松下奈緒「souNds!」インタビュー|念願だったいきものがかり水野とのコラボ曲に込めた思いとは (2/2)

里香はまさに私でした

──アルバムには映画「風の奏の君へ」のオープニングテーマ「小さな奇跡」も収録されています。

オープニングテーマの「小さな奇跡」は物語の導入部分なんです。今自分ができることを音楽に全部託していくという役柄や環境が自分と重なる部分が多かったので、作りやすいかなと思いきや、逆にそれがすごく難しくて。いろんなモチーフを出して、監督に全部聴いてもらいました。「小さな奇跡」は「ずっと動き続ける」というテーマで作ったので、休符を使わず、常にアルぺジオで弾き続けることを意識して大事に書きました。

──松下さん演じる里香はピアニストなんですよね。

里香はまさに私でしたね。ピアニストであり、自分で曲も書き、コンサートもやる里香と私自身のどこに違いがあるのかわからないほど区別が難しかったです。彼女が音楽をやる理由は、生きた証を残したいと思うから。今できることを曲に込めたいという思いは、とても深く理解できます。私だからこの役をいただけたのだと思うし、私だからこそできる音楽があると思う。そういう意味では、この映画の中では音楽がメインになると思います。山村さんもいらっしゃるので、1つひとつのシーンがアーティスティックに見えていたら面白いと思いますね。

──映画の舞台となった岡山県美作市を訪れてみていかがでしたか?

祖父母が岡山に住んでいたので、小さい頃はたまに津山に行っていましたが、美作は初めて訪れる土地でした。美作は本当に美しいんですよ。手つかずの自然が残っていて、そこに住んでいる方も穏やかで優しくて、ゆっくりとした時間が流れている。この年になると風が心地いいとか、懐かしい匂いとか、緑がきれいだとか、そういうこと1つひとつに感動するんです。その中で、「こういう曲があったらいいな」という想像力をすごく掻き立てられました。自然を感じることが、こんなにも幸せで自由なのかと。でもこの映画は、何かを見つけたいがために、自分はこれでいいのかと葛藤する物語です。これだけぜいたくな自然がありながら別の何かを求めるなんて、ないものねだりだと思う部分もありましたけど、そういう中で時間が許す限り、いろんなことを考えられるのはいい時間だなと思いながら、オープニングテーマの「小さな奇跡」のことを考えてましたね。

松下奈緒

自分の軌跡を感じさせる1枚に

──さらに「ガイアの夜明け」のテーマ曲「夜空の花」の2024バージョンや、松下さんがパーソナリティを務めるTOKYO FM「Grand Seiko presents My Time My Story」のテーマソング「HAPPY+」などもアルバムに収録されています。ご自身にとって、どんな1枚になりましたか?

前作よりも、もう少しコアなことをしたい。これまでの自分にはなかったものを出したいと思って作ったアルバムです。なので、これまでやったことのない経験をたくさんさせていただいた実感があります。特に4曲目の「AnyTime AnyWhere」は、今まで書いたことがないような曲を作ってみたいという意識が強く出た作品ですね。

──「AnyTime AnyWhere」は8分の6拍子の曲ですね。ジャズっぽい雰囲気もあります。

行ったり来たり感が面白いんですよ。メリーゴーランドが回っている昔のフランス映画のようなイメージが素敵だなと思って、ちょっとオーボエを入れてみました。

──主メロはオーボエとフルートが吹いていますね。

ピアノを前面に出さないほうがコケティッシュでかわいいなと思ったんです。不思議な浮遊感のある曲で、夢から覚めたところで終わるというストーリーイメージもあって。楽器の使い方やリズムの作り方も含めてトライした感じはすごくあるし、「AnyTime AnyWhere」も含めて盛りだくさんで多面的なアルバムになったと思います。最初は曲順を組むのが難しいと思ったんですけど、いざ全部集めて聴いてみると、ちゃんと自分のストーリーがあって。ここ数年に自分が経験したことをちゃんと音に残せているし、その瞬間瞬間がそれぞれの曲の中にある。そういう自分の軌跡みたいなものを感じさせる1枚です。

──タイトル「souNds!」の“N”だけ大文字な理由は?

奈緒(Nao)の“N”です。「奈緒の音」ということで「souNds!」と命名しました。毎回、これまでにはないものを作りたいと考えていますけど、今作にも新しさをいろいろと盛り込めたかなと思います。次回作でやりたいことがいろいろと見つかった1枚になりました。

──そして5、6月にはデビュー20周年を記念したアニバーサリーライブが控えています。

私の中では20年があっという間だったので、今、記憶を引っ張り出していろんなことを思い出しながら、ライブに向けて考えているところですね。もう20年かと思う反面、まだまだ20年だなと思うところもあるし。初期の頃の音源を聴くと、そのときにしかできなかったことを感じられる。だから音楽って面白いんですよね。そういうことも含めて、今しかできないライブをしたいと思っています。昔の曲を弾いてみるのもいいし、思い出話を語るのもいいですね。たまには振り返りながら、また前を向いてやっていきます。

ライブ情報

松下奈緒20th ANNIVERSARY LIVE

  • 2024年5月26日(日)大阪府 新歌舞伎座
  • 2024年6月23日(日)東京都 東京国際フォーラム ホールC

プロフィール

松下奈緒(マツシタナオ)

1985年2月8日生まれ、兵庫県出身。3歳のときにクラシックピアノを始め、2004年の俳優デビュー以降、数々のドラマや映画に出演する一方、ピアニスト、歌手、作曲家としても活動している。2010年放送のNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」でヒロインを演じ、同年の「NHK紅白歌合戦」にて紅組司会を担当。そのステージでは、朝ドラ主題歌のいきものがかり「ありがとう」を演奏した。2013年、初のボーカル曲を中心に収録した5thアルバム「WOMAN」をリリース。2016年にはアーティストデビュー10周年を記念したベストアルバム「THE BEST ~10 years story~」を発表した。2020年1月よりテレビ東京の経済ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」の3代目案内人を務め、オープニングテーマ曲と挿入曲も手がけている。2024年4月にデビュー20周年を迎え、5月に9枚目となるオリジナルアルバム「souNds!」をリリースした。