグミさんの「深呼吸」ですね。現実と理想のギャップって、誰しも感じることだと思うんですよ。小さい頃に思い描いていた夢が必ずしも叶うことはないんだって思い知らされる。だけど、それをわかったうえで、もう一度、深呼吸して、自分らしく生きていこうって。大人になったからこそわかる歌詞だなと思います。すごく好きですね。

──でも、May J.さんの夢は叶っていませんか?

歌い続けるという意味では叶ってると思いますけど、小さい頃に見てた夢は、既存のものを思い描いているというか。例えば誰かみたいになりたいとか。でも、誰かになるのは無理じゃないですか。今は逆に理想を持たないようにしていて。今できることを最大限に表現していくこと、目の前のことを着実にやることが未来を作っていくと思っています。

もう大変、2021年はやりたいことだらけ

──ベスト盤のほうでは、イタリア語によるオペラにも挑戦してます。

8歳のときに声楽をやってたんですけど、すぐに辞めてしまったんですね。大人になってから、改めてオペラはすごいなと感じていたので、もう一度チャレンジしてみたいと思っていました。オペラ歌手の森麻季さんに「オペラを教えてください」とお願いしに行って、森さんのご自宅で教えてもらったんです。言語が違うと響き方も変わるし、オペラの歌唱法も普段の歌い方と違うから、1回コツがわかると歌っていてすごく気持ちいいんですよ。コツをつかむと楽に声を出せるのが面白かったですね。

──表現の引き出しがどんどん増えていきますね。どんなジャンルの曲でも歌いこなせるようになる一方で、自分らしさを見失ってしまう怖さはないですか?

May J.
May J.

自分らしさは1つに固めなくていいのかなと思っていて。もちろん、ビリー・アイリッシュみたいに1つの強いシグネチャーを持って歌い続けるのもカッコいいなと思うけど、私にはできない。1つだけだと飽きちゃうと思うんですよね。デビュー当時はR&Bに専念していて、それがたぶん窮屈だったんですね。スタッフさんも気合いを入れて、ビッグプロジェクトでやってくれてたんだけども、思うように結果が出なかった。当時、こういうものは求められてないんだなと感じたことがあるからかもしれない。

──今はR&Bもたくさんある武器の1つになっていますよね。カバー盤にはラテン歌謡やビッグバンドジャズまでありますし。

すごく聴き応えのある、1つのテーマに絞っていない作品になりましたね。この5年間にいろんなことに挑戦させてもらったので、バラエティにあふれる曲たちを楽しんでもらいたいなと思います。単純に好きな曲を1曲見つけてもらってもうれしいんですけど、実は、CDは曲間の秒数を自分で決められるんですね。それは配信ではできないことなので、CDは曲間の秒数もメッセージの1つとして考えています。ここは1.5秒とか、2秒とか細かく決めたので、CDを通して聴いて、私が伝えたかった意図を感じてもらいたいですね。

──また個人的には、初回盤のDVDに収録されているオーディオコメンタリーと座談会も見どころだと思います。歌姫のオーラ全開の“May J.”だけでなく、本名“橋本芽生”の部分も観てもらいたいなという思いがあって。

あはははは(笑)。いつもの橋本さんの感じですね。オーディオコメンタリーはバンドマスターとマネージャー2人の4人で裏話をしていて。15年を振り返る暴露大会では、当時は誰にも言えなかったヤバい話をしてます。今は笑って言える話なので(笑)、楽しんで観てほしいです。

──2021年はどんな1年にしたいですか?

2020年にはやりたかったけどできなかったことがあって。でも、だからこそ準備できたこともありました。そのフラストレーションを2021年に形にしていきたいですね。15周年のスタートなので、次のMay J.の幕開けにしたいなと思います。まず、ピアノの弾き語りをもっとがんばって、アリシア・キーズくらい弾けるようになりたい。だから、来年は短いコンサートで、全曲ピアノ弾き語りのライブがしたいですね。最初にお話ししたように、声を楽器にした新しいMay J.も見せたいし、オーケストラとのコンサートもしたいし、ジャズライブもしたい。いろいろとやりたいことがあって、もう大変ですけど(笑)、考えるだけでワクワクしますね。

May J.